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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第一章 理不尽な痛みは不可解な日常の始まり
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其の5 痴女と神器

 未だに床で自分を抱きしめながら悶え続けるリアを横目にしながら彼女、業罪の皇女は部屋を後にした。


 執務も終わり彼女の血脈が薄れ始めると意識下から皐月の意識が徐々に目覚め始めるのが分かった。


 この瞬間だけ二人の意識は互いを認識する事ができ、意識と記憶は共有され混ざり合う。


〔全く、なんて事してくれたのよ!よりにもよって丸投げなんて、どう対処しろっていうのよ〕


 皇女の意識に皐月の怒声が響く。


〔…すまぬ、妾には無理じゃ〕


 真摯に謝罪する皇女の意識に深い溜息が聞こえた。


〔はぁ…だから、アンタなんか嫌いなのよ〕


 徐々に皇女の意識が薄れ行き、水面下に皐月の意識が浮上し、身体を支配し始める。


〔しばらく、アンタは大人しくしておいて。私は私のやるべき事をやるから邪魔だけはしないで〕


 吐き捨てるように言いながら身体を支配していく皐月の意識が表情を創り上げていく。


〔妾は持てる手札を既に切っておる。故に先の未来を決めるのはお主の行動次第じゃな。期待しておるぞ〕


 沈んでいく意識の中で皇女は淡々と語る。


「…ちっ」


 身体を得た皐月は皇女の言葉に小さく舌打ちした。


 皐月の苛立ちは彼女と意識と記憶を共有した時点で手札の内容がおおよそ見当がついためだ。


「神器を利用するつもりね……全くやっかいな手札だこと」


 彼女は傷だらけの箱を見つめながら呟く。


 この多重世界において神器と呼ばれるモノが存在する。


 それは世界を今の形に導いた皇子の離散した魂の欠片であり、彼の意志を次ぐ者に引き継がれるモノであった。


 望んだ総ての可能性を具現化する事の出来るそれは各世界の統治者が管理しており、可能性のある候補者に手渡されて統治者としての資質を試すものでもあった。


 血脈の本流である統治者であれば受け入れられ、その意志を引き継ぐ事になるが、可能性がなければ触れた存在自体が神器に呑み込まれ消滅する。


 世界の王になるには命を賭ける必要があり、故に誰もが触れることを躊躇し二の足を踏む。


 その一つが皐月の手の中にある。


「こんなモノまで持ち出してきて…ったく、気持ちは分からないでもないけど過ぎ去った記憶は取り戻せないのよ」


 哀しげに俯きながら箱を抱きしめ胸に押し当てる。


 皐月の想いに反応するかのように優しい温もりが彼女を包み込み何かを語りかけてくるような気がする。


 その感覚に皐月自身の心も優しく包まれていく安堵感を感じていた最中、扉を激しく開く音が背後から聞こえた。


「さぁーーつぅきー見っけぇ!」


 その声にビクッと反応し、恐る恐る後ろを振り返る。


「ひぃ!?」


 瞳をキラキラと輝かせながら皐月に向けてダイブするリアに引きつった表情を浮かべ自然と後退りをする。


 だが、あまりの状況に動揺したのか後退りする足が絡まり皐月は勢いよく尻餅をついてしまう。


「い、いやぁーー!」


 迫り来る恐怖に悲痛な叫び声が通路上に響き渡る。


「はいっ、捕まえたぁー」


 嬉しそうに近寄り満面の笑顔で皐月を捕まえる。


 羽交い締めにされ頬にすり寄ってくるリアを両手で必死に抗いながら皐月は皇女を心の底から憎んだ。


「さつき、さつきぃー!チュウしよ。チュウしよ!」


「いやぁー、汚されるぅ。」


 必死に抵抗する皐月に迫りまくるリアの力に勝てるわけもなく徐々に彼女の唇が迫ってくる。


「もう、無理……皇女のバカ」


 迫り来る唇に抵抗しながら瞳を閉じ悪態をつく。


「お前ら何やってんだ?」

  

