其の37 駄目精霊と駄目皇女
毎回、遅くなりすいません。
(o_ _)o
では、お楽しみください
<(_ _)>
屋敷へと辿り着いた皐月達は浩介を客室のベッドに寝かせると応接間に集まり寛いでいた。
「私は野暮用がありますので少々、失礼させていただきます。何か御座いましたら女中にお申し付けください」
皐月達に一礼してそそくさと退室するミユルを横目に皐月はどかっとソファに座り込むと長い溜息をついた。
「はぁぁぁ~。これからどうしようか?」
皐月は周囲を見渡し今のメンバーでまともな会話が出来そうな者がディーバしかいないため必然的に彼女が受け答える。
「浩介様がお目覚めになられないことには先の話をすることが出来ませんし困りましたね」
ふぅと悩ましげな溜息をつくディーバに皐月はジト目で彼女をチラ見する。
「…なんか棘があるわね」
少し棘のある口調に感じたのは皐月の罪悪感のせいであり、決してディーバはそんなことを露にも思ってもいないのだが一応、念のため否定しておくディーバであった。
「そんなこと微塵も思ってはいませんよ」
皐月のジト目に慌てて苦笑いで否定する。
「…まぁ、いいけど、本当に起きないわね?そんなに強くはしてないつもりなんだけど……なによ?」
皆のジト目が皐月を見つめるが、彼女がジロッと睨みつけると全員が違う方向へと視線を逸らす。
目が合って皐月の癇癪に巻き込まれたくないのだから、その行動はひとえに正しいと言えるだろう。
けれど、実際問題として浩介が目覚めなければ話にならないのだが、目覚める気配の無い彼のせいで完全に足踏み状態なのである。
そんな雰囲気の中でフェンリルは腕組みしながら何かを考え込んでいる様子に雅が声をかけてきた。
「…うん?どうしたのじゃ?」
その声にフェンリルは雅を見つめ、さらに周囲を飛び回る四大精霊達へと視線を移し確認するように尋ねた。
「…のう、お主ら?」
雅はキョトンとした表情で彼女を見つめる。
「なんじゃ?そんな顔して?」
フェンリルの何時もとは違う真面目そうな表情を雅は不思議そうに見つめる。
「…お主ら彼奴に顕現されておるのじゃよな?まぁ、お主は自分の意思で自由に人化できるようじゃが…お主らは確か彼奴に呼ばれて顕現しておる、で間違いないかのぅ?」
フェンリルの問いに雅の肩に乗っていたサラが楽しげに足をプラプラさせながら頷く。
「うん、そうだよぉ~」
その答えにフェンリルはしばし無言で考え始めるとボソリと自分が考えていたことを口にする。
「なら、お主らを顕現し続けている源は彼奴の生命力そのものであるのじゃから………だから、目覚めないのじゃないのかのぅ?」
プラプラさせていたサラの足がピタリと止まり、周囲を飛び回っていたディーネやノーミ、シルフィらもきょとん?とした表情で顔を見合わせる。
四人の中でいち早く、その言葉の重要性に気付いたディーネが顔をワナワナと震わせ青ざめていく。
「わ、私としたことが……」
「…わたし達が…原因……です」
「……うん」
全員が二階で眠る浩介へと視線を向ける。
ただ、そんな四大精霊を余所に雅は…。
「ま、まぁ、死ぬわけでもないし…それに顕現化を解いてところで直ぐに目覚めるわけでもないし…」
どこか歯切れの悪い口調であった。
「雅…お主」
フェンリルが何かに感づいた様子でジト目で雅を見つめると視線を漂わせながら逸らした。
「…ひゅ~、ひゅ、ひゅ」
音の出ない口笛を吹きながら脂汗を流す雅。
何か思惑があるのは一目瞭然であった。
「あんた、もしかして……」
呆れた表情で雅を見つめる皐月に彼女はビクッと身体を震わせ引き攣った笑みで振り返る。
「…な、なんじゃ?」
暫しの沈黙ーーー。
「遊びたいんでしょ?」
皐月の言葉に一斉に視線が雅に集まる。
ダラダラと流れ出す汗が如実に心情を物語っており、それぞれの呆れた表情が彼女に突き刺さる。
「……雅様、大精霊であられる御方にこのような発言は大変、恐縮なのですが……」
ディーネの瞳が雅を見据える。
その瞳を直視できない雅。
