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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の17 痛みを伴う決意

あらすじ

~アイシスからアマネルと呼ばれ動揺する浩介。

 その姿を見つめながら常闇の神器から消えていくアイシス、そして内なる何かに恐怖した浩介は意識を失う…そして意識を取り戻した浩介は…~


では、お楽しみください(o_ _)o


 気が付くと浩介は草原のど真ん中に立っていた。


 ただ、どうして自分がこの場所に立っているのか、ここがどこなのか、それらを理解することが出来ないでいた。


 浩介が覚えている記憶が確かであるならば今はあの世界に居るはずなのだ。


 常闇の神器に居るはずなのである。


 けれど何故だか分からないが浩介の意識はこの場所に居ることが必然のように感じていた。


 不意に心地よい風が彼の頬を優しく撫でる。


〔…気持ちが良いな〕


 浩介は瞳を閉じて体全体で感じてみた。微かに漂う自然の香りが心を落ち着かせてくれて思わず笑みが溢れてくる。


 今の現状がおかしな事であるのは十分に理解してはいるが、あまりの心地よさにどうでも良く思えてしまう…それほど居心地が良いのだ。


 不思議なことなのだが、浩介はこれが自分が見ている夢であるという自覚があった。


 これが白昼夢と呼ばれるモノであり、浩介は自分が夢を見ていることを理解していた。


 それに自分の意思で動かしている身体が自分でないことにも気が付いていた。今、見ている景色も心地よいと感じている感覚も全てが他人の物なのだ。


 ゆっくりと瞳を開く。


 自分ではない誰かの視点が映し出す世界、その景色を見つめながら浩介はどこか懐かしい感覚を覚えていた。


 ふだん見ている景色より少しだけ高い視点に違和感を微かに感じるものの、それ以外はいつもの自分と変わらないように振る舞える。


〔…何なんだろうな〕


 不思議と心は落ち着いていた。


 普段なら……と考えた瞬間。


 ドクンッ。


 鼓動が早くなる。


 何かが脳裏を過ぎった。


〔……なんだ?〕


 なにか大事なことを忘れているような気がした。


 ドクンッ。


 さらに鼓動が早さを増していく。


〔なにを忘れてる…〕


 俯きながら両手を見つめる。


 自分の物ではない誰か(・・)の手、色白の細い指先が自分の手ではないことを如実に物語っている。


 ドクンッ、ドクンッ……。


 激しさを増す心臓の音が浩介を誘う。


 忘れていた何かを求めるかのように……。


ー……アマネル。


 聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


〔…なまえ…アマネル…〕


 脳裏を過ぎる女性の声が記憶を呼び覚ましていく。自分を見つめ呼びかける声、そしてアマネルという名前……その瞬間、浩介は愕然とした表情を浮かべた。


〔………………っ!?〕


 全てを思い出したのだ。


 身体中が嫌な寒気に襲われ立っていることが出来ない。力無く座り込みながら両肩を抱きしめ暖めるように擦るが身体中の震えが止まらない。


〔…おれ、俺は……だれだ?〕


 自分が誰なのかが分からない。


 虚ろな瞳を浮かべながら浩介は蹲る。


 誰かに助けを求めたい。


 だが、誰に?


 誰に助けを求めればいい?


