其の11 狂喜に塗れた常識人
あれっ?おかしいな…
当初のニルのイメージ崩壊です(笑)
では、お楽しみください
(o_ _)o
サツキを包み込んでいた白い霧が晴れていく。
その光景を今かと待ち望む狂喜化したニルの瞳と気配を背後で感じながら浩介は苦笑いを浮かべる。
ずいぶんと変わったものだと思った。
出逢った当初の常識人のニルの姿はどこにもない。今では比べものにならないぐらいだ。
不安になっていたグレ記憶と能力のせいか、その背後で震えている気配が雅のものであることも何となく分かってしまう。
〔…俺、どうなっていくのかねぇ〕
何とは無しに考えてしまう。
悪い兆候であることも分かる。
負の感情が自分を追い詰めていき先程のように悩み更に考え込んでいくのだ。
「…まっ、なるようになるわな」
自分を励ますように浩介は呟く。
〔……あ、あるじどのぉ~〕
そんな浩介の意識に今にも泣き出しそうな震えたか細い声が聞こえてきた。
身動きの取れない雅である。
〔…顕現を解いたのか?〕
浩介は身体の負荷が軽くなっている事に気付き、それが雅が顕現を解いた事だと分かった。
〔うぅ~、逃げようと思ったのじゃが人化を解くと自分の意志で動けぬ事を忘れていたのじゃ…〕
声がどんどん小さくなっていく。
浩介は苦笑するしかない。
容姿は妖絶な美女でありながらも雅の思考はどこか幼い子供を思わせる。
この世界にきて数ヶ月の月日が流れ、浩介も多くの出逢いと経験をしてきた。
〔おもしろいもんだな…〕
ふと、引きこもっていた日々を思い出す。
今の状況と比べて他愛のないことに悩んでいた自分が滑稽に感じてしまう。
帝の意志を継ぎし者、それがこの世界での浩介の立場であり自分とは違う記憶を持ってしまった。
けれど、そのおかげで雅、ニル、皐月、ミア、リアと数多くの仲間達と出逢えた。
浩介の口元に微笑が浮かぶ。
その瞳も優しさに満ちている。
楽しいのだ。
この世界が、仲間達との触れ合いが、浩介の不安を押し流してくれているように彼は感じていた。
〔…あるじどのぉ~〕
雅の助けを求める声が意識に響く。
〔しょうがない、俺のところに来い〕
苦笑を浮かべ雅を手元に引き寄せてやる。
浩介の手に【八咫烏の太刀】が引き寄せられると漆黒の鞘に軽く触れ撫でてやる。
主である浩介の元にいる安堵感からか、震えていた雅の心が落ち着いていくのが分かった。
だが…。
「…あまい」
狂喜化したニルに抱きしめられたミアが浩介の元に引き寄せられた雅を冷めた瞳で見つめ呟く。
雅は安堵しているがよく考えれば、ニルは擬人化が解けようとしているフェンリルを凝視している。
そしてフェンリルはサツキの胸元に抱きついており、浩介は彼女たちの対面に座っているのだ。
つまり雅は逃げ果せたのではなく、自ら進んで死地に跳び込んだということになる。
だが、雅はその事にまだ気付いていない。
浩介の手の中で安心しきっている。
「…ふふふっ、ご愁傷様」
不敵な笑みを漏らしながらミアは目を閉じた。
フェンリルが本来の姿を露わにしたからだ。
自由が直ぐそばに見えた。
ようやく介抱される喜びにミアの小さな身体が歓喜に震えている。
そんなミアを余所に浩介は目の前の存在に目を奪われていた。
フェンリルの本来の姿に浩介は思わず息を飲む。
その姿は体長一メートル弱の純白の美しい毛並みを持つ狼の姿をしており、サツキの手が触れている部分が深く沈み込んでいることで、その柔らかさを如実に物語っている。
不思議とその姿に恐怖を感じない。
むしろ畏敬の念すら感じてしまう。
その身体からから発せられる気配は神々しく、見る者全てを惹きつけて止まないのだ。
サツキに抱き寄せられているためか切れ長の瞳は気持ちよさそうに閉じられ、九尾の尻尾が激しく揺れて喜びを露わにしていた。
その姿はどこか愛らしさすら感じられる。
そんな姿を見せられて、あのニルがおとなしく出来るわけがないのは必然である。
「もふもふ、もふもふ、極上のもふもふ……」
呪文のように呟きながらニルは瞳を輝かせる。
輝いてはいるが血走ってもいる。
まさに狂喜であった。
けれど、フェンリルを見つめるそれは、ミアの自由が訪れる前触れでもある。
フェンリルの魅力的な姿にミアを抱いていることすら忘れたニルは彼女を手放し、両手をワシワシと揉み始める。もふリストの血が騒ぐのだ。
