其の32 再会は修羅場の香り
家族の久々の再会……
女系家族だと父親の立場が弱い
不憫なロイの末路、そして…
では、お楽しみ下さい
奇妙な光景が目の前で拡がっていた。
大の男、二人が正座しているのだ。
一人はロイ・キルケ、もう一人は浩介である。
そして、対面のソファには二人を見下ろすように二人の女性が陣取っている。
一人は恍惚とした表情を浮かべ、もう一人は不機嫌そうに腕を組みながら睨みつけるように見下ろしていた。言わずと知れたエルズと皐月である。
「あなた、何か言い訳する事はある?」
ロイを見つめるエルズの瞳は輝いていた。
「えっと…ありません。はっちゃけ過ぎました」
ロイの身体が小刻みに震えている。まるで捨てられた子犬…と表現するにはおっさん過ぎるロイの脳裏を走馬燈が巡るましく過ぎ去っていく。
常闇での走馬燈など可愛いモノだった。
今度は確実な死の匂いが充満している。
「…そう、言い訳しないのね」
何故か哀しげな表情を浮かべるエルズにロイは訝しげな顔で彼女を見つめた。
彼女は不満だったのだ。
言い訳すれば人目も憚らず嬲ることが出来る。
けれど、ロイの言葉では不完全燃焼なのだ。エルズの心の葛藤が思わず表情に出てしまっていた。
「…あんた、どんだけなのよ……引くわぁ」
エルズの心情に気付き、皐月がドン引きしたかのように距離を開け呆れた表情を浮かべている。
「お前も似たようなモンだろ…」
ボソリと浩介が呟いた。
その声を皐月が聞き逃すはずがない。
「…あぁ?」
ドスの効いたサツキの返しに浩介の背筋が伸びる。眉間に皺を寄せた彼女の表情が如実に怒りを物語っていたからだ。
「あら、あら、そっちは楽しそうで良いわね……旦那なんて、萎縮しちゃって夜が不安で仕方ないわ」
額に手を当て悩ましげなため息をつくエルズに、ロイの顔色は危険な領域まで青ざめた。
色々と思い出したのだ。
エルズが満足するまで延々と……。
思わずロイは身震いする。
その姿に浩介は同情を禁じ得なかった。
「…おっさん、大変だな」
同類の憐れみなのかロイの肩を叩きながら慰める。そんな浩介に青ざめたロイは項垂れながら虚ろな瞳で呟くように忠告した。
「…嫁は選べよ」
真に迫った言葉であった。
思わず涙腺が緩みそうになる。
言葉にせずとも互いに意志疎通が出来た瞬間だった。ここに鬼嫁同盟が暗黙の内に結成されたのだ。
「あんたら、なに意気投合してんのよ?気持ち悪いから止めてくんない?それより、あんたたち……」
ジャラリ…。
皐月の掌から鎖が生み出される。
尋問の時間だった。
二人して「…ゴクリッ」と息を飲む。
「…で?」
冷たい視線が浩介に突き刺さる。
忘れていたが浩介の背には未だに震えながら涙ぐむ雅が抱きついている。あまりの恐怖に指先が硬直し、離れることが出来ないらしい。
「わ、わ、妾は…」
震える口調が恐怖を物語っている。
「…黙れ」
冷徹な瞳が雅を貫く。
「………ハイなのじゃ」
項垂れつつもガクガクと震えている。
少し離れた場所でニルとミアの涙が止まらない。
けれど…。
「…不憫にゃ、浩介様……不憫にゃ」
「…雅様、羨ましい…私も抱きつきたい…」
涙の理由がそれぞれ違った。
ミアは純粋に浩介の身を案じ、ニルは自身では決して出来ないであろう雅の行為に嫉妬して涙していたのだ。その事には勿論、ミアは気付いている。
けれど、この場でそれに触れればどうなるのか?修羅場が地獄と化すだけだ。
流血沙汰になるのは必然であった。
ミアは浩介の不憫さに更に涙する。
そして、この場に居ることで自身も確実に巻き込まれてしまうという事実に対してもミアは涙してしまったのだ。
「なんで、何でこんな目に…」
最大の被害者はミアだった。
重苦しい沈黙が流れる。
「…あっ、あのな」
浩介が満を持して言葉を発しようとした瞬間。
ガチャ。
扉が開いた。
エルズにより人避けの結界を施しているはずの扉を躊躇なく開き入ってきたのはリアであった。
「あぁ~、疲れた……彼奴ら、最後は全員で一斉に襲ってくるなんて私を何だと思ってんだか…ねぇ、聞いてよ!皐月ぃ~!…………うん?」
疲れた顔で肩をグルグル回しながら入ってきたリアは、皐月に愚痴を溢そうとして漸く室内の違和感に気付いた。全員の視線がリアに集まる。
「なに?どったの?みんなして?……ってか、えっ?母さま、うん?もしかして、父さまも!?」
青ざめた表情で項垂れながら正座するロイに気がついたリアは驚いた顔で久しぶりに会った父親を見つめる。
「お、おぅ……久し振りだな、娘よ」
娘の職場にしでかした事を誤魔化すかのようにぎこちない笑顔で接するロイに悪巧みを思いついたエルズの瞳が艶やかに煌めいた。
〔…あっ、ヤバイ奴だ〕
チラリとエルズを盗み見てロイは瞬間的に察した。バラす気なのだ。
「あらっ?リア、良いとこに来たわね…実はね」
リアを手招きしながらロイのやらかした事を娘に暴露しようとするエルズにロイは慌てて立ち上がり焦った表情を浮かべる。
