其の6 無意味な鎖はどSの恋心
遠のいていく景色を眺めながら浩介は今後のことをボンヤリと考えていた。
この世界にきてまだ一ヶ月ほどしか経っていないはずなのにグレ記憶の影響なのか、浩介はこの世界に違和感なく溶け込めているような気がした。
ゆっくりと走り抜けていく煉瓦造りの街道、見るモノ全て初めての筈なのにどこか懐かしく感じる。
「なんだろうねぇ……最初の頃は何が起きてるのか分からずテンパってたけど今じゃ当たり前だもんなぁ」
同乗者達を横目に見ながら(若干、一名は未だ床に転がって悶えているのだが……)ボソリと呟く。
「何をブツブツ呟いてるのじゃ」
新たな名を従者から与えられ、ご機嫌な様子の雅は景色を眺めていた浩介の傍に近づき不思議そうに見つめる。
「何でもないよ、雅」
そう言って雅の頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細め浩介の肩に寄り掛かってくる。
ジャラ。
「はぁ……」
雅が寄り掛かってくると首から伸びた慣れ親しんだ聞き覚えのある音にため息をつく。
「そういえば主殿、ずっと気になっていたのじゃが……何故、彼奴に鎖で縛られておるのじゃ?」
鎖を握る鬼、もとい皐月をビクビクしながら横目でチラ見し聴かれないよう浩介の耳元に唇を寄せてくる。
少し擽ったいのと雅の甘い吐息に浩介の頬が恥ずかしさの余り赤くなるのが自分でも分かった。
口調や行動は子供じみているが身体は十分成熟した大人であり、何より雅が寄り掛かってくると柔らかいモノが浩介の身体に密着するため照れるなと言うのは無理な話である。
そんな照れた姿をリアが目敏く見つけた。
「こぉすけ~、わたしのときはそんなに照れないくせにぃ~みやびっちには照れるんだぁ~。お姉さん哀しいわぁ」
リアはわざとらしく鳴き真似をしながら嘆く。
密着頻度は確かにリアの方が圧倒的に多いし、痴女の名に恥じぬほどエロいことは間違いないのだが浩介は小さくため息をつく。
非日常に………慣れてしまった。
最初の頃は朝、目覚めると素っ裸のリアが浩介を抱き枕にして寝ているときは自分の記憶を疑ったものだ。
そして皐月が浩介を起こしに部屋に入ってきた瞬間、浩介の部屋が修羅場になるのが朝の日課となっていた。
なので、リアに欲情=修羅場が浩介の意識を占め彼女に照れることがなくなったが、この間のようにいつもと違う雰囲気にはさすがに照れてしまったのでまだまだ未熟ではある。
話が逸れてしまったが、わざとらしく泣き真似をするリアを無視しながら浩介は雅を身体から少し離し真剣な瞳で見つめた。
何故、鎖で縛られているのかの雅の問いの対する答えを真面目に考えた結果、浩介は一つの結論に至った。
「実はな俺にもよく分からん」
「へっ?」
キョトンとする雅に浩介は首元の鎖をジャラジャラと鳴らしながら静かに首を横に振る。
実際、何でいま鎖で縛られているのか理解できない。
確かに雅を身代わりに逃げようとしたが、その制裁は顔面の腫れ具合で分かるようにきっちりと終わっている。
縛られる必要性として空間転移の際に血脈の力を共有するために必要なことは分かるのだが、今の状況では明らかに必要性を感じない。
〔じゃあ、なんでだ?〕
頭の中で疑問が浮かび首を傾げる浩介の真似をするかのように雅も釣られて首を傾げる。
その疑問を解決できるのは一人しかいないのだが何故だか当の本人は機嫌が悪そうだった。
『君子危うきに近寄らず』名言である。
そのため浩介は優しく雅の頭を撫で、遠い目をしながら諦めた表情を浮かべ諭すように呟いた。
「触れちゃイケないこともある…分かるな、雅」
「……うん、妾も死にたくない」
身震いしながら青ざめた表情で素直に雅は頷く。
どうやら、恐怖を思い出したようだった。
そんな、二人の様子を眉間に皺を寄せながら見つめていた皐月は少し強めに鎖を握りしめる。
二人の会話は鎖を通して皐月に伝わっている。
「アンタが鈍感だからよ……ばかっ」
最後は声にならない小さな呟きで俯くように下を向く。
少し耳が赤くなっていることに誰も気付かない。
だが、皐月は忘れていた。
俯いた先にいる存在のことを……。
「…あっ!?」
ニヤニヤしながら見上げるリアと目が合った。
「うん、うん、内緒にしていてあげるね。恋する乙女は複雑だものね」
胸元で腕を組みながら小さく頷く。
「しまったぁ……」
額に手を当て項垂れる皐月に浩介達が視線を向ける。
「どうした?」
浩介が不思議そうに見つめてくるが恥ずかしさの余りに顔を上げることが出来ず照れ隠しにその様子を楽しそうに見つめるリアを踏みつけた。
「っ!?あんまりよ、さつきぃ~」
といいつつ喜びながら悶える。
「ご、ごほん。何でもないわよ」
咳払いしながら視線を逸らし外の景色を見つめる皐月を不思議そうに見つめる浩介達をリアは楽しそうに見つめていた。
「…この人達で大丈夫なのかしら?」
小窓から一部始終を盗み見していた従者は半ば呆れたように困惑した瞳を浮かべる。
今回の旅は従者にとって少し特別な意味を持っていた。
本来の主である業罪の皇女の特命を受けている。
「神器を受け入れた者を守護し道を示せ」
ただ、それだけを命じられ従者の振りをして彼らを影ながら護るつもりでいたのだが………。
彼らの行動に懐疑心を抱かずに入れれない。
痴女、情緒不安定、暴力女、変態……従者は小さく首を横に振る。
何が哀しくてこんな連中のお守りをしなければならないのか、もっと意義のある任務に就きたかったと何度、思ったことか分からない。
忠義を尽くし知識を得る。
それは彼女の一族の飽くなき欲求であるので仕方ないことなのだが……チラリと床に這いつくばっている同族に視線を移し、従者はため息を漏らす。
「…ったく何やってんのよ。ホントに馬鹿なんだから」
長老達が笑顔でリアを送り出した意味が分かった。
当時はまだ小さく綺麗で優しい近所のお姉さんだと認識していて別世界に旅立つと聞いたときは泣いたものだったのだが今なら分かる。
痴女は百害あって一利なし。
もし、旅立たず残っていたらと思うと貞操の危機だったと、寒くもないのに従者は軽く身震いするのだった。
いつも読んで戴きありがとう御座います。
またキャラクターが増えそうです。
作者にもこの先どうなるか分かりません。
行き当たりばったりです。




