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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第二章 異世界の統治者達
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其の4 我が身が大事


「なぁ、一つ質問があるんだが?」


 不思議なほど振動を感じない車内のソファにゆったりと座りながら反対側に座る皐月に声をかける。


「なによ?」


 明らかに不機嫌そうな表情を浮かべ、ボンヤリと外の景色を見つめていた視線を浩介に向けると軽く顎を上げて先を促した。


「この馬車でどうやって別の世界に行くんだ?」


 浩介には普通の馬車にしか見えないことに疑問を抱いた。


 本来なら統治者の世界を行き来するには、その世界に合わせた術式を組み込んだ特殊な馬車の必要性がある。


 なぜなら他の世界はそれぞれの理で成り立っているためであり、理が違う存在は立ち入る前に血脈の力によって弾かれてしまう。


 それが過去の争いを長引かせた要因でもあった。


 そういった知識をグレ記憶から知っていた浩介ならば、この何の変哲も無い馬車に疑問を感じたのは当然の事と言えた。


「う~ん?やっぱり気付いた?まぁ、グレンデルの記憶ならそうよね。ただ、今は統治者のいる世界にならこれで行けないことはないのよ。ただし、通行証明があればね」


 「あれば」と言うことは無いのだろうと予測した浩介はため息混じりに頭を抱えながら呟く


「…ないのか」


 浩介から目線を逸らしながら皐月は言い訳じみた説明を始める。


「簡単にいってくれるけど…あれ、かなり面倒くさいのよ。それにあんたがリアの主の世界に行きたいって言ったんでしょ!だったら異世界経由で行くしかないじゃない」


 つまり途中で書類の多さに正規のルートを諦め、比較的に楽な方法(それでも、発狂するほどの書類の作成に時間を費やしたが……)でもある自分の能力で行ける異世界を経由することを選んだようだ。


 まぁ、リアやミユルの邪魔がなければもう少しスムーズに事務仕事がはかどったのは確かなのだが……。


「うん?異世界に行くのか?」


 少し驚きと期待に満ちた眼差しを浩介は皐月に向ける。


 その表情に「あぁ、グレンデルの記憶ね…」と小さく呟き少し哀しげに頷いた。


 自分の過去の大罪を知る記憶、その中にはあの争いで異世界の住人達が受けた境遇も記憶されていることを思い出した皐月は表情を曇らせてしまった。


 その一瞬の表情の変化に目敏く気付いた浩介は少し慌てた。


「わりぃ、そんな意味で驚いたわけじゃないんだ。何だか現実味がなくてワクワクするって言うか……まぁ、でも彼らの境遇を考えたらって思うと申し訳ないというか……よくよく考えれば、そこに倒れてる奴も一応、異世界の住人だもんなぁ」


