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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の4 和平交渉

常闇の使者タラニス登場


なかなかの策士です


リアも負けてません


さあ、どうなるか…


ではお楽しみください


 常闇の世界からの使者を迎える事になりフェンリル陣営も緊張の面持ち皆、それぞれの正装で屋敷前で待ち受けていた。


「誰が来るんだろうねぇ~」


 皆が緊張の面持ちの中で一応は近衛騎士団の正装に身を包みフェンリルの傍らに立っていたリアが欠伸を噛み締めながら気の抜けた声を出した。


「お主には緊張という言葉はないのかぇ…少しは妾の騎士らしくしたらどうじゃ?」


 気の抜けたリアの表情に呆れながらフェンリルが呟くと彼女はキリリとした表情を浮かべてみせる。


「…これでいい?」


 わざとらしいその姿にフェンリルは額に手を添えて盛大に溜息をついた。


「もう良い…お主に期待した妾の間違いじゃ」


 溜息交じりの言葉にリアも表情を緩め気の抜けた笑みを浮かべる。


 そんな二人のやりとりに周囲の者達の緊張が解けたのか空気が和んでいくのだった。


 リアの行為が計算尽くだったのか天然かはさておき場の空気が一瞬にして変わったのは紛れもない事実だった。


 二人の会話はとても主従関係のそれには全くといって良いほど見えない。


 けれど、それがフェンリルの世界でもあると言えた。主従関係を超えたそんな信頼関係が彼女の世界を形成していたのだ。


 そんな和んだ空気を切り裂くように一人の衛兵が彼女らの元へと駆け寄ってくる。


 周囲に緊張が走り衛兵の言葉を待つ。


 衛兵は息を切らしながらもフェンリルの前では律儀に跪き頭を垂れると早急の報告を口にする。


「常闇からの使者が参りました!」


 衛兵からの報告にフェンリル達は覚悟を決めたかのように緊迫していく。


 周囲の空気の変化を感じ取りながらフェンリルは今までとは違う皇女としての貫禄を身に纏った表情で衛兵に静かに頷いた。


「開門せよ、使者の者を通すが良い」


 貫禄のある声だった。


 とても先程までリアに呆れていた人物には見えず、話しかけがたい雰囲気を周囲に漂わせていた。


「はっ、開門を命じます」


 フェンリルに一礼し衛兵はすぐさま走り去り門番に開門を命ずると厳かに屋敷の扉が開かれていく。


 屋敷の扉が開かれた先には二頭立ての漆黒の馬車が停止しており、開かれた扉からゆっくりとした速度で敷地内へと入ってくる。


 その馬車の側面には彩色を施された常闇の紋章が日の光を浴び誇らしげに輝いていた。


「さてさて、あの若造は使者として誰を寄越したのやら…和平の交渉はそれ次第じゃな」


 フェンリル達の傍で馬車を横付けした従者は軽やかに降り立つと直ぐさま馬車の扉を開く。


「…まぁ、たぶん彼奴だろうねぇ」


 リアには馬車から降りてくる人物の見当が付いていた。筋肉馬鹿の集まりの常闇の世界で唯一の常識人であるタラニスだと彼女は確信していたのだ。


 馬車からゆっくりと降りてくる人物を目にしてリアは口角を上げてニヤリと笑みを浮かべる。


「やっぱりねぇ~」


 降りてきた人物はリアの姿が視界に入り、思わず苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。


 最も会いたくなかった人物だったからだ。


 けれど、流石は使者としてきただけはある。


 柔和な表情に素早く切り替え、フェンリルの前に赴くと恭しく跪き最大限の謝意を示したのだ。


「この度は我らの和平交渉に応じていただき感謝の念に堪えません。此度、和平の使者を承りました五護衆が一人、タラニスと申します」


 深々と頭を下げる彼に対して威厳に満ちた表情で見下ろしながらフェンリルは語りかける。


「常闇の誠意しかと承った…顔を上げるが良い」


 フェンリルの許しを得てからタラニスは洗練された動作で立ち上がる。


 だが、その視界にまたもやリアの姿が入り込むと一瞬だが嫌な表情を浮かべてしまった。


 気のせいか判らないが彼女から受けた古傷が微かに痛むような錯覚さえ感じてしまう。


「お久し振りですね、タラニス様」


 何時もとは違う物腰の柔らかい口調で微笑を浮かべるリアにタラニスは一瞬、戸惑った。


〔様って……誰だ、こいつ!?〕


 戦場でしか垣間見ることのなかった鬼女が淑女のような所作で自分を出迎えている。


