其の23 過去の記憶・12
……書いた文章を消してしまう悪夢のために
放心状態から立ち直るのに時間がかかりました
すいません(o_ _)o
なにげに過去の記憶編、長くなってしまいました
本来、二話ぐらいに収めるつもりが……
気がつけば12話(^-^;)
ではお楽しみ下さい
シグルスを見下ろすミユルの存在。
ただ、シグルスは奇妙な違和感を彼女に感じた。
何がと聞かれても答えることは出来ないがシグルスの中で何かが違うと訴えかけていたのだ。
「…お前、誰だ?」
思わず疑問を口にする。
その言葉に一瞬、驚いた表情を浮かべたミユルだったが直ぐにその表情に笑みが浮かぶ。
ゾクリ。
シグルスの背筋に寒気が走った。
無意識に圧倒的強者から発せられる気配を意識が敏感に感じ取ったのだ。
「…流石に私を顕現しただけはあるわね。私はミユルではないわ。彼奴はいま他次元にいる」
その声に聞き覚えがあった。
意識に語りかけてきた存在だ。
「…俺が顕現した?……アトロポスか?」
自分を見下ろすミユルの姿をしたアトポロスを見上げながらシグルスは状況を把握しようと思考をフル回転させる。
アトロポスに弱者を痛ぶる趣味がないのが幸いだったかもしれない。そうでなければ瀕死の状態のシグルスは生きてはいなかっただろう。
生きていると言うことは生かされたのだろうと考えたシグルスは目の前の相手をとりあえず敵ではないと結論づけた。
ただ、たとえ敵であっても今のシグルスでは抵抗することが出来ないのもまた事実だった。
しかし、疑問が残る。
「俺は何故、生きてるんだ?」
言葉を発するのも正直いって辛い状況であるが思考の片隅の疑問が彼に言葉を紡がさせていた。
「…時の流れを凍結し、あんたの身体の時間だけを死ぬ直前まで巻き戻した…完治させたかったが残された力が少なかった」
淡々と語るアトロポスの表情から感情を読み取ることが出来ない。
他次元ではアトロポスの力はかなり制限される。時の流れを制御するには莫大な力が必要なのだ。
本来であれば他愛もない事でも制限された状態では術式を唱えるだけでも疲弊させられるのだ。
そのため契約者を最低限、生かすことだけに留めることにした。それが彼女の限界だった。
けれど、何故か無意識の内に余力を残していた。
その残された余力を使い他次元の世界に別空間を創造し、彼等を世界から切り離したのだ。
彼等の時の流れをアトロポスの世界へと繋ぐ。
それだけで彼女は存在を維持することが出来ないぐらい疲弊したのだが、幸いなことに魂が解離を始めた肉体が在った。
ミユルの肉体である。
損傷が激しく治癒しながらではあったが、彼女の魂と意識を仮初めの存在に顕現し存続させる事ができた。
アトロポスの意識の片隅に「何故?私がこんな手間を…」の疑問が浮かぶが、彼女は無意識にそれらを行っている自分にやらなければならない使命感のような何かに支配されるといった矛盾した思考に気が付くことが出来ずにいた。
彼女自身ですら理解できていなかったのだ。
それが何故なのかは問題でなかった。
やらなければならなかったのだ。
依り代を得ることでこの世界に自らの存在を定着し、ある程度の余力を蓄えることが出来た。
サツキやミユルの見解ではそれでも彼女らの力を優に超えるモノであったらしい。
そして帝の魂の分離と封印、サツキの狂気に満ちた人格を彼の魂に封ずることをやってのけたのだ。
直後に彼等を自分の世界に転移させたアトロポスは創り上げた空間を凝縮し、世界を在るべき姿に具現化した時点であることに気が付いた。
〔…時の流れが定着している〕
この世界にミユルの肉体を依り代としたアトロポスの存在が当たり前のように定着していることに気付いたのだ。
鼓動が早くなる。
疑問と言いしれぬ不安が思考を掠める。
自分の意志で動いたはずだと。
けれど……。
ミユルの肉体を依り代にしている自分自身が、この世界で必然の存在と化していたのだ。
戸惑う意識の中でアトロポスは意識を取り戻し、周囲を苦しげな表情で見渡す契約者に気付いた。
〔こいつが……〕
脳裏に何かが過ぎった。
だが、それが何なのか理解できない。
怖ろしいと感じた。
それは未知に対する恐怖であった。
アトロポスの存在に気付いたシグルスは戸惑いの表情を浮かべながら呟いた言葉に驚かされた。
一瞬で依り代の内に存在する自分に気付くなどと、アトロポスは思わず目を細め笑みを浮かべる。
〔…面白そうだ〕
何者かの意図だとしてもアトロポスの意識は自然と昂揚するのを禁じ得なかった。
シグルスとの会話でアトロポスはこの閉ざされた世界の行く末を見届けたくなった。
幸いにも時間はある。
帝とミユルの魂の定着先はまだ定まっていない。
それに……。
アトロポスの視線がサツキを一瞥する。
抜け殻のように視点の定まらない瞳でボンヤリと遠くを見つめるその存在、新たに創られた二つの人格が定着するまでまだ時間はある。
「…何故、黙ってるんだ?」
不意に意識が戻される。
どうやら、思考が優先しシグルスを放置していたらしい。アトロポスは声の主へと意識を向ける。
「あんたを今から治癒する。代償は…この世界を見届けること。これから、この世界は大きく変わる。この箱に収められた力によって…あんたにはそれを見届けて貰うわ。その世界が気に入らなければ抗ってもいい……あんたが見届けた世界の在り方を…私に見せて。それがあんたを治癒する事への代償よ」
