其の6 機械仕掛けの堕天使
ようやく、最後の世界の皇女を出すことになりました(*´ω`*)
ちなみに第一章に出た人物も新たに登場しております
では、お楽しみください
暖かな日差しを背にしながら少女が一冊の古びた表紙の書物を読んでいた。
少女の姿はセミロングの金髪に裾の長い白いワンピースに身を包み幼女のように背丈が低く、椅子に寄りかかると踵が地面から浮いてしまうほどだ。
けれど、少女は先の戦を経験しているほど年齢を重ねているにも関わらず、その童顔のせいか年齢より幼く見られる事が多々あった。
本人としては他者の視線など気にも留めりことなど無いのだが周囲が少女の機嫌を伺うようにその手の話を避けている節が見受けられた。
「風が気持ちいいわね…」
風に靡く髪をそっと押さえながら、心地よい風に思わず瞳を閉じる。
草木の隙間から差し込む陽光が少女の艶やかな髪を照らし出し輝きを放っていた。
その姿は絵画に描かれる天使の様に見える。
心地よい風に満足した少女は瞳を開き先程まで読んでいた書物に視線を戻す。
書物を読み進め始めた少女の視線が不意に止まった。文章の一文が妙に気になったのだ。
~世界は巡る…
時空を超え、人の想いは輪廻する~
その一文に何故か少女はこの多重世界の有様を表現しているように感じた。
元々、この世界はたった一つの理で成り立っていた。けれど、帝の意志と死が世界の在り方を完全に変えてしまったのだ。
ただそれがいつ始まり、いつから今の世界を形成したのかは少女には判らなかった。
気が付けば世界は今の姿をしていたからだ。
だからこそ、この一文が気になったのだ。
「…何なんだろうねぇ」
小さな溜息と共に書物を閉じ、暖かな日の光が差し込むテラスから眼下に広がる世界を見渡す。
少女の住む世界は不可思議だった。
機械仕掛けの摩天楼…その表現が最も近しい表現かもしれない。
他の世界とは違い、少女の住む世界は無機質な機械で埋め尽くされているからだ。
街と思わしき場所の中央にそびえる大樹のような巨大な何かが存在している。
それに近付いてみれば、歯車やケーブルなどが乱雑に絡み合い大樹のように天高く聳え立っているのが分かる。
機械樹ユグドラシル、少女が皇女として統治する世界の根幹とも言える物であり少女の血脈の理を象徴しているとも言えた。
この世界には生命は存在しない。
否、魂だけの存在を生命として定義できるのであるならば確かにこの世界にも生命は存在するのかもしれない。
けれど、この世界の人々には肉体がない。
彼らの肉体は無機質な存在であるからだ。
魂を収めるだけの器、それがこの世界で肉体と呼ばれるモノの定義である。
ただ、外見から見れば他の世界の人々と変わらない容姿をしてはいるが、内面に流れるのは赤い血ではなく複雑に絡み合った術式の流れがあるに過ぎないのだ。
ようは何も無いのである。
臓器も筋肉も……もちろん、心臓もだ。
彼らから心音は聞こえない。
けれど、魂が定着したそれらは笑い、悲しみ、怒りといった個々の感情を表現することは出来る。だが、総て少女によって造られたものに過ぎない。
この世界は孤独な彼女の心を満たすためだけに存在する世界、人々の魂を器に縛り付け、彼女の寂しさを和らげるためだけに存在する世界。
それが少女、天使の容姿に堕天使の心を宿したルシーダ・ブルデスクが統治する世界なのだ。
「…静かすぎるわね」
ルシーダが呟くと時が動き始めたかのように彼女の屋敷内で人々の喧噪が聞こえ始める。
コンコン。
扉を叩く控えめな音が室内に響く。
「入りなさい」
誰が訪ねてきたのか直ぐに判った。
この世界でルシーダが唯一、関与していない存在…それが彼であり彼女を守る存在でもあった。
「…失礼します」
扉を開き、恭しく頭を垂れ室内へと入ってくる。
「何かよう?」
真っ直ぐに彼を見つめる。