 普段のリアを知っている者からは微かに失笑が起こるがタラニスは気付く余裕すらない。


「は、はい、お久しぶりです……」


 タラニスはそう答えるので精一杯だった。


 思考が付いていかない。


 タラニスの脳裏には戦場を風の如く駆け抜ける彼女の姿が思い描かれるが、とてもではないが今の彼女と同一人物として見ることが出来なかった。


 戸惑いながら笑みで返すタラニスにリアの頬も微かに震えている。必死に笑いを堪えているのだ。


 騎士の礼服に身を包み、主君の傍らで直立するリアの姿はまさに騎士の鏡に見える。


 けれど、本性は誰もが知っている。


 何時もと違う所作に戸惑うタラニスの姿、これは彼に対してリアの小さな嫌がらせであったのだ。


 突如、戦を仕掛けてきて都合が悪くなれば和平交渉に持ち込もうとする常闇のやり方にリアも少なからず憤りを感じていた。


 けれど、リアにも立場がある。


 無闇矢鱈に主君の威厳を堕とすわけにもいかず、武力に訴え出るわけにもいかない。


 ならばとリアは逆転の発想をすることにしたのだ。常闇の使者は間違いなくタラニスである。


 それを確信していたリアは戦場で見せることのない姿を見せつけ彼を戸惑わせることで細やかながらフェンリル陣営の不満を晴らすことにしたのだ。


 そして、それは見事にはまった。


 戸惑うタラニスの姿に不満を漏らしていた者達でさえ苦笑し溜飲が下がったのだ。


「では、タラニス閣下」


 和やかに笑みを浮かべタラニスに声をかける。


「今度は…か、閣下……」


 リアの口からそんな言葉が出ると思わなかったタラニスは背筋に寒気が走るのを感じた。


「…どうぞ、こちらにお部屋を用意してございますので会談までご緩りとおくつろぎ下さい」


 更に追い打ちをかけるようにリアの他者を労る言葉にタラニスの心は完全に折れてしまった。


〔この和平交渉…だめかもしれん〕


 そんな弱気な気持ちでタラニスはリアから指示された衛兵に連れられ貴賓室に向かうのだった。


           *


 貴賓室に通され数刻が過ぎた。


 その間にタラニスは折れた心をなんとか奮い立たせながら和平に向けて思案していた。


「…なんとかせねばならんな」


 資料に目を落とし打開案を模索する。


 今回の和平は明らかに常闇の世界の方が分が悪い。けれど、帝の使い達がフェンリル陣営に居ることで微かにだが希望が持てていた。


「…そろそろだな」


 この世界について早々に和平交渉に向けての要望書を部下の者を使ってフェンリル陣営へと届けさせている。


 その要望書には彼らの世界で客人として扱われている帝の使い達が何を(・・)したのかを事細かに記しているのだ。


 彼らの行動をフェンリル陣営は知らないだろうと予想していたが間違いないと確信していた。


 そして、その確信が現実となる瞬間が近付いているのが判った。


 廊下を足早に歩く足音が聞こえたからだ。


 その足音がタラニスの待機する貴賓室で止まった瞬間、彼は笑みを浮かべた。


 コンコン、コンコン、コンコン……。


 貴賓室に待望の人物が訪ねてくる。


 苛立ちが扉を叩く音から感じられた。


 律儀にノックする辺りが微笑ましく思えるが何度も扉を叩く音を敢えて無視してタラニスはテーブルに並べた書類をまとめ始める。


 これも和平交渉を円滑に進めるために必要な手段なのだ。数分後、ようやく客人を出迎える準備を終えてタラニスは扉へと近付いていく。


 未だに繰り返されるノック音の間隔が短くなっていくのを感じて誰なのかは容易に想像が付いた。


「どちら様ですか?」


 だが、敢えて聞き返す。


 タラニスの心理戦はすでに始まっていたのだ。


 その問いに幾度となく扉を叩いていた音が止み一瞬の静寂の後に金切り声が響き渡る。


「判ってんでしょ!早く開けなさいよ!」


 その声にタラニスの頬が緩む。


 焦りと苛立ちが混じったその口調は間違いなく帝の使いだと判断できたからだ。


〔…ふむ、何とかなりそうだな〕


 フェンリルの世界を訪れて初めて和平交渉へと向けたシナリオが完成したことにタラニスは安堵しながら内心の策略がバレぬよう笑顔を顔に貼り付け扉を開けるのだった。


            *


 静まりかえった円卓の間で数人の代表者達が無言のまま資料に目を向けていた。


 誰もが口を開かず時だけが流れていく。


 あのリアですら今はフェンリルの騎士として彼女(フェンリル)の傍らで直立不動で警護している。


