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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第三章 汝の魂に安らぎを
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其の12 過去の記憶・1

更新がなかなか出来ずにすいません


今回は少し話が長くなりますので二部構成で書かせて頂きます


多重世界の成り立ちとある少女との出逢い


徐々に話が確信へと近付いていきます


では、お楽しみ下さい




 真っ白な天井を見上げながらシグルスは自分が陥っている今の状況を他人事のように考えていた。


「…さて、どうするかな」


 天井を見つめていた視線を周囲に向ける。


 幽閉されているとはいえシグルスと五護衆のタラニスとは旧知の仲であり、そのため常闇の世界では貴賓扱いの待遇であった。


 そのためか幽閉先の室内は貴賓室かと思えるほど絢爛豪華な造りとなっており待遇の面では不自由は感じられなかった。


 天井には豪華なシャンデリアが取り付けられ、室内の調度品は全て一級品の物で備えられている。


 シグルスが腰かけているベッドですら手を抜くことなく触れれば弾力ある反応が返ってくる始末だ。


「う~ん、快適なのは間違いなんだが……あれがなければもっと快適なんだけどなぁ」


 扉に刻まれた淡い黒光を放つ術式に目を向ける。


 【常闇の術式】と呼ばれるモノで全てを拒絶する性質を持つ術式であり常闇の世界の理、血脈の力であった。


 本来、理の力は異世界の住人には無関係であるのだが理でなく術式に関しては彼でさえ束縛されてしまう。


 ボリボリと頭を掻きながら術式を見つめると徐に片手を扉に向けて力を込めると意識を掌に集中させる。


「顕現せよ、イフリート……だめか」


 ボフッ。


 力を込めた手から朱色の焔が一瞬だけ湧き起こり不完全燃焼して煙と化して消えていく姿にガックリと肩を落とす。


「う~ん、じゃあこれはどうだ?古よりの獄焔よ、我に力を与え我の敵を倒せ……炎の刃!うわぁ~!?」


 最下位の火精霊の術式を発動し焔の円環を生み出すと扉に向けて放ったのだが、術式に阻まれてそのまま反射し彼の元へと放った勢いのまま舞い戻ってきた。


 喉元近くに近付いてくる焔の円環をギリギリで避けると背後で何かにぶつかり円環が消滅する。


「あっぶねぇ~!?死ぬとこだった」


 バラバラに破壊された調度品に目を向けダラリと垂れた冷や汗を拭うとベッドに力無く倒れ込み天井をボンヤリと眺めた。


 破壊してしまった調度品から香る焦げ臭さを除けば室内は見事なまでの静寂に包まれている。


 不安というよりもいつも感じていた精霊達の気配を感じられない状況にシグルスは「何百年ぶりだろうか」と考えてみた。


 物心ついた時には既に周囲に多くの精霊の気配を感じることが出来ていたシグルスは一度だけ今の現状に近い状況に巻き込まれた日のことを思い出す。


「すっかり忘れてたな……アイツのこと」


 少し感慨深げに呟く表情には哀愁が垣間見えていた。


 あの戦乱の最中、シグルスと共に歩んだ友の姿が鮮明に脳裏に浮かび上がりシグルスの口許が微かに微笑む。


 エルフ族として生を受けた永い人生の中で、その友との出逢いがシグルスの世界観を大きく変えたことは事実だった。


 まだ、世界がそれぞれの統治者の血脈によって危うさを伴った均衡を保っていた時代、シグルスは一人の女性と出逢った。


 彼女との出逢いは本当に突然であり彼自身も何が起きたのか分からずにだらしなくポカァンと口を開けていたことを思い出した。


「…あれは間抜け顔だったな」


 その時の自分の姿の間抜けさはとてもでは無いが嫁と娘には見せられるモノではなかった。


 エルフ界が多重世界への介入を拒否した当時、家を飛び出した娘を連れ戻すため世界を渡り歩いていたシグルスは統治者達の仕官の誘いを悉く断った結果として今の状況によく似た状態に陥っていた。


