其の7 救われる日々
フェンリル、意外と良い奴でした
ただ、今後は………
リアも幻覚の哀しみが少し癒えます
では、お楽しみください
鎖を解かれた状態でありながらもフェンリルは項垂れたまま力無く床に平伏していた。
虚脱感に呵まれながら「…われの苦労は一体」とブツブツ呟きながら放心状態のまま放置されていた。
「そりゃあ、そうよねぇ………」
離れた場所で他人事のように見つめながら呟く皐月に対してリアと浩介はフェンリルが不憫に思えて仕方がなかった。
自らの守護者からも裏切られ、帝の代理である皐月からは脅され、虐待を受け、縛られ、散々な目に遭ったにも拘わらず不可能と思われていた案が可能ときている。
悪役を甘んじて受けたフェンリルには今の現状は喜ばしい反面、どこか理不尽さを感じずにはいられなかった。
「…じゃ、帰ろうか?」
何事もなかったかのように謁見の間を出ようとする皐月にハッと我に返ったフェンリルはすがるような目つきを彼女に向ける。
「まっ、まつのじゃ~。われの世界を助けてほしいのじゃ!このままでは常闇の世界に民が苦しめられるのじゃ~」
その瞳には先程までと違って恐怖に満ちたモノではなく統治者としての民を護りたいとの信念が込められていた。
その気持ちは確かに皐月にも分かる。
何よりフェンリルは真剣であった。
「さぁ~つきぃ、協力してよぉ~。主のやったことは許される事じゃないけど民に罪はないからさぁ。あとでこいつはきっちりと折檻するからぁ~」
さすがのリアも民を出されれば主に協力しなくてはならない……ただし、全てが片付いたら彼女をお仕置きすることも視野に入れての発言だった。
「…う~ん、私に言われてもねぇ。何だかんだでセレスと契約してるのあいつだからねぇ……どうするの?」
全員の視線が浩介に集まる。
しれっとした表情の皐月とは対照的にフェンリルとリアは涙目でウルウルしながら祈るように胸元で両手を合わせ上目づかいで浩介を見つめている。
リアに関してはフェンリルの真似をしているだけなのが口許が微妙に緩んでるので直ぐに分かる。
「お前ら主従そろって似たもの同士だな…それはいいとして、少しだけ時間を貰っていいか?」
浩介の問いに首を傾げる皐月と「…断るのか?」と顔面蒼白になるフェンリルに片手を振って否定する。
「いやいや、違う。たとえ主従契約を結んでるとしてもセレスとは対等な立場でちゃんと話しがしたいだけだ。基本的に無理矢理は嫌なんだよ」
リアの口許が明らかにニヤニヤと緩んだ。
「わたぁしは無理矢理もオッケェ~よぉ。もう、こうすけぇったらす・け・べなんだから、もぅ~」
いつものリアに戻ってしまっている。
ゴンッ!
当然の如く皐月の拳が躊躇なく振り落とされる。
「…馬鹿なの?ったく、じゃあセレス達と相談してから今回の件の対策を取るって事でいい?」
皐月がゲンナリした表情を浮かべる。
「……頼むのじゃ、われの民を見捨てないでなのじゃ!」
浩介の足にまるで捨て犬?のようにフェンリルが身体をすり寄せてくる仕草に苦笑いしか浮かばない。
元々見捨てるつもりなど微塵もないのだが、此処まで擦り寄ってこられるとムズムズとして意地悪したくなくる。
「お前の行い次第かな」
フェンリルを見下ろしながらニヤリと不気味な笑みを浮かべる浩介にジト目で皐月が溜息混じりに呟く。
「うわぁ、さいてぇだわ。人の弱みにつけ込むなんて……」
「うん、外道だねぇ」
楽しそうにリアも便乗する。
「……」
無言になり俯くフェンリルに浩介は若干、焦った。
「じょ、冗談……」
と言いかけた浩介の言葉はフェンリルの決意の籠もった眼差しによって遮られる形になった。
「…わかったのじゃ。われはお主の物になろう」
その発言に全員が呆然と固まる。
「ちょ、ちょっとフェンリル!?」
真っ先に我に返った皐月が珍しく慌てている。
「良いのじゃ!民が救われるためならば、われ一人ぐらい犠牲になっても、だ、だ、大丈夫なのじゃ。好きにす、す、す、るがよいのじゃ!!身体は奪われて、も、こ、ころめでじゆおにはにゃらないのじゃ!」
浩介から離れて仁王立ちで拳を握りしめ目を閉じながらフェンリルはモフ耳とモフ九尾をピンッと立てて叫んだ。
ポコッ!
