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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第三章 汝の魂に安らぎを
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其の24 過去の記憶・13

とりあえず、過去の記憶編終了です


長かった……


次回から現在に戻ります


ではお楽しみ下さい


 張り詰めた緊迫感が周囲を包み込む。


 アトロポスはサツキを見つめ一瞬、笑みを浮かべた。今のサツキを創造した彼女の想いが感じ取れたからだ。正直なところ期待はしていなかった。


 あの場で彼女が何を想い、どんな存在を創造したのかと興味を抱いてはいたが……期待以上だった。


 胸が躍るのを感じた。


「…シグルスから離れろといっておるのじゃ」


 ジャラリと鎖が揺れ動く。


 意識をノーナに支配される前までの記憶しか無いサツキはミユルは味方ではないという認識だった。


 その敵がシグルスの傍に居る。


 曖昧な記憶の中でサツキは混乱していた。


 サツキを観てミユルが笑みを浮かべた。


 その笑みを見た瞬間。


 プツン。


 サツキの内で何かが切れる音がした。


「離れろといっておるのじゃ-!」


 怒声と共にサツキが手首を捻る。


 風切り音と共に鎖が宙を舞い、頭上高くで停止する。そして、その切っ先はミユルの肉体に目がけ急降下を始めた。その動きに一切の迷いはなかった。


 ミユルの額と胸元に切っ先が寸分の狂いもなく突き刺さろうとしている……けれど、鎖が彼女の身体を貫くことはなかった。


「止めろ、サツキ!」


 シグルスが声のあらん限り叫ぶ。


 その声に鎖がピタリと止まったからだ。


「何故、止めるのじゃ!其奴はお主に!」


 怒りに満ちた声だった。


 身体中が震え怒りを露わにしている。


「よく見ろ、治癒して貰ってるだろ?」


 その姿を見つめながらシグルスは溜息交じりに説明する。その言葉にサツキの表情が変わり、直後には宙を漂っていた鎖が音を立てて床に崩れた。


「…へっ?」


 口をポカーンと開け二人を見つめる。


 よく見ればシグルスの身体が淡い白光を浮かべ傷口が治癒されているのが見てとれた。


 サツキの早合点だったのだ。


 それに気付いたサツキは頬を紅く染め上げ、何故か乾いた笑いを浮かべながらそそくさと鎖を収めていく。


 無言のまま、その仕草を見つめていたアトロポスは興味なさげにシグルスの治癒を再開し始める。


 表情には出てはいなかったがアトロポスは満足していた。帝という楔が外れノーナの忘れ形見が世界をどう変えていくのか。そして……。


 帝の人格達が世界にどんな影響をもたらすのか。


「…随分と楽しそうだな、説明してやれよ」


 アトロポスの表情の変化に気付き、溜息交じりに呟いたシグルスはチラリとサツキを見つめる。


 自分の早合点に頬を染め、頭を抱えるその姿に少しだけ心が和らいでいくのが判った。


 ポンッ。


 突如、アトロポスがシグルスの肩を叩く。


「…治癒は終えたわ。少し力の流れが変わったみたいだから無理はしない事ね……特に召喚による顕現は控えなさい」


 ゆっくりと立ち上がり地べたに寝そべるシグルスを冷たい瞳で見下ろしながら警告してくる。


 つまりは召喚術を使うなと言うことなのだろう。


 試しに体内の力の動きを意識してみる。


「…ん!?あぁ、そういう事か……」


 今までとは違う感触だった。


 乱れているわけではない。


 ただ、アトロポスの治癒による影響なのかシグルスの体内に空洞が目立つようになったのだ。


