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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第三章 汝の魂に安らぎを
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其の19 過去の記憶・8

読んでいただきありがとう御座います


(o_ _)o


過去の記憶編クライマックスに突入です


では、お楽しみ下さい


 アトロポスがゆっくりと帝に近付いていき彼に向けて右手を胸元へとそっと添える。


「今からあんたの魂を器から引き離す……準備は良いかしら?」


「うむ…」


 淡い紫色の光がアトロポスの右手から溢れ出し、徐々に帝の胸へと何かを捜すように侵食していく。


「…どう?」


 艶めかしげに聞いてくるアトロポスに姿形がミユルであるためか帝自身、若干ではあるが奇妙な緊張に包まれていた。


 それが何であるのかは帝の緊張した表情を見てアトロポスが浮かべた悪戯っぽい笑みで帝も薄々では在るが気が付いている。


「つまらない…もっと情熱的な事を期待したのに」


 ぼそっと呟き、つまらなそうな表情に変わる。


「お主…楽しんでおるな」


 帝は眉間に皺を寄せ溜息が漏れ出た。


 からかわれたことに気付いたからだ。


「まぁ、これだけ面白いことは早々、無いからねぇ。っと、冗談はこれぐらいにして……うんっ、見つけたわ」


 意識を集中して瞳を閉じるアトロポスから帝は何故か視線を逸らすことが出来なかった。


「魂まで握られれば致し方ないな……」


 諦めにも似た溜息混じりの呟きにアトロポスも思わず苦笑いを浮かべる。


「ふふっ、あんたってば冗談も言えたのね」


「事実であるからな」


 確かに事実であることは確かだ。


 現にアトロポスは帝の魂を握り精査していた。


 サツキの意識を封じるためには魂の一部に護印の術式を組まなければならない。けれど、帝の魂を精査していたアトロポスはその魂に触れ、瞳を見開きながら驚いた表情で呟いた。


「…あんた、よくこれで自我を保てたわね」


 その驚きは必然と言えた。


 魂には記憶が刻み込まれる。


 それは前世の記憶であり通常では忘れ去られるモノであるにも関わらず帝はその記憶の幾つかには人格まで存在していた。


「余の人格は全て過去の帝の記憶を保有しておる……さすがに数千年の月日で人格のみの者もおるがな」


 疲れた表情を浮かべながら自嘲気味に語る帝の姿にアトロポスはそれだけの人格を内包し自我を保てていた帝の存在に驚愕するしかなかったのだ。


「未熟すぎる者の器って言っていたけど……これだけの人格を受け容れられるだけの存在なんて居るわけ無いでしょ」


 アトロポスは内心、焦っていた。


 正直な話、これだけの人格を有する魂の(身体)を自分の世界で見つけ出すのは砂漠の中で一粒の小石を探し出すほどの確率なほど困難な所行だからだ。


「…で、あろうな。この者の身体でさえ余の人格を優先し他の人格を全て受け容れるには至らなかった……そのための多重世界であったのかもしれぬ」


 帝の説明にアトロポスの疑問の一つに解を見出すことが出来た。それは多重世界の意味……一つの理で創られた多重世界。


 この次元の世界は正に箱庭という表現が正しいのかもしれない。帝が創り上げた、帝が存在するためだけの世界。ならば……。


 アトロポスの思考に疑問が浮かぶ。


「…じゃあ、こいつは何のために?」


 意識は帝の魂に向けながら視線をサツキへと移し帝に問う。


 帝の命を求め、愛する存在を狂おしいほど求め、手段を選ばず一度は彼の命を奪った者、この存在の意味を知りたかった。


 その疑問に答えたのはサツキ本人だった。


「妾は調停のための存在じゃ……帝の魂を定着するために創られたこの多重世界をあるべき姿に想像する者……アトロポス、お主には分からぬであろうな。何も意味を持たず統治される者達の苦しみを、知らずの内に世界が分断され帝の血脈達に支配される意味を……」


 諦めたかのような疲れた溜息を漏らしながらサツキは胸の内の苦しみをようやく吐き出せたのかその表情は僅かながら安堵の様子を見せていた。


「妾は…いや、アトロポスお主も疑問には思わぬか?何故、一介の精霊術士ごときが別次元のお主を召喚できたのか?命を賭したとして、その者が召喚できて当たり前と思えたのか?こうは思わぬか、何者かの存在(・・・・)が関与していると……」