 どちらから話しかけるか、互いに躊躇しているのは仕方が無いことなのかもしれない。


 なにせフェンリル達は浩介達が常闇の世界でやらかしたことを知ったのは彼ら(常闇の使者)から渡された要望書を見たからだ。


 資料を見つめながら時折、皐月達に視線を向けフェンリルは両手で頭を抱えて溜息をついている。


「…あははっ、これヤバいやつだな」


 両世界の仲介という名目で参加を促されたはずなのだが今の浩介達状況は当事者達よりも矢面に立たされているようなものだった。


 フェンリルの背後で彼女を警護するリアも頬を引き攣らせながら瞳を細め浩介達を見つめていた。


 だが、問題を起こしたのが自分の親であるため問い詰めることも出来ず悶々とした感情を抑え込む。


 皐月に至ってはふて腐れたように頬を膨らませながら、常闇の使者であるタラニスを睨みつけているが彼は涼しい顔で周囲を見つめていた。


 タラニスの内心は彼女の視線にかなり動揺しているが表情に出してしまえば立場が断然悪くなる。


 それは、フェンリルの世界に対して先に仕掛けたのは紛れもない事実だからであり、彼らは断罪されるべき立場だったからだ。


 けれど、浩介達の行動を利用することで互いが不利益をもたらした存在であると明言することで今回の和平交渉にこぎ着けることができた。


 だからこそ、タラニスは演技だとしても余裕の表情を浮かべていなければならない。


 それが今回の和平交渉の要なのだ。


「…うむ、話の概要は概ね理解したのじゃが…」


 沈黙を破りフェンリルが溜息交じりに口を開く。


「何かご不明な点でも?」


 タラニスの余裕の表情に皐月がギリギリッと奥歯を噛み締め睨みつける。


「…あんた、最低ね」


 絞り出すように皐月が呟くとタラニスは不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。


「はて?最低とは心外ですな。我が世界と致しましては不本意に被った被害の損害を請求しているだけですが?何かご不満でも?」


 更に皐月を煽ってくる。


「これの事よ!」


 バンッ。


 勢い良く立ち上がり皐月は常闇からの送られてきた書簡という名の請求書を叩きつける。


「はぁ、これが何か?こちら側の被害としては正当な請求となっておりますが?」


 はて?と首を更に傾げ皐月を煽っていく。


「何でバラすのよぉ!ちゃんと同席したじゃない!それでチャラの筈でしょ!」


 皐月の言葉にタラニスは心の中で満面の笑みを浮かべて今回の和平交渉が成立すると確信した。


「その様な事は一言も書いていませんよ」


 態とらしく困った表情を浮かべてタラニスは書簡を手に取り読み直すふりをして皐月に手渡す。


「なに言ってんのよ!ほら!ここ!」


 請求額の下に書かれた小さな文面を指さしながら皐月はタラニスに喚きたてる。


「…妾に見せてみるのじゃ」


 皐月の手の内でヒラヒラと舞う書簡を奪い取るように引き寄せると文面をゆっくりと読んでいく。


 読み終えたフェンリルは眉間に出来た皺を指先で揉みながら溜息交じりに呟く。


「…確かに書いていないのじゃ。この文面には和平交渉に尽力すればこの請求を不問とするという意味しか無いのじゃ」


 書簡を皐月に手渡すフェンリルの冷たい視線に彼女は書簡を食い入るように見つめ直す。


「そんなはず無いじゃ…えっ!?」


 確かに他言しないとは書かれていない事に気付き皐月の完全な早合点であった事に彼女は呆然と立ち尽くすのだった。


「あ~ぁ、典型的な詐欺だな…」


 書簡を盗み見しながら浩介がぼやく。


「…詐欺?私が?えっ?どういうこと?」


 浩介の言葉に意味が分からないと首を振る。


「いいか、まず最初にこの請求金額(ボッタクリ価格)を掲示して不安を煽る。それで動揺させて打開案を掲示する。すると、人ってのは冷静な判断が出来なくなり今のお前みたいに騙される……気付けよ、これぐらい」


 呆れた表情で説明する浩介に呆然とする皐月、その二人の姿にタラニスは頬を微かに引き攣らせる。


〔ふむ、一筋縄ではいかないか…まぁ、ここまで来れば後は一押しで何とでもなるがな…〕


 チラリとリアを横目に最後の策を展開する準備を始めるタラニスであった。


読んでいただき有り難う御座います


(o_ _)o


ブクマ、評価頂けると嬉しいです


(*´ω`*)


では、失礼いたします


(o_ _)o

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