其の7 自由都市【バルクナール】
その後、旅は順調に進み魔物との遭遇も思っていたよりは少なく目的地でもある時空の裂け目が多発する森へと辿り着いた。
多発すると言っても目に見えるわけではなく【神隠し】が多発する場所を指し示している。
更に消えるだけでなく発生もする。
だが、普通の人々には彼らが異世界の住人であると判断することは出来ないが、血脈の力を持った者や同じ異世界の住人であるならば感覚的に判断することが出来る。
「…着きました」
馬車が静かに止まり、従者が声をかける。
馬車の停止した場所は異世界の住人達が多く住む場所であり、多重世界の各駐屯所が並び立ち、なかなかの賑わいを見せていた。
この場所は中心の世界に属してはいるが帝の統括地として完全中立を維持しているため、この場所では血脈の理は意味を成さない。
例え、意思造りの皇子といえど自由に自分の思惑通りの世界を想像することは出来ず異世界の住人の意思によってのみ世界を選ぶことが出来る。
そのため各世界の統治者達は駐屯所を作り優秀な者達を配備し異世界の住人達の勧誘に余念がない。
常に何組かの旅団が随時待機しており種族も様々で、その光景は歓楽街のような活気に満ちていた。
「なんだこりゃあ?」
馬車を降りた浩介はアングリと口を開け、グレ記憶にはない光景に茫然とするしかなかった。
それは当然のことだった。
グレ記憶は争いの終結までしか知識がなく、その後の多重世界の事までは記憶にないからだ。
今まで利用され続けた異世界の住人達がここまで待遇がよくなったのは偏に業罪の皇女の力が大きい。
彼女は各世界の統治者との和平終結を行うと共に神器による他世界侵攻を牽制する手法を用い、血脈の理に左右されない住人達の権利を尊重する場所を作り上げた。
それがこの場所であり、各世界の者達が自由に交流する事の出来る都市、自由都市【バルクナール】だった。
この都市には各世界の優秀な誘致者達が闊歩している。
一人でも多くの異世界の住人を自分たちの世界に誘致するために瞳を光らせ声をかけまくっている。
浩介達に近付いてくる誘致者達が徐々に増えてくる。
彼らの狙いは雅だった。
「…すごい人の数じゃ。なんじゃ!?妾は主殿に忠誠を誓っておる!近付くでない!あぁ、もぅ!誰じゃぁ、どさくさに紛れて妾の胸を触るのはぁ~。主殿、助けてじゃぁ~」
雅の存在に気付いた各世界の誘致者達がワラワラと彼女の周囲を取り囲み勧誘しに来る。
鬱陶しそうに声を張り上げながら涙目で浩介の影に隠れる雅の頭を撫でながら苦笑する。
「すげぇなぁ、みんな必死だ」
誘致者達の熱気に浩介はしばし見とれる
「でしょうね。この森に時空の裂け目があることは知っていても、どの世界に辿り着くか分からない可能性に賭けるよりも辿り着いた異世界の住人を勧誘する方が効率が良いからね……それより、リアぁ!何やってんのよ!」
鎖が誘致者達の隙間を縫いリアを縛り付ける。
「でへへぇ、雅のお胸ってば柔らかぃ」
五護衆の一人であるため誰もが認知しているリアには誰も声をかけないことを良いことに誘致者達の影に隠れてここぞとばかりに痴女ぶりを発揮したリアを皐月は見逃さなかった。
ちなみにどさくさに紛れて雅の胸を揉んだのがリアで有ることは言うまでも無い。
「………何が起きたのですか?それより皐月殿は何故この場所で血脈の力を使うことが出来るのですか?」
馬車を指定の繋ぎ場に預け、皆に合流した従者が瞳を見開きながら驚いた表情でリアを縛る鎖を見つめる。
「あぁ、これ?普通の鎖よ。この娘を縛るのに血脈の力なんて一切、使ってないけど?」
縛られたリア以外の三人は皐月の言葉にポカァンとした表情を浮かべ立ち尽くす。
「あの鬼は本物じゃ。本物の鬼じゃ」
震えながら浩介の背中に隠れたまま恐怖の表情を浮かべる雅と唖然とする従者と何故か目が合い彼女も頷いた。
「そうですねぇ。あの人混みからリア様だけを狙い縛り付けるなんて人外の者でなければ不可能だと思います」
浩介の目には皐月の鎖の犠牲になってる誘致者達が何人かいるのに気付いてはいたが敢えて見ないふりをする。
拘わると碌な事にならない。
ピクピクと瀕死の状態の彼らに手を合わせ冥福を祈る。
「…うん、犠牲になった方々ホントにごめんなさい。でも、俺らも死にたくない」
浩介の言葉に二人は無言で頷く。
鎖に縛られ皐月の元に引き寄せられていくリアは雅の胸の感触を楽しむかのように両手をニギニギしながら嬉しそうにしている。
遠くから冷めた目で見つめる群衆からは「…あれが痴女と名高いリア様」、「情けない…」、「五護衆の威厳がぁ」等、様々な嘆きと軽蔑が入り交じった囁き声が聞こえる。
「さぁ、行きましょうか?」
リアを引きずりながら近付いてくる皐月に三人は視線を逸らし足早に彼女から離れようとする。
関わり合いになりたくない、三人の共通認識が一致した瞬間だったが、皐月の「あぁ?」的な殺気を感じとり、それぞれ三者三様の深いため息をつく。
「逃げれば殺される……みんな、諦めよう」
浩介の言葉に失意のどん底に落とされる雅と額に手を当て自分の使命に悩む従者だった。
いつも読んで戴きありがとう御座います
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