颯爽、その姿に常識人の面影はない。
手放されたミアは床に綺麗に着地すると、ゆっくりと後ずさり解き放たれた自由を噛み締める。
「…自由って素晴らしい」
瞳から涙がこぼれ落ちる。
この数日間の苦難の日々を思い出していたのだ。
涙で霞んだ瞳を開き、ゆっくりとフェンリルに歩み寄っていくニルの後ろ姿を見つめながらミアは呟くように雅に声をかける。
「…ご愁傷様」
その言葉に雅の身体がビクリと震える。
嫌な予感がしたのだ。
「もぉ~ふ、もぉ~ふ~!」
そんな中で、両手をワシワシしながら血走った目で近付いてくるニルの姿に流石のサツキもドン引きの表情を浮かべて身体を仰け反らしていた。
「…のぅ、お主の従者は如何したのじゃ?」
戸惑いの視線を浩介へと向けると彼は苦笑いしながらサツキの胸元で至福の笑みを浮かべているフェンリルを指差す。
「それが原因だな。そんなモフモフな存在を見せて常識ある態度が取れるはずがない…ご愁傷様」
浩介は不憫そうな表情を浮かべると、雅を片手に立ち上がりサツキ達から離れていく。
「…なっ!?」
浩介の言葉にサツキは驚愕の表情を浮かべ瞳を見開き浩介を見つめる。
だが、その視線の先に狂喜化したニルの姿が映り込み、背筋に悪寒が走り思わず身震いした。
ここまで恐怖を感じたことは過去に類を見ない。
幾多の経験をしているサツキすらである。
サツキはチラリとフェンリルに視線を向けた。
「フェル……」
彼女の愛称を呟くと幸せそうな表情を浮かべてフェンリルはサツキを上目遣いで見上げてくる。
「なんじゃ?」
小首を傾げ愛らしい表情で見つめる。
「…すまぬ」
罪悪感から思わず視線を逸らす。
そしてサツキは迫り来る狂喜化したニルに向けてフェンリルを放り投げた。
「…えっ!?」
何が起きたのか理解できず茫然とした表情で宙を舞うフェンリルは何度も瞬きを繰り返す。
離れていくサツキからは視線を逸らされる。
とても、理解できるものではなかった。
ガシッ。
ふいに宙を舞っていたフェンリルが何者かに抱き寄せられ、無意識に彼女の純白の毛並みが逆立つ。
それは野生の性質が危険を察知したのかもしれない。そして、その感性は非常に優秀であった。
「ふぇ~んりぃ~る様ぁ~」
寒気の走る声が頭上から聞こえた。
ビクッ。
誰かに抱きしめられているはずなのに寒気が走りフェンリルは頭上を見上げるのを躊躇う。
そんなフェンリルをニルは思い切り抱きしめ、モフモフ感を最大限に味わうため顔を近づけていく。
フェンリルに顔に近付いてくる気配、それは彼女にとって今まで経験したことのない恐怖であった。
今すぐ逃げ出したいが、ガッチリと抱きしめるニルの手を解くことが出来ずジタバタと手足を動かす。だが、それでも解くことが出来ない。
一つの世界を統べる皇女の力でも、である。
後日談ではあるが、ニル曰く「モフモフを愛する力のおかげです」と力説したのである。
逃げることが叶わぬと知ったフェンリルは覚悟を決め、おそるおそるではあるが顔を上げた。
そして、視界に入ったものを見た瞬間。
「…ひぃ!?」
小さく悲鳴を上げ表情を強張らせる。
間近に迫るニルの狂喜に満ちた表情はフェンリルに衝撃的なトラウマを残すことになった。
その後、ニル見かけるたびにガクブルに震え脱皮の如く逃げるようになったのは言うまでもない。
「可愛いですねぇ!モフモフですねぇ!もう、離しませんよ!幸せです。これ以上の幸せは他にありません!フェンリル様は極上のモフモフ、もふもふ、ふふふっ」
嫌がるフェンリルを押さえつけ、無理やり頬ずりを繰り返すニルの表情に一同はドン引きしている。
今のニルには周囲の存在など眼中にない。
全ての意識がフェンリルに向けられている。
フェンリルは涙目で周囲に助けを求めるが誰も視線を合わせようとせず逸らされてしまう。
「あんまりなのじゃ…」
ガックリと項垂れ涙が床を濡らした。
その姿に流石のサツキも罪悪感を覚え、苦笑しながら二人を見つめる浩介に話しかけた。
「…のぅ?」
「うん?」
「平和じゃのぅ」
「……そうだな」
二人は遠くを見つめ現時逃避をするのだった。
呼んでいただき有り難う御座います
(o_ _)o
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では、失礼いたします
(o_ _)o




