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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の18  狂喜を封ずる者

あらすじ

~常闇の神器に取り込まれた浩介を心配する周囲を余所に心配ないと断言するフェンリル。主従契約の関係上、自らの命の掛かっているセレスが彼女を問い詰める。渋々、話し始めるフェンリルであったが……~


では、お楽しみください(o_ _)o


 浩介が常闇の神器に取り込まれ周囲がざわつく中で、ニルに詰め寄られ逃げ場を失ったフェンリルは深い溜息をつきながら渋々と説明を始めた。


「此奴が心配ないと言ったのは常闇の神器に封印されておるのがトリニティじゃからじゃ。お主達も、その名ぐらいは聞いたことはあるじゃろ?」


 獣化したフェンリルがテーブルで丸くなりながらウンザリした声で常闇の神器である木箱を指差す。


「たしか…歴史上では沈黙の聖帝だったですよね」


 ニルの表情が思案下に天井を見つめながらその存在の情報を思い出し口にする。


 …だが、その両手はフェンリルのモフモフ毛皮を撫でることに余念が無い。


「…真面目に答えてる様で不真面目ですよね」


 少し離れた位置から見つめるジト目のミアの瞳が何故だか冷たく、その姿にフェンリルも諦めた表情を浮かべる。


 なぜなら、この室内に彼女を庇護してくれる味方が居ないことに気づいたからだ。


「なのじゃ……それはいいとして、そろそろ飽きたであろうから妾を解放して欲しいのじゃが……どうじゃろ?」


 探るような目つきでニルを見上げる。


 だが……。


「嫌です」


 ニルの答えは即答であった。


「こんな極上のモフモフ……はぅ、今度はいつ触れるのか分からないのに…はぁ~、触れるのを止めるなんてモフリストの信念に反します!」


 力強く力説するニルの姿に周囲の者達は引き攣った笑みを浮かべながらドン引きしていた。


「…何も言わぬから満足するまで触るが良い」


 あの業罪の皇女であるサツキですら、溜息交じりに同意しながら視線を逸らすのだった。


「う、裏切られたのじゃぁ~!」


 悲痛な叫び声が室内に響き渡るが、誰もがフェンリルから視線を逸らし被害を免れようとしている。


 けれど、その中で一人だけ無言でガタガタと身体を震わせている者が人知れず存在していた。


ー…ニル……怖い…


 顕現化を解き、意識のない浩介の背後に隠れて震えていた雅である。


 周囲に存在を気づかれないように気配を完全に絶ってはいるのだが、その容姿である太刀の姿では震える度にカタカタと音を響かせてしまうのだ。


 気付かれないわけがない。


「逃げられませんよ…雅様」


 そんな彼女の必死の逃避行をガッツリと裏切る発言が少し離れた場所から発せられる。


 その声の主は言わずも知れた彼女である。


 この世界に来てから自由を奪われ続けた最も不幸な存在である…ミアであった。


 狂喜化したニルに自由を奪われていたミアの若干やさぐれた心が、束の間の安らぎを求めても誰に攻めることが出来るであろうか?


 その答えは…当然、否である。


 その格好の的が擬人化を解いた雅に向けられるのは半ば必然と言っても過言ではないだろう。


ー後生なのじゃ…


 か細い声がミアの意識に懇願してくる。


「…はっ、甘いですよ」


 やさぐれたミアは、その一言で突き放す。


 ゆっくりと歩み寄ってくるミアに雅の震えは更に激しさを増していく。


 カチャリ。


 ミアの指先が雅に触れた。


 その直後、漆黒の太刀が宙を舞うのだった。


ーヤバいのじゃ!?


 雅の視点の先にはニルがいる。


 常識的に考えればモフリストのニルの興味はモフモフのみであるため雅に興味など抱くはずがない。


 雅も頭では理解してはいるのだが、ニルのあの狂喜化した瞳を見ると何故だか背筋に寒気が走ってしまう。


 刻一刻とニルに近付いていく雅、彼女の思考が廻るましく回転し最善の策を模索する……。


 けれど、雅である。最良の策など思いつくはずもなくニルの元へと落下していくのであった。


ー……終わったのじゃ


 悲壮感の漂う呟きにミアがほくそ笑む。


「ザマァ……見晒せです」


 汚い言葉遣いを発しながら雅の行く末を見守るミアの視界にセレスの姿が這入り込んできた。


 フェンリルを問い詰めていたセレスはニルの傍に居たのだ。そして、セレスは精霊である。


 大精霊である雅を蔑ろにするはずがない。


「雅様、大丈夫ですか?」


 失意のどん底にたたき落とされたはずの雅にまさに救いの神の如くセレスが彼女を優しく抱き寄せ声をかけたのだ。


ーふぇ?


