其の18 過去の記憶・7
今回は少し早めに投稿できました
シグルスの回想のハズが……
死んでしまいました(汗)
ですが話は進みます
(^-^;)
では、お楽しみ下さい
朦朧とする意識の中でミユルは今の自分の状況に不自然さを憶えていた。意識を失う最後の記憶では確かに死んだはずだったからだ。
それは流れ出た血の量が作る血溜まりがハッキリと物語っていた。けれど、今のミユルは意識が朦朧としているにも拘わらず身体からは刺すような痛みを感じられなかった。
〔…私は死んだのね……〕
あの瞬間、確かに自分の死を実感した。
そう、生きているはずがないのだ。
ミユルはゆっくりと瞼を持ち上げる。
焦点が合わず歪んだ世界が視界に映り込でくる。
それは見たことのない景色だった。
真っ白な空間。その場所には何も存在せず、ただ果てしなく広がる虚無な世界、どれだけの時が流れ過ぎたのかも分からない空間にミユルは居たのだ。
〔ここは……やっぱり私は死んだの?〕
今の自分の存在意義が分からず朦朧とする意識の中で現状を理解しようと思考をフル回転させる。
「…認識すれば世界が見える」
ミユルの傍で声が聞こえた。
その声からは性別すら判別できない。
けれど……。
〔……えっ?〕
その声が聞こえるまでその存在にすら気付かなかったミユルは声の聞こえた場所を見つめる。だが、声の主の存在どころか気配すら感じ取ることも出来なかった。
「認識しろといったはずだ……この世界は自らを認識し想像することでしか見ることの出来ない世界。だから認識しなさい、自らの存在とこの世界の意味を……」
この声が何を言っているのか意味が分からない。
〔認識?想像?世界の意味?〕
今のミユルには理解が出来なかった。
その事に気付いたのか声の主がため息をつく。
「…はぁ、めんどくさいのぅ。少しだけ力を貸してあげるかのぅ……汝の存在を我の目で認識してやる…そして、自分自身を想像するがよい」
その瞬間、今まで見ていた景色が歪む。
歪んだ景色に新たな世界が形作られ、真っ白な空間と思われていた世界に色がつき、見たことのある景色が具現化される。
そこは彼女が最後に観た景色、謁見の間だった。
向かい合うサツキと帝、床には力無く横たわるシグルスと……自らの流した血に染まる自分の姿がそこにあった。それは意識を失う前の光景だった。
けれど、その光景には違和感があった。
静かすぎるのだ。
まるで時が静止しているような静寂が世界を包み込んでいる。
「違和感を感じたか?ふむ、感性は豊かなようじゃな。妾が時を止めておる……と言っても、この空間を丸ごと妾の次元に転移させ支配下に置いておるだけじゃがな」
声の主の説明に意味が分からなかった。
〔…どういう?〕
「ふむ、今は知らずともよい。どうやら世界が見えたようじゃな……ならば、妾の目に映るお主の姿がお主自身で想像できたか?じゃったら、お主自身で世界を認識してみよ」
ミユルの視点が瞬時に切り替わる。
その視界は真っ白な世界へと舞い戻っていた。
けれど、ミユルは声の主が見せた世界を意識が想像することでボンヤリとだが世界を認識することが出来た。
〔あぁ、そういうことなのね……想像と認識による世界って〕
霧が晴れるようにミユルの思考が鮮明となり声の主のいっていた意味が理解できた……そしてミユルの瞳が見ていた景色に彼女自身の姿が顕現された。
その直後、床に倒れていた自分の身体が目の前でムクリと起き上がり自分を無表情な顔で見つめてくる。奇妙な光景だった。
〔…私が目の前にいる…じゃあ、今の私は誰?〕
思考が混乱をする。
「すまんのぅ……お主の身体は依り代として妾が一時、借りるのじゃ。丁度お主の魂が解離し始めておったからのぅ……」
その言葉にミユルは驚愕した。
やはり死んだのだと実感させられたからだ。
「…ふっ、安心するがよい」
ミユルの心の動揺に気付いたのか声の主は微かに笑みを浮かべた。
「しばし借り受けるだけじゃ…この問題が済むまでの間、お主には別次元に転移して貰う。それに、この身体は妾が離れれば朽ち果てるやもしれん」
サツキによって致命傷を負った身体の至る場所にある傷が微かに光を帯びているのが見えた。
「治癒は施す…が、しばし時間がかかるのじゃ。なぁに、無断でお主の身体を借りるのじゃから綺麗な身体で返してやるのじゃ」
微笑みながら彼女を見つめる。
〔私は……どうすれば〕