 聞き覚えのある声が頭上から聞こえ、薄ら瞳を開くと呆れた表情で二人を見下ろす浩介の姿があった。


「ちょ、見てないで助けてよ」


 涙目で必死に助けを求める。


「…ちょっと待てよ。よいしょっと」


 意外に腕力があるのか軽々と二人を引き離すとリアの襟首を掴み持ち上げる。


 まるで猫のようにブラーンと両手足を伸ばしながら恨めしそうに見つめるリアに皐月は安堵のため息をつく。


「あんた、何でこんな所に居るのよ…まぁ、助かったけど」


「そうよ、そうよ!私と皐月の邪魔しないでよ」


 襟首を掴まれ宙に浮いた状態でジタバタと暴れ回りながらわめき散らすリアを横目に呆れた表情の浩介を見る。 


「あれだけ奇声と叫び声が響き渡れば誰だって観に来るだろってか、その格好はどうした?あとこの娘なんなの?」


 皐月の姿と腕の中でジタバタするリアを交互に見る。


「わぁたぁしぃを離してぇ……あら、いい男。ジュルッ。」


 腕の中でジタバタしていたリアは浩介に視線を向けると舌舐めずりを始め出し、身の危険を感じた浩介は思わず手を離した。だが、その判断が運の尽きだった。


「いただきまぁーす!」


 猫のように軽やかに着地した反動を利用して、そのまま浩介の首に抱きつき唇を目がけてダイブする。


「うんぐっ……」


 浩介の唇をリアの舌が無理矢理こじ開け濃厚に舌を絡み合わせながら身体を執拗に密着させてくる。


「うわぁ!?………ご愁傷さまぁ」


 両手で顔を覆い頬を真っ赤にして二人の濃厚な絡みというより、リアの一方的な痴女ぶりを盗み見しながら自分でなくて本当に良かったと安堵のため息をついた。


 リアの腕力に押され抵抗できずに床に押し倒され、両手両足を巧みに押さえられた浩介は思わず叫んだ。


「お、お、犯されるー!?」


 身動きがとれずリアの涎を拭く仕草に恐怖を覚えながらもズボンの窮屈さを主張する息子に、こんなに節操が無かったかとホトホト呆れてしまう。


「はい、そこまで」


 ガチャ、ジャラ、ガチャ、ジャラ。


 皐月の声と同時に微かな金属音が聞こえ、二人の身体に例のモノが取り付けられ、彼女が手首を捻り二人を引き離し正座させる。


「あぅ………」


 情けない声を上げ正座するリアは指をくわえながら名残惜しそうに浩介の下半身を見つめる。


 それに釣られて皐月も視線の先に目を向けた瞬間、顔中を真っ赤にしながら彼から伸びた鎖を思い切り振った。


「えっ?うわぁー!?」


 叫び声と同時に浩介の身体は宙を舞い、訳も分からないまま床に勢いよく叩きつけられる。


「この、腐れ変態ぃ!!」


 その言葉に理不尽さを感じながら浩介は意識を失った。


           *


 冷たい床の感触に浩介はゆっくりと瞳を開いた。


 まだ朦朧とする意識を戻すために頭を左右に振る。


 ジャラジャラ。


 聞き慣れた金属音が鳴り思わずため息をつく。


「またこれか……」


 自分の姿を確認し今の状況を認識する。


 繋がった鎖の先に視線を移すと彼女はリアを正座させ、説教をしている最中で何だかつい最近、同じ経験をした者からすれば忍びない光景だった。


「だからぁ、冗談じゃなぁい。もう本気にしてぇ…いたっ!はいっ!ごめんなさぁい!」


 若干、涙目に鳴りながら土下座するリアの頭を容赦なく殴る皐月の姿に浩介は思わずほのぼのとしてしまった。


「冗談に見えないから怒鳴ってるんでしょうが!全く、一体なにを考えてるの?常識ってもんがあるでしょ!」


 怒鳴り散らしながら鎖を無遠慮に引っ張り、土下座させる皐月の姿に何だか安堵感が芽生えてくる。


 慣れというのは恐ろしいとつくづく思った。


 そろそろ止めさせようと近付いた浩介に気付いた皐月がキッと睨みつけ手首を捻った。


「あっ!?やばっ!…やっぱりかぁ」


 案の定、身体が宙を舞い床に叩きつけられる。


 ただし、前回と違い多少は力を抜いているのか気を失うことなく唯々、痛みを伴うだけで済んだ。


 その後は引きずられるようにリアの横で正座させられ、頭に数発の強烈な拳骨が振り落とされる羽目になった。


「…いってなぁ、どっちかっていうと俺も被害者のはずなんだが何で加害者と肩を並べてるんだ?」


 恨めしそうに隣で涙目になっているリアを見やるとそれに気付いたのか笑顔で投げキスをする仕草を見せた為、さらに折檻される憂き目に遭っていた。


「だぁかぁらぁ、反省しろって言ってるでしょ!」


「はいっ、ごめんなさい!」


 そう言って綺麗な土下座を見せる辺り、場慣れてしている感じがして横で見ていて苦笑するしかない。


 そんなドタバタ劇の最中、浩介は皐月の服装が白のワンピースに戻っていることに気が付いた。


「そんなに気を失ってたはずはないんだけどなぁ…」


 呟く浩介に皐月が睨みつける。


「なによ!まだ、なんか言い足りないわけ?」


 若干、ドスのきいた口調に背筋を正してしまうのは条件反射に近いモノとなっていた。


