其の29 心が折れる瞬間
其の10 常闇の世界で出た人物が登場します
名前まで付けてしまいました
また、どこかで出そうと考えてます
あっ、そうそう……
ロイの受難まだまだ続きます(笑)
では、お楽しみ下さい
帝の使いが現れてから数刻が過ぎていた。
彼等が謁見の間を出てから騎士達を引き連れた男は苛立ちながら哨戒を行っていた。
男の名はグレオス・スタィン、常闇の世界の近衛騎士を率いる隊長であった。
長身の背丈に程よく筋肉が付いており近衛騎士専用の鎧と相まってスリムな印象を受ける。
26歳の年齢に似合わぬ童顔がコンプレックスではあるが金髪の長い髪を後ろ手に縛り、その瞳はサファイアを思わせる濃い緑色の瞳をしていた。
所謂、これぞ騎士の様相である。
けれど、そんな端麗な顔立ちは今は眉間に皺を寄せ、不機嫌さを露わにしながら闊歩していた。
その原因は帝の使い達の所為である。
常闇の皇子に対して傍若無人な態度で接し、この世界で最も優れた騎士達を蔑ろにしたのだ。
苛立ちも分からなくもない。
「隊長、奴等はどこに行ったんですかね?」
部下が恐る恐る聞いてくる。
「俺が知りたいわ……猊下を蔑ろにしおって」
思い出すだけで苛立ちが増してくる。
謁見の間を出てから彼等は姿を消した。
その目的も判らない。
猊下が凜とした対応で彼等を退出させてから部下を尾行させようとしたのだが、何故か常闇の五護衆のタラニスから止められてしまった。
まるで自分達では力不足だとでも言うように説明もなく「…止めておけ」の一言で済ませたのだ。
五護衆であるとはいえ説明が欲しかったのだが彼の瞳からは有無を言わさぬ気配が立ちこめておりグレオスはなにも言うことが出来なかった。
けれど、グレオスは直ぐに部下に命じ彼等の行方を探らせ、結果として今の現状である。
守護兵からの報告では建物からはまだ出ていないらしいと聞き、グレオス自ら哨戒をしていた。
「…忌々しい」
行方が判らず拳を握りしめ柱を殴った。
その瞬間。
ドゴォーーーン!
すさまじい衝撃が建物全体を揺らした。
「…た、隊長?」
あまりのタイミングの良さに部下が訝しげな表情を浮かべながらグレオスに近寄る。
「バカか、お前は!俺の筈があるわけないだろうがぁ!一体、何が起きたのだ!?報告しろ!」
突如、激しい爆発音と振動に近衛隊長である男が周囲で慌てふためく部下を捕まえ問いただす。
「判りませんが、爆発が起こったようです」
嫌な予感を感じグレオスは苛立った。
只でさえ、彼奴らに煮え湯を飲まされたのだ。
謁見の間に突如現れた彼等の皇子に対する不遜な物言いや態度に近衛隊長として責務を負っている身には堪えられなかった。
怒りが収まらない中でのこの爆音である。
「奴等だな…すぐに発生地を突き止めて俺に報告しろ!俺が陣頭指揮を執る!」
「「了解!」」
部下達が駆け足で情報を求め走り出していく。
そして、直ぐに報告が上がった。
「ロイ・キルケを幽閉した部屋からです!」
何となくだがそんな気はしていた。
あの男が幽閉されたぐらいで大人しくなるはずがないのは判りきっていたことだ。
遅かれ早かれ奴は行動していただろう。
それが今と言うだけだ。
ただ、何故今なのか……グレオスの脳裏にそんな疑問が浮かぶ。それに気になるのは彼等の所在が分からない点だ。
「まさかな……まぁ、いい。近衛第二師団は俺に、第一師団は万が一を考え、猊下の警護に当たれ!一刻を争うかもしれんから心して挑めよ、お前ら!」
疑念を振り払い今やらなければならないことを瞬時に立案し的確な指示を部下達に出す。
どのような状況下でも指示を出せる辺り、グレオスも伊達に隊長と呼ばれているわけではない。
その判断力と正確さがグレオスを今の地位に押し上げたのだ。そして、部下達も直ぐに対応する。
「「はっ!」」
一切の疑念すら持たず迅速に行動する姿で彼等の練度が如何に高いことなのかを物語っている。
まさしく力こそが正義を体現するモノだった。
第二師団の精鋭を携えグレオスはロイ・キルケが幽閉された部屋へと駆け出していく。
彼は脳裏に一抹の不安を抱えながら……。
*
足並みがそろった足音が近付いてくるのを聞きながら浩介は思案を重ねていた。
どうすれば最良の選択を出来るのか、色彩の違う瞳で周囲を見渡し「う~ん」と唸り声を上げる。
「近付いてるねぇ…」
皐月が他人事のように呟く。
