其の8 最凶女中の暇潰し
誘致者達の勧誘を退けながら浩介達は中心の世界の駐屯所のある建物の前へとやってきた。
「皐月お嬢様、ようやくいらっしゃいましたか?その粗大ゴミはゴミ箱に捨てるか処分して下さい。なんなら燃やしますが?」
都市の入り口付近で騒ぎになっていたのが知れ渡っていたのか、建物から関係者らしき女性が優雅なお辞儀と共に浩介達を迎え入れてくれた。
だが彼女の疑問系に満ちた毒舌を聞いた瞬間、浩介達は彼女から離れた場所で不意に立ち止まってしまった。
「なに?私、昼間っから悪夢でも見てるの?」
「安心しろ、現実だ。俺の目にも見えている。ただ、悪夢の方が目覚められるから、なんぼかマシだと思うが……」
「…彼女は何がしたいんでしょうね」
「五護衆はあんな馬鹿ばかりなのかぇ?」
どこかで見たことのある容姿に全員が呆れ返る。
気付かない振りをしよう。
言葉に出さずともその考えに全員が辿り着き無言のまま小さく頷き同意する。
けれど、そんな彼等に対して鎖に縛られたまま地面に平伏していたリアは顔を上げるとその姿に気付き、嬉しそうな笑顔を浮かべ声をかけようとした。
「あぁ~!ミユっ…………ぐへぇあ!?」
空気の読めないリアの後頭部を容赦なく踏みつけ黙らせる皐月に浩介は雅の頭にポンッと手を置くとボソリと呟いた。
「いいか、雅。場の空気を読めない奴の末路をよく見ておけ。お前は決して同じ轍を踏むなよ」
地面に頭を埋没させながら身体をピクピクと痙攣させるリアを哀れみの瞳で見つめ雅は小さく頷く。
「……うん、分かったのじゃ。妾はこのような悲惨で哀れな末路を辿りたくないからのぅ」
素直に頷く雅の頭を優しく撫でながら、いつ来るのかとソワソワと突っ込みを待っている女性、ミユルの対応をどうするかに浩介は頭を悩ませることになった。
「あれ、間違いなくミユル様ですよね」
空気の読める従者が小声で二人に声をかける。
二人が静かに頷く。
「さて、どうするか?」
浩介は頭を悩ます。
「あの雰囲気だと驚いてあげると調子に乗るわね」
満面のしたり顔のミユルをジト目で見つめる。
「でも、このままというわけにはいきませんよ」
思案下に立ち尽くす二人に常識人の従者が瞳を細めながら小声でひそひそと話しながら打開案を模索している。
「…いっその事、殺っちまうか」
物騒な発言まで飛び出してきた。
「…行くしかなかろぅ。彼奴の笑みは見ているだけでイライラしてくるのじゃ。存在自体を無視すればよかろぅ」
立ち尽くしたままの三人の背中からミユルを覗き見しながら至極まっとうな意見を雅が口にする。
「そうね、それが一番かもね」
額に手を当て皐月はため息混じりに呟く。
「…そうだな」
「ですね…」
項垂れながらトボトボと浩介達が彼女に近付いていく。
満面の笑みを浮かべ彼等の驚く姿を期待していたミユルは近付いてくる彼等の想像外の行動に目をぱちくりとさせる。
ミユルの存在をガン無視して通り過ぎていくのだ。
「皆さぁん?あれっ?どうしましたか?お~ぃ、皆さん驚くところですよぉ」
棒読み丸出しの彼女の単調なトーンの声を聞きながら全員が無言で通り過ぎるという意外な展開になってしまったミユルが扉の前で立ち尽くす。
バタンッ……ガチャ。
扉が閉まり鍵のかかる音だけが響き渡った。
「……その手で、きましたか」
鍵を閉められたことに気が付いたミユルはゆっくりと後ろを振り返る。
ガチャ………ドーーーーン!
振り返ったミユルにタイミングを合わせたかのごとく扉が開き、簀巻きになったリアが勢いよく彼女に衝突する。
「いたい……」
突然のことに尻餅をつきながら痛がる彼女を見下ろすかのように扉の前に仁王立ちする皐月の鬼の形相に思わず身震いする。
「……二人で屋敷に帰れ」
バタンッ!
勢いよく扉が閉まり、屋敷前に二人は取り残された。
「……やれやれ、冗談だったんですが。少しテンションが上がりすぎたみたいですね…お恥ずかしい」
恥ずかしくもない様子で呟きながら傍で倒れているリアを汚いものでも見るかのように見つめ眉を顰める。
「粗大ゴミと同じ扱いですか?心外ですが、まぁ良いでしょう。このゴミは放置でも問題ないと思いますが……」
服に付いた汚れを払いながらため息混じりに立ち上がるとユミルはヒョイッと片手でリアを持ち上げる。
「まぁ、当初の用事は済ませていますので問題はないでしょう。さてと、それでは屋敷に帰るとしましょうか。それにしても邪魔でしかたないですね……この粗大ゴミは…屋敷にも要りませんし」
ユミルは軽く片手を振り、目の前の空間を歪ませると開いた空間に簀巻きにされたリアを投げ入れる。
「うわぁ!?リアが降ってきたのじゃあ!?」
扉の奥で雅の叫び声が聞こえたのを確認したユミルは新たに別の空間を歪ませ空間を手早く広げる。
「粗大ゴミも処分できたことですし、屋敷に帰って女中達の躾でも行いますかね。では皆様、ごきげんよう……」
バンッ!
勢いよく扉が開き皐月が飛び出しながら、かなりの速度で鎖を飛ばしてくるのを満面の笑みで見つめながら優雅にお辞儀をする。
鎖の先がミユルに届く寸前に空間は閉じられ、鎖は当てもなく空を切リ去る。
「…なぁ、あいつ何をしにきたんだ?」
呆れた表情を浮かべながら呟く浩介にイライラした様子の皐月は「きぃぃー!」と意味不明な叫び声を上げながら鎖を床に叩きつける。
「……単純に私達をからかいに来ただけだと思いますよ」
深々と帽子を被りながら呟く従者に雅も頷く。
「じゃな……よっぽど、暇だったようじゃ」
そして三人は空に向かって叫び続ける皐月を見つめながら深いため息をつくのだった。
読んでいただきありがとう御座います。
これからもよろしくお願い致します。
(o_ _)o




