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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第一章 理不尽な痛みは不可解な日常の始まり
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其の12 真実と赦される罪

書きたいことが多すぎてまだ旅立ちません。


すいません、後二話ほど続いて旅立ちます




「…さてと、どうしようかしらね」


 皐月の言葉に腫れ上がった顔で正座した二人がビクッと反応する姿に苦笑しながら皐月はこれからのことを考え始めた。


 浩介がグレンデルの意識に打ち勝ち、帝の意志の一つを自分の意識に取り込むことに成功したのは分かった。


 けれど本来、浩介の身体は器でしかないはずだった。


 主人格としてグレンデルの意識を管理できれば、それで良かったはずなのだが浩介はグレンデルの意識を完全に取り込んだ。


 計算違いではあった。


 なにより彼の意識の内に護印された記憶がある。


 それが一番の問題だった。


 『護印』それは血脈の力を使った封印式であり、よほどの力を持った者でしか解くことが出来ない。


 多分ではあるが、グレンデルの意識は護印を破ろうとしたのだろうことは容易に想像が付く。


 そして触れてはならぬモノに触れ、消滅した。


 問題はそれが何なのかだ。


「あんた、今の状況って理解してる?」


 腫れ上がった顔で怯えた表情を浮かべ皐月を見つめる。


「はい、悪ふざけが過ぎました。主にこいつのせいで」


 聞きたかった回答とかなり違った。


 どうやら、聞き方が間違っていたらしい。


 震える指先で浩介はリアを指差す。


「あぁー!うらぎりものぉ!あんなにラブラブだったのにぃ-。私は都合のいい女だったのねぇ…お姉さん哀しいわ」


 同じように見るも無惨な姿のリアが調子に乗る。


「…はぁ、きりがないから。真面目な話、あんた自分の意識に護印された記憶があるのを知ってたの?」


 護印の言葉に反応する。


「…いや、全く知らなかった。けど、あいつはそれを破ろうとして意識を持ってかれた。それで俺に総てを託して記憶の護印を締め直して消滅した」


 俯きながら答える浩介の姿に皐月は悩んだ。


 その姿に嘘をついているようにはとても見えない。


 つまり誰かによって封印されていたということになる。


「問題は誰が、何のために、どうしてアンタだったのかよね。私ですらようやく見つけたのに……」


 考え込む皐月に浩介は小さな疑問を抱いた。


「なぁ、前にも聞いたと思うんだけど、何でこの世界に俺が連れてこられたんだ?」


 率直な疑問に皐月は言葉を噤む。


 正直に話すべきかどうか、話せば間違いなく拒絶される事はハッキリとしている。


 器として連れてきた、あんた自身の人格に興味がない。


 それをハッキリと言えれば正直、此処まで悩まない。


 けれど……皐月は悩んでいた。


 割り切っていたはずなのに浩介との短いながらも旅をした皐月の心にはある種の感覚が芽生え始めている。


 浩介がグレンデルの意識を乗り越えた時、リアと『契約』まで交わし彼の存在を護ろうとした時、確かに皐月の考えが変わってきていることに彼女自身少なからず気が付いていた。


 そして、何よりもこの中心の世界に転移した後に彼が発した「生きてくれてありがとう」の言葉、誰の思いを伝えていたのかがすぐに分かり何よりも自分自身の闇を救ってくれた。


 その時、ハッキリと気付いた。


 彼、浩介の人格に惹かれ始めていることに……。


「そうね、アンタを連れてきた理由を説明しなきゃね」


 覚悟を決めた。


 真実を話す覚悟、その瞳に宿る揺るぎない信念にリアは微笑みを浮かべ彼女を見つめる。


「…アンタを連れてきた理由、気付いてると思うけど帝の意識を納める器として連れてきたわ。アンタの意識、人格を無視して…」


「…だろうね。そんな気はしてた。」


 予想通りの答えだったのだろう。


 少し哀しげに頷く浩介の姿に心が痛んだ。


 もう少し言い方があったんじゃないかとも思えたが皐月は自分がやらなくてはならない使命がある。


 そのためには業罪の皇女の思惑に乗るのも悪くないかもしれないと思った。


 結局は遅かれ早かれ浩介に神器に触れさせ、帝の意識を取り込ませ望むべき世界を創り上げなくてはならない。


 それが、あの人との約束であるから。


〔それが、ただ早まっただけのこと……〕


 自分に言い聞かせる。


「だから、俺は知りたいんだ…この世界のことを」


 その言葉に我に返った皐月を俯いていたはずの浩介の瞳が真っ直ぐと見つめていた。


「な、なんで?私はアンタの存在を否定したのよ?なのに、何でアンタ……浩介は世界を知りたいと思うの?」


 正直、意味が分からなかった。


 人格と言うより存在自体を否定して、ただ器という名の道具としてしか浩介を見ていなかったにも拘わらず彼はこの世界を知りたいと言った。


 皐月は困惑しながら浩助を見つめると彼は考え込む表情を見せながら必死に答えを導き出そうとする。


「う~ん、そうだな。グレンデルのせいかな?あいつ、この世界が嫌いなはずなのに護りたいと思ってた。たとえ、たった一人の女性が原因でこんなふざけた世界になってしまったとしても護りたいと思う気持ちがあったんだ。だからかな、あいつが護りたいと思ってた世界を知りたいって思うのは」


 自分の中で納得のいく答えを探し当てたのか腕を組み小さく頷きながら言葉を続けた。


「正直言って、そりゃあショックさ。ただの意識を納める道具として連れてこられたのは……けど、必要なんだろ?器になる奴が。じゃないと皐月の願いが叶えられない」


 浩介から名前を呼ばれハッとする。


 グレンデルの記憶を得ている浩介は何処まで自分のことを知っているのか、そう考えた瞬間に何故だか皐月は心の奥深くまで見透かされているような感覚に襲われていた。


「浩介、あんたどこまで知ってるの?」


 その声は微かに震えていた。


「おおかた全部なんじゃなぁい?単純にグレっちの記憶はこぉすけぇと共有してるだろうからねぇ」


 それまで二人を楽しそうに見つめていたリアが事も無げに答えると浩介はグレンデルの事を『グレっち』と呼ぶ彼女に苦笑しながら頷く。


 確かにグレンデルの事をリアはそんな呼び方で話しかけていた事を共有する記憶から思い出したからだ。


「…なら、なおさら、私を赦せるわけないでしょ!」


 怒声と言うより、それは悲痛な叫びだった。


 自分の犯した罪、それは決して赦されざるものであり自責の念が皐月を蝕み哀しみが彼女を包み込む。


「それは違うよ」


 そんな皐月の姿を見つめながら静かに、けれど凜とした口調で浩介は否定した。


「過ぎた過去は取り戻せないし無かったことにする事はできないけど俺は皐月を赦す。たとえ全ての世界が皐月を赦さないとしても俺だけは君を赦す」


 真っ直ぐと皐月を見つめる瞳に嘘偽りはなかった。


「…ありがとう」


 俯きながら小さな声で呟く皐月をリアは優しげな瞳で見つめながら立ち上がるとそっと頭を撫でた。


 抱きつくようにリアに寄り掛かりながら声を殺して泣く皐月の姿に何があったとしても守り続けようと心に誓う。

読んで下さってありがとう御座います。


ブックマーク、評価等いただけたら作者は小躍りしてニヤつきます。


よろしくお願いします。

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