其の17 契約の真意
腹黒どSのエルズさん
セレスを陥れ浩介との契約にこぎ着けたけれど…
実は……
では、お楽しみ下さい
エルズ立ち会いのもと浩介とセレスはテーブルを挟んで向かい合わせに契約の準備を進めていた。
腹黒女のエルズの策略に嵌められ、セレスは精霊にとって最も重要な契約を浩介と行おうとしている。
「…本当に主従契約を……いえ、何でもありません」
エルズの瞳にセレスは黙る。
今、この場には契約者の浩介、立会人のエルズ、そして虚ろな瞳でこの世の終わりを実感するセレスの三人しかいなかった。
泣きすぎて腫れぼったい顔をした雅を見かねたニルが洗面所へと付き添って出て行き、残りの二人はエルズによって半ば強制的に追い出された。
「精霊との契約は他人に見せるモノではないですから部外者は出て行ってもらえるかしら?」
また、何か良からぬ事を考えてるのではと想像する二人を笑顔という名の脅迫で追い出してしまったのだ。
「絶対、なんか裏があるわよ……」
訝しげにブツブツと文句を言いながらも素直に出て行く皐月の傍を付き添うように歩くリアも苦笑いを浮かべる。
「だよねぇ~。あの目をした母様はきっと私達に知られたくないことをついでにやらかすよぉ」
母親の性格を嫌というほど理解しているリアはチラリとセレスをみると彼女を哀れむような瞳で見つめた。
「…その目は止めて下さい。空しくなってまいりますわ」
セレスはガックリと項垂れる。
バタンッ。
扉が閉まると先ほどまで笑みを浮かべていたエルズの瞳が真面目なものへと変わり二人を見つめる。
「まず、契約の前に浩介に確認しなければいけないことがあるから正直に答えてね」
エルズの瞳の真剣さに思わず浩介は頷く。
「あなたの意識には護印された記憶があるわね。それも、帝の意識を飲み込むほどの……」
「なんで、それを!?……あっ、あの時か!」
エルズに手を差し伸べられた時に感じた違和感を思い出した浩介の表情に彼女は小さく頷いて答える。
「まさか、そんな記憶の保持者とは思ってなかったんだけど…アレを見てしまうとね。無理矢理でも契約を結ばせないと後々、取り返しの付かないことになるかもしれないでしょうから…」
二人の会話についていくことの出来ていないセレスは釈然としない様子でエルズに問いかける。
「わたくしにも説明をして頂いてもよろしいですか?」
事の重大さはエルズの表情で察することが出来る。
ただ、この理不尽な契約がどれほどの重要性があるのかがセレスには判りかねていたのだ。
「そうね。今回の契約は将来的にこの次元に存在する全ての世界に関係してくる話になるでしょうからね」
エルズの言葉にセレス瞳を見開く。
「…この次元、全てですか」
セレスは何かしら考え込みながら呟く。
「浩介様は他の次元の世界の方でいらっしゃいましたよね……となると帝の一族の歴史はご存じないというわけですね」
グレ記憶で争い前の状況ならば知ってはいるがグレンデルの意識自体が失われた時点で彼は不都合な記憶となる護印絡みの記憶を浩介には与えなかった。
「グレンデルは俺の中の護印された記憶とそれに関する知識を与えずに……違うな、教えずに消滅したから俺の記憶はグレンデルの与えてくれた主観の記憶しかないな」
浩介の言葉にセレスとエルズは顔を見合わす。
「やはり、帝と世界の創成が関係しているようですわね……エルズ殿は何処まで知っておられるのですか?」
眉間に皺を寄せながらエルズは自分の考えが正しかったことに少なからず失望感を感じていた。
「…わたしもエルフ界の伝承としてでしか前の長から聞いてないのだけれど記憶に護印を持つ者に協力し助力を与えろとだけ……それがこの次元に存在する全ての世界を救うことになると……」
エルズにも確かなことが判らないようであった。
ただ、伝承に従い精霊界の皇女であるセレスと主従契約を結ばせることが、この世界を救うことになると信じ一芝居を打ってセレスに契約まで持ち込ませたのだった。
「エルズ殿に騙された感は否めませんが、そういった状況では協力しないわけにはまいりませんね。では浩介様、左手をこちらに」
そういってセレスは浩介に左手を差し出すよう促す。
何が起きるのか分からずに浩介は怖ず怖ずと左手をセレスに差し出すと彼女は両手で包むように覆って瞳を閉じ詠唱を始めた。
「我、精霊界の皇女たるセレス・コレーが命ず。汝を主と仰ぎ、我は汝の従者となす。汝の助けとなり汝が望む力を、汝の求めに応じ行使せんとする。汝との破棄もしくは死別するまで遂行することを精霊の御名において契約す……」
セレスの詠唱に合わせるように浩介の左手に白い光が輝き始め彼の薬指に指輪が具現化される。
「それが契約の証である主従の指輪です。わたくしと契約するということは浩介様……いえ、主様は精霊界全ての属性の精霊を従えることとなります」
シンプルな平打ちのシルバーの指輪の表面にはびっしりと文字が打ち込まれており、それを見つめながら「…結婚指輪みたいだな」と思わず心の中で呟いた。
「そうですわね、それに近いモノと思って頂いて貰って構いませんわ。夜毎の相手をしろと言われれば……わたくしは、誠心誠意をもってお相手をさせて頂きます」
心底、嫌そうな表情を浮かべながらセレスは恭しく頭を垂れる。
「…そんな、嫌そうな顔をするなよ。落ち込むだろう……ってか、いま俺の考えが判ったのか!?」
口に出してはいなかったはずの心の呟きに答えたセレスを見つめると彼女は小さく頷いた。
「意識で思われたことは指輪を通してわたくしにも知ることが出来ます……ので、自重をなさって頂けると助かります」
更に眉間に皺を寄せ哀しげなため息をつく。
「浩介は変態のようねぇ。このような年端もいかぬ少女に夜毎の相手をさせようなどと思われていたなんて、哀しいわぁ……お仕置きが必要だなんて」
セレスの表情にエルズは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、胸元から黒革の鞭を取り出し鞭の感触を確かめるように何度も引っ張る。
「…スイマセンでしたぁ!?」
理不尽ながらも死の予感を感じた浩介は両手をつき「ゴンッ」と勢い良くテーブルに額を擦りつける。
「あら?残念だわ……精霊界の皇女の主を奴隷に出来れば世界全てが私のモノだったのに……ふふふっ、冗談よ」
呆れた表情で恍惚とするエルズを二人は見つめる。
「…冗談に聞こえないんだが」
「わたくしも、そう思いますわ……」
微笑を浮かべ鞭を弄ぶ彼女を二人はジト目で見つめながら不安を感じ深いため息をつくのだった。
読んでいただきありがとう御座います
今後とも宜しくお願いします
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