 召喚術は繊細な力のコントロールが肝とも言える。身体を伝わる力の流れを理解し、在るべき姿を創造し、具現化する。


 その工程の一つでも狂えば術者の身体に反動し、その力が我が身を犠牲にする事となる。


 つまりは制御できない力に押し潰されてしまうのだ。


 今ならアトロポスがイフの顕現を止めた理由が分かる気がした。


 あの時、イフを顕現していたとしたら間違いなくシグルスは命を失っていたのだ。


 改めてアトロポスを見つめる。


 その表情からは感情は読み取れない。


 けれど、彼女には彼女なりの思惑がある様に感じられた。それはシグルスには理解できないことであることも明白だった。


 記憶の無い時の中で帝とサツキの狂気が彼女の掌で踊らされ、今に至ることは理解できる。


 なら、生かされた理由は……。


 シグルスの視線がサツキへと向けられる。


 同時に肌を焼き付く存在にも意識を向ける。


 アトロポスの周囲に存在する帝の人格を封じた箱だ。このために生かされたのだと思った。


 召喚者としてではなく、この世界の征く末を見届けるためだけに生かされたのだと実感したのだ。


〔質が悪い……〕


 率直にそう思った。


 召喚者としての力を半ば封じられた状態で見届けよとアトロポスは言っているのに違いないのだ。


 その思惑に気付いたシグルスは抗いたいと強く願った。ノーナとしての記憶の無いシグルスのよく知るサツキの姿を見つめ拳を握りしめる。


 抗ってやろうと決意した。


 それがアトロポスの思惑だろうと構わない。


 決められた宿命だろうと知ったことか。


 怒りが湧いた。


 この世界の全てを在るべき姿に……。


 けれど、シグルスは気付いていなかった。


 その感情がノーナの求めていた事と同じだと言うことに、そしてシグルスは世界の理に足を踏み入れたのだ。


 だが、そんなシグルスの感情にアトロポスは気づいていた。そして、サツキの内にもう一人の創造された人格が目覚めようとしていることにも………。


           *


 顔を上げることが出来ない。


 自分の早合点でシグルスに怒鳴られてしまった。


 今の自分の顔はどんな表情をしているのか判らなかったが身体中が熱く火照っているのだけは判る。


 恥ずかしいのだ。


〔…顔を上げられん〕


 チラリとシグルスを見つめる。


 溜息交じりの声が聞こえた。


〔…はぁぁぁ~〕


 その姿に心の中で大きな溜息が漏れた。


 頭を抱えながら必死に考える。


 けれど、何も浮かばない……。


 突如。


〔あんた、誰?〕


 声が聞こえた。


 一瞬、空耳かと思った。


 だが、確かに聞こえた。


〔あんたよ、あんたに言ってるの。聞こえてるんでしょ?〕


 今度はハッキリと聞こえた。


 自らの意識の内で自分とは違う別の誰かの声がサツキの意識に語りかけてくる。


〔お主こそ誰じゃ?〕


 珍しいことではない。


 サツキは多くの記憶を憶えている。


 それらは帝とは違い人格や意識が存るわけではなく、ただ昔の記憶として残っているに過ぎない。


 けれど、ごくまれに記憶の声が今のようにサツキに語りかけてくることはあった。


 それが自分に向けたモノなのか記憶の中の誰かに向けたモノなのかまでは分からない。


 答えが返ってくるわけでもない。


 それらの記憶は全てノーナが目覚める瞬間までで、その都度サツキは意識を取り戻した自分を見つめる他者の瞳が怖かった。


 怨み、殺意、憎しみ、あらゆる負の感情がサツキに向けられていた。それらが何故、向けられるのか理解できないまでも彼等が彼女を『贖罪の皇女』と呼びサツキもそれを受け容れた。


