其の33 痴女の矜持
最初はシリアスにするつもりでした
(^-^;)
ですが、蓋を開ければ何なんでしょう?
リアの家族の一騒動となりました
では、お楽しみ下さい
意味が分からなかった。
けれど、セレスは現にこの場所にいる。
そして、最も驚かされたのはあのセレスがエルズに跪き、剰え彼女を主と呼んだことだった。
信じられないことである。
「雅、一体どういうことなんだ?」
震える雅の頭をそっと撫でながら落ち着かせる。だが、雅の震えは止まらない。
「アレは遙か神々の時代にエルフの始祖と初代精霊王が取り決めた血の契約じゃ……彼奴も、持っておるとは妾でも反故には出来ぬ」
身震いする雅の頭を更に撫でて落ち着かせる。
どうやら、エルフ族の長は【主従契約】と呼ばれる最上位契約ですら覆すことが出来るという事らしかった。
そこで、浩介は一つの疑問に気付く。
「…なぁ、エルズ?」
顕現したセレスをここぞとばかりに愛撫しまくるエルズに浩介は問い掛ける。
「うん?何かしら?」
悪戯っぽい笑みを浮かべこちらを見た時点で浩介はこの女は確信犯だと認定した。
「俺らが常闇の世界に行った意味なくないか?」
そうなのだ。
エルズの力を使えば精霊達を制御することなど容易なはずである。なのに、浩介達を転移させた理由を考えれば自ずと答えは見えてくる。
その確認のための質問だった。
「あぁ、そうね。でも、この力は精霊にしか効果はないのよ…セレスちゃんは皇族だけどまだ日が浅いから制御できるんだけど…うちの旦那みたいに使役する立場の者には効力は薄いのよ…残念よね」
エルズは哀しげな表情を浮かべる。
「効かないわけじゃない……心が折れた瞬間の隙を突かれれば俺でも意識を操られるときがある…判るか、少年?それが何を意味するのか……」
ロイの死んだ目が浩介を見つめる。
浩介は想像した。
心を徹底的に折られ、エルズに支配される自分の姿を思い描き……その恐怖に寒気が走った。
想像しただけで恐ろしく感じるのだ。
ロイは……浩介は思わず視線を逸らす。
「…ははっ」
自嘲気味に笑うロイの姿が不憫でならなかった。
けれど、更に疑問が浮かぶ。
精霊にとっての【契約】は正に命を賭けることと同義である。それを覆されたと知った時、セレスはどうなってしまうのか。
「えっと、じゃあセレスはどうなるんだ?俺の【主従契約】を反故にした時点で俺との【契約】を破棄したことになるのか?」
【主従契約】を破棄することはすなわち契約者の死を意味する。だが、他者の意志によって強制的な場合はどうなるのかと言った疑問をエルズに弄ばれるセレスを見て思わず聞いたのだ。
「あぁ、大丈夫よぉ~。基本的に【契約】とは別物だから…それにこれで使役している間の精霊達は憶えてないから大丈夫よぉ~」
セレスの可愛らしい胸元を弄るエルズは悪魔の微笑を浮かべながら笑う……セレスが不憫だった。
そして、雅が震える理由も察しが付いた。
覚えていないのは恐怖だ。
何を命じられ、何を行うのか、意識が戻った瞬間の精霊達の気持ちと悲愴感は耐え難いものがある筈だろう。
そしてエルズに弄ばれるセレスの姿に浩介は意識を取り戻した時になんと声を掛ければ良いのか思いつかない。
「…なんて言おう」
「黙っておるのが優しさじゃ…」
耳元で哀しげな表情で雅は呟く。
〔…黙ってる、何も見てないよぉ~〕
元気印のサラでさえセレスに同情している。
〔これは我々精霊にとっても屈辱です…セレス様が知ったら、どんなことになるか想像もつきません…いえ、想像したくありませんわ〕
ディーネの震える声が聞こえる。
〔……ノーミ…見てない…知らない…です〕
現実を直視することをノーミは止めた。
〔…うん、知らない〕
ノーミに同意するシルフィだった。
「…じゃあ、セレスには内緒で」
浩介の言葉に全員が頷く。
けれど、意識を共有する身としては何かの拍子に知られてしまう可能性が多々ある。
どうすれば良いのかと考え込む浩介に、セレス弄りに満足したエルズは彼を見つめながら口元に手を添えて微笑む。
「大丈夫よ、貴方が思い出したところでこの娘は気付きもしないから。だって、可哀想でしょ?」
口元は見えないがエルズの目元は明らかに笑っている。この女は可哀想などと微塵も感じていない。
寧ろ楽しんでいる。
「少年、諦めろ…コレが俺の嫁だ」
諭すようにロイが浩介の肩をポンッと叩く。
「おっさん…」
言葉が出ない。
痴女で悪女である最凶女と結婚したロイという強者を浩介は崇高な人格者に思えてならなかった。