 浩介の意識が自問自答を繰り返す。


 答えの出ないジレンマに浩介の神経が磨り減っていく。耐えきれない感情が表情に表れ無意識の内に髪を掻きむしる。


 なにが現実か分からなかった。


 今、存在している場所は夢であり現実ではない。それは理解できていたが……浩介の視線が自分へと向けられる。


〔…なら、現実は?〕


 不安が脳裏を過ぎる。


 忘れていた記憶がフツフツと沸き上がる。


 あの時、アイシスが呼んだ名前…アマネル。


 心の中で呟いただけで言い知れぬ不安が浩介に襲いかかってくる。


〔…怖い〕


 不安の根源に潜む何かに気付き浩介は瞳を見開く。否定したいにも関わらず否定できない現実に逃げ出してしまいたかった。


 自分が誰なのか思い出してしまった(・・・)からだ。


 後戻りできない現実に理性が失われていく。


 自分が自分でなくなっていく感覚に押しつぶされそうになる。意識の奥深くからヒシヒシと歩み寄ってくる足音が聞こえた。


 静かに歩み寄ってくる足音が浩介の意識に干渉してくる…それが幻聴であると信じたいと切に願ってしまう。


 けれど、忍び寄る何かが浩介の意識を侵していく。止めることが出来ない自らの未熟さに浩介は恐怖する。


〔俺は…俺は…〕


 自分の存在意義を見失い、何者かの意識を受け入れてしまいそうになる自分に震えが止まらない。


ー案ずるな……。


 恐慌に陥っていた浩介の意識に声が聞こえた。


 物静かで落ち着いた低い声が彼の意識に響き渡る。


〔…なっ!?〕


 突如、意識に語りかけてきた声に浩介は瞳を見開くと同時に、その声を拒否するかのように震える手で耳を塞ぐ。


 聞きたくなかった。


 その声を認めてしまえば自分がどうなってしまうのか分からない、そんな不安が浩介を追い詰めていくのだ。


〔俺はどうなっちまうんだ…〕


 今の浩介の状態は端から見ても正常とは言いがたい精神状態であり、迫り来る何かに恐怖を抱いていた彼にとってその声は奇異なものでしかない。


 気が付けば奥歯がガチガチと鳴っていた。


 何か言葉を発しようとしても唇が震えて噛み合わず、ただ荒い息づかいだけが漏れ出てしまう。


 そして、それが更に浩介を追い詰めていくのだ。


 悪循環としか言いようのない負の連鎖に彼の精神は限界を迎えようとしていた。


 そんな時だった。


ー案ずるな…我は汝の敵ではない


 また、あの声が語りかけてきた。


 聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない……認めたくない。耳を塞ぎ声から逃れようと蹲る。


 浩介の意識が崩壊を始める前兆であった。


 自我を保つことが出来ない。


「は、ははっ……」


 無意識に乾いた笑いが漏れる。


 両手で耳を塞ぎ、蹲るように座り込みながら浩介は視点の合わない虚ろな瞳でただ笑い続けた。


 心地よかった風も心を和ませてくれた自然の香りも今の浩介には無意味な存在へと成り果てていく。


「…あっ」


 意図せずに声が漏れる。


 浩介の虚ろな瞳に何かが映ったのだ。


〔…なんだ?〕


 瞳に映る何かは黒い霧のようであるが一箇所に漂い、朧気ながら人の姿をしているようにも見える。


 徐々に近付いてくるそれは畏怖の念を浩介に植え付けていく。何故なのかは分からない、けれど知っているような気がする。


 あと数歩の距離まで近付いてきたそれは浩介を値踏みでもするかのように立ち止まり彼を見つめる。


 瞳があるわけではないが見られていると感じた。その視線は浩介の心底を見透かしているようにも見えて浩介は病んだ意識に追い打ちを掛けられているようで鼓動が早まっていく。


