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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
109/112

其の36 策謀と安穏

登場人物紹介

バルト・カイエン

第四章 其の12 裏切り者の決意に

登場しております


暗・明・暗なお話です


では、お楽しみください


 意識の奥深い場所でトリニティは宿主(浩介)の感覚を通して周囲の雰囲気を感じながら気配を絶ち沈黙していた。


 彼女の宿主は今、とある人物に背負われておりトリニティはその人物の気配に覚えがあったからだ。


 圧倒的な力を保持し、帝の記憶であるトリニティ達を神器に封印した人物でもある彼女に気付かれぬように気配を絶つことを選んだのは無意識によるものであった。


 だが、しかし彼女には明らかにバレているだろう予感が意識の片隅でちらついていた。


〔久しぶりね、トリニティ〕


 先に声をかけてきたのは彼女の方だった。


 返事をするかどうかで逡巡するも自分の存在を認知されていれば無意味と感じたトリニティは小さく溜息をつく。


〔…はぁ……バレてた…でも、どうして?気配は完全に消してたはずなのに?〕


 溜息交じりの声に彼女は微笑する。


〔ふふっ、当然でしょ?貴女の宿主は私の世界の存在だし、それを魂の器に選んだのも私、気付かないわけないでしょ?〕


 呆れた口調で説明する彼女に今更ながらに気付いたトリニティは落胆の表情を浮かべ、自分の浅はかさに辟易してしまう。


〔……そうだった、忘れてた〕


 神器に封じられてかなりの年月を過ごしてきたトリニティは何時しかその事実すら失念していた。


〔……相変わらずね、ところでグレンデルは?血脈の力は感じるけど気配が無いみたいだけど?〕


 その問いにトリニティは沈黙する。


 短い沈黙ではあったが、それだけで彼女は直ぐにその沈黙の意味を察することが出来た。


〔あれに触れたのね……〕


〔……みたい〕


 言葉数少なめに答えるトリニティに彼女はしばし沈黙し、これから先の軌道を描き始める。


〔まぁ、一人ぐらいは…と思ってたけど、やっぱり彼が最初だったのね。う~ん、少し予定が狂いそうね……あの子(・・・)もこの世界に来たみたいだし〕


 彼女の発したあの子とは誰の事だろうと考えトリニティは思考を廻らせる。


 思案する姿に気付いた彼女は何でも無いように、あの子の存在をトリニティに教える。


〔うんっ?あぁ、この身体の魂よ。業罪の皇女だっけ?あの子が勘ぐって連れてきたみたいね。あ~、ほらあの店にいるわよ〕


 彼女が自らの視界をトリニティの前に映し出し、あの子と呼んだ少女を見せる。


〔…あの子がミユル……その身体、返すの?〕


 その問いを発した瞬間、トリニティの意識にゾワゾワと寒気が押し寄せてくる。


〔どうかしらね…〕


 その笑みを含んだ声にトリニティは絶句する。


 嫌悪感にも似た感情に存在しないはずの身体に寒気が走るのを感じてしまった。


〔…何を考えてるの………アトロポス〕


 震える声で彼女の名を呼び問い質すトリニティに彼女は只、笑みを浮かべるだけであった。


            *


「あれは…何かしら?」


 美弦は雅スペシャルDXを頬張りながら左右に開けていく人混みを不思議そうに見つめていた。


 その光景にチラリと視線を向けたエレボスは眉間に皺を寄せ大きな溜息を漏らす。


 その原因が自分の部下であることが容易に想像できてしまったからだ。


「はぁ…些細なことに御座います。どうか、お気になさらずお食事をお続けください」


 微苦笑で答えるエレボスに不思議そうに小首を傾げながらも彼女の手と口は休まることはない。


 到底、食べきれないと思われていた雅スペシャルDXの残りは少なく既に白磁の器が垣間見えている。


 その光景に信じられない物でも見るかのように常連客達から少なからずの響めきが沸いていた。


「あの嬢ちゃん…まじか」


 美弦の華奢な身体をチラ見しながら驚愕の表情を抑えきれない客の一人が呟くと周囲の者達も口々に讃嘆や畏怖の言葉を口にし始める。


「…うっ、気持ち悪い…」


 あまりの食べっぷりに胸焼けを起こした客が口元を押さえながら便所へと足早に駆けていく。


 その光景に苦笑いと若干の胸焼けを感じながらエレボスは残り少なくなった飲み物に口を付ける。


〔…さてさて、どう説明するべきか〕


 先程の彼女の疑問、左右に開けていく人混みの理由…明らかに自らの部下であるミユルの存在であることは理明の利である。


 そして、問題となるのが彼の同行者でもある上山美弦がミユルであるという事実なのだ。


 人知れず頭痛に呵まれるエレボスは今後の方針について慎重に事を進めなければならないと思うと彼の頭痛は更に激しさを増すようであった。


 そんなエレボスの悩みなど微塵も気付けていない当の本人、美弦は周囲のざわめきを余所に雅スペシャルDXの最後の一切れを満喫していた。


「う~ん、美味しい!このメニューの人、えっと雅だっけ?スゴく親近感を沸く名前ね…まぁ、この人のお陰よね。こんな美味しいものを食べられるなんて!あぁ、美味しかった」


 白磁の器だけが残されたテーブルを見つめながら美弦は満足げな表情を浮かべている。


「…た、食べきったぞ!?」


「まじか…」


「俺は今、伝説を目にしている」


 周囲の客達はのざわめきが鳴り止まない。


 美弦の姿を拝む者までいる始末である。


「…あんた、本当に食べきったのかい?」


 客達の異様なざわめきに何事かと厨房から顔を覗かせた女将が空になった皿に気付き、驚いた表情を浮かべながら美弦の席へと近付いてきた。


「うん、美味しかったぁ~」

 

 満足げな表情の美弦の姿に最初は驚いていた女将であったが、その表情に満面の笑みを浮かべる。


「その表情は料理人にとって最高の褒美だよ。気に入った!嬢ちゃん、お代はタダでいいやさ」


 腰に手を当て気っ風の良さを見せる女将に美弦は瞳を見開き驚きを隠せない。


「えっ!?本当にぃ?」


「あぁ、あたしの言葉に二言はないよ」


 驚きの笑みを浮かべる美弦に満面の笑みで答える女将、そんな二人の姿に周囲の客達の時が止まる。


 けれど……。


「ひゅ~、女将かっこいい!」


「嬢ちゃんも良い食べっぷりだったぞぉ~」


「じゃあ、俺も挑戦…「「止めとけ!!」」」


 店内が異様な盛り上がりを見せる。


 ただ、調子に乗って雅スペシャルDXを注文しようとする客を止める常連客の姿も垣間見えた。


「女将、本当に宜しいのですか?」


 場の雰囲気を考慮して小声で話しかけるエレボスに女将は周囲に見えない位置で彼にウィンクする。


「良いんだよ、これで盛り上がれば常連の酔っ払いどもが調子に乗って更にお金を落としてくれるんだから…うちに損はないってカラクリさ。むしろ、嬢ちゃん様々