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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第一章 理不尽な痛みは不可解な日常の始まり
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其の7 帝の意識グレンデル

            *


 静まりかえった闇の中に身を任せ、失いゆく意識を漂わせながら自分がどこにいるのか理解できず浩介は遠くを見つめていた。


 浩介の意識は身体と離別し自らの肉体が他人に操れる姿を只、傍観するしか出来ず虚無感に呵まれる。


 神器の記憶が波打ち浩介の意識と混じり合った瞬間、あの争いの発端の原因の真実を垣間見ることが出来た。


 それは語られる事実とは異なり神器の意識の主、帝と呼ばれる中心の世界の統治者の思惑が世界を混乱に導いた結果であり今、浩介の身体を支配するグレンデルと呼ばれる人格が主犯だった。


 帝と呼ばれた統治者は幾つかの人格を持ち、ある時は清廉潔白な指導者であり、時には暴君となり、さらには性別すら違う場合もあり、それぞれが個々の役割と組織を形成していた。


 個々の人格を統合する本来の帝は彼らの話に耳を傾け、時には彼らに身を任せ管理する世界に赴き世界を安定に導いてきた。


 それが、彼の能力であり本流の血脈の統治者であった。


ーよぉ、器の主さん。お前の身体って使い勝手がいいな


 浩介の意識に語りかけてくる声が聞こえた場所を虚ろな瞳で見つめると空間が奇妙に歪んでいた。


 その光景に「どこかで見たな」とぼんやりと思いながら見つめ続けていると、そこから男が顔を覗かせた。


 皐月の着ていた赤と黒を基調とした和服に似た服装に金色で鮮やかに刺繍を施された裏地を靡かせ近付いてくる。


ーおっ?もう意識が崩壊しかけてるのか?意外とヤワな精神構造してんなぁ。一応、器の資格があんだからさぁ?もうちっと抵抗してくんないとつまんないぜ?


 饒舌に喋りながら近付いてくる男の瞳が怪しげに光る。


 その両眼は瞳の色が違っていた。


 右目は何処までも呑み込まれていくような藍色の瞳で左目は燃えるような紅蓮の瞳をしていた。


「…お前がグレンデルか?世界を滅ぼそうとした帝の人格、他者の意識を操り、総てを騙した偽りの帝」


 記憶を紐解きながら無意識に呟く浩介に両目を大きく見開き驚いた様子を浮かべ、すぐにニヤリと笑う。


ー偽りの帝かあ、言い響きじゃねぇか!気に入った!俺の今後の通り名にしてやるから光栄に思いなってか、まだ喋れる位は意識が存在してんだな?こりゃ、驚きだ!?


 嬉しそうに舌舐めずりしながら両手を擦り合わせる。


 無抵抗な意識を弄ぶことは彼にとって至上の喜びであり、抵抗する意識を完膚なきまで破壊し消滅させる事が彼、グレンデルの血脈であった。


 けれど、彼本来の目的は器の資格を正しく精査することで在り器に足る存在かを品定めすることでもあった。


ーさてと、まずはお前の記憶から見せてもらうかな


 顔を近づけニンマリと笑うと右手を無抵抗な浩介の額に当て、そのまま意識の中へと潜り込んでいく。


「…ぐぅ」


 苦痛の呻き声を吐きながら意識に進入する違和感に抵抗するが、グレンデルはそれすらも楽しむかのように笑みを浮かべながら意識の奥深くへと入り込んでいく。


ーほぅ、お前さん異世界の住人か?


 深層部まで降り立ち、浩介の記憶を再現すると彼は見たことのない光景に興味深げに周囲を見渡す。


 彼が立っている場所は大きな交差点のど真ん中で行き交う車は彼の身体を存在しないかのようにすり抜けていく。


 周囲には高層マンションや雑居ビルが建ち並び、行き交う多くの人々が忙しげに歩いている。


 浩介にとっては見慣れた光景でも彼にとって初見のモノばかりで珍しげに周囲を見渡しながら道路を歩いて行く。


ーなんだか世界は広いって感じるねぇ…ホントに面白い記憶だ。とりあえず頂いておこうか


 感嘆しながら左目を閉じ藍色の瞳で世界を見渡す。


 その瞬間、世界がグニャリと歪み、彼の瞳へと吸い込まれていくと真っ白な世界だけが取り残された。


「…なんだ?俺の?世界?」


 浩介の記憶から見慣れた景色が消え去った。


 自分が生まれ育った街の景色そのものが記憶にない。


ーお前の街の記憶は貰った。もう、お前には思い出すことすら出来ないはずだ。ご馳走さん


 満足したかのように唇を舐める。


 唐突に失われた記憶に消失の意味を理解した。


 それはとても恐ろしい事だった。


 見知った記憶を食われ徐々に失われていく感触に意識だけの筈の浩介は背中に寒気が走るのを感じた。


ーさてと、次はどの記憶を頂くとするかな。


 楽しそうに浩介の記憶を物色し始める。


 為す術もなく只、奪われていく記憶の断片と失われていく存在意義の狭間で浩介は見ていることしか出来ない。


ーうんっ?なんだぁ、これは?


