其の10 常闇の世界
鬼のような残業をこなし、精神も肉体も限界に達していたため執筆が遅れました。
社畜の作者です(涙)
それはいいとして……
新しい世界に突入します。
リアの親父の天然に振り回されます。
では、お楽しみ下さい。
ドスンッ!
術を発動した人物の性格をそのまま反映したかのように無造作に浩介達は空間から吐き捨てられた。
「きゃあ!?」
「あんまりじゃ!」
「何でこんな事に!?」
それぞれの悲鳴を聞きながら、ただ一人だけその重圧に打ちのめされる。
「…痛い」
何故か最初に降り立った浩介の頭上から皐月、ニル、雅の順に吐き出され彼は彼女達のクッション代わりにされていた。
ただ「…重い」と言わなかっただけでも彼はそれだけ成長したといえるのかもしれない。
もしも、そんな発言をして彼女達に聞かれようものなら浩介の息の根を完全に止められていたからだ。
「…とりあえず、どいてくれないか?」
自分達の下で呻き声に似た浩介の悲痛な叫びに彼女達は顔を赤く染めながら直ぐに離れる。
「重くなかったですか?」
心配そうに声をかけてくるニルに対して予め用意していた言葉を放つ。
「いや、全然…」
正直者は死を招く。
心の中で嘆いているとセレスが「…模範解答ですわ」と哀れみにも似た声で返してくれる。
セレスや四大精霊は強制的に【扉】開かされたためか全員、具現化が解けて指輪に戻っていた。
四大精霊の愚痴が聞こえたが、あえて無視して起ち上がると自分達が今いる場所を見渡した。
煌びやかな内装の室内、どこか見たことのある雰囲気に「…あぁ、フェンリルの謁見の間と一緒だ」と現実逃避をしながら見渡すものの、すぐに現実に引き戻され自分達の状況に辟易とする。
なぜなら、浩介達を囲むように屈強な見知らぬ紋章を掲げた騎士達が武器を構えて殺意の含んだ瞳で囲んでいたからだ。
「あの馬鹿……」
額に手を当て皐月は項垂れながら呟いた。
エルズが適当に空間転移を行った結果だった。
浩介の予想通り、この場所は謁見の間だった……ただし、常闇の世界の…である。
「これっていきなりピンチだろ!?」
「…ですね」
「腹黒女の策略なのじゃ!」
逃げ場のない状況で有るにも拘わらず意外と余裕のある発言に背後にいた隊長格らしき男が頬をヒクヒクさせている。
「貴様ら、今の状況を理解してるのか?」
理解は勿論してはいるのだが、それ以上にエルズに対しての怒りの方が勝っているだけだった。
「あぁ~、はいはい分かってますよ。私達は囲まれて逃げ場もなくて、とんでもなく命の危機に瀕してるんですよねぇ」
片手をヒラヒラと振りながら皐月は鬱陶しそうに隊長格らしき男を見ることなく答える。
「ほぅ、この状況で何とも……勇敢な娘だ」
徐々に頬を紅潮させる隊長格の男を無視して皐月は冷たい視線を玉座に座る若者に向けると雰囲気をガラリと変え見据える。
切れ長の蒼い瞳に癖のある金髪を指先で弄びながら、若者は愉しそうに今の状況を見下ろしていた。
「常闇の統治者アルベルトよ、久しぶりじゃの。汝は妾が誰か分からぬ輩でもあるまい?この所行、万死に値するぞ?その覚悟があるんじゃろうな…」
両手から赤と黒の鎖が顕れ床を這う。
「お久し振りですねぇ、皐月お嬢様…いえ、今は業罪の皇女とお呼びすべきですかね?」
皐月の頬がピクリと動いた。
「今は皐月で良い……」
その言葉にアルベルトは微かに笑みを浮かべる。
「では皐月お嬢様、ご退出を願いますがよろしいですかな?此度の突然の来訪には大変、痛み入りますが他世界の統治者に謁見するには作法がなっておりませぬ故……扉はあちらになります。騎士を下がらせろ!」
隊長格の男がアルベルトに恭しくお辞儀をすると直ぐに騎士達を下がらせる。
浩介達を挟むように道が開かれ、背後の扉を指差しながらアルベルトは切れ長の瞳を微笑させ退出を促す。
「どうぞ、改めてご挨拶にお伺い下さい……では」
玉座から起ち上がり奥へと消えていく。
相手の方が一枚も二枚も上手であった。
「…食えない奴ね。いいわ、行きましょう」
皐月の立場を理解した騎士達は一応に礼儀正しく胸元に剣を構え扉へと向かう浩介一行を見送る。
一人だけ歯軋りしながら見送る者がいた。
隊長格の男である。
「帝の使い風情が……」
小さく呟きながら憎しみを込めた瞳を浮かべていた。
*
執務室に戻ったアルベルトはヘナヘナと床に座り込んだ。
皐月達の前では部下の手前、虚勢を張っていたが内心は心臓がバクバクと波打ち、よく言葉を咬まなかったと自分自身で感心したぐらいだ。
「何で今さら来るんだよぉ……」
普段は見せないあどけなさが顔に出る。
先の戦でもアルベルトを旗頭にして戦に挑み、冷徹な統治者として恐れられてはいたが実際は気弱で優柔不断なダメ人間であった。
胡坐を掻きながらふくれっ面を浮かべる様子を書類整理に追われていたタラニス・クレアは苦笑しながらペンを止め「やれ、やれ」と首を横に振りながら見つめる。
短く切り上げた茶色い髪に口ひげを蓄え、その眼は漆黒の闇を称えており、筋骨隆々で間違っても執政官とは思えない風貌をしていた。
「だから忠告したでしょう、殿下。今回のような暴挙に出れば、遅かれ速かれ、必ず帝の使いが干渉してくると……」