 未だに床に倒れているリアを見下ろしながら、こんなどうしようもない痴女の馬鹿でもあの争いの渦中を乗り越えた異世界の住人なのだと実感する。


 浩介の説明に苦笑しながら皐月もリアに視線を向ける。


「…そうねぇ」


 少し感慨深げに見つめる瞳はあの争いを思い出しているようだった。


 グレ記憶では異世界に行けるのは皐月のような能力を持った一部の人間だけで、この世界での異世界の住人は重宝される。


 理由は明確だった。


 この世界の理でもある血脈の力が彼らには通用しない。


 そのため、あの争いの際には多くの異世界の住人達が利用され無残な最期を遂げていた。


 彼らは望んでこの世界に来たわけではない。


 たまたま、次元の裂け目に迷い込んだ者達が運悪くこの世界に辿り着いてしまっただけだった。


 世間一般で言うところの【神隠し】と呼ばれる現象が表現的には一番近いのかもしれない。


「…神隠しってやつだよなぁ。うんっ?ってことは俺も自分の世界では行方不明者扱いか?引きこもりの行方不明者って完全に詰んでるな……」


 異世界の住人達の境遇を思いながら、ふと自分自身の今の境遇に照らし合わせ「アハハ…」と乾いた笑いが漏れる。


 今頃は家族が大騒ぎしているはずだ、と思いたかった。


 ただ、一つだけ気がかりなのは「姉ちゃんだな」と意識の隅に姉である美弦の姿が浮かんだ。


 最後に浩介と会い皐月との仲を誤解したまま異世界に来てしまっている……誤解が起きているかもしれない。


「十分にあり得るな……高校生の駆け落ち。早合点の姉ちゃんなら有り得なくもない」


 呟きながらチラッと皐月を盗み見る。


 物憂げに外の景色を見つめている横顔は可愛らしさと切なさが入り交じった独特の雰囲気はあるが今まで出逢った女性の中では美人の枠に十分すぎるほど収まっている。


 これだけの美人と恋の逃避行、とだけ見ると大恋愛のように見えるが性格的な問題があるなと浩介は心の中で愚痴るが決して口には出さない。


 口に出してしまえば地獄絵図が待っている。


 ジャラジャラ。


 聞き覚えのある音が聞こえた。


 一瞬、口に出していたかと内心ビビりながら音のした方へと視線を向けると皐月が鎖を取り出し何やらブツブツと呟いていた。


「どうした?」


 動揺に気付かれないよう平静を装いながら尋ねる。


「何か嫌な予感がする……」


 簡潔に言いながら周囲を警戒する瞳は険しかった。


「馬車を止めて!」


 皐月の言葉に御者が即座に対応する。


 静まりかえった車内を重苦しい空気が包み込む。


「あぁ、やっぱり出たわね」


 予想通りの嫌な予感がどうやら的中したらしい皐月の言葉に浩介は側に立て掛けていた太刀に自然と触れる。


「どうした?」


「馬車を降りるわよ。とりあえずアンタは私の後ろに付いてきて!勝手に飛び出すと……死ぬかもよ」


 その声はいつもと違い、張り詰めているのが分かった。


「もう、こんな時に……役立たず!」


 扉を開き警戒しながら皐月は倒れているリアの背中を踏みしめて勢いよく外に飛び出す。


「ぐぇ!?い、いたいわぁ」


 背後でリアの呻き声を聞きながら浩介も慌てて皐月の後に続いて外に飛び出した。


 周囲にに異様な気配が漂っている。


「さぁつき、銀狼(シルバーウルフ)に囲まれてるわよぉ」


 皐月から背中を踏まれ意識を取り戻したリアが、室内からいつもの緊張感のない口調で二人に声をかける。


「分かってるんだったら手伝いなさいよ!」


 皐月の怒号が飛び交う。


「ごめんねぇ~。まだ身体が動けないわぁ」


 ニヘラと笑いながら窓から手を振るリアに「あぁ?」と睨みつける皐月の後ろで浩介は怯える。


 話には聞いていたが名前からして魔物の類いかと想像し浩介は震える指先で太刀を握りしめる。


〔そのように強く握るでない……全く、主殿はは乙女の柔肌をなんと考えておる。玉の肌に傷でも付いたらどうしてくれるのじゃ〕


 耳元でブツブツと文句をたれる女の声が聞こえた。


「うっん?皐月なんか言った……なんでもありません」


 振り返った皐月の殺気に充ちた視線で「あんたもか…殺すぞ」と睨まれドスの効いた囁きに浩介は慌てて首を振る。


「誰の声だったんだ?」


首を傾げながら考え込む浩介にまた声が聞こえた。


〔妾は主殿が握っておる太刀じゃ〕


 視線を太刀に向ける。


「えっ?刀が喋ったのか?……そうか、極限状態でとうとう幻聴まで聞こえるようになったか。やばいな。」


 がっくりと肩を落とした浩介に深いため息が聞こえる。