燃えるような赤髪に数々の歴戦を語る頬の古傷、その瞳は髪と同じ深紅の瞳が僅かに陰を残しながら彼女を見つめ、直ぐに視線を逸らした。
その瞳に見据えられた彼は心の内を見透かされてしまうような錯覚を覚えたためだ。
ルシーダの問いに答えるために口を開く。
「常闇とフェンリルが和平したそうです」
その報告に思ったよりも早かったなとルシーダは感じ、何者かが関与しただろうと即座に予測した。
「誰が関与したの?予想よりかなり早く終息したということは誰かが関与したのよね?」
半ば確信的に問いただす彼を見つめる視線が先を促すように細くなる。
「…はっ、中心の世界…帝の使い達が関与をしたようであります。さらに……」
男は次に続く言葉を濁した。
ルシーダの口角が微かに上がり不適な笑みを浮かべたためだ。先程までの天使のような表情が消え失せ内面の本質が現れたように見える。
「あの女が陰で関与したのね」
「…御意、ただし確証は御座いません」
男は曖昧な返答をして頭を下げる。
多重世界に関与しない中立の立場であるはずの精霊界が関与した事実、それは憶測の域を出ないがルシーダはまず間違いないと確信していた。
そして彼女は自らの思い描く世界に近付いたことで、思惑が成就できる喜びに思わず頬が緩む。
待ち望んでいたのだ。
彼女の満たされない欲求を満たす世界、混沌が渦巻き、負の感情に満ちたあの戦乱の日々を彼女は狂おしいほど待ち望んでいるのだ。
恍惚の表情を浮かべ想像するだけで身体中が熱くなっていきルシーダはゾクゾクと湧き上がる感情に思わず身震いしてしまう。
そんな主の姿を男は頭を下げたまま盗み見る。
〔…狂ってる〕
内心で呟きながら少女の姿をした狂人に反吐が出る思いだった。あの戦を経験した者は誰も新たな戦乱を望んでいない。
あの武力に特化した常闇の世界ですらフェンリルと和平交渉を行い戦禍を産む事を躊躇ったのだ。
だが、目の前の少女はそれを望んでいる。
男は止めなければならないと強く思った。
そんな男の脳裏に愛しい人の姿が浮かび上がる。
〔…あの人に報告しなければ〕
薄いベールで口元を隠し真実を見定める瞳を持つ彼の真の主、業罪の皇女……この多重世界の中心の存在である彼女の元へ少女の思惑を知らせなければならない。
男は顔を上げ少女を見つめた。
「報告は以上です…いかがなさいますか?」
恍惚とした表情で宙を見つめていた彼女の表情が変化し、男の言葉に冷たい視線を向ける。
「貴女の好きにしなさい…」
先程までとは違い大人びた口調の少女に、
ゾクリ。
男は寒気が走るのを感じた。
心の内を見透かされた気がしたのだ。
「…では、失礼いたします」
内心の動揺を隠しながら男は平常を装い、頭を下げると部屋を退出していく。
バタン。
扉が静かに閉まられる。
その直後、扉を見つめていたルシーダの口角が最大限まで吊り上がり満面の笑みを浮かべた。
「さぁ、抗いなさい。私の掌で…狂おしいほどの甘美に満ちた慟哭を私に聞かせてちょうだい。貴方が無自覚に私を満たせてくれる日を心待ちにしているわよ」
狂気に満ちた言葉を男に投げかける。
ルシーダの心が躍る。
これ程までに昂揚したのはいつ以来だろうか?
それは忘却の彼方に忘れてきたのではないかと思えるほど遠い過去に感じる。
けれど、その日は新たに刻一刻と近付いてきているのだ。これ程までに喜ばしいことがあるだろうかとルシーダは我を忘れそうになる。
戦乱はルシーダの糧であった。
種は蒔き終わり後は収穫するだけの環境を彼女が整えるだけで良かった。
そして、新たな時が動き始めるのだった。
読んでいただき有り難う御座います
(o_ _)o
ブクマ、評価有り難う御座います
(*´▽`*)モチベーションが上がります
今後とも見捨てずにいてくださると嬉しいです
(*´ω`*)
では、失礼いたします
(o_ _)o