このような事態が起きることを危惧はしていた。
だからこそ開戦でも互いの世界に死者の出ぬ方法を取り、逃げ道を作ってはいるのだが……タラニスは頭を悩ませる。
「あんな方法があるなら攻め込みたくなるだろ?」
好戦的な性格は仕方ない。
ここは常闇の世界……何よりも力を追い求め、それが正義だと信じる者達の世界であるからだ。
他世界では妙な表現で伝わってはいるが常闇の世界を表現するのにおおむね間違いではない。
新しい攻め方を発見すれば試したくなる。
その結果、窮地に陥ることが多々ある。
タラニスはその尻拭いを毎回している。
正直、面倒くさいの一言だった。
この皇子は調子に乗りやすいのが玉に瑕であった。
先の大戦の際にどれだけ尻ぬぐいをさせられたかと思い返し正直「また、俺なのか……」と書類の山とアルベルトを交互に見つめると溜息混じりに天井へと視線を向けるのだった。
「っで?どうするおつもりですか?帝の使いとなると殿下の血脈も意味を成さない可能性が御座いますし、この世界の理も無意味に御座います」
現実を直視させる事でアルベルト自身に考えさせる。
「う~ん、どうすればいいかな?」
逆に聞き返される。
項垂れながら考え込むアルベルトがチラチラとこちらを見つめるがタラニスはそれを無視する。
自分が戦に出るわけにはいかない。
この世界の五護衆である彼が出れば間違いなく【フェンリルの騎女】が迎え撃ってくるのは明白であり、出来れば穏便に解決したいとすら思っていた。
「あれを相手にするには骨が折れる……戦馬鹿の鬼女めが」
先の戦で尻拭いのため何度も刃を交えているタラニスはリアの鬼のような攻防に辟易とする。
負ける気はしないが勝てる気もしない。
お互いの軍勢が撤退するまでの時間のために命を賭けるのは二度とやりたくなかった。
「…和平か?」
理想通りの結論にタラニスはホッと胸を撫で下ろしながら和平に必要な書類の選別を始める。
「そうですね……それが無難でしょう。念のため、和平交渉には私が参りましょう。お飾りとはいえ五護衆の名を冠する者が使者として赴けば幾分かはあちらの世界の者達も理解してくれるでしょうから……」
どこか不満げな顔をしながらタラニスに頷く。
「うん、頼む……」
自ら決めた案に不満げな表情を浮かべながらアルベルトは扉に寄り掛かろうとした瞬間。
バンッ!……ゴンッ!
「…イタい」
突然、開かれた扉に頭を打ったアルベルトは後頭部を押さえながら涙目で執務室に入ってくる男を睨みつけた。
「あっ?悪ぃなぁ~。気が付かなかった……それはいいとして、帝の使いが来たって!?」
この世界の皇子に対して全く悪びれた様子もなく一瞥しただけで男はタラニスに詰め寄っていく。
「…あぁ、そうだな。殿下、大丈夫ですか?」
男の身体の隙間から覗き見ながら頭を押さえて涙目のアルベルトに声をかける。
「…余は常闇の皇子アルベルトであるはずよな?」
タラニスと男がとりあえず頷く。
「…では何故、このような仕打ちを受けているのじゃ?タラニス、余は分からぬ故に説明してくれぬか?」
タラニスと男が顔を見合わせる。
「…簡単だろ?鈍臭いからだ。それ以外に説明しようがない……それはいいんだが、タルニス?うんっ?どうした?」
さらっとアルベルトの話しを流して本題に入ろうとする男にタルニスは額に手を当て頬をヒクヒクさせる。
「もう少し空気を読め…」
意味が分からずポカァンとする男に呆れたように背後で真っ赤な顔をしたアルベルトを指差す。
「き、き、貴様ぁ~!余に向かって鈍臭いだとぉ~!」
怒り心頭のアルベルトに男は首を傾げながら不思議そうな顔で彼を見つめタルニスにぼやく。
「大変だなぁ、タルニスも……同情するわ」
苦笑いしか浮かばないタルニスに小声で話し掛ける男の天然ぶりに返す言葉が思い浮かばない。
この男には一切の悪気がない。
そのため、質が悪かった。
「お主が提案した戦法は確かに有益じゃった……」
渋々ではあったがアルベルトは男の功績を認める。
「だろう!」
瞳を輝かせながら男が声を発する。
「…じゃが、そのために余は窮地に立てされておる。そのために恥を忍んで和平交渉を選んだのじゃ……なのに貴様は!」
アルベルトは苦々しげに拳を握りしめる。
「あっ?そうなの?」
反省の色のない男にさらにアルベルトの怒りが増す。
「き、貴様ぁ!タルニス!此奴を幽閉しろ!処遇は余に対する冒涜じゃあーーー!!」
声のあらん限り叫ぶアルベルトにタルニスはため息をつきながら不憫そうに男を見つめ手を叩く。
その直後、扉前で待機していた護衛騎士達が執務室に雪崩れ込み、速やかに男を束縛する。
意味が理解できずに茫然とする男にタルニスは一言、呟いた。
「…自業自得だ、シグルス」
シグルスと呼ばれた男は瞳を瞬かせる。
「えっ?なんで?意味が分かんないんだけど?」
シグルスは理解が出来ない様子で、呆れるタルニスを見ながら騎士達によって扉の外へと連れ去られていくのだった。
この男が今回の戦の原因であり、エルズの旦那であり、リアの父親であるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマ、評価して貰えるとうれしいです。
今後もよろしくお願いします。




