其の11 エルフ界の使者
屋敷に戻ると何やら慌ただしく女中達が走り回っており、浩介達を見つけた瞬間、安堵の表情で駆け寄ってきた。
「あぁ、良かった。お戻りになられたのですね」
息を切らしながらも綺麗なお辞儀をする辺りさすがとしか言いようが無いのだが、その慌てぶりに首を傾げる。
「なんかあったのか?」
代表して浩介が尋ねる。
「はい、エルフ界から使者の方が突然来られまして…その対応に屋敷中で追われております」
正直、意味が分からない浩介だったが一人、青ざめた表情を浮かべる者がいた。
「…この慌ただしさ……まさかとは思いますが長老様がいらっしゃったんじゃないですよね?」
青ざめた表情のニルの問いに女中がコクリと頷く。
その瞬間、ニルの青ざめた表情が蒼白に変わる。
「ちょっと失礼します。用事を思い出しました」
帽子を深く被り直し、スカーフを鼻先まで覆いながら逃げようとするニルを浩介が引っ張り寄せる。
「ちょっと待て……何故、逃げようとする?」
嫌な予感が浩介の脳裏を過ぎる。
「い、いえ何でも御座いません。本当に用事……あっ、馬の世話がまだでしたので……見逃がして下さい」
常識人のニルが言い訳してその場を去ろうとする。
若干、震えてもいる。
「主殿、ニルのこの怯えようはただ事ではないのじゃ……嫌な予感しか浮かばないのじゃ……」
本能で何かを察した雅もニルの様子に危険を感じる。
ここまでニルが怯えるのはただ事ではない。
「なぁ、長老様って?」
どうやら観念したのかガックリと肩を落とし振り返るニルの瞳は涙目だった。
「長老様というのは多重世界では血脈の一族にあたります。ようはエルフ界を統べる一族の長になります」
今まで見たことのない怯えように浩介の脳裏に何故か皐月の姿が浮かんでいた。
「あいつみたいなもんか……やっぱ、皇族って似てくるんだな。ニルも大変なんだなぁ」
震えるニルに同情の瞳を浮かべるが彼女の瞳は浩介の背後の存在に気付き慌てて視線を逸らし後退る。
「……誰のこと言ってるのかしら?」
背後の声に身体がビクッと反応し恐る恐る振り返ると頬をピクピクと震わせながら皐月が立っていた。
「うわぁ!?……やばい」
その表情に後退りする浩介に皐月はにっこりと微笑む。
「…うむ、手遅れじゃな」
気が付けば傍にいたはずの雅が遠くで哀しげな瞳を浮かべ、その頭をニルが優しく撫でている。
ジャラジャラ。
床を這う鎖の音が近づき勢いよく跳ね上がった瞬間。
ゴツッ!
激しい衝撃音と共に浩介の身体が吹っ飛んだ。
綺麗な曲線を描きながら床に叩きつけられる。
「ぐはぁ!」
一瞬、死後の世界を見た気がした。
カツン、カツン、カツン。
腹を押さえながら蹲る浩介にゆっくりと近付いてくる足音、その音が彼の頭上で止まる。
「此奴が帝の意志を継ぎし者か……」
皐月とは全く違う声がした。
蹲る浩介の視線の先にかなり高いピンヒールの黒革のロングブーツが飛び込んでくる。
「…っ!?」
驚きながら徐々に視界を上げていくと身体のラインがハッキリと分かる黒のレザースーツに身を包んだエルフの女性が見下ろしていた。
彼女の瞳はニルと同じ緑色ではあったが、その瞳は切れ長で何者にも屈しない意志の強さをヒシヒシと感じられた。
瞳と同じ緑色をした髪は腰まであり根元部分で高そうなシルバーの髪留めで束ねている。
「……どなたでしょうか?」
一見してSっ気の強い女王様にしか見えない彼女に素性を尋ねたが内心では誰なのかは大方の予想が付いていた。
「うん?私か?私はエルフ界を統治する一族の長、エルズ・キルケだ。お主がこの世界の帝の意志を継ぐ者だな」
予想通りの答えと同時にニルが怯える理由が分かる気がした……彼女は明らかに皐月寄りの存在だと本能が告げていた。
「浩介と言います。あっ、どうも」
微かに微笑みながら右手を差し出す彼女に痛む腹を押さえながら差し出された手を握り立ち上がろうとする。
「…うん?わっ!?」
彼女の手に触れた瞬間、立ちくらみを起こした浩介はふらつきながら頭を押さえた。
妙な違和感を感じた。
心の奥深くまで見据えられるような奇妙な違和感、その感覚が浩介の意識に浸透していく。
「ふむ、お主は全く異なる次元の世界の住人なのだな。興味深いのだが……これ以上、お主の意識に踏み込むとあやつに怒られてしまうな」
エルズは少し離れた場所で鎖を強く握りしめて臨戦態勢で睨みつける皐月を横目に微笑を浮かべながら浩介から手を離す。
「そうね、それ以上は世界観の機密に拘わるわね」
握りしめていた鎖を緩め少しふてくされた表情を浮かべる皐月にエルズは何かを感じ取ったのか口元を歪ませながら悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふふっ、面白い」
エルズは浩介の腰をぐいっと引き寄せる。
次の瞬間、浩介を自分に引き寄せ強引にキスをした。
「なっ、なっ、何してんのよ!」
突然のその光景に頬を赤らめながら皐月が叫ぶ。
「んぐっ、なにを!?うわぁ~」
抵抗する浩介を更に引き寄せ自らの舌を絡ませる。
かなり濃厚なキスに皐月の頬が更に赤くなっていき鎖を握る手がプルプルと震え出す。
「また、悪い癖が出てしまいましたね……」
遠くで見つめていたニルがため息をつく。
「なんじゃ?悪い癖とは?」
雅はキョトンとした表情を浮かべ、小首を傾げる。
「人様の物を奪うのが好きなんです……」
略奪好きの皇女様……それがニルが怯える原因の一つでもあり、その見た目通りのどSの性格にどれだけ掻き回されたことかとニルは背筋に寒気が走るのを感じながら項垂れるのだった。
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