 否、受け容れるしかなかった。


 ノーナが目覚めるまで親しかった友は憎しみを向け、愛した者は絶望に打ちひしがれ呪詛の言葉を吐き散らす。


 それらの記憶だけが詰み重なっていく。


 サツキに語りかけてきた声も、そんな記憶の一部だと思いながらも声の問いに答えたのだ。


 いつも通り返答などあるはずがない。


 そう思い意識を現実へと向けようとした瞬間。


〔私は皐月、如月皐月よ。っで、あんたは?〕


 声がサツキに答えた。


 自分と同じ名を持つ存在にサツキは驚いた。この名はシグルスが名付けてくれた彼女だけの名前の筈だったからだ。


 恐怖した。


 自分が自分でなくなるのではないかと…。


〔…おぬし、何者なのじゃ?〕


 声が震えてる。


〔わたしはわたし、皐月以外の何者でも無いわ。あんたこそ、誰なのよ?〕


〔…妾か〕


 躊躇した。同じ名を持つ者として、同じ肉体に宿る存在として名を名乗れば全てが消えてしまう気がした。


 だからサツキは名乗るのをためらった。


〔妾は…妾は業罪の皇女…〕


 『贖罪の皇女』と名乗りたくなかった。


 嫌な記憶しか無いからだ。


 新たな名がサツキに生まれた。


〔ふぅーん、皇女なんだ〕


 知ってか知らずか皐月は疑問すら抱かず、皐月の言葉に納得したかのような口調で更に尋ねてきた。


〔っんで、ここどこ?ってか、何で踞ってんの?しかも、顔を真っ赤にしてさぁ〕


 皐月の言葉にサツキはハッと我に返る。


 恐る恐る視線を上げる。


 シグルスが胡坐を掻きながら考え込んでいる姿が視界に入り込んでくる。心なしか身体が震えているように見えた。


 その様子からはシグルスの感情を理解するのは難しく感じた。怒りなのか、哀しみなのか、喜びなのか、楽しんでいるのか、どれも適しているようで違う気もした。


 サツキの意識がスーッと冷静になっていく。


 照れや恥ずかしさが成りを潜め、周囲を知覚する余裕が生まれる。そして…あるモノに気付いた。


 それに意識を向けた瞬間、肌を焼くようなヒリヒリとした感覚に襲われたサツキは眉間に皺を寄せる。記憶にあるのだ。


 それらに収められた存在達に憶えが在った。


「シグルス、それらは全て帝の人格達じゃな」


 サツキの声にシグルスは顔を上げる。


「…なっ!?」


 サツキは言葉を失った。


 その瞳が深い闇に包まれていたからだ。


 身体が身震いする。


 サツキの知るシグルスとは別人のように思えた。


 まるで……そう、まるでノーナの人格から目覚めたサツキを見つめるあの瞳のようだったのだ。


「…イヤじゃ」


 震えながらサツキはかぶりを振る。


 彼だけからはそんな瞳で観られたくなかった。


 意識が錯乱する。


 頭を抱え恐怖に堪えられない。


〔そんな目で見つめられたくない……〕


 その瞬間、周囲の景色が真っ白になり…サツキはその場に崩れるように倒れ込んだ。


 その姿にシグルスは唖然とするしかなかった。


「…何が起きたんだ!?」


 シグルス自身では気付いていなかった。


 自らの瞳がサツキの心を傷付けたことに……。


「…どんな目で彼女を見ていたと思う?」


 冷たく見下ろすアトロポスの言葉にシグルスは意味が理解できず声を発することもままならない。


 無言でアトロポスを見上げる。


 けれど、彼女は答えない。


 自分の意志で聞いてくるのを待っていたのだ。


「…どんな目をしていた」


 喉の奥から絞り出すように問い掛ける。


「全てが憎い…」


 簡潔な言葉がシグルスの胸に突き刺さった。


 胸が痛い……。


 張り裂けるような胸の痛みに襲われる。


 抗いがたい痛みに涙が溢れる。


 止めどなく流れる涙に視界が霞む。


 そんなシグルスを見つめていたアトロポスは彼の額にそっと手を触れ意識を集中させる。


「あんたは世界を見届ける者、意識に嘖まれ、苦しみ、藻掻き、この世界(箱庭)を見届けなさい。彼等や彼女()は私が導くから、あんたは……」


 アトロポスの言葉を最後まで聞き取れずに……シグルスの意識が飛んだ。


 次に目覚めたのはあの草原だった。


 どれだけの時間が流れたのか判らない。


 シグルスは空を見上げた。


 澄み切った青空が拡がっている。


 まるで、今までのことが夢で在ったかのように…けれど、現実なのだ。


 傍らにいないイフの姿を思い描く。


「…なぁ、イフ。俺どうすればいいのかな」


 夢のような現実、虚無感に心が蝕まれていく。


「…いくか」


 シグルスは歩き始めた。


 当てもなく、目的もなく、ただ歩き始めた。


 心残りはあった。


 サツキだ。


 この場所で彼女と過ごした日、何が出来るだろうかと考えた…けれど、何も出来ないだろうとも思ってしまった。そして、彼女を傷付けた。


 ふと気付くと頬を伝わる暖かな感触に気付き苦笑する。


 また逢えるのだろうか……。


 「逢えたとき、俺はあいつに…」


 言葉が出てこない。


 涙を拭うこともせず歩き続ける。


 この世界を見届けるために……。




読んでいただきありがとう御座います


ブクマ、評価を頂けると励みになります


モチベーションも上がります(´V`)♪


これからも宜しくお願い致します


(o_ _)o

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