 深層部の記憶の更に深い部分でグレンデルの指先が止まり、奇妙な表情で首を傾げる。


ー記憶に護印が組み込まれてやがる。おいおい、お前さんですら知らねぇ記憶が在りそうだなぁ。オモシレぇ


 護印が組み込まれた記憶に指を鳴らし、蒼白い術式を周囲に展開すると舌舐めずりしながら両手を擦り合わせる。


ーさてと、何が出て来るか楽しみだなぁ、器の主よぉ?


 楽しそうに語りかけながら幾つもの術式を重ね合わせ、複雑な文様に変化したモノを護印にぶち当てた。


 その瞬間、目映い光がグレンデルを包み込む。


ーなぁんだぁー?……これって!おぃ、まさか?ヤベぇ!


 光の中でグレンデルは驚愕した表情を浮かべ、顔から笑みが消え去り必死に護印を締め直そうと両手を伸ばすが、その努力も虚しく光が彼を呑み込んでいく。


 何が起きているのか分からず、見つめ続けることしか出来ない浩介は何が自分の内に存在するのか興味が湧いた。


 意識すら消滅させる血脈を持つグレンデルですら呑み込もうとする何かが存在し、護印と呼ばれるモノで封印された何かに浩介は意識を向けた瞬間、グレンデルが叫んだ。


ー近付くな!意識を持って逝かれる!お前は器であり、封印の皇子だ!決して過去に触れようとするな!俺の血脈をお前に授ける!それで……あぁ、くそぉ。意識が保てねぇ……


 浩介の意識を遠ざけながら早口で叫ぶグレンデルの意識が徐々に消え去っていくのがハッキリと分かった。


「なにが……起きてるんだ?」


 何が起きているのか分からず茫然とする浩介の瞳には光の中で失われていく彼の表情が妙に優しげに見えた。


ーすまねぇな、器の主よぉ。とりあえず、護印は何とか出来そうだが俺の意識は保てねぇ。嫌かもしんねぇが俺の記憶と血脈は強制的に引き継がせる。じゃねえと、何もかも終わっちまう…悪いなぁ、嫌な運命を背負わせちまって


 今までの口調とは明らかに違う柔らかく暖かみのある雰囲気がグレンデルの言葉から感じられ浩介は困惑した。


 彼から与えられた記憶との印象があまりにも食い違う表情に浩介は「もしや」とグレンデルの瞳を見つめた。


 その視線に気付いた彼はニヤリと笑みを浮かべた。


ー俺は偽りの帝だろ?お前さんは間違いなく器の資格を持つ主だよ。まぁ、精神構造がちぃっと弱いがまぁ奴らがフォローすんだろ……あぁ、彼奴らとまた会いたかったなぁ


 彼の哀しげな表情で消え去っていく意識を見つめながら浩介は失われたと思っていた街の記憶が意識の中に残っていることに気が付いた。


 偽りの帝らしく最初から総てを偽り、彼は浩介の器としての意識を試していたのだ。


 強制的に引き継がれていく記憶とともに明らかになり、彼の血脈を肌で感じることで理解することが出来た。


 彼の血脈の本来の役割は人を見抜く力、彼の右目は記憶を左目は意識を見ることが出来るうえにその瞳に対しては何人も逆らうことの出来ない意志の力を持つ。


 それは業罪の皇女の血脈の本流と言えた。


 神器の意識はそれぞれの世界の本流の血脈が納められており、各統治者が持つ血脈とは相反するモノが与えられている。


 つまりは統治者には触れることの出来ない力だった。


 グレンデルの記憶から多くのことを学びながら身体に引き寄せられるように意識が上昇していく。


 そして意識と身体が重なり合い、ゆっくりと瞳を開く。


 目の前に広がる見慣れた部屋の光景に安堵のため息を漏らし、ベッドの脇に在る鏡に映った自分の顔を見る。


 そこには瞳の色が違う両眼が映し出されていた。


 まるでカラコンを入れたみたいに違和感の在る容姿にグレンデルの言葉が嘘でないことを示していた。


 意識内に彼の存在は全く感じられないが、彼の記憶だけはしっかりと引き継がれているのは奇妙な感覚だった。


「あいつ、俺の意識まで操ってたのか……」


 彼の本当の記憶に触れて浩介は彼の本当の考えが分かり、今まで感じていた嫌悪感が薄れていくのが分かった。


 総てを偽って人を極限まで追い込み、心の内に潜む本性をさらけ出し器の正しさを証明させようとする。


「全く意地の悪い人格だな……下手すれば本当に消滅しかねなかったんだからさ。それより、過去に触れるなってどういう意味だったんだろ?」


 浩介は鏡に映るさ自分を見つめると右目を閉じ、左目で自らの意識へと入り込もうとしてみたが、何かに遮られるようにぼやけた映像が見え、視線を合わせると左目に映るのは鏡に映る片目を閉じた自分の姿だった。


「見るなってことか」


 ため息をつきながら今はもういない彼に語りかけながら浩介は大の字になってベッドに倒れ込んだ。


 目の前に映る高い天井を見上げ、彼の記憶と重ね合わせながら自分が何者で何をな成すべきなのかを考えこれから先の自分の征く末を思い描いた。


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