「うわぁ~!?お、お前、バラす気か!?……何でも聞くからそれだけは勘弁してくれ」
ロイの言葉にエルズがニヤリと笑みを浮かべる。
「…何でも?」
ロイが力無く頷く。
……屈した瞬間だった。
全員が「…うわぁ」と呟き、エルズの悪女振りに一同ドン引きする中でリアだけが意味も判らずキョトンとしている。
「うんっ?母さま、なに?何の話?」
満面の笑みを浮かべるエルズと失意のどん底で項垂れるロイを交互に見ながら聞いてくる。
「リア、弟と妹どっちが欲しい?」
ロイの生き地獄が確定した瞬間だった。
「う~ん、妹?」
流石はエルズの娘である。
二人の空気を察して父親が何かをやらかしたのだと気付いたリアは悪戯っぽい笑みを浮かべたのだ。
「じゃあ、頑張らないとね。あ・な・た」
そんなエルズの誘いも今のロイには全く届かないほど意気消沈し既に真っ白に燃え尽きている。
「恐ろしい……自業自得とは言え」
「全くじゃ……が、他人事ではないのじゃ」
雅と浩介は行く末を案じ項垂れる。
「んで、雅はなんで泣きながら浩介に抱きついてんの?あぁ~、もしかして欲情しちゃったぁ~!?ぐふふっ、じゃあ私も参加しようかな?」
両手をワシワシしながら痴女モードのリアが下品な笑みと共に浩介へと迫っていく。
「…リア、判っててやるお前は痴女の鏡だよ」
呆れたように呟く浩介に雅も頷く。
二人の視線はリアの背後で頬をひくつかせながら鎖を取り出す皐月の姿を怯える瞳で見つめている。
「…あっ、だよねぇ」
リアは苦笑いを二人に向ける。避けようとする仕草すら見せない姿は流石は筋金入りの痴女である。
ヒュー-、ゴンッ!
リアの後頭部に鎖が直撃した。
それを感心したようにエルズは見つめる。
「良い腕してるわねぇ…素質あるわよ」
娘より皐月の鎖裁きに注目するエルズであった。
「そんな痴女気質の素質があるなんて貶されているとしか思えないわよ」
キッとエルズを睨みつける。
「…あらあら、残念だわ」
大人の対応で煙に巻く。
エルズの方が何枚も上手であった。
「…さてと、じゃあ私達は帰るわね。せぇ~れぇ~すちゃん、ちょっと出てきてもらえない?」
猫なで声でエルズはセレスを呼ぶ。
けれど、セレスからの反応がない。
首を傾げるエルズ。
いや、浩介の意識には反応はあるのだが…。
〔…私は皇女…なのに…あんな…〕
未だにブツブツと呟いている。
「…あぁ、無理だと思うぞ。旦那のせいであいつ、結構やらかして自分の世界に閉じこもってるから」
浩介の説明にエルズはキョトンとした表情を浮かべる。なにげに浮かべるそんな表情のエルズが不覚にも可愛らしいと思ってしまった浩介だった。
すぐに罪悪感に嘖まれたのは云うまでもない。
「あら、そうなの?なら、どうしましょう…」
人差し指を唇に当てながら思案するエルズの視線が周囲を見渡し皐月の背中で止まる。
その視線を感じた皐月はビクッと身体を震わせ、嫌な予感を感じたため振り返るのを躊躇した。
「…ねぇ」
エルズが声を掛ける。
「嫌よ…」
振り返らず皐月は即答する。
「…まだ、なにも言ってないのだけど」
不満そうにエルズが呟く。
「どうせ、帰るから力を貸せって言うんでしょ。誰がアンタみたいな痴女なんかに力を貸さなきゃなんないのよ?」
全くもって正論である。
けれど、相手はエルズなのだ。
「…じゃあ、仕方がないわね。なら、自分の力を使うとするわ強制権発動」
エルズの身体が光に包まれる。
強制権発動、その言葉に浩介と皐月は首を傾げるが他の面々、特にエルフ族達と雅が震え上がった。
「…妾が呼ばれるわけではないのじゃが身体が芯から震え上がってしまうのじゃ……嫌なもんじゃのぅ…アレは」
皐月と相対した以上に身体を震わせ怯える雅の姿にエルズの行為に未知の恐怖を感じた。
「…アレが、嫁が嫁たる所以だ」
顔面蒼白なロイが呟く。
「どういうことだ?」
「見てれば分かる…」
ロイは虚ろな瞳で嫁を見つめるのだった。
「我の命により我の願いを我のために捧げよ、我はエルフを統べる者、我は精霊と共に歩む者、我の命により顕現せよ精霊を統べる皇女よ」
浩介の身体からセレスの気配が消えた。
「…なっ!?」
驚きを隠しきれなかった。
セレスと浩介は精霊契約の最上位の【主従契約】で結ばれているため他者に彼女を顕現することは出来ない。出来ないはずなのだ。
けれど、目の前で虚ろな瞳をしたセレスがエルズによって顕現されようとしている。
浩介は我が目を疑い、皐月も信じられない様子で目の前の光景を見つめている。
「どういうことなの?えっ?なんで…」
顕現されたセレスはエルズに跪く。
〔主様、お呼びで御座いましょうか?〕
その言葉に皐月と浩介は愕然とするのだった。
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それでは今後とも宜しくお願い致します
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