其の39 それぞれの感情
もう少しで第三章が終わります
少し登場人物が増えてきましたので近いうちに
人物紹介を書きたいと思います
では、お楽しみください
逃げ場を失ったリアが恨めしそうに呆れた表情を浮かべる女騎士を見上げる。
「…ディーバ、恨むよぉ」
そんな上司の恨み節もディーバと呼ばれた女騎士は「…またですか」と呟きながら額に手を当て小さく溜息をつく。
「何をやられたのか知りませんが自業自得でしょう。団長はいつも見境がなさ過ぎます」
部下の説教に上司は「…だって」とブツブツ言い訳をする奇妙な光景がそこにはあった。
けれど、ミアはその騎士からは違和感を感じた。
「…土下座騎士?」
ミアはその姿に見覚えがある。
というよりも、先程までいた土下座騎士のはずなのだが彼女は何かが違う気がした。
雰囲気が違って見えたのだ。
「土下座騎士…あぁ、あの子また何かやらかしたのね。全く……えっとですね」
ミアの土下座騎士という言葉に思い当たる節があるようにディーバはがっくりと項垂れる。
「…双子の妹なんです」
その申し訳なさそうな口調にミアは共感できた。
なぜなら、浩介達と一緒に行動するようになって初めてまともな人に出会えた気がしたからだ。
「うん?リーアムがここに?なんで?」
もう一人の部下の名前が出たことに少し不思議そうに首を傾げるリアの姿は危機に瀕している者の仕草ではなく案の定、震える声が聞こえてきた。
「…あんたら、なんか忘れてない?」
怒気を含んだ声に青ざめるミアに対してリアは慣れた様子で苦笑いを浮かべる。
「…あはっ、ミアっち…これアウトだわぁ」
リアの言葉にミアは唖然とした。
「…なっ!?」
慌てて皐月に向き直ったミアが見た光景に彼女の瞳が大きく見開かれ……そして、絶望した。
リアの言葉に合わせるように鎖の先端が蛇のように床を這いながら二人に迫ってきていたからだ。
ゴンッ。
かなりの勢いで的確に二人の額に直撃する鎖、けれど浩介達のように気を失うまでではない。
「ぐっはぁ~!?いったぁ……」
真っ赤に腫れ上がった額を押さえながら涙ぐむリアと……。
「痛い…ものすごく痛い…けど、耐えられる……最悪な痛みだわ……最低だ」
自らの不運を呪いながら気絶まで逝かない絶妙な痛みに悶え苦しむミア。
中途半端な激痛に悶える二人を哀れむように見下ろすディーバ、これではどちらが上司か判らない。
「…情けない」
ボソリと呟くディーバに涙目のリアが彼女の足首を掴み必死に縋りつく。
「…たすけて」
実に哀れな姿であった。
そんなリアの姿に訝しげな表情で皐月は二人を哀れんだ瞳で見下ろすディーバに視線を向けた。
「…あんただれ?」
その問いにディーバは襟首を正し背筋を真っ直ぐに伸ばすと深々と皐月に向かって頭を下げる。
「わたくし、近衛第一師団副団長を務めさせていただいておりますディーバ・カルテと申します……挨拶の邪魔ですよ、団長」
頭を下げた先にリアの姿が視界に入り、ディーバは不愉快そうに眉間に皺を寄せ……。
リアを躊躇なく蹴り上げた。
「「…えっ?」」
その光景に皐月だけでなく激痛に悶えていたミアですら痛みを忘れ驚きの声を上げた。
「ぐわぁ~!あんまりよ、ディーバ…」
あまりの仕打ちに恨め目でディーバをみながら綺麗な放物線を描いてリアは壁へと叩きつけられる。
「ふぅ……。あぁ、お客人の前でお見苦しいモノをお見せしてしまい申し訳ありません」
もう一度、深々と頭を下げるディーバに対して流石の皐月も言葉を無くし呆れるしかなかった。
「あんたらいつもこうなの?」
その問いにディーバは不思議そうに首を傾げ頷く姿に皐月は頭痛を覚えた。
「はい、そうですが?」
上司を躊躇なく蹴り上げる職場が日常だと認めたディーバに大きな溜息をつく皐月だった。
ミアに至っては獣耳と尻尾をシュンとさせ、がっくりと項垂れている。第一印象が良かっただけにショックも大きかったのだろう。
〔…こいつらに関わる奴らに何でまともな奴が一人もいないのよ…はぁ〕
深い溜息を心の内で吐く。
皐月から受けた痛みなど今では感じない。
すでに忘却の彼方だった。
それ以上にこの先、彼らについて行くことに一抹……否、かなりの不安を覚えるミアだった。
頭を抱えながらミアが悩んでいると、室内から覚えのある威圧感を感じ恐る恐る顔を上げる。
「…あぁ」
ミアの予想通り、その威圧感を放っていたのはニルであり物凄く嫌な予感しか思い浮かばない。
けれど、その予想は少し違った。
「…静かにしてください」
ソファで浩介の看病をしていたニルが静かな口調に怒気を含ませながら見つめてくる。
「あぁ、ごめん」
その気配に皐月は思わず謝ってしまう。
「そちらの方は?」