 精霊術を封ずる龍珠と呼ばれる神珠を使われ、シグルスは為す術もなく投獄された。


 勿論、今のような好待遇な環境ではなく不衛生極まりない石造りの地下牢獄であり、身体は龍珠の欠片で造られた拘束具で縛られており身動き一つ取ることが出来ない。


 その状態のまま忘れ去られたかのように飲食を与えられずで数日間もの月日が過ぎていた。


 空腹と朦朧とする意識の中で「今回ばかりはさすがにダメかもしれん…」と諦めかけていたシグルスは家族の顔を脳裏に浮かべながら項垂れる。


 そんな悲壮感にくれながら冷たい石壁に背中を預けたシグルスの背後から聞き覚えのない声が聞こえてきた。


「汝は罪人か?」


 気品に満ちた声にシグルスは苦笑する。


「とうとう、幻聴までが聞こえてくるようになったか……すまんな、エルズ。リアの奴を連れ戻せないかもしれん」


 溜息混じりに呟きながら天井へと視線を向けようとした……だが、その視線の先には見知らぬ瞳がこちらを見つめていた。


 不思議そうに彼を見下ろすその存在は綺麗な顔立ちをした年端もいかぬ少女であった。漆黒の瞳と長い黒髪、あどけなさの残る表情がシグルスの意識を掴んで離さない。


 ただ、それよりもシグルスは困惑していた。


 なぜなら少女は背中を預けていた背後の石壁から上半身を出し、こちらを見下ろしていたからだ。


「えっ?はぁ~!?」


 幻覚かと思った。


 口をポカァンと開けながら少女を見つめる。


 けれど、その瞳は長い黒髪を靡かせながら不思議そうにシグルスを見つめ、もう一度、同じ言葉を彼に問いかけた。


「汝は罪人か?」


 少女の問いにシグルスは苦笑する。


「我はシグルス、精霊と共に歩む者」


 その応えに少女は微笑みを浮かべた。


「汝、罪人に非ずならば我は汝を助けよう。汝、助けを求める者か?求めるなら汝を助けよう……汝は何を求めるか?」


 禅問答のような問いかけに彼は少女を見つめる。


「我、助けを求める者。我、罪なき者なり」


 漆黒の瞳が真っ直ぐにシグルスを見つめて静かに瞳を閉じると、両手を彼の頬に添え小さく頷く。


「罪なき者よ、汝の願いを聞き叶えよう」


 彼の額と少女の額が重なる。


 淡い光が二人を包みこんだ瞬間、意識を失った。


          *


「…うぅ、うんっ?」


 瞼に温かな日差しを感じ意識が困惑する。


 (確か地下牢にいたはず……あっ!)