アトロポスは笑みを浮かべた。
理解しがたい表情を浮かべる無知な存在の困惑に満ちた瞳に無限の可能性が見えたからだ。
*
不敵な笑みを浮かべるアトロポスに対してシグルスは答える言葉が見つからなかった。
思考が働かない。
だが、シグルスの答えを待たずにアトロポスは治癒を開始し始めた。どうやらシグルスには選択の余地はなかったらしい。
徐々に癒えていく感触に漸く働き始めた思考が巡るましく回転し答えを導き出そうとする。
シグルスは視線を会話に出たアトロポスの周囲に佇む四つの箱へと向ける。
どこにでもある何の変哲もない只の木箱にしか見えない。だが、それらは異様なまでの神々しさと威圧感を放っていた。
肌がピリピリと痺れるような感覚を味わう。
〔…何なんだ?ありゃあ…うんっ?〕
ただ、微かにだが懐かしい気配を感じた。
その気配に一つの仮説が思い浮かんだ。
〔帝の意識…いや、むしろ……人格か?〕
シグルスの脳裏に帝の意識に潜んでいた人格達の存在が思い出される。それぞれの世界に一人……つまり、四人の人格達。
〔数は合うな……〕
アトロポスは見届けろと言った。
抗っても良いとも…。
その言葉を一つずつ紐解きながら考える。
ただ、一つ気がかりなことがあった。
「なぁ、アマネスはどうなった?」
今世の器となった友の安否を尋ねる。
「……」
シグルスの問いに治癒を施していたアトロポスの指先が止まる。
「魂にすら飲み込まれたでしょうね……かろうじて、主人格には面影は残っていたけど転移すればそれすらも消滅するわね」
その説明を聞いてもシグルスは哀しみや後悔を感じなかった。やはりと言う思いが強かったためだ。
もしかしたら、このどれかに……そんな淡い期待が無かったわけではないが可能性はないだろうとも感じていた。
「…そうか」
ただ、それだけを呟く。
アイツは幸せだったのだっただろうか?
帝の器として存在し、苦悩し……消滅した。
もし、もう一度逢えるなら聞いてみたかった。
お前の人生は満足だったのか?と……。
「今となっては無意味だけどな……」
シグルスはチラリとサツキへと視線を向ける。
未だ視点の定まらない彼女の姿にサツキを思い出す。罪の意識を背負いノーナの人格に翻弄されたあの人格は残っているのだろうか……。
心が寂しく感じた。
何故か無性にイフに逢いたいと思った。
あの歯に衣着せぬ物言いが懐かしく感じた。
意識を身体に向ける。
アトロポスの治癒のおかげだろうか、先程までの痛みは成りを潜め身体が軽く感じる。
顕現できるかもしれない。
シグルスは意識を集中させた。
ポコッ。
アトロポスがシグルスの力の動きを感じ取り、彼の頭を叩く。軽くではあったが身動きの取れないシグルスには意外と効果があった。
「死ぬ気?」
一切の欲情のない声だったけれど、その瞳から発せられる殺意の籠もった気配がシグルスを圧する。
冷や汗が頬を伝い、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「…悪かった、すまない」
素直に謝罪し集中した意識を離散させる。
勝てる気がしない。
自分で顕現しておいて畏怖の念すら感じる。
その時になってふと脳裏を疑問が掠めた。
何故、顕現できた?
思考が止まる。
「…なぁ」
治癒を再起し始めたアトロポスに話し掛ける。その手を止めることなく視線だけを向けてきた。
「…」
無言のまま、先を促すかのように見つめる。
何を問うのか待っているのだ。
ゴクリと唾を飲む。
試されているように感じた。
これからする質問が何を意味するのか、言いようのない緊張感を憶えながらシグルスは口を開いた。
「何故、召喚できたんだ…」
その問いにアトロポスの頬がピクリと微かに動いた。けれど……。
「…」
無言のまま答えない。
治癒を行う微かな暖かみを身体に感じながらもシグルスは言いようのない沈黙に緊張してしまう。
答えたくないのか判らないのか、アトロポスの表情から判別することは難しかった。その判断次第で自分の今後が決まる。
そんな気がした。
そんな静寂と沈黙を破る者がいた。
「どうなったのじゃ?妾は今まで……」
サツキだった。
その瞳は先程までとは違い生気に満ちていたが、今の現状が理解できないのか困惑気な表情を浮かべ戸惑っていた。
「…目覚めたのね」
ボソリとアトロポスが呟く。
その言葉をシグルスは聞き逃さなかった。
「目覚めた?あの人格がか?」
アトロポスは静かに首を横に振る。
「……ノーナの思惑が含まれた存在という意味では間違いないかもしれないわね」
意味ありげな言葉に訝しげな表情を浮かべながらも自分の知る人格と聞いてシグルスは彼女を見つめる。何かを期待しているのかもしれない。
心の中で願望が渦巻く。希望と期待、絶望と哀しみ両極端の想いが意識内で交差する。
戸惑いながら周囲を見渡すサツキが二人に気付く。その瞬間、表情が一瞬で強張り、彼女の両手から鎖が現れジャラジャラと音を立てながら彼女の周囲に拡がっていく。
「…シグルスから離れよ」
強い口調で言い放ちながらミユルを見つめるその姿に、シグルスは安堵している自分がいることに気付くのだった。
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