リアが苦笑いしながら主の頭を叩く。
「いや、いや……ちゃんと言えてないから。それにアンタ真性の百合で男を相手にデキないでしょうが?それ以前に周りをちゃんと見て状況を理解しさい、馬鹿主様……」
「…ふぇ?」
間の抜けた声を出し恐る恐る瞳を開くと、飽きれた表情の皐月と申し訳なさそうに頬をポリポリと掻く浩介の姿が見えた。
「…冗談だ」
浩介の言葉にキョトンとするフェンリル。
「…えっ?えぇぇぇぇ!?」
謁見の間でフェンリルの叫び声が響き渡った。
*
……数分後。
今度は違う意味で打ちひしがれる彼女の姿があった。
踞りながら顔を真っ赤にして自分の勘違いに自嘲気味に「アハ、アハ……また、やってしまった」とブツブツ呟くフェンリルに一同はただただ、呆れ返るだけだった。
「しばらく、このままだから……うん、放置でいいや。それよりニル達の部屋に行こうよぉ」
部屋のど真ん中で踞る主の姿に気にも止めないリアは後ろ髪を引かれる皐月と浩介を引き連れて平然と謁見の間を後にする。
バタンッ。
扉が閉まり誰もいなくなったにも拘わらず自分の世界に入り込んでいるフェンリルは未だブツブツと呟いていた。
「われは皆の前で勘違い……うぅ、思い出しただけでも……ひゃあ~!恥ずかしいのじゃ…よりにもよって、なんてことを……いや、まだ挽回できる……我の世界にと言い換えれば…なんとか、取り返しが……うむ、その手でいこう!よ、よし、実はな……って誰もいない……お、お、お主らぁ!われを放置するなぁ~!!」
自分の中で何とかつじつま合わせの言い訳を考えついて顔を上げたフェンリルは初めて浩介達がすでにいないことに気が付いた。
今度は違う意味で彼女の叫び声が響き渡った。
「…あっ、気付いたみたいね」
扉の外にまで響き渡るフェンリルの声に皐月が呟く。
「いいんじゃなぁ~い?」
ブラブラ歩きながら我関せずのリアに二人は苦笑する。
浩介は「…こいつこそ最低だろ」と心の中でツッコミを入れながら二人の後に続いて廊下を歩いていると中庭で騎士団の何人かが訓練を行っているのが目に入った。
どこかで見た服装だと思いながら歩いていると、その中で指示を出していた女性が浩介達に気付き声を上げる。
「団長ぉ~!何時、戻ったんですかぁ~。こっちは色々と大変だったんですよぉ~!!」
中庭で声をかけられたリアは少し感慨深げに訓練の手を止め、自分に手を振る部下達を見つめる。
その服装に二人もあることに気付いた。
「…なぁ、あの服装って…うぐっ」
皐月が浩介の口を塞ぎ静かに首を横に振る。
彼らの服装、その襟元の紋章には白狼……浩介達が最初に遭遇したこの世界の騎士団の証が縫われていた。
フェンリルの幻覚だったとはいえ部下達の悲惨な最期を見なければならなかったリアにとって彼らの姿は眩しく映っていたに違いない。
「ごめん、ごめん、元気そうじゃなぁい!うん!なら、ちょっと稽古に付き合ってあげよぉ~かぁ?」
笑顔で手を振るリアに訓練していた者達の手が止まる。
「……御免被ります」
その場にいた部下たち全員が首を横に振りながら険しい顔でリアに対して頑なに拒否をする。
その目は皆、マジだった。
ある者などガタガタと震えている。
「…どんだけなんだ?あの人かなり屈強そうなんだけど、あそこまで震えるってリア……お前って、もしかしてオニ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるリアに浩介は言葉を失う。
ただ、リアが嬉しそうな表情を浮かべていることは確かであり皐月と浩介は苦笑しながら顔を見合わせる。
「そんなぁ~、あんたたちあんまりだわぁ………じゃあ~、そんなに言うんだったら付き合ってあげるわぁ~よぉ!さぁつきぃ、悪いけどぉ~ちょっと遊んでくるわぁ~」
リアは手すりに手をかけると軽やかに中庭へと降り立ち、戦々恐々する部下達の和の中に無理矢理に入っていく。
リアの存在に部下達は悲壮な表情を浮かべて、あからさまにガックリと肩を落としている。
「うげぇ~、マジっすか?」
「勘弁して下さい!」
「副団長のばぁかぁ~!」
最初にリアに声をかけた女性が他の者達から大バッシングを受け、苦笑いを浮かべながら大声を上げる。
「やぁ~かましぃ!これが訓練なのよ!諦めなさい!」
優しげな微笑を称えながらリアは副団長の頭をガシガシと撫でると集まった部下達に悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「じゃあ、わたぁしがぁ稽古に付き合ってあげるから全員、順番にかかってらっしゃぁ~い!」
「えぇ~!!」
団員の悲痛な叫び声が中庭に木霊し、ブツブツと文句を言いながらも彼らはリアの元に駆け寄っていくのだった。
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今後とも宜しくお願い致します。




