其の14 決意
皐月の回想になります。
次回から第二章に入ります。
リアの主が登場予定です。
鏡の前で皐月は自分の顔をマジマジと見つめる。
赤く腫れ上がった瞳を見つめながらあそこまで人目を憚らずに泣いたのは何年ぶりだろうかと考えた。
「浩介と顔を合わせづらいな……」
なぜ、合わせづらいのだろかとふと考え「あぁ、やっぱり好きなんだな」と実感する。
短い旅の中で大きくなっていく浩介の想いに今更ながら実感し思わず頬が赤らんでしまう。
「けれど…」と鏡から視線を逸らす。
洗面台にためた水に自分の顔が映し出され、髪から滴り落ちた水滴で皐月の姿を歪ませる。
「私は取り返しのつかない罪を犯した」
それだけは変わらない。
たとえ浩介が赦してくれても世界はきっと赦さないだろう、そしてその罪を永遠に心を蝕んでいく。
何時から心を押し殺して生きてきたんだろか、あの争いのきっかけを作りだし世界を今の形に創り上げた原因、皐月自身の弱い心が生み出した現実の世界を目の当たりにするとき、いつも考えることがある。
「何故、私は生きてるの?」
逃げるように帝の器探しのため異世界へと旅だった。
それは逃げでしかないことも皐月は分かっていた。
分かっていたのだが逃げてしまったのだ。
多くの親しき友が死んでいき自分だけのうのうと生きていることに耐えられなかった。
何かを訴えてくる眼を避けることで自分が原因では無いと思いたかったのかもしれない。
そんなとき皐月は浩介に出逢った。
ベンチに座り月を見ていた自分を遠くから見つめる瞳、当時の皐月は見られることに恐怖を感じていた。
その恐怖を誤魔化すために力でねじ伏せようとした。
けれど浩介に触れた瞬間、彼の内側から血脈の力を感じ皐月は戸惑いを隠せなかった。
浩介が俯いた瞬間に皐月は逃げることを選んだ。
空間転移を行い時間をずらし皐月は浩介の部屋に降り立つと壁に寄り掛かりながら彼の寝顔を見つめ続けた。
〔彼なら救ってくれるかもしれない〕
そんな儚い希望が彼の寝顔を見ていると何故だか湧き上がってくる自分自身の感情に驚きを隠しきれなかった。
そして、離れたくないと思った。
言い訳になるのかもしれないが皐月の身体は幾度かの空間転移で体力を消耗し休息が必要だった。
浩介の頬にそっと触れる。
人肌の温もりと無防備な寝顔が皐月の心を癒やす。
「この束縛から私を救って」
そして、想いを込め彼の頬にたキスをする。
その後のことはよく覚えといなかった。
浩介にしたキスに血脈の力が籠もっていたのか、皐月の意識は徐々に薄れそのまま倒れ込むように浩介の側で記憶を失った。
気が付いたとき浩介は何やらコソコソとベッドの奥深くに何かを隠している姿だった。
〔何を隠してるのかしら?………えっ?〕
浩介が奥に追いやるということは壁際で眠っていた皐月の下に有るということになり彼女は気付かれないよう、そっと手を伸ばし彼が隠したモノをこっそりと持ち上げ唖然とする。
〔……変態だわ〕
その表紙には身体を拘束された女性が涎を垂らしながら恍惚とした表情で鞭で叩かれる姿が描かれていた。
ジト目で浩介を見つめているとやりきった感を出しながら袋から飲み物を取り出し飲んでいる。
一息つくと浩介は頬杖をつきながら何気に視線を向けるとジト眼の皐月と目が合い慌てた様子になった。
「……マジきもいから、こっち見んな」
思わず貶してしまいながら浩介との日々が始まった。
幾度となく渡った空間転移で知り得た知識に狼狽しながらも皐月に着いてきてくれた……というよりは鎖で繋がれている時点でついて行かざる終えなかったのだが。
皐月にとって浩介は今では過去を赦してくれた存在であり、これから旅をする仲間であった。
バシャバシャ。
冷たい水で顔を洗い気持ちを切り替える。
「…私は世界を変革に導いた罪人、でも、赦してくれる存在がいる。だから負けていられない!私は私なんだから」
そして、軽く頬を叩き気合いを入れると皐月は二人の待つ部屋へと向かって歩き始めた。
これから始まる旅路に向けて一歩を踏みしめるように…。
なかなか前に進まずすいません。
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