普通なら逃げ出す。
いや、だから逃げたのだと思い直す。
常闇の一件がなければ見逃すことも出来たのかもしれない。何故か、罪悪感が浩介の心を蝕む。
そんな浩介の心情を察したのかロイは気丈にも彼を励まそうとまでしてきたのだけれど…。
「お前も頑張れよ…悪いことばかりじゃない……ないはずだ…あれっ?おかしいな?ないはずなのに、何で涙なんか……」
浩介を励まそうとするロイの瞳から無意識に涙が流れる。良い思い出が見つからなかったようだ。
今の浩介は最初に出逢った時のロイの印象とはガラリと変わっている。
そう、仲間意識が芽生えているのだ。
「…おっさん、もういいんだ」
ロイの両肩に手を添え浩介は首を振る。
「少年…」
分かり合えた男同士ガッツリと抱き合った。
そんなむさ苦しい男達の友情を冷めた目で見つめていた皐月がボソリとエルズに呟く。
「…とっと帰れ、バカ夫婦」
その言葉に楽しそうにエルズが笑う。
「あらあら?嫌われちゃったわねぇ。あなた、帰りましょう。セレスちゃん、悪いんだけどエルフ界までの【扉】を開いてもらえるかしら?」
跪いたままのセレスを見下ろしながらエルズは優しい口調でお願いする。
「…はい、主様」
虚ろな瞳のセレスが立ち上がり術式を組み始める。エルズのせいで若干、着衣が乱れている姿に浩介達は視線を逸らす。
あの皐月ですら逸らしたのだ。
それぐらいしか今の彼らにはセレスの尊厳を護ってやれる手段がないのだ。
〔セレス様、サラも手伝う~!〕
サラがセレスの側に近付いていく。
〔…ですわね〕
〔…ノーミ…も…手伝い…ます〕
〔…不憫だ〕
他の四大精霊達も集っていく。
視線を合わさないよう注意しながら……。
見れば泣いてしまいそうだからだ。
四大精霊の力でかなり安定した【扉】が形成されるとエルズは満足げに頷きロイの首根っこを掴む。
その姿は借りてきた猫のようだ。
その扱いに不憫としか云いようがない。
「じゃあ、そろそろ帰るわね」
【扉】に足を踏み入れながらエルズが手を振る。その余裕に満ちた姿に皐月はイライラとした表情を浮かべ鎖を顕現した。
「早く出て行け、この痴女!」
鎖が宙を舞う。
「あら、怖いわねぇ」
からかいながらエルズは鎖を避けて【扉】へと半身を入り込ませると、旦那を盾にするように鎖の前へと引きずり出す。
ゴンッ!
「いってぇ…」
ロイの後頭部に鎖が見事に直撃する。
どこまでも不憫な男である。
「あっ、そうそう忘れてたわ」
何かを思い出したかのように【扉】から顔を覗かせ、不敵な笑みを浮かべながら浩介を見やる。
「雅ちゃん、顕現を解けば良いんじゃない?」
その言葉に浩介と雅はポカァンと口を開く。
「そういえば…雅は精霊だったな」
顕現化が日常な為に忘れていたが、雅は【八咫烏の太刀】と呼ばれる神剣の精霊だったのだ。
「そうなのじゃ……忘れてたのじゃ」
本人ですら……である。
「…あんたらもバカなの?」
頬をヒクヒクさせながら皐月の表情が強張る。
「う~ん、皐月ちゃんも気付かなかった時点で同罪だとお姉さんは思うんだけど……あら!?あぶない。ふふふっ、図星みたいね」
エルズの発言にイラッとした皐月が無言で鎖をエルズに放つが、余裕の表情で避けると悪戯っぽい笑みを溢す。
皐月は顔を紅く染めながら地団駄を踏む。
「母さま…」
不意にリアがエルズを呼び止める。
その真剣な表情にエルズも表情を変えた。
「妹、楽しみにしてます」
ニヤリとリアは笑みを浮かべる。
「母様に任せておきなさい。なんなら、妹だけでなく弟も……って、イッタぁ~!?」
親子の会話に一瞬の隙を見つけた皐月は意識を集中させた渾身の一撃が奇跡的にエルズの額に直撃したのだ。
「よっ……しゃあ~!」
拳を握りしめる皐月にエルズは意外と痛かったのか涙目で恨めしそうに彼女を見つめるのだった。
「ちょっと油断したわ。まぁ、楽しめたから良いのだけれどね」
何だかんだ言って余裕のエルズだった。
「まぁ、これ以上はホントにお邪魔みたいだから帰るわね。じゃあ、また会いましょうね」
手をヒラヒラさせながらエルズは【扉】へと消えていき、完全に転移した瞬間、セレスの身体が光の粒子へと変わり浩介の内へと戻っていくのだった。
そして、エルズ一家が巻き起こした嵐のような出来事はこうして幕を閉じるのであった。
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