 太刀の姿であるにも関わらず恐怖で泣いている姿が容易に想像できる間の抜けた声を雅が漏らす。


 恐る恐る周囲を見渡した雅は自分の置かれている状況を把握し、優しく抱きしめ心配そうに見つめているセレスに視線を向ける。


 セレスには若干、苦手意識のあった雅ではあったが窮地を脱したことに心底、安堵するのだった。


ーた、助かったのじゃ~


 安堵の溜息をつく雅を尻目に元凶のミアは至極残念そうな表情で軽く舌打ちを鳴らし、その場をそそくさと離れるのであった。


 セレスにしてみれば正直な話をすれば迷惑きわまりない一連の状況でしかなく、内心では深い溜息を漏らしている。


 けれども、雅は大精霊である。


 そんな彼女に気づかれる愚を犯すことはしない。


 なぜなら、これはある意味ではセレスにとって千載一遇のチャンスであるからだ。


 出逢った当初にやらかした愚を払拭して信頼を得るまたと無い状況を逃すほど彼女は愚かではない。


 伊達に精霊界の皇女をやっているわけではないのだ。確かに主人である浩介の身は心配ではある。


 だが、フェンリルの口調から生死に関わるものではないと容易に想像することが出来た。


 なら、今やるべき事は……。


 セレスの思考はそれに柔軟に対応する。


 そう、大精霊の信頼を得るチャンスなのだ。


 彼女の瞳の奥底が鈍く光ったことに誰も気付きはしない。思わず口角が上がりそうになるのを必死に堪え慈愛に満ちた瞳で雅である漆黒の太刀を優しく抱きしめる。


「もう大丈夫ですよ」


 優しく語りかけ抱きしめる。


ーふぁ~、セレスのお蔭なのじゃ


 雅の感謝の言葉にセレスは表情に出さずに心の中で盛大にガッツポーズを決める。


 もし、その表情を顔に出していたのならばニル以上にドン引きされていても不思議ではない。


 ただ……。


 彼女の動向を部屋の隅で見つめていたミアにはモロバレであり口元で笑みを浮かべ、鼻で笑われるのだった。


「どうせ、直ぐにボロが出るんですから…無駄な足掻きだと思いますけどね……」


 ミアの呟きを小耳に挟みながらもセレスは更に雅をあやし手懐けようとしている。


「はぁ…お主らそれで良いのか?」


 彼女達の姿にサツキが溜息を漏らす。


 フェンリルをニルに投げ渡した彼女が至極まっとうに見える今の状況、浩介が見たならば頬を引き攣らせた笑みを浮かべるのだろうなと思い微かに微笑んだ。


 良い仲間に巡り会えたと感じられたからだ。


〔皐月……良かったな〕


 心の底からそう思えたサツキは意識の奥深くに眠る皐月に優しく語りかけるのだった。


 そんなサツキの穏やかな感情の先に穏やかならぬ者がジト目で彼女を見つめている。


「そうじゃ、そうじゃ!話がそれているのじゃ!えぇ~い、いい加減に妾をモフるのを止めるのじゃあ~」


 テーブル上でガッチリとホールドされた状態でニルに揉みくちゃにされているフェンリルがジタバタと抵抗しながら叫ぶ。


「そういえば……そうでしたね」


 フェンリルをモフる手を止めることなく、理知的な表情を浮かべて常闇の神器が収められている木箱にニルは視線を向ける。


ー懐かし名を聞いたのじゃ


 セレスの胸元で太刀の状態のまま雅はどこか懐かしそうな口調で会話に参加をしてきた。


「そう言えばお主も精霊じゃったな」


 セレスに抱かれた漆黒の太刀に視線を向けたフェンリルは知古の友に出会えたような表情を浮かべる。


ーそうなのじゃ、お主とは出会う機会はなかったが噂は聞いておる……そうか、常闇の神器に封じれているのはトリニティなのじゃな


 雅の問いにフェンリルはコクリと頷く。


「なら分かるじゃろ?」


 当時の状況を知るであろう雅にフェンリルは彼女の無害さを改めて問い直す。


ーうむ、問題ないのじゃ


 彼女らの会話に周囲の者達は意味が分からず惚けた表情を浮かべ二人を見つめている。


「どういうことですか?」


 雅を抱き寄せているセレスが尋ねる。


ーう~ん、そうじゃな。彼奴(トリニティ)は良くも悪くも無垢でな、言わば平穏な時代が生み出した帝じゃ


 雅の言葉にフェンリルも過去を思い出すかのように遠い目をしながら頷いてみせる。


「…そうじゃな、幼い身でありながらよく民を導いておった。ただ、不憫ではあったがのぅ…」


 二人にしか分からない悠久の時代の記憶に精霊皇女であるセレスも畏敬の念を抱いてしまう。


 普段の二人からは感じられない年月の重さが彼女にその様な感情を抱かせたのだ。


「どのような御方だったのですか?」


 二人を畏敬の念で見つめながらセレスが二人に問いかけると何故か暫しの沈黙が流れた。


ー……のぅ?


