其の25 ダメ親父は項垂れる
少し短めです
では、お楽しみ下さい
遠くで声が聞こえた。
「…騒がしいな」
室内の焦げ臭さに眉間に皺を寄せながらシグルスは聞き耳を立てる。一人ではなく何人かが近付いてくるのが判った。
「ホントにこっちでいいんでしょうね!」
「は、はいっ!間違い在りません!」
「なんじゃ、陰気くさい場所じゃな」
「まぁ、監禁する場所が華やかでもなんか、イヤだけどな…まぁ、これ位が妥当なんじゃねぇか?」
騒がしいことこの上なかった。
皐月達一行は最早、静かに行動しようなどとの考えは微塵もなくギャア、ギャアと騒がしく言い合いながら進んでいた。
なんだろうか…どこか懐かしさを感じた。
そう言えばとシグルスは思い出す。
「あの世界から使者が来たって言ってたな…まさかな、アイツがきてるなんて事はないだろう」
自分で呟いて思わず苦笑する。
昔を思い出し感傷に浸ってる自分に気が付いたからだ。忘れることなど出来ない後悔…。
「この場所のようですね」
落ち着いた声が扉の前で立ち止まる。
「うわぁ、何この術式?えげつないわね」
扉に刻まれた術式を見てゲンナリとした口調で喋る声にシグルスの表情が強張った。
その声に聞き覚えがあったのだ。
シグルスの古傷が微かに痛んだ。
自然と意識が扉の外の声に向けられる。
シグルスは無意識に早くなっていく鼓動を感じながら、扉の外にいるであろう者達に声をかけた。
「誰かいるのか?」
声が微かに震えている。
思い出してしまう。
チラリと壁に視線に向けた。
もしかしたら……と、そんな想いで。
「えっと、もしかしてシグルスって言う人?」
若い男の声だった。
「あぁ、そうだ。お前らは誰だ?」
しばしの沈黙が流れた。
〔…うん?〕
答えが返ってこない事にシグルスは疑問を抱いた。耳を澄ませば何かコソコソと話し合っているのが聞こえてくる。
「…お前ら、まさかとは思うが」
何故か静まり返る。
「…行き当たりばったりか」
扉越しでも彼等が焦る気配を感じた。
「そ、そ、そんなわけないでしょ!」
動揺する声にシグルスは溜息を漏らす。
〔…完全に無計画だな〕
さて、どうするかとシグルスは腕を組む。
扉の外にいる連中は十中八九、敵ではない。
多分だが、帝の代理達であろう事は予想がつくのだが彼等の沈黙にはかなり不安が過ぎる。
〔大丈夫だろうか……〕
沈黙がしばらく続く。
「目的は何だ?」
堪らずシグルスが声をかける。
「あんたのバカ嫁の策略に填められたのよ!」
ふてくされた女の声が聞こえた。
だが、シグルスは聞き逃さなかった。
生死を分ける重要な単語……あんたの嫁。
「嫁って?エルズか!?」
シグルスの顔が青ざめる。
バレたのだ。
何故、バレたんだと思考をフル回転させる。
あの嫁に自分の所在がバレたことに寒気が走り、外の連中からどうやって逃げ出すか急いで思案を始めるのだが、シグルスは気付いていなかった。
バレて当たり前なのだ。
下位とはいえ大量の精霊達を使役すればエルフ界の長であるエルズの耳に届かないはずがない。
名前さえ偽ってれば大丈夫だなどと簡単に考えていたシグルス、いやロイ・キルケの単純な思考が彼等を招き寄せたのだ。
「なあ、あんたロイ・キルケでいいんだよな?」
返答が無いことに訝しんだのか男の声が聞いてくる。その声に思わず否定したい衝動に駆られる。
「お、俺はシグ…」
「うん、ロイ・キルケだな。うちの斥候が言っていたから間違いないみたいだな。じゃあ、助ける前にあんたに言いたい事のある連中がいるから先にそっちと話してもらえる?」
否定すら許されない状態だった。
冷や汗がダラダラと流れる。
「顕現せよ四大精霊」
男の声にロイは嫌な予感が走った。
〔精霊術士がいるのか?ってか、いま四大精霊って言ったか……やばい、やばい、やばい〕
焦ったロイは周囲を見渡す。
けれど、逃げ場などあるはずもない。
ロイの性格からして、そんな隙が在るようならとっとと逃げ出しているからだ。
どうするか思案するロイの意識が扉の術式が変化し始めていることに気付き冷や汗の量が更に増していく。
術式を施された扉の中央部分が淡い光を放ち始める。ロイがフェンリルの世界に向けて行った方法と同じ手段だ。
「…やばい」
それだけしか言葉が出てこない。
四大精霊といえばロイが過去に契約していたイフよりも上位の精霊であり今の彼では防ぐ手段すらない。
焦る思考とは裏腹に現実は着実に進んでいく。
淡い光が終息し空間に歪みが生じる。
その歪みから四つの光が入り込んできた。
見間違えようのない輝きだった。
四大精霊達だ。
その雰囲気からシグルスは察した。
自分がフェンリルの世界に行ったことに対して彼女等は怒っている。なまじ、精霊との親和性が高いロイは彼女等の感情を正確に把握できたのだ。
〔やべぇーな、おぃ〕
冷や汗を流しながらロイはベッドに深々と座り込み、思考をフル回転させるが妙案は直ぐには産まれない。そして、彼は考えることを放棄し天に運を任せることにして項垂れるのだった。
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