「ふむ、転移するにもお主の依り代を見つけ出すのに少々手間取るやもしれぬ。とりあえず、見ておるがよい。お主の世界の歪さとそれを司る彼等の結末を……」
声の主が帝とサツキに近付いていく。
近付いていくにつれミユルの背後で時が動き出すのを感じた。
けれど、二人の姿を見つめながら声の主は眉間に皺を寄せ心底イヤそうに盛大にため息をついた。
「はぁ……よりによってこいつらの仲裁とかマジあり得ないんだがな……馬鹿ロイの奴、はぁ……めんどくさい」
自分の声とは明らかに違う綺麗な声ではあったが、口調は先程とは違いかなり乱暴なモノに代わっている。
その口から発せられるのは愚痴と深い溜息だけだった。これが彼女本来の素なのだろうと感じたミユルは思わず苦笑した。
「うんっ?どうしたのじゃ?」
自分では口調が代わっていることに気付いている様子もないるしく不思議そうにミユルを見つめる。
〔いえ、口調が……〕
吹き出しそうになるのを必死に堪えながら答えるミユルに声の主は「…あぁ」と自分の口調の変化に気付いた。
「うむっ…威厳は必要なんじゃがのぅ、どうも妾は性に合わん…しかも、今の妾は馬鹿ロイに顕現された身でありお主の身体を依り代として借り受けておる。そのため、色んな性格が混ざってしまっておるのじゃが……それよりもお主、気付いておらんのか?」
〔えっ?何がです?〕
「お主の身体を依り代としておるのじゃ……口調もお主に似るに決まっておろう」
キョトンとするミユルに声の主は呆れた表情を浮かべている。
〔へっ?……………そんなことないです〕
言葉の意味に気付いたのか俯きながら弱気に否定するのはミユル自身ですら自信が持てないからだ。
その姿に微笑を浮かべながら視線を時の止まったままの二人へと向けると盛大なため息をつきながら近付いていく。
彼女が片手で無造作に空を切ると二人の時が動き始め、帝とサツキの視線が声の主へと向けられる。
「…お主、アトロポスじゃな」
サツキの冷たい視線がミユルの身体を依り代にする声の主へと向けられた。その瞳には云いようのない殺意が含まれている。
その瞳に見つめられるだけで肉体の存在しないミユルですら感じるはずのない寒気が全身に走るような錯覚を憶えた。
けれど、そんな視線を声の主アトロポスは相手をするのすら面倒くさいのか心底イヤそうな表情を浮かべるに留めていた。
「…何故、邪魔をする?お主は干渉できぬはずじゃ……そうか、彼奴が顕現したのじゃな」
床に倒れたままピクリとも動かないシグルスを一瞥するサツキの表情は苦々しげなものだった。
「まぁね、不本意だけど顕現された身としては術者の意向に沿わなきゃならない……私はあんたらの創造した箱庭に微塵も興味すら無いから面倒くさいとしか言いようが無い」
その言葉に今まで瞑目していた帝が哀しげな表情を浮かべ、アトロポスへとその視線を向ける。
「余の世界を侮辱して欲しくないな……だが、その身体の魂を救ってくれたことには心より感謝する」
アトロポスの背後の存在に優しく微笑みかけながら帝は安堵していた。なぜならあの瞬間、救うことの出来なかった自分自身に後悔をしていたからだ。
「面倒だというなら干渉せぬ事じゃな…妾は愛する者の魂を得られればそれでよいのじゃ……ふむ、力が使えぬか」
サツキは両手に何度も意識を込めていたが自らの力が封じられていることに気付きアトロポスへと視線を向ける。
「ここは私の世界、貴方達の力は使えないわよ」
絶大な力を誇示しながら二人に近づく。
「…今回だけは止めさせて貰うわ」
「…なぜ」
帝の瞳に困惑が滲む。
「この世界が歪だから……」
顕現する瞬間、アトロポスはこの多重世界の奇妙さに違和感を憶えた。一つの理が支配する世界が多重に存在する世界、平行世界とは違いそれぞれ独自の世界があるにも拘わらず一つの理にのみによって存在する世界、矛盾しているのだ。
そのため自らの存在を直接には顕現せずミユルの身体を依り代として使い、更に世界の一部を別空間に転移させた。
本来ならば干渉するべきではない別次元の世界であるにも関わず、アトロポスの行おうとしている行為そのものが干渉であり、彼女自身ですら自分の発言と行動に違和感を感じていた。
まるで更に高次元の何者かに操られているのではないかと思えるほどアトロポスは無意識に行動していたのだ。
「分からない……何一つ意味の無いことなのに」