〔…何なんだよ、なんで俺に……〕


 思考が廻るましく回転していく。


 けれど、今の浩介の精神状態で解決策が思い浮かぶはずもない。それどころかネガティブな憶測ばかりが彼の思考を埋め尽くしていく。


 まともに考えることが出来なかった。


 そればかりか自分の存在にすら疑問を抱いてしまい、破綻した思考回路が浩介を闇へと誘っていくのが分かった。


 意識は混濁し視界が白く染め上げられていく。


 そして、それは浩介を包み込むように覆い被さり彼の意識は完全に闇に飲まれてしまうのだった。


            *


 朦朧とする意識の中で浩介は誰かの温もりを感じていた。その温もりはどこか懐かしく、けれで悲しみに満ちているようにも感じられた。


〔…俺、どうなって?〕


 今、居る場所が分からない。


 記憶を思い返してみても理解が出来ないのだ。


 最後の記憶はあの黒い霧に包まれたことだけであり、今の自分がどうなってしまっているのか知る術がない。


 ただ、暖かな温もりに包まれていることだけは分かった。身体が宙に浮いているような浮遊感を感じる。


 意識が徐々に溶けていく感覚に身を任せ、浩介はどこかも分からないこの場所で漂っていた。


 心地よかった。


 何もかも忘れてこのまま漂っていたいと思えるほどだ……けれど、彼の意識の片隅で微かに痛みを感じるのも事実であった。


〔何かを忘れてる……大事な何か〕


 それが分からない。


 不安が徐々にせり上がってくる。


 その時だった。


ーやっと、見つけた…


 少女の声が聞こえた。


 聞き覚えのある声に浩介は周囲を見渡し、声の主がどこに居るのかキョロキョロと探しだそうとする。けれど、その姿を見つけ出すことが出来ない。


 訝しげな表情を浮かべる浩介を嘲笑うかのように彼の耳元で少女の囁き声が聞こえ、身体をビクリと震わせながら声のした方へと勢いよく振り返った。


 だが、誰も居ない。


ーそんなとこにいない…ここに居る


 また、耳元で少女の声が聞こえた。


 けれど先ほどと同じように声の主を見つけ出すことが出来ず、その気配すら感じさせない存在に浩介は不信感を露わにする。


〔どこにいる?〕


 浩介の問いに目の前の空間がグニャリと歪み、見覚えのある無表情の少女の姿が視界に入ってきた。


〔トリニティ……だったか?〕


 少女はコクリと頷く。


〔なぜ、隠れてたんだ?〕


ー…隠れてない…ずっといた…でも、気付けてなかった。目の前の現実を否定しようとしていた。だから…気付けない…理解できない……だから苦しむ


 トリニティは無表情な瞳で浩介を見つめながら諭すように淡々と言葉を紡いでいく。


 彼女の言葉にあの存在の意味を知ることが出来るような気がした浩介は呟くように尋ねた。


〔…あれは何だったんだ?〕


 自分に迫り来る黒い霧の様な何かを思い出し身震いする浩介を冷めた瞳でトリニティが見つめる。


ー気付かなかった?ホントに……?


 心の中を見透かされるような瞳が浩介に突き刺さる。その瞳を浩介は思わず逸らしてしまった。


 それは、自分自身に嘘をついている自覚があったからだ。あの黒い霧のような存在とあの声を……知っているのだ。


 魂の奥深く、自分自身を構成する最も重要な部分の根幹、それがあの存在である事を浩介は自覚していた。


 だからこそ、なのだ。


 認めてく無いという意識が先に立ち浩介はトリニティの問いに答えることなく、その視線を避けるように逸らしてしまう。


ー本当は貴方自身も本当は気付いてる……でも、認めたくない…だから私から目線を逸らす


 図星だった。


 心の中を見透かされているように感じる。


〔…俺は〕


 言葉を紡ぐことが出来ない。


 浩介自身、気づいているのだ。


 自分という存在の価値を……自分の運命を。


 俯く浩介を見つめるトリニティの瞳が微かに曇る。


ー定められた運命……そんな体のいい言葉を言うつもり…ない。貴方自身で決めるべき…だから、私達(・・)がいる


〔…っ!?〕


 トリニティの言葉に顔を上げた浩介は彼女の表情に言葉を飲み込んだ。その瞳、その表情に浩介の中で何かが弾けた気がした。


 言葉では言い表すことは出来ないが、例えるなら漆黒の闇に一条の目映い光が差し込んできたような感じであった。


 希望と言う言葉が適切かもしれない。


 視界が広がるのを浩介は感じた。


ー…どうする?


 短い問いだった。


 だが、今の浩介には十分であった。


〔力を…力を貸してくれ。俺が俺であるために…いや、君ら(・・)の未来を創るために〕


 その言葉に今まで無表情であったトリニティの表情が優しげなものへと変わるのが分かった。


ー…なら、助ける…これから宜しく


 そっと手を差し出す彼女のか細い指先に触れる。


 二人が触れあう指先から淡い光が立ち上り、周囲を明るく照らし出していく。その光量の強さに浩介は視線を逸らし瞳を細めた。


 徐々に収まっていく光に逸らした視線を戻すと、そこは見覚えのある場所であった。


 真っ白なな空間に不釣り合いなテーブルと椅子を背にトリニティは微かな笑みを浮かべて彼を見つめる。


ー契約と制約……


 小さく呟く彼女の言葉が胸に突き刺さるのを感じた。


〔…不条理だな〕


 浩介は苦笑しながら彼女を見つめる。


ーうん…けど、この世界には必要


 胸元に手を当て瞳を閉じたトリニティの身体が淡く光を放ち徐々にその姿が離散していく。


〔…これから、よろしくな〕


 離散した身体が粒子となり、浩介の意識へと溶け込んでいく。まるで失っていたモノが舞い戻ってきたかのようにしっくりと馴染んでいくのを感じながら浩介は静かに瞳を閉じるのだった。


 心、いや魂の奥深くで彼女の意識を感じることが出来た浩介は失われていた何かを得たような安堵感に包まれていることに気づかされる。


ー当然の感情…


 彼女の声が聞こえた。


〔…あぁ、そうだな〕


 彼女の声に応えながら拳を握りしめる。


 退路は断たれた…前に進むしかない。


 自分が自分であるために歩き出すしかないのだ。


読んでいただき有り難う御座います

<(_ _)>

ブクマ、評価が増えてました(≧∇≦)b

有り難う御座います(o_ _)o

モチベーションがグイグイと上がります

ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ


では、今後とも宜しくお願いいたします。

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