「ってか、皆さん何をそんなに悠長に為さってるですかぁ!?この足並みの揃った足音って多分、近衛騎士団ですよ?常闇の精鋭ですよ?ってか、浩介様のその瞳何なんですかぁ~!?」
獣耳をピクピク動かして周囲の気配の異常さに慌てふためきながら語尾が全て疑問系なミアを横目に誰も慌てる素振りすら見せない。
「たかが、騎士団ごときでアタフタするでない。その程度の輩など眼中にないのじゃ……それより」
手をワシワシしながら雅がミアの獣耳に狙いを定める。ピクピクと気配を探知していた獣耳の動きがピタリと止まり、雅の気配に項垂れていく。
「何じゃ、つまらん……動いているときに触りたかったのじゃが…まぁ、よいのじゃ!」
瞳をキラリと輝かせミアに向けて飛びかかる。
「ひゃあ~!?」
雅に鷲掴みにされる寸前、ミアの身体が持ち上がり、彼女は何が起きたのか判らず声を上げた。
「雅様、コレは私のです…」
ミアを胸元に抱き寄せ頬ずりしながら自己主張するニルのその眼はいつもと違う狂喜に満ちていた。
「…ほぅ、妾のミアを独占するのかゃ?」
雅の瞳が細くなる。
「この娘だけは譲れません」
普段、親子のような二人の視線が激しくぶつかる。それだけ抗いがたい魅力があるようだ。
「…私は貴女方の所有物ではないのですが……何なんですかぁ?この人達はぁ~、危機感が全く足りませんよぉ~」
半泣き状態のミアを横目に浩介は苦笑する。
けれど、ミアの発言にも一理あるのは確かなことであり思案していた策略を実行するために浩介はセレスに声をかけた。
「さてと…セレス、常闇の術式どうなってる?」
懸念事項を先ず排除することに決めた浩介は扉に浮かび上がっている歪んだ術式に視線を向ける。
浩介の問いにセレスは「ふんっ」と鼻を鳴らしながら、小馬鹿にしたように冷たい視線で扉を見つめ術式に手を添える。
「わたくしの力を甘く見ないでもらいたいですわ。既に解除しておりますからご安心を……ふんっ」
そう告げてプイッと視線を逸らす。
どうやら、未だにお冠のようだ。
浩介と目を合わせようとすらしない。
そんな中でサラが声をかけてきた。
〔ねぇ、ねぇ、このオッちゃんどうするの?〕
触れる度にビクビクと反応するのが楽しいのかサラは何度もロイの額をペシぺシと叩きながら浩介に聞いてくる。
「…オッちゃん…言うな」
身動きが取れないながらも『オッちゃん』発言だけはロイにはどうしても許容できなかったらしい。呻るようなか細い声で否定する。
〔おぉ!?喋ったぁ!オッちゃんてばあんだけやられたのにぃ~、丈夫だねぇ~〕
大きく瞳を見開きながら驚きの表情を浮かべる。
「…だから……俺はオッちゃんじゃ……はぁ、もういいや、好きなように呼んでくれ」
ペシペシと額を叩かれながらロイは大きく項垂れて深いため息をつくのだった。
〔分かったよぉ~!オッちゃん!〕
元気よく笑顔で頷くサラに…何なんだ此奴らは?とロイの思考が疑問符で埋まっていく。
〔…四大精霊って、こう……なんだ、もっと威厳というか存在感みたいなのがあるもんじゃねぇのか?しかも、こいつ火精霊って事はイフの後釜じゃねぇか……世も末だな〕
何だかやるせない気持ちになる。
元々、火精霊の頂点にいたのがイフリート、イフである。けれど、ロイが単独で彼女を呼び出し契約を結んだために次点の上位精霊であったサラがその座を譲り受けたのだ。
〔くん、くん…オッちゃん、オッちゃんから微かにイフ姉の匂いがする。うんっ?なんでだ?〕
何かを確認するかのようにロイの周囲を飛び回り、匂いを嗅ぎまくっていたサラは腕を組みながら不思議そうに首を傾げる。
〔…そっか、アイツの匂いか〕
サラの言葉に思わず感傷に浸るロイにノーミとシルフィの二人が瞬時に距離を開けた。
〔〔…気持ち悪い〕〕
眉間に皺を寄せ心底イヤそうな表情を浮かべ抱き合う二人の姿にロイは言葉を発することも出来ずに只、唖然と彼女等を見つめる。
ノーミに至っては涙で青ざめた表情を浮かべブルブルと震えてさえいる。
「…なっ!?…だめだ、心が折れた…」
ガックリと肩を落とし項垂れるロイをケラケラ笑いながらサラが楽しそうに額を叩く。
その音を聞きながら何故かロイは何か大事なモノが失われていくような気がしたのだった。
読んでいただきありがとう御座います
ブクマ、評価ありがとう御座います
(o_ _)o
モチベーションが上がります
あっ、あと次作では……
ロイに最大の受難が襲いかかります(苦笑)
勘の良い方はおわかりと思います
(^-^;)
では失礼致します(o_ _)o