「いや、服装が違うからそんなに気を失ってたかなと思いまして、はい他意は御座いません」


 最終的に口調が敬語になり、頭を下げる浩介に「あぁ、そういうこと」と納得した様子で自分の姿を見る。


「この力を使うときって普段の格好に戻るから。さっきまでの格好は儀礼用の仕事着みたいなモノよ」


 今の格好の時は用心しようと固く心に誓う浩介だった。


「ついでなんだけど?この娘なんなの?」


 横で無残な姿で泣きながら正座するリアを指さす。


「あぁ……痴女」


 冷たい視線でリアを見つめながら説明する姿に瞳を見開き駄々を捏ねるように反論する。


「それはあんまりだわ!こんな容姿端麗なエルフ族を前にして痴女だなんて!うんっ、でも、言い響きかも?」


 痴女の響きに満更でもない表情で口元を緩めるリアに皐月は頭を抱え大きなため息をついた。


「ハァ、あんたってどんだけアホなのよ。何だか説教するのも馬鹿らしくなってきたわ」


 最終的にこの娘の勝ちだなと思いながら二人を見やると、皐月の足下に傷だらけの箱があることに気付いた。


「…なんだ、あれ?」


 足下に転がっていた傷だらけの箱に気付き、皐月の目を盗んでその箱に手を伸ばした蓋を開いた。


「「あっ!?」」


 その仕草に気付いた二人が同時に声を上げた。


「えっ?」


 驚いた表情で箱の中身に触れたまま二人を見やる。


 その瞬間、箱から目映い光が放たれ浩介を包み込んでいき、その光に呑み込まれるように意識を持っていかれた。


 その場に倒れ込む浩介に二人は慌てて駆け寄っていく。


「ちょ、これって不味くない?」


 珍しく真面目な顔で不安を口にするリアの姿に皐月は起きている事の重大さが非常に不味い状況だと思った。


 統治者の系譜ですら触れることを躊躇する神器に血脈の可能性の有無すら分からない輩が触れてしまったのだ。


「私と鎖で繋がってたから消滅まではしてないけど、意識は……持って行かれたみたいね」


 ぐったりと力無く横たわる浩介に寄り掛かりながら手首を捻ると鎖が身体全体を覆い尽くした。


「これで身体の維持は出来るけど……意識は本人次第ね。」


「可能性は?」


 皐月に尋ねるリアの問いには二つの意味があった。


 一つは助かる可能性、もう一つは候補者である可能性、稀に候補者でなくても助かった事例は存在する。


 奇跡的な偶然が幾つも重なった結果ではあるが……。


「彼次第ね…」


 心配そうに見つめる皐月を余所にリアは浩介が触れた箱の中を見て瞳を何度も瞬かせ震える手で皐月の肩を叩く。


「なによ?」


 不機嫌そうに手を払いのけながら振り返ると、茫然とした表情で箱を指差すリアの姿があった。


「な、な、無い!?神器が無い!」


 譫言のように呟くリアに慌てて箱の中を覗き込んだ。


「…ホントに無いわ。ってことは?」


 二人が目を合わせると同時に視線を浩介へと向ける。


「うわっ!何だこれ?えっ?何で?」


 意識を取り戻した浩介が身体全体を鎖で繋がれた理由が理解できずに藻掻き苦しむ姿が見えた。


「えっ?まじでぇ?」


 驚きの表情を隠しもせず唖然とするリアに皐月は唯々茫然とし、二人とも今の状況を理解するのに数秒を要した。


「ねぇ、皐月?」


 鎖で繋がれジタバタする浩介を指差しながら呟く。


「なに?」


 聞かれる質問は分かっているがあえて問い直す。


「…あれがそうなの?」


 浩介を指差すリアの指先が震える。


「…みたいね」


 ため息混じりに応える皐月の表情は暗く沈んでいた。


 その瞳は皇子の候補者どころか統治者となる資格を得た証拠である浩介へと向けられ、箱の中へと視線を移した皐月の表情はこれから翻弄される運命に在る浩介に想いを馳せるモノだった。


 だが、当事者の本人はそんな皐月の感情に気付きもせずにジタバタと鎖を解こうと暴れ回っており、その最中にリアが皐月の目を盗みソロリソロリと彼に近付いていく。


「いっまぁのうちぃ。いっただきまぁーす!グェッ!?」


 鎖で縛られ抵抗の出来ない浩介の唇を目がけてダイブするリアに皐月は手首を捻り鎖を引き寄せる。


「なにやってんの?気付くに決まってんでしょ!」


 罵声を響かせ床に叩きつける。


「うーぅ、やっぱり無理かぁ……いたっ!痛いって、さつきぃ!?ごめんなさぁい!」


 脳天に落とされた拳骨で瞳から火花が散り、涙目で即座に土下座するリアを横目に安堵の表情を浮かべる浩介、二人の姿に真面目に考えるのがアホらしくなり大きなため息をついた。


「まぁ、為るようにしか為らないか」


 何だか吹っ切れたかのように皐月は微笑んだ。


 未来の可能性は結局の処は歩き始めなければ見えてこないのだとしたら楽しく歩き始めるのも悪くないかなと二人の姿を見ながら皐月は思い始めていた。


 たとえ、それが残酷な結末を迎えるとしても………。

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