 混濁していた意識が少女との出逢いを思い出し、パッと瞳を見開くと勢いよく起き上がった。


「…わっ!?眩しい!……ってか外か?」


 久方ぶりの眩しい日差しに思わず目を細めながら周囲を見渡すと視界に現れたのは緑溢れる草原の小高い丘だった。


 ただ、その場所になぜ自分がいるのか分からずに彼は所在なげに茫然と立ち尽くす。


「…なんだ、これ?……夢か?」


 立ち尽くす彼の背後で可笑しそうに笑う声が聞こえ、慌てて振り返ると……あの少女がいた。


「ふふふっ、夢ではないぞ。現実じゃ」


 屈託無い笑顔で応える少女に何故か安堵感が生まれることに違和感を感じながらも久々の下界の空気を思い切り吸い込む。


「う~ん、やっぱ、外の空気は上手いな…んっ?拘束具が外れてる……君が解除してくれたのか?」


 少女はコクリと小さく頷く


「汝は罪人ではない、だから解除した…ただ、名は偽っておるようじゃがの」


 訝しげに瞳を細めながら彼を見つめる。


 少女から視線を逸らし空笑いで誤魔化す。


「あははっ、やっぱバレてる?う~ん、家名を名乗るとこの世界では色々と面倒なんでね……それより、よくアレを解除できたな?」


 龍珠の欠片で造られた拘束具、血脈の力にも匹敵するモノをこの少女が解除した事実に驚かされる。


 けれど、それ以上に少女の方が驚いていた。


「まさかとは思っていたが…お主、龍珠が存在すると本当に思っておったのか?」


 意味が分からなかった。


 実際に精霊術を封じられ拘束された。


 何度も地下牢獄で試したが、彼と契約している精霊達を感じることなどは一切、出来なかったのだ。


「どういうことだ?」


 彼の問いに不憫そうな表情を浮かべる。


「龍珠とは【竜の首の珠】のことじゃ。妾が生み出した架空の代物じゃ。わかるか?汝は存在せぬモノに縛られておったのじゃ」


 意味が分からずキョトンとしてしまう。


「俺は存在しないモノを認識していたって事か?」


 自分で言っていて信じられなかった。


「うむ、そうじゃ」


 厳かに頷く少女に彼は茫然と立ち尽くす。


「お主がよく耳を澄ませば精霊達の声は聞こえたはずじゃ。意識を集中すれば彼女らの存在を感じたはずじゃ。お主は聴こうとも、感じようともしていなかったのじゃ」


 少女の言葉に少なからずショックを受けた。


 今まで互いに信頼し合い、存在することが当たり前だと思っていた彼女達を認識しようとすらしていなかったのだ。


 驚愕する彼に少女は言葉を続ける。


「お主の苦しみを嘆き悲しんでいる彼女らの想いが、妾を呼んだのじゃ…だが、妾は咎人を開放することは出来ぬ」


 少女は哀しげに俯く。


「だから、聞いたのか……汝は罪人かと」


 コクリと少女は頷いた。


 何かしらの力を持っているのは直ぐに分かった。


 そして、その力には縛りがあることも……。

 

 多重世界には統治者以外にも血脈の力を持つ者は決して多くはないが存在することは知っていた。


 統治者ほど強くもなく世界を変えることも出来ないが、人に影響を及ぼす程度の力は持っている。


 少女の力…それは罪を裁く力だろうと想像する。


「お主の想像通りじゃ」


 表情で察したのか少女は彼の想像を肯定した。


 ただ、少女の瞳は哀しげであった。


「どうした?」


 その瞳に何かを感じ取ったシグルスが声をかけるが少女は俯きながら沈黙して裾を両手で握りしめ立ち尽くしていた。


「妾は、咎人を救うことは出来ぬ……」


 少女の言葉におおよその見当が付く。


 救いたかった者が救えなかったのだ。


「…大切な人だったのか?」


 コクリと頷く少女の哀しげな姿になんとも言えない感情が湧き上がってきたシグルスはそっと少女を抱きしめた。


 抱きしめられビクッと身体を震わせる。


 おずおずと顔を上げた少女の瞳は困惑を孕んでいた。


 何故か小さい頃の娘の姿と重なり、そっと頭を撫でながらシグルスは優しく話し掛ける。


「…辛かったな。よく我慢したな……ありがとう」


 その言葉に困惑していた瞳が見開かれる。


 我慢していたのだろう…。


 その瞳から大粒の涙が溢れだした。


「うわぁぁぁん!」


 堰を切ったかのように抑えきれない感情が溢れ出し、少女はシグルスの胸にしがみつき泣き始めた。


「…辛かったのじゃ!目の前で失われていく者達を救うことも出来ず、妾は…妾は…見ているだけしか出来なかったのじゃ!もう、イヤなのじゃ!誰かを失うのは……」


 心の内を涙と共に絞り出す。


 その華奢な身体を抱きしめ、泣き続ける少女の頭を優しく何度も撫でながら語りかける。


「君は頑張った。だから、大丈夫だよ……」


 何度も何度も優しく語りかける。


 こんな小さな身体で、人を想うことの出来る優しい心で、どれだけの地獄を見てきたのか想像することすら不憫でならない。


 力を持ったが為に逃げ出すことの叶わぬ宿命に縛られ少女は心が壊されていくのを感じながら生きてきたのだ。


 ただ、「ありがとう」の言葉を聞くために…。


 突如、温かな風が二人を包みこんだ。


 精霊達(彼女ら)の気配を感じた。


 二人の周囲を包み込むように集まってくる彼女らの優しさが少女の心を優しく包み込み癒していく。


(すまんな…気を使わせて)


 精霊達の優しさに心の中で感謝する。


 大気が微かに震えた。


 シグルスの声に応えてくれたのだ。


 少女の心が癒されるまでシグルスは優しく抱きしめ続けた。 

読んでいただきありがとうございます


ブクマ、評価ありがとうございます。


筆の遅い身ですが見捨てずに読んで頂けると物凄く嬉しいです

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