暫く見つめていたが、意を決したかのようにディーネは溜息交じりに雅へと呟く。
「……最低ですね」
その言葉に視線を彷徨わせ、狼狽える雅に他の四大精霊達もジト目で口々に雅の心を抉る言葉を紡ぎ出す。
「雅様ってばさっいてぇ~、きゃはは」
楽しそうに彼女の肩で笑いながら罵倒するサラに雅は視線を向ける事無く項垂れる。
「…お主ら」
言葉が出てこない。
シルフィとノーミは雅から距離を取り、皐月の背後から雅をジト目で見つめている。
「…さいてい……です」
「…うん…駄目精霊…」
その言葉に皐月も苦笑いしか出てこない。
皆からの冷たい視線に追い込まれた雅は俯きながら徐々に肩を震わせる。
「…みやびさま?」
流石に言い過ぎたかとサラが不安げに顔を覗き込むと瞳に涙を一杯に溜めて堪える姿が目に映った。
その姿に若干の罪悪感を感じたサラは小さく溜息をつくとポンポンと俯く雅の頭を優しく撫でる。
「雅様、わたし達が顕現化を解いて精霊界に戻るから雅様はそのままの状態で良いよぉ」
サラの言葉にハッと顔を上げる雅。
涙目の瞳がサラを見つめる。
「…よいのか?」
おずおずと上目遣いで聞いてくる雅。
「うん」
雅にサラは満面の笑みを浮かべ大きく頷いて見せる姿に、他の四大精霊達も苦笑交じりに微笑む。
「そうですわ、雅様。どうか楽しんでください、我々は雅様が喜んでくださればそれで満足です」
「…そう…です…」
「……それでいい」
他の三人もサラに続いて頷く。
「お、お主らぁ~」
雅は堪らずサラを抱きしめる。
「きゃはは。くすぐったいよ、雅様」
楽しそうに雅とじゃれつくサラに他の精霊達も彼女の近くに寄っていき周囲を飛び回り始めた。
精霊達の姿に微笑ましく感じながら皐月やディーバも優しい瞳でその光景を見つめる。
「ふむ、まぁ気持ちは分からんでもないがのぅ…あの街並みの賑わいは惹かれるものが……うん、なんじゃ?ディーバ、その目は?」
ディーバの視線に気付いたフェンリルが振り返ると微かな笑みを浮かべていた。
「ふふっ、九尾が揺らいでますよ」
その言葉にフェンリルは顔を赤らめる。
「…なっ、これはじゃな…」
無意識に揺れ動いていた尻尾を両手で慌てて抑え込みながらフェンリルはしどろもどろな表情を浮かべるのだった。
そんな二人を余所にフェンリルの束縛から逃れたサラが彼女の周囲を飛び回りながら笑顔でブンブンと手を振る。
「じゃあ雅様、またねぇ~」
雅との距離が縮まったサラは楽しそうにしながら、その姿を徐々に虚ろな存在へと変えていく。
「またなのじゃ!」
雅は瞳をキラキラと輝かせながら消えゆくサラに満面の笑顔を向けていた。
その表情に他の精霊達も楽しげにそれぞれ雅に対して言葉を交わしていく。
「では雅様、失礼いたします」
ディーネは行儀よく一礼して姿を消す。
「また……くる……です」
ノーミは愛くるしい笑顔で消えていく。
「…じゃあ、ね」
ジト目のシルフィも消えていく。
先程までの華やかさが嘘のように静かになった室内で雅は皐月達の方へとクルリと振り返り満面の笑顔を見せる。
何かを期待している瞳だ。
「じゃあ、どうしようかしらねぇ……」
何かを訴えかけるような雅の瞳を皐月はわざと避けて窓の外を見つめながら呟く。
けれども………。
キラキラ、ウルウル、ワクワク、ドキドキーー。
鬱陶しいほどの期待の眼差しを向ける雅の視線に皐月は「…はぁ」と小さな溜息をつく。
出来ればゆっくりしたいと思っている皐月にとってみれば誰かに丸投げしたいのだが……。
チラリとディーバを見る。
今回、まともな存在は彼女しかいない。
けれど……と悩んでいると。
「なら、観光に行くのじゃ!」
尻尾をパタパタと忙しなく動かしながらフェンリルが片手を上げて提案してきたのだ。
「そうなのじゃ!あの店に行きたいのじゃ!」
そんなフェンリルに雅も便乗する。
因みに雅の言うあの店とは彼女の名を冠したメニュー、雅スペシャルDXのある店の事である。
「…う~ん、そうねぇ」
少し考える素振りをしながら天井を見つめた皐月はチラリと少女二人に視線を向ける。
