其の13 戦乱の序章
リアが五護衆らしくなります
少し真面目に軌道修正中
けど、何処まで続くのやら……
エルズの話ではリアが業罪の皇女の元へと向かった時期とほぼ同時期に常闇の世界の使者が訪れたらしい。
「じゃあ、私を襲った奴らは常闇の世界の手の者だったのねぇ……道理でしつこいと思ったのよぉ」
リアはゲンナリしながら神器を運んでくる際の襲撃を思い出し「うげぇ」と舌を出しながら嫌な顔をする。
「でも、おかしいわね。意思造りの世界ならいざ知らず、常闇の世界とフェンリルの世界は相性が悪いはずよ。全く正反対だから神器の力は意味ないはずだし」
浩介が取り込んだグレンデルの意思を納めた神器は主に意思造りの世界に対して牽制するためであった。
誰もが意思造りの世界が侵攻してきていると思っていたのだが、その予想に反して侵攻してきたのは常闇の世界だったため世界の理を知る者達は首を傾げていた。
「どうやら、常闇の世界でも浩介と同じ帝の意志を継ぐ者が現れたらしいわよ……まぁ、事実かどうかは分からないけど侵攻してくるということは信憑性があるのかもしれないわね」
腕組みしながらエルズは可能性を示唆する。
それが事実であるならば相性の悪い相手でも問題ない。
統治者達の血脈の理の本流は帝の人格に由来するものであり、帝の理は世界の理に他ならない。
異世界の住人と同じく理に左右されないのだ。
「…やっかいねぇ。浩介、行き先を変えるなら早いほうがいいわよ。万が一、辿り着いたときに争いが始まってたら目も当てられないから」
ようやくソファに座ることを赦された浩介は、腕組みしながら考え始めるが彼の知識は三百年前で止まっているため今の多重世界の状況がイマイチ掴めないでいた。
けれど、行くべきだと直感が告げていた。
「う~ん、行った方が良いんじゃないかな?ほら、だってお前は一応は中心の世界の皇女だろ?だったら行く義務があると思うんだ」
多重世界の中心の世界、他の世界との均衡を保つ役割も担っていると前に皐月に聞いたのを思い出したからだ。
浩介の言葉に息を飲む皐月の表情は硬かった。
中心の世界の皇族の義務、それが皐月の心に重くのし掛かってくるためだ。
「どうするの?私は一人でも行くわ。意思造りの世界を経由してでも私が護るべき世界に帰るつもりよ」
リアの口調はいつもと違い自分の意思を明確にしていた。
その瞳も柔和なものではなく真剣味を帯びている。
だが、皐月は静かに首を横に振った。
「あいつの世界からは多分、無理よ」
その言葉に怒りに満ちた表情で立ち上がる。
「なんでぇ!ここに来るときの許可証明があるわよ!」
バンッ!
胸元からクシャクシャになった許可証を取り出しテーブルに叩きつけながら皐月に見せる。
「よく見なさい。許可されたのは行きの通行のみでしょ?アイツのことだから情報は仕入れてるはずだし、もしかしたら常闇の世界と勝手に条約を結んでる可能性もあるわ」
予想の範疇ではあるが意思造りの皇子の正確ならば、それ以上の謀略を企てている可能性すらある。
悔しそうにリアは許可証を握りつぶす。
フェンリルの世界の最高戦力でもある五護衆のリアが不在であるならば侵攻も容易くなる。
それも謀略の可能性の一つでもあった。
「今の段階だとまだ侵攻してはいないでしょうけど決断するなら早いほうが良いわよ。精霊界には私から話は通しておくけれど貴方達はどうする?」
娘と皐月の話を瞳を閉じて聞いていたエルズは静かに瞳を開くと周囲を見渡し当事者達に委ねる。
「私は今すぐにでも行きたい!」
リアは即答する。
「そうだな、常闇の世界の帝の意志を継ぐ者にも興味があるから俺もリアの意見に異論はないよ」
自分と同じ境遇の存在がいることに興味のある浩介もリアの意見に賛成する。
「妾は主殿の行く所について行くだけじゃ」
「私も従者兼皆様の護衛ですから異論はありません」
今まで何も言わずに聞いていた二人も賛成する。
ゆっくりと周囲を見渡し彼等の意見を聞いたエルズは最後に考え込んでいる皐月へと視線を向けた。
「なら、後はあなたの判断次第ね。私は先に戻って段取りをするからエルフ界にきたら声をかけてくれればいいわ……もし、気が変わったなら私の世界とを繋ぐ空間を遮断してくれれば問題ないから」
エルズの最後の言葉は皐月には厳しく聞こえるが、一世界の皇女としては的確な判断だと思った。
同胞を危険に晒すわけにはいかない。
それは世界を司る者として当然の義務だ。
その強い意志がエルズの言葉から感じ取れた。
自分の言い分を言い終えたエルズは考え込んでいる皐月の答えを待たずに立ち上がると颯爽と立ち去っていく。
「待って、エルズ……行くわ。争いを止めることの出来る可能性があるなら私は行かないといけない…それがこの世界を創り上げてしまった私の責任だから」
背後からの決意の声が聞こえると歩みを止め、エルズは後ろを振り返り声の主を見つめる。
「ふ~ん、いい目をするようになったじゃない」
真っ直ぐに自分を見つめる決意に満ちた皐月の瞳にエルズは微笑を浮かべ小さく頷くと踵を返し歩き始める。
「じゃあ、待ってるわね」
片手をヒラヒラと振りながら靴音を響かせ去って行くエルズを見送りながら皐月は決意を新たに皆に視線を移す。
皆は皐月を見つめしっかりと頷いてくれた。
言葉などは必要なかった。
「それじゃあ準備ができ次第、エルフ界に行きましょう」
取りあえずニルは旅支度をするため馬車へと向かい、皐月は二階の部屋へと戻っていった。
残された浩介はチラリと視線をリアへと向ける。
いつものリアからは感じられないぐらいの決意に充ちた瞳を浮かべ、握りしめる両手にはかなりの力が込められ微かに震えている。
ただ、浩介にはその姿が焦っているようにも見えた。
刻、一刻と過ぎゆく時間の中で主の危機に何も出来ない自分の存在に怒りすら覚えているようだった。
〔主殿、彼奴は余り良くない状況じゃ……このような者が無理をして死んでいく姿を妾は何度も見てきた〕
リアに気付かれぬように直接、意識に語りかけてくる雅に微かに頷きながら答える。
神剣と呼ばれ幾人もの主と共に戦に赴いてきた雅の言葉には経験による現実感があった。
〔…注意しててくれ。俺は誰も死なせたくない〕
〔うむ、そうじゃな……妾は皆が大好きじゃ。誰一人、欠ける事なく最後に笑い合いたいものじゃ〕
浩介は雅に視線を向け頭を優しく撫でてやる。
「リア、ここにいても何も変わらない。俺達も準備しよう。そして必ず戦を止めてやろう」
浩介の言葉にリアの視線が彼を見つめる。
「……ありがとう、こうすけ」
そして、リアは微笑みを浮かべ礼を言った。
「…っ!?」
それはリアが初めて見せた素の表情だった。
その事に気付いた浩介は一瞬、驚いた表情を浮かべたが彼は雅の頭を撫でながら、それに答えるように微笑み返し小さく頷いてみせるのだった。
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今後とも宜しくお願いします。