〔刀ではない太刀なのじゃ。はぁ…今度の主殿は馬鹿なのじゃな。リアには妾の声が聞こえておろう?説明してやってくれぬか?〕


 浩介が後ろを振り返るとニヤニヤとした笑みを浮かべながら楽しそうに見つめているリアの姿が見えた。


「なっ?幻聴じゃない!?」


 驚きながら太刀とリアを交互に見つめる。


「そっだよぉ~。【八咫烏の太刀】の意識が語りかけてるのよぉ。ってか浩介ってば後ろで見てて飽きないわねぇ」


 楽しそうに浩介の握る太刀を指差す。


「八咫烏!意識あるなら手伝いなさいよ!」


 いつの間にか数匹の銀狼が馬車の周囲を取り囲んでおり、牙をむき出しながら皐月を威嚇している。


 それらを牽制しながら距離を保つ皐月にも太刀の声が聞こえていたらしく大声で叫ぶ。


〔まぁ、攻撃が不得意のお主じゃ仕方ないかのぅ。主殿、妾を鞘から抜き貴奴らに構え妾の言葉に続いて唱えよ……なんじゃ?震えてるのか?情けない、たかが銀狼ごときに〕


 呆れられた声を聞きながらも中型犬ぐらいの大きさをした銀狼の殺意の籠もった気配に浩介は恐怖を感じずにはいられなかった。


 震えが止まらない。


 今まで経験したことのない死を予感させる恐怖、浩介は噛み合わない歯をガタガタと鳴らしながら声の主に従い太刀を構えた。


〔調服…〕


 耳元で聞こえる声を繰り返す。


「…調服」


 浩介が呟いた瞬間。


 ギャウン。


 情けない鳴き声と共に地面に押しつけられ身動きの取れない銀狼を皐月は容赦なく鎖を叩きつけていき一匹、また一匹と確実に息の根を止めていく。


「おぉ!すごい、すごい。やるねぇ、さぁつき」


 瞳をまん丸に見開きながら手を叩いて、その光景を鑑賞するリアを横目に茫然と浩介は立ち尽くしていた。


 倒された銀狼の屍が光となって消滅していく。


 肩で息をしながら皐月が浩介をキッと睨む。


 その姿に怯える浩介を尻目に皐月は颯爽と近付いてくると視線を太刀へと向け怒鳴り散らした。


「意識あんなら出てきなさい!」


〔主殿、嫌な予感しかしないのじゃが……〕


 若干、声が震えている。


「早く出てきた方がいいよぉ。さぁつき、今かなりブチ切れてるから遅くなるだけ大変だよぉ」


〔…………っ!?〕


 他人事のリアの言葉になぜか太刀がビクンッと反応し身震いした次の瞬間、太刀が白い光に包まれた。


 浩介の手から太刀の感触がなくなり、温かな何かが身体に纏わり付いてくるのを感じた。


「なんだ?女の人?」


 白い光が徐々に薄まっていき何故だか浩介に震えながら抱きつく一人の女性の姿が現れた。


 その服装は末広がりの長い丈の裾を地面すれすれに垂らしながら、うなじから背中まで広がった抜き襟の着物を着ていた。


 大きな帯を前で結び浩介の不確かな記憶ながらその服装は花魁の衣装そのままに見えた。


 背丈は浩介より少し低いぐらいで一瞬見せたあどけなさの残る顔付きは恐怖に打ちひしがれている。


 視線を皐月に向けようともせず、だた浩介にすがりつくように顔を隠し抱きついていた。


「妾はまだ死にとうない」


 震える声に浩介も激しく同意する。


 なぜなら、一歩ずつ近付いてくる皐月の表情は今まで見た表情の中でも群を抜くものだったからだ。


「…すまない。俺も死にたくない」


「…えっ?主殿、なにを?……裏切り者ぉ~!」


 震えながら縋りつく女性の両肩に手を当て謝ると、唖然とした表情を浩介に向ける彼女をクルリと皐月に向ける。


 悲痛な叫び声が聞こえたが浩介は敢えて無視をする。


 命あっての物種だ。


「どうぞ、ご自由に」


 皐月に彼女を差し出し離れようとした瞬間。


 ジャラジャラ、ガチャ!


 「ぐぉえ!?」


 首元に聞き慣れた鎖の音が聞こえ、軽い衝撃と共に久しぶりの首輪が装着され浩介は情けない声を上げる。


「……アンタも同罪」


 鎖で引き寄せられ耳元で囁かれる死の宣告に銀狼と対峙した恐怖がたいしたことがなかったなと思い知らされるのであった。


 一人だけ馬車の中で楽しそうに眺めていたリアですら今の皐月の姿に身震いするほどの恐怖を感じていた。


「みんな、生きて帰ってくるのよ」


 哀れみにも似た視線を二人に向けるとリアは巻き添えに合わないように車内の奥深くへと姿と気配完全にを消したのだった。


読んで下さってありがとう御座います。


更新が遅くてスイマセン。


頑張っていきますので今後ともよろしくお願いします。

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