其の27 皇女セレスの怒り
あの嫁に苦労するのは旦那も一緒だった。
(^-^;)
エルズの高笑いが聞こえてきそうです。
では、お楽しみ下さい。
不快な術式に干渉して空間をこじ開けるとロイ・キルケが諦めたかのように項垂れながらベッドに座っている姿が見えた。
〔いましたわ!さぁ、お行きなさい!〕
セレスが四大精霊に檄を飛ばす。
彼女の怒りは頂点に達していた。
ロイの行為は同族達を使い捨ての道具のように扱っている為、彼女には許せなかったのだ。
それは精霊界の皇女として看過できるモノではない。さらにエルフ族との永きに渡る信頼関係にも亀裂を生み出しかねない。
〔サラちゃんいっきまぁ~す!〕
ノリノリで突っ込んでいくサラ。
〔ちょ、ちょっと待ちなさぁ~い〕
突出するサラを止めようとディーネも後に続く。
〔ノーミ……あの人のせいで皆に怒られた……〕
何時もより少し怒ってるノーミも続く。
〔…面倒くさい〕
皇女の命のため渋々と付いていくシルフィはやる気が全くなさそうな様子をあからさまにしている。
四者四様のその姿に浩介は苦笑いを浮かべる。
「…ここまで個性が分かれるとは」
胸元で腕を組みながらセレスも彼女達の動きを見つめながら「…全くですわ」と不服そうに呟く。
「…帝様、いえ浩介様は四大精霊だけで無く精霊皇女すら使役なさっているのですか?何なのですか!規格外ですよ……」
彼女達を見つめながら『使役』の言葉に心底イヤそうな表情を浮かべるセレスの背中をまん丸な瞳を更に大きくしながらミアは茫然と見つめている。
「そう言えば言ってなかったな…」
茫然とするミアの姿に浩介が呟く。
彼女以外は全員が当事者であるためミアには全く説明していなかった。
「…思い出したくありませんわ」
セレスが不満げにボソリと呟く。
その表情で浩介達は直ぐに察した。
半ば強引に騙されて使役契約を結ばざる終えなかった状況を思い出したのだろう。
背中越しにも怒りが増したのが判った。
〔……ご愁傷様〕
浩介は心の中でロイに対して手を合わせる。
彼女の怒りの矛先が彼に向かっているからだ。
そんなセレスの姿を見つめながらふと、もしかしたら……と浩介の脳裏にある憶測が過ぎる。
この状況ですらエルズの思惑通りではないのか?
そう考えて浩介は身震いした。
〔…まさかな〕
もし、その憶測が正しければエルズはとんでもない策士だと言えるだろう。
それにコレまでの行動全てが計画的だとしたら?
その考えに至った浩介はこの先どんな厄介ごとに巻き込まれるのかと想像して恐怖してしまう。
「…掌に踊らされている?まさかな…ははっ」
引き攣った笑いしか出てこない。
「な、何よ気持ち悪い」
その笑いに皐月が顔を顰める。
「いやな、何だか俺達の行動ってエルズに上手いこと掌で踊らされているような気がしてな…」
その言葉に場の空気が固まった。
意味の判らないミアだけは首を傾げていた。
けれど、その他の面々は思い当たる節があるのかそれぞれ苦笑いしながら顔を見合わせる。
「…まさかねぇ~」
皐月の顔が引き攣る。
「そ、そうなのじゃ」
若干震えた声で雅が同意する。
「そうですよ。そこまで…」
言い淀むニル。
全員の脳裏に勝ち誇ったエルズの高笑いと満面の笑みが浮かび、彼らは顔を見合わせると憂鬱な表情で項垂れながら………。
「「「はぁ……」」」
大きなため息をつくのだった。
そんな彼等に肩を震わせる者がいた。
そう、セレスである。
エルズにより最も被害を被った彼女は、肩を震わせながら抑えきれない怒りを四大精霊に囲まれたロイへと向ける。
「あんた達!遠慮はいらないから徹底的に痛めつけてあげなさい!上級魔術も私が許可します!」