 帝の魂を精査していたアトロポスの手が止まる。


 それは少なからず疑問に思っていたことだった。


 その疑問に思考を傾けるとまるで霞がかったかのように曖昧になる瞬間が確かにあったからだ。


「高次元の存在……」


 それは不確かな存在の象徴であった。


「妾達の時間軸ですらその者にとっては過去のモノかもしれぬ……」


 ボソリと呟いたサツキの言葉は妙に確信めいているように感じ、アトロポスに言い言えぬ不快感すら感じさせた。


 疑念は思考を鈍らせ判断を誤る切っ掛けになる。


 どれだけ絶大な力を持とうが判断を誤ればその結末は後悔に嘖まれるモノとなり遺恨を残す。


 自分の判断は正しいのだろうかとアトロポスは思考を巡らせ、サツキの言葉を無理やりかみ砕き自分に言い聞かせるように呟く。


「…今はこれが最良の方法」


 そして、何かを吹っ切るかのようにアトロポスは止まっていた手を動かし始める。その姿にサツキは瞳を曇らせる。


「…お主の判断が正しいことを祈るとしよう」


 黙々と作業を始めるアトロポスを見つめつつ、サツキは自らの行く末と心に残った痼りを感じながら万が一の保険を残された力で意識内に構築するのだった。


 アトロポスに力を封じられたサツキが唯一、出来る対抗策でありそれが使われぬ事を祈りながらある人格を創造する。


「だめね……こいつを納める許容量がない……そういえば、幾つかはっきりと認識できる人格達が居たわね」


 彼女が帝の魂に触れるたびに自己主張してくる人格達の存在が彼の魂の大部分を占めていると言っていいほどだった。


「グレンデル達のことか?」


 帝は訝しげな瞳で見つめてくる。


「…彼等の存在があんたの魂を圧迫してるわ……こいつ、しつこいわね」


 アトロポスの意識に介入しようとしてくる人格の一部を押さえ込みながら愚痴と共に力を込める。


「グレンデルであろう、彼奴は天邪鬼であるからな。すまぬな、其方には迷惑をかける」


 帝の謝罪にアトロポスも苦笑するしかない。


「清廉の帝だったけ、あんたの今の器。あんた自身も感化されてるみたいね……とりあえず、今の状態だとこいつをあんたの魂に封ずることが出来ないわ」


 チラリとアトロポスはサツキを一瞥する。


 彼女が何かをしているのは、この空間を支配するアトロポス自身、気付いていたが敢えて知らない振りをしていた。


 先程のサツキの言葉にアトロポスも違和感を感じずにはいられなかったからだ。


 そのために彼女の行動に興味を抱いた。


 力を封じられた状態で出来ることはかなり限られており彼女がやろうとしている事は大凡、見当がついている。


「…まぁ、いいか」


 それよりも今しなければならないことは彼女を封じるための場所を創ることであり、アトロポスはふとあることに気付き帝に問い掛ける。


「あんた、そういえば主人格に為る前は人格達を分散していたわよね。そのための多重世界とも言ってた気がするんだけど?」


 帝の言葉を思い出したアトロポスの問いに頷きで答えると、その姿にアトロポスは考え込むように思案を始めた。


「なら、問題ないかもしれない……」


「何かよい案があるのか?」


「ええ、認識できる人格達を個別に封印すればあんたの内にアイツを封印することが出来るわ」


 帝に説明しながら左手で空間を弄り始める。


 それにより、アトロポスの意識に呼応するように微かに歪んだ空間が徐々に何かを形作り始め彼女の左手に四個の箱が創造される。


 それは何の変哲のない木箱のようにしか見えなかったが、強い力が発せられているのが感じられた。

 

「私の空間の一部から創り上げたモノだからあんたの人格達を封印する程度なら問題は無いわ……ただ、完全には力を封ずることは難しいかもしれないわね」


「…どういうことなのだ?」


「あんたの中にいる人格達は特殊すぎるのよ。それぞれの世界の理に酷似しているのよ……まぁ、そのために創造した世界だろうから仕方ないんだろうけど…使い方を誤れば命に関わる」


 箱を見つめながら厳しい目つきをするアトロポスであったが、帝はあまり心配はしていなかった。


「策はあるのだろう?」


 帝の言葉に彼女は口元に微笑を浮かべる。


「…まぁね」


 帝は自らの魂ですらこの彼女に任せても問題ないと感じた。それは全てを自らで決めてきた帝にとって初めてのことかもしれなかった。


「余の世界、余の魂、全てを其方に任せる……願わくばノーナの心も救ってやって欲しい……この輪廻を断ち切ってくれ」


 帝のアトロポスを見つめる眼差しには一片の曇りすら無く彼女の表情もその眼差しに答えるように固くしながら小さく頷く。


「あんたの願い聞き届けてあげるわ。あんたが想像したこの世界……そして、汝の魂に安らぎを」


 アトロポスは優しげな瞳で帝を見つめながら彼の魂にそっと触れると、それぞれの人格達を魂から袂を分かつべき力を注ぎ始めるのだった。


最後まで読んでいただきありがとう御座います


更新頻度が安定せずに申し訳ありません


(o_ _)o


ブクマ、評価ありがとう御座います


モチベーションがかなり上がります


筆の遅い作者ですが見捨てずに

いただけると幸いです


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