皐月に謝らせる存在にディーバは興味を持った。上司と同じエルフ族というのも一端を担っている。
「私はニル・スキールと申します。浩介様の従者兼護衛をさせていただいております。どうぞ、お気軽にニルとお呼びください」
何気に浩介専属を自認する抜け目のないニルが身内以外に見せる常識人な微笑を浮かべ会釈する。
その姿にミアの背中がゾワゾワと鳥肌が立った。
〔あはっ、あはは…〕
何故か心の内で乾いた笑いが出る。
なぜならミアは今までの生活を思い出し、今のニルに違和感しか感じなかったからだ。
ディーバはニルの名にどこかで聞いたことのあるような気がして少し考える仕草をした。
「ニル様ですね。はて?確か屋敷の者がその名を呼んでいた気が……あぁ、思い出しました!【扉壊し】の客人ニル・スキール!貴女がそうだったのですね。初めまして、お会いできて光栄です」
両手をポンッと胸元でたたき思い出したかのようにニルを見つめながらディーバは笑顔を浮かべ頭を下げる。
「…【扉壊し】ですか」
なんとも情けない称号を得たニルは複雑な表情を浮かべてしまう。
「…また、やったの?」
深い溜息とともに皐月がニルを見つめる。
「い、いえ、あの……はいっ」
皐月から視線を逸らしながら項垂れるニルにミアは何だか胸がスーッとする感じがした。
微かに口角を上げ、笑みを浮かべる。
〔…ざまぁ〕
そして、心の内で嘲け嗤った。
浩介達と行動するようになってミアの心が徐々にどす黒く病んでいくのだった。
そんなミアの心の黒さに気付くことのない皐月がディーバを見つめながら問いただす。
「…っで?あんたは結局、何の用できたの?」
至極まともな質問である。
彼女が来てからやった事は自らの上司を蹴り上げた事とニルの心を弄んだぐらいだ。
暇潰しですと言われればリアの部下であるため、何故か納得してしまいそうになるがディーバはそんなことのために来たわけではなかった。
「忘れていました……常闇の使者から書簡を預かっております。え~っと、あった、こちらです」
豊満な胸元から一枚の書簡を取り出す。
〔〔〔…何故そこから出した!?〕〕〕
全員の疑問が一つになった瞬間だった。
今の動作をもしも浩介が起きていたのならば、間違いなく凝視していただろう。
そうなれば修羅場確定であった。
なにげに命拾いをした浩介だったのだ。
「…ゴホン」
皐月の咳払いに全員が正気を取り戻し、ディーバの手元にある書簡に視線が集まる。
その書簡には蝋封に常闇の紋章が刻まれており、それは世界間で重要な意味を持つ物である。
「ふぅ~ん、彼奴がねぇ」
胡散臭げに書簡を見つめる。
「どうぞ、お受け取りください」
ディーバが差し出してくる人肌に暖かい書簡を皐月は心底嫌そうな表情で受け取った。
「なんか嫌な予感しかしないんだけど…」
皐月にはその書簡からどす黒いオーラが流れ出ているように感じて封を切るのを躊躇った。
「…よし、見なかったことにしましょう」
嫌な予感が拭えなかった皐月は書簡を投げ捨てた。その光景に全員の目が唖然とする。
「そ、それはあんまりだと……」
思わずニルは皐月の投げ捨てた書簡を拾い上げテーブルの上に置きながら戒める。
「だって……ろくな事じゃないわよ」
テーブルの上の書簡を横目に見ながら皐月は自分の感が正しいだろうと思っていた。
「まぁ、確かに派手にやっちゃいましたしね」
ニルも言いながら溜息交じりに思い出す。
セレスのはっちゃけた行動でロイを幽閉していた部屋は半壊状態であった。
衛兵達が来る前に転移して逃げ出し、証拠はないのだが……あれだけの行為が出来る者は限られる。
半壊された建物と居なくなった帝の使いの一行とロイ・キルケ…自ずと答えは繋がる。
常闇の五護衆タラニスが気付かぬはずがない。
この書簡もそれを察して届けさせたのは明白だった。問題は……何が書かれているかなのだ。
「…見なきゃ駄目よね」
皐月の悪あがきな発言も今のニルには通用しない。何も言わずにペーパーナイフを皐月に手渡す。
「はぁ…」
溜息をつきながらナイフで蝋封を切り取り、書簡を取り出すと虚ろな瞳で文面を読んでいく。
その書面は実に簡潔であった。
半壊した部屋の修繕費と補償費の支払い要求、つまりは請求書だった。
読んでいただきありがとう御座います
(o_ _)o感謝に堪えません
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(*´ω`*)
稚拙な文体と筆の遅い作者ですが
見捨てずにいていただけると嬉しいです
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