怒りに満ちた瞳が血走っている。
精霊の上級魔術まで四大精霊に許可をするセレスにエルフ族のニルの表情が一瞬で強張る。
「上級魔術って……浩介様、止めて下さい!」
ニルが叫んだ。
「お、落ち着け。何なの?その上級魔術って?」
いつもとは違うかなり焦った表情を浮かべるニルを見る限り、その上級魔術と呼ばれるモノがかなりヤバイ代物であることは浩介にも想像が付いた。
「四大精霊が上級魔術を使えば常闇の世界が消滅します……それだけでなく、この次元全てに甚大な被害をもたらすことになります」
その説明に全員が息を飲む。
「こんな世界、知ったことではありませんわ!」
どうやらセレスは怒りのあまり我を忘れているようだった。彼女の姿はその容姿からまるで駄々を捏ねる幼子のようである。
〔ねぇ、ねぇ、ディーネちゃん。セレス様はあぁ言ってるけど……ホントに使っていいのかな?〕
猪突猛進のあのサラですら戸惑っている。
〔そ、そ、そんなの良くはないわよ!ちょっ、セレス様ってば本気なんですか!?〕
慌ててディーネがセレスの元へ駆け寄ってくる。
「あぁ~ん?やれって言ってるのよ」
完全に目が据わった状態でセレスがディーネを見つめる。その姿にディーネの身体が震え上がった。
精霊王であるセレスの命には精霊達は逆らうことは出来ない。それが四大精霊であってもだ。
唯一、彼女を止めることの出来るのは世界に一人しかいない。主従契約でセレスを使役する彼女等の主人、浩介だけだった。
縋るようにディーネは浩介に視線を向ける。
〔主様、どうか皇女のご乱心をお止め下さい〕
その必死な形相を浮かべ浩介に訴えかけてくるディーネとは裏腹にサラを除く二人の精霊はマイペースだった。
〔……久し振り…加減わからない…〕
ノーミが呟く。
〔…アレ疲れる〕
面倒くさそうにシルフィが溜息を漏らす。
だが、この二人の会話を聞いて震え上がった人物がいた。四大精霊に囲まれたロイである。
「…おぃ、冗談だろ?お前ら本気か?上級魔術だぞ?世界が滅びるかもしれないんだぞ?あの血走った目……うわぁ~、マジかぁ…」
俯いていたロイが彼女等の会話に思わず顔を上げ、ノーミとシルフィに視線を向ける。
けれど、二人はロイの視線を気に止めるでもなく皇女の命に従うべく詠唱を始めようとしていた。
「まて、まて、お前ら!早まるな!」
ベッドから勢いよく起き上がり、詠唱を始めようとするノーミとシルフィを片手で鷲掴みにしながら必死の形相を浮かべる。
「…ノーミ…痛い…」
「…さいてぇ」
鷲掴みにされた二人はロイに不満を口にするが今のロイには知ったことではなかった。それよりも上級魔術を止める方が先決だったからだ。
「おいっ、お前!お前だ!」
浩介を指差しながらロイが叫ぶ。
「へっ?俺?」
突然のロイの呼びかけに浩介はキョトンとする。
「そうだ!お前だ!判ってんのか?四大精霊の上級魔術の恐ろしさを!世界が滅びんだぞ!今すぐ、その嬢ちゃんの命令を撤回させろ!」
冷や汗を流しながら怒鳴るロイに浩介が答えるよりも早くセレスがキッと彼を睨みつける。
「黙らっしゃっい!!」
その声に周囲が一瞬で沈黙する。
「誰の所為でわたくしが、精霊界の皇女である、このわたくしが主従契約を結ばなければならなかったと思ってるんですか!!全部、ぜぇ~ぶ、あんたの嫁の所為なのですよ!」
その発言にロイは全てを理解した。
嫁がやらかしたのだと……。
「あいつなにやってんだぁよぉ……」
ロイは涙目になりながら、今の状況を創り上げた嫁に対して悲痛な表情で嘆くのだった。
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