じぃーっと瞳を輝かせながら見つめる瞳に皐月は思わず顔が引き攣ってしまう。
もし、これでイヤだと答えれば面倒くさいことこの上ない状況になるのが目に浮かぶからだ。
「……はぁ、分かった。行くわよ、連れて行けば良いんでしょ?」
ガックリと肩を落とし項垂れる皐月。
「「やったのじゃ!」」
憂鬱そうな皐月とは対照的にフェンリルと雅は手を取り合って小躍りしながら喜んでいる。
そんな対照的な姿にディーバが救いの手を差し伸べる。
「あの皐月様はお疲れのようですし、よければ二人は私が連れて行きましょうか?」
その一言に虚ろな瞳で項垂れていた皐月はパッと顔を上げて瞳を輝かせながらディーバに食い尽く。
「まじで?じゃあ、お願いできる?」
ディーバの胸ぐらを鷲掴み間近まで顔を近づけてくる姿に颯爽、お願いの体は要していない。
「……え、ええ。お任せ下さい」
少し早まったかなと心の中で後悔しながらディーバは引き攣った笑顔を浮かべ頷くと皐月は嬉しそうに彼女の胸ぐらから手を離しソファに勢いよく座り込むのだった。
「あぁ、良かった…あっ、そうそう」
皐月は両手を伸ばして身体を解しながら懐から小ぶりの革袋を取り出しディーバに手渡す。
「これは?」
手渡された革袋の重みにディーバは頬を引き攣らせながら皐月を見ると説明が面倒くさそうに片手を振る。
「この世界のお金よ。まぁお小遣いって言うか手間賃?好きなだけ使って良いわよ」
「おぉ~!太っ腹じゃ!」
皐月の言葉に瞳を見開くフェンリル。
「これでお腹いっぱい食べれるのじゃ!」
前に散策したことのある雅は脳裏に様々な店を思い出しながら瞳をキラキラと輝かせる。
一気にテンションが上がった雅とフェンリルに苦笑しながらディーバは皐月に頭を下げる。
「はぁ、では有難く使わせてもら…………えっ?」
お礼を言いながら何気に革袋の紐を解いて、その中身を見たディーバは言葉を失い立ち尽くす。
なぜなら、その革袋には黄金色に輝く金貨がぎっしりと詰まっていたからだ。
道理で重く感じたはずである。
「それで、足りない?」
硬直するディーバに何を勘違いしたのか、同じ革袋をもう一つ取り出そうとする皐月。
その姿にハッと我に返ったディーバは慌てて差し出されたもう一つの革袋を押し返す。
「いえ、いえ、おかしいでしょ!?逆ですよ!逆!どれだけ使わせようとしてるんですか?これだけの金貨、下手したら店ごと買い占められますよ……」
慌てふためきながら説明するディーバに今度は皐月の方が「…えっ?」と困惑した表情を浮かべる。
そんな噛み合わない二人をまだ行かないのかと焦れったそうにしながら少女らが見つめていた。
「それが多いの?買い物するのに?」
不思議そうに首を傾げる皐月の姿に流石のディーバも呆れ返るしかなかった。
よく考えれば彼女は皇族なのだ。
金銭感覚がおかしくても不思議ではない。
日頃の彼女に皇族らしさを微塵も感じることが出来なかったのだから仕方ないことかもしれない。
「………はぁ~」
思わず大きな溜息をついてしまう。
「なによ…」
その溜息に皐月は不機嫌そうな表情を浮かべる。
「いえ…では、使わせていただきます」
何を言っても無駄な気がしたディーバは取りあえず最初に手渡された革袋だけを懐にしまう。
「では、行きましょうか」
何だかやるせない気持ちを抱きながらディーバは自分を見つめる瞳に声をかけた。
「「なのじゃ!」」
ウズウズとしていた二人の息の合った返事に苦笑しながらディーバは左右に分かれて少女らの手を握り屋敷を後にする。
「…ふぅ。やっと、ゆっくり出来るわ…」
三人が部屋を出て行き人気の無くなった部屋を見渡しながら深々と溜息をつくと皐月は静かに瞳を閉じた。
今まで無意識の内に気を張り詰めていたのか一気に押し寄せてくる疲れに彼女は何時の間にか深い眠りに誘われていく。
まるで誰かに呼ばれるように…どこまでも続く深い闇へと落ちていくのだった。
読んでいただきありがとうございます
筆の遅い作者ですが
長い目で見て頂けると幸いです
では、失礼いたします