其の38 不器用な恋心
不器用な二人が解り合う、そんなお話です
ではお楽しみください
床に倒れ込む浩介と雅の姿がまず最初にニルの視界に入った。
仁王立ちしながら不機嫌そうに鼻を鳴らす皐月の姿に一瞬、躊躇する。なぜなら、彼女の気持ちが判ったからだ。
不機嫌そうに見えるが視線はチラチラと気絶した浩介に向けられており、ピクリともしないその姿に若干、不安げな瞳を浮かばせていた。
「今回もすごいことになってますね…」
ニルが声をかけると安堵した表情が垣間見えた。
「ふんっ、こいつらが悪いのよ!」
悪態をついてはいるがニルは直ぐに気づく。
〔あぁ、この人も私と一緒なんだ…〕
皐月を見ながらニルがクスリと笑う。
「なによ…」
その笑みに皐月が動揺しているのが判った。
「いいえ、何でもありませんよ皐月お嬢様。とりあえず、浩介様はソファに寝かせましょう。雅様は…あらっ?」
白目をむいて気絶している雅の身体から淡い白光が溢れだし彼女を包み込んでいく。
その姿にニルは今更ながらに彼女が精霊であったことを思い出した。
「…そういえば精霊でしたね」
ニルが呟くと皐月も頷く。
「そうだったわね…」
二人して苦笑いを浮かべる。
人の姿をしている雅を見る機会が多くて、ついつい忘れがちになってしまう。
けれど、雅はあの精霊皇女セレスですら震え上がらせる【八咫烏の太刀】と呼ばれる大精霊なのだ。
「何だか馬鹿らしくなってきました」
頬に手を添えながらぼやくニルに皐月も思わず頷いて答えてしまう。
「そうよね……はっ!?今のは違う!」
無意識に同意したことに気づき皐月は頬を染めながら鎖をジャラジャラ鳴らして首を振る。
「なんのことですか?」
皐月の同様にニルは心の内で微笑を浮かべながら、気づかないふりをして聞き返す。
その姿に墓穴を掘ったことに気がついた皐月は項垂れるように肩を落とし大きなため息をついた。
「…はぁ、そうね。ニルの思ってる通りよ…全く、なんで精霊に嫉妬してんだか…」
ボソリと本音を呟く皐月に思わずニルも頷いてしまい、頬を赤らめる。
「…ですね」
二人は顔を見合わせる。
そして、気絶した浩介へと視線を向ける。
「なんで、こんな奴を…」
「なぜこの人を…」
二人は悩ましげにため息をつく。
けれど、口には出さない。
その想いを口に出してしまえば、今の気持ちが消えてしまいそうだと感じたからだ。
二人は見つめ合い、微笑を浮かべる。
「まぁ、仕方ないわね」
「そうですね」
そう、好意を持ってしまったのは仕方がないことなのだ。それを表現するのがただ一緒なだけ…。
「う~ん、こいつの面倒お願いね」
皐月は鎖の顕現を解きながら背伸びする。
「はい、喜んで」
笑顔を浮かべるニルに皐月の表情が緩む。
その表情に何だか意固地な自分が馬鹿らしくなるのを感じながらも皐月は「これで良い…」と思えた。今なら業罪の皇女の気持ちが判る。
自分の感情なのか彼女の感情なのかは判らない。けれど、惹かれているのは確かなのだ。
帝の意志を継ぐ者、皐月が求め続けていた存在。それは、自分の意志なのかはもう定かでない。
けど……。
離れたくない存在、失いたくない存在、そして、それが浩介なのだと思い知らされたのだ。
雅と楽しそうにすれば心がざわついた。
密着すれば感情が表に出た。
皐月にとって浩介は必要だった。
自分の存在意義を肯定してくれるのは彼だけなのだ。自分という存在を認識したあの日、皐月は帝を求めた。
どこにいるのか、どんな人物なのか、何も判らないながらも皐月は求め続けた。
そして、浩介と出逢った。
だから……。
皐月はニルを見つめる。
ソファで眠る浩介の手を握り優しげな瞳を向けるニルに皐月の心は満たされていくのだった。
*
「…意外な結末ねぇ~」
扉から二人を見つめるリアが呟く。
「…ちっ」
その下で同じように見つめていたミアはその光景に思わず舌打ちをした。
「修羅場が見たかったのに…何なんですか?あの和んだ空気、もっと、こうドロドロとしたモノが見たかったのにこれじゃ、完全に消化不良です!」
大きな瞳が細くなりブツブツと呟くミアに流石のリアも苦笑してしまう。
最初に出逢ったときはニルに抱えられて死んだ魚のような目をしていたミアではあったが、これが本来の姿なのだろうとリアは思った。
「…ここで乱入したら面白いかも」
リアがニヤリと笑みを浮かべながら悪態をつくミアに視線を向ける。
ミアの目元が細くなり口角が上がっていく。その姿は絵も値を見つけた獣のように見えた。
「リアさんも悪ですね」
ミアは乱入したときの二人の慌てふためく様子を想像し口元が緩んだ。
ギィーー。
ゆっくりと扉を開けようとした瞬間。
「隊長、何してるんですか?」
背後から声をかけられ二人は驚きのあまり…。
「「うわぁ~!?」」
そのまま、室内に転がり込んだ。
「なんなの?あんた達……まさか」
冷たい瞳で皐月は二人を見下ろす。
ジャラジャラ。
解いた鎖を再度、顕現する。
皐月の周囲に広がる鎖の先端が、まるで蛇のように鎌首をあげ二人に狙いを定めていた。
「あは、アハハハ」
乾いた笑いを浮かべるリアと思わず視線を逸らすミア、二人の行動は分かりやすい仕草だった。
「ふぅ~ん…で、どこから?」
頬をヒクヒクさせながら引きつった笑みを浮かべる皐月の姿に二人の表情が青ざめていく。
「…まさか、最初から?」
冷たい声は尋問のように感じられる。
けれど二人は何も答えない。
否、答えられないのだ。
正直に答えれば待っているのは地獄、あの二人のように地面に平伏す姿が脳裏に浮かぶ。
〔…逃げよう〕
乾いた笑いを浮かべながら隙を窺うリアは皐月にバレないようミアの服の裾を掴む。
そして、ゆっくりと後ずさりを始める。
トンッ。
リアの背中に何かが当たった。
「…たいちょ~、またなんか悪さしたんですか?」
あきれた表情で自分を見下ろす女騎士の姿に逃げ場を失ったリアは思案する。
けれど、何も思い浮かばない。
「…詰んだ」
ボソリと呟くリアにこの世の終わりのような表情を浮かべるミアに静かに首を振る。
「死ぬわけじゃないよぉ…」
何の慰めにもならない言葉をかけられミアは無我の境地で項垂れるのであった。
彼女の自由は遠いのだった。
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