ふと疑問に思った。
「分かっているなら何故じゃ?」
訝しげにアトロポスを見つめながら問い掛けるサツキにアトロポスは自らの意識を思考へと巡らせた。だが、その疑問の解を得ようとすると何故か思考が霞んでしまう自分に気付いた。
顎に手を添えながら考え込むアトロポスの姿。
その姿に帝も眉を顰める。
「其方も……か」
違和感がアトロポスの思考を蝕む。
「どういう?」
「お主が箱庭と呼んだこの世界に対して余も疑問に思うからだ。余がノーナに命を差し出すことに迷いはない……だが、矛盾する。なら、何故に余を受け容れるのに未熟過ぎるこの者を器として選び幾つもの人格を生み出したのか…」
帝の言葉にサツキの視線が一瞬だけ曇る。けれど、二人にはその一瞬の変化に気付くことが出来なかった。
すぐに微かに口許を歪ませ自嘲気味にアトロポスを見つめながらサツキは彼女に問いただす。
「それで…どうするのじゃ?お主を顕現させた其奴の願い通りに妾を殺し帝を生かすのか?この空間での生殺与奪はアトロポス、お主が握っておるのじゃ…好きにするがよい」
確かにサツキの言葉通り、この空間での理は全てアトロポスが握っていると言っても過言ではない。
圧倒的だったサツキの力もこの空間では無意味であり彼女のさじ加減一つとも言える状況なのだ。
「ロイの願い……」
アトロポスはしばし考え込んだ。
自分を顕現する際にシグルスは自らの命を引き替えに覚悟を決めていたように見えた。
果たしてその願いはサツキの命を奪うことだったのかと考える……だが、実際に顕現されたアトロポスは二人を見て仲裁と口走った。
何かがおかしい。
「…でっ、どうするのじゃ?」
不敵な笑みを浮かべ、アトロポスを見つめるサツキの瞳に狂喜を感じ取ったアトロポスは疑問を先延ばしにすることを決めた。
今の歪な現状を封じることを最優先するべきと判断し視線を帝へと向ける。
「…あんた、こいつに命を与えると云ったわよね」
その言葉に帝は小さく頷く。
「あぁ、余の言葉に偽りはない」
「なら、こいつの意識をあんたの中に封印する」
冷たい殺気がサツキから放たれる。
「アトロポス、お主……いや、よい」
何かを言い淀むようにサツキは口を噤んだ。
その姿に訝しげな表情を浮かべながらアトロポスは帝を見据えた。
「あんたの魂は私の世界で預かる。もちろん、監視は付けさせて貰うわ……この身体の魂、ミユルだったかしら?この娘が適任だと思うけど?」
〔…へっ?わたし?〕
それまで、三人の会話について行けず半ばボンヤリと彼等のやり取りを見つめていたミユルは自分の名を呼ばれ間の抜けた声で返事をした。
全員の視線が彼女に集まる。
「余にとっては心強いが……よいのか?」
帝の瞳が真っ直ぐとミユルを見つめ問い掛ける。
ミユルの心が乱れた。
自分の帝に対しての想いに気付いたからだ。
これ程までに真っ直ぐに見つめられたことが今までにあっただろうかと考え…うれしさの余り自然と笑みが溢れた。
〔はい、猊下……喜んで〕
ミユルは片膝をつき恭しく頭を垂れる。
「まぁ、頑張りなさい」
二人に聞こえないぐらい小さな声でアトロポスはミユルに囁く。彼女の瞳は少し楽しげな表情を浮かべていた。
〔…なっ!?〕
アトロポスの言葉に一瞬、絶句したが顔を上げることが出来ない。なぜなら、ミユルの顔は耳まで紅く染まっていたからだ。
アトロポスにはミユルの気持ちを知られてしまっていた。それが当然の事だろうと直ぐに気付いた。
アトロポスの依り代はミユルの身体である。
依り代とした時点でミユルの記憶や感情すらアトロポスは知ることとなり勿論、本人ですら気付かなかった帝への想いも同様であったからだ。
だからこそ適任だと言えた。
ミユルの魂とこの身体は未だ繋がっている。
封印に異常を感じれば対応が容易になるのだ。
だが、アトロポスの本心はミユルの帝への想いが「おもしろそう」という邪な考えがあったのも事実だった。
「妾の肉体はどうなるのじゃ?」
その声にアトロポスは微笑を浮かべた。
「あんた以外の人格に委ねる。あんたの依り代となる肉体は私が監視する……それが、彼の願いでしょうから」
アトロポスは横たわるシグルスを見つめながら、もう一人のサツキを救いたいと願っていた彼の想いだと信じ、そう断言したのだった。
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