「…お主もか?」


 それだけ発して二人はまたもや沈黙した。


 何か感じるものがあったらしい。


「お二方、どうされたのですか?」


 小首を傾げるセレスにフェンリルは何故か遠い目をしながら何かを思い出し思わず涙ぐんだ。


彼奴(トリニティ)に良い思い出がない……」


ー…妾もじゃ


 漆黒の太刀が何故か微かに震えている。


 そんな二人の姿に意味が分からず、セレスは助けを求めるようにサツキへと視線を向けるが彼女も分からないらしく困惑の表情を浮かべていた。


ー妾はこの状態で鎖で縛られ、焰に焼かれ、氷漬けにされ、最後に飽きたのか宝物庫に放置されたのじゃ…何が宝剣の検証じゃ!あれは拷問以外何ものでも無かったのじゃ!


 その状況を思い出したのだろう。


 雅の声は怒りと恐怖で震えている。


 その姿にフェンリルは乾いた笑みを浮かべながら慰めるように彼女の鞘の部分を優しく前足で撫でてやるのだった。


「お主もヤラれたのじゃな…我は……」


 言葉を発しようとした瞬間、何かを思い出したかの如く身体中に寒気が走り、九尾がシュンと小さく丸まっていく。


「毟られた……のじゃ」


 フェンリルはか細い声でボソリと呟く。


「毟るって、なにを……あぁ」


 小さく丸まっている九尾にセレスは察した。


 そして……それに気付き感情を露わにする者が周囲に醜悪な悪意をジワジワと放ち始める。


「毟られる、毟る…毟るぅ!?………この純白のモフモフを無慈悲に毟る不届きな輩がこの世界に存在するのですかぁ?この神器の帝が?ふぅ~ん、そうですか。モフリストの愛でる対象を……へぇ……私の前で?勇気がありますねぇ…」


 遙か過去の話であるはずなのだが、狂喜化した今のニルの瞳には目の前で起きているようにありありと情景が映し出されていたのだ。


 その瞳に漆黒の闇が宿っていく。


 何かを考えるようにジッと常闇の神器の納められた木箱を見下ろし小さな声でボソリと呟いた。


「モフモフを蔑ろにする者は人に非ず……」


 徐に腰に差した短剣を引き抜くニルに周囲の空気が一瞬にして静まりかえる。


 間近で彼女を見上げていたフェンリルは自らの発した一言に後悔しながら震えている。


「モフリストに栄光あれ…天誅」


 勢いよく振り下ろされる狂刃、誰もが直ぐに動き出すことが出来ず息を飲む中で動いた者が居た。


 キィーーン。


 甲高い金属音と共に狂刃が止められる。


 手に持っていた扇を折り畳み、その端で彼女の狂刃をサツキが易々と受け止めたのだ。


「いい加減にせぬか……お主の今やろうとしていることは世界間の問題に発展してしまうぞ?その覚悟はあるんじゃろうな?」


 薄いベールに包まれた先の彼女の瞳が厳しくニルを戒める。その瞳の威圧感にニルの表情が徐々に青ざめていき、自分の過ちに気づいて冷静さを取り戻していく。


 カランッ。


 彼女の手に握られていた短剣が音を立てて床に転がり落ちた。


「も、申し訳ありません…取り乱しました」


 即座に頭を下げるニルを暫しの間、厳しい瞳で見つめていたサツキは「…ふぅ」と小さく溜息をつき表情を和らげる。


「分かれば良いのじゃ…何事も程々にな」


 諭すような口調と共に微かに微笑を浮かべるサツキにニルは力無くガックリと肩を落とした。


「はい…」


 冷静さを取り戻したニルは小さくなりながら深々と頭を下げ謝罪の意を見せるのでだった。


 流石にフェンリルには触れていない。それぐらいの常識をニルは取り戻していた。


 だが、逃げ出す絶好のチャンスであるはずのフェンリルは間近でその光景を見ていたため身体が硬直してその場を一歩も動くことが出来ずにいる。


「おぉ、こ、こ、恐かったのじゃ…」


 半泣き状態で見事に腰を抜かしてしまったのだ。


 ただ、一人だけ驚きの声を上げる者がいた。


ー今のはスゴかったのぅ!?


 一部始終を見ていたとはいえ誰もが言葉を発することすら出来ぬ状況で雅だけはサツキの動きに驚嘆の声を漏らしたのだ。


「…ですね。あの早さは尋常ではありませんわ」


 雅の声に茫然自失していたセレスも冷静さを取り戻し、改めてサツキの一連の動作に感嘆の言葉を呟く。


「アレってただの扇ですよね?なんです、あの甲高い金属音は?ぶっちゃけ私の目では全く追えなかったんですが……獣人の目で認識できないって……あははっ……はぁ」


 あまりの難易度の高さに乾いた笑いと深い溜息を同時に発するしか出来ない、それはそれでなかなか器用なミアであった。


 かくして、この瞬間にメンバー内最強(怒らせたら駄目な人)が皆の心の中で人知れず決まったのだった。




読んでいただき有り難う御座います

<(_ _)>

ブクマ、評価していただけると励みになります


筆の遅い作者ですが見捨てずに見守って頂けると幸いに存じます。


では、失礼いたします(o_ _)o

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