其の3 闇に囚われし者
暗い話になっていきます
リアにとってはトラウマものです
けど、必要なんで作者は酒を飲みながら
ニヘラと笑うのでした
では、お楽しみください
ただ、がむしゃらに走り続けていた。
見慣れた景色が視界を掠めながらもリアは無心に主の無事を祈り続け、限界まで速度を上げている。
後ろを振り返る仕草ですら煩わしかった。
あの戦場で死に絶えた同胞達、浩介達には伏せてはいたが彼等はこの世界でも指折りの騎士の一団だった。
紋章の隅に描かれた白狼の姿は第一近衛師団の証であり、この世界の中でも最も優れた騎士達でもある彼らを束ねていた団長がリアであった。
その団長が不在ながらも前線で戦わなければならない状況となれば考え得る可能性は限られてくる。
皇都陥落、主の死、考えたくない最悪の状況が脳裏を過ぎり、リアは思考を前に進むことだけに集中する。
けれど、無残な死に様だった部下達の生前の顔が次々と浮かび上がり、怒りを堪えるように下唇を噛みしめる。
あの戦以来、久方ぶりに怒りに身を任せ剣を振るった。
その姿を神剣である雅は褒めてはくれたが…リアは自分を抑えきれなかった自分自身に情けなさを感じていた。
どのような利用であっても五護衆としての規律を重んじなければならないのは自らの振るう人外の力に定められた義務であった。
だが、リアは部下達を無残な死に至らしめた者達に我を忘れて斬りかかってしまった。
それは五護衆の名を冠する者にとっては在ってはならぬ事であり、その事は彼女も理解していた……否、つもりだった。
「…まだ、未熟だわ…だから彼等を死なせてしまった」
自責の念がリアの心に影を残す。
「必ず、私の護るべき世界を救ってみせる……」
決意を新たに更に速度を上げ神速の域に達する。
浩介達とは気配すら感じることの出来ないぐらいまで距離が開いてしまっていたけれど、待つつもりもなかった。
その時間すら勿体なかったのだ。
周囲の景色が霞み、風切り音は聞こえなくなり、誰人も知ることの出来ない静寂の空間が生まれ、彼女だけが見ることの出来る世界へと突入する。
遙か彼方に見える皇都周辺部に近付くにつれ、肌がピリピリと灼けるような痛みに不穏な空気を感じ取ったリアは眉間に皺を寄せる。
「……敵が近い」
速度を緩めることなく鞘から剣を抜き取り、正面に構えた状態で何処に潜んでいるのか分からないながらも存在する敵に対して周囲を警戒しながら走り続ける。
道なき道を駆け抜け続け、身体中擦り傷だらけになりながらも走り続けるリアの視界に小高い丘が見えた。
その位置ならば皇都が見渡せると判断したリアは進路を変えて小高い丘を目指す。
徐々に開けてくる森を抜けたと同時に逆光に視界を奪われたほんの一瞬、リアの意識がグニャリと歪んだ。
「……っ!?」
何かに気付き、地面を抉りながら数メートル先で立ち止まったリアは眼下に広がる光景に愕然となった。
「……嘘でしょ?」
その視界に広がる光景をリアは現実のものとして受け入れることが出来ず崩れるように膝を地面につけた。
燃えさかる皇都の周辺で磔にされた仲間達、彼等の首から上にあるはずのモノがなく誰なのか判別することすら出来ない。
流れた血と憎悪がリアの心を浸食していく。
「何故?…どうして?…うおぉぉぉ!」
現実を否定するかのように首を横に激しく振りながら天に向かって雄叫びをあげる。
叫び続けるリアの心に闇が舞い降りた。
どす黒い何かがリアの心を埋め尽くしていく。
〔理解できない……したくない…なぜ?これは現実?夢?私は今、何をしている?なぜ?なぜ?なぜ………憎い、全てが憎い、この世界を蹂躙する輩は私の………敵!〕
意識を駆け抜ける否定と拒絶、疑問……そして、残された自我は憎しみによって徐々に支配されていく。
「うおぉぉぉ…………」
突如、雄叫びが止む。
その瞬間、静寂が彼女の周りに押し寄せてくる。
天を仰ぎながら見つめていたリアの瞳が曇っていく。
その瞳に生気はなかった。
そして………リアは目の前の惨劇を無表情で見つめる。
彼女の瞳は深い闇に覆われていた。
「全てを滅する……【フェンリルの騎女】の名に賭けて私は私の護るべき世界を破壊した者達を許さない!」
使命に燃える言葉とは裏腹に無気力に起ち上がったリアは愛剣を持つ両手をダラリと伸ばし、無動作に勢いよく大地を蹴り上げ瞬時に神速へと速度を上げる。
けれど、あり得ないほど身体が重く感じた。
意識と身体が離別したような錯覚を感じながらリアは皇都へと向かい一陣の風となり近付いていく。
その視界に皇都を囲む城壁の前で馬に跨がった3人の人影が見え、彼女は彼らを敵と判断し叫び声を上げながら刃を向けた。
「貴様らぁ!死ねぇ!」
向かってくるリアに彼等は驚きの表情を浮かべた。
何故、襲われているのか、まるで理解できていない様子の三人にリアの口許が微かに歪む。
「簡単だ……」何故かリアはそう思った。
その刃が血肉を求め踊り狂う。
馬の首を舐めるように切り落としたリアは、その勢いで投げ出された敵の喉元に流れるように、その刃を向けた瞬間。
〔止めるのです、リア!それは味方です!〕
聞き覚えのある女性の声にリアの刃は敵の喉元で止まる。
微かに、その喉元は血に滲んでいた。
紙一重だった。
あと一歩、刃先を前に進めていたら確実に息の根を止めていた筈であった。
けれど、リアは意識に語りかけてきた声に無意識のうちに服従していた。
「……フェンリル様?」
なにが起きたのか分からず喉元に刃を当てたまま、立ち尽くすリアの意識に主であるフェンリルの声が響き渡る。
〔……少し眠りなさい〕
その瞬間にリアの視界がグニャリと暗転し、彼女の意識を奪うと彼女の身体は力無く地面に倒れ込んだ。
「…フェン…リル……様?」
なにが起きたのか分からずに薄れていく意識の片隅で、自分の名を呼びながら心配そうに駆け寄ってくる敵と思っていた者達の姿を見つめながら彼女は意識を完全に失った。
ただ、「……皐月だったの!?」とリアは刃を向けた彼女の姿を認識し驚愕するのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマ、評価が増えてました(*゜▽゜)ノ
感謝に堪えません。(*´ω`*)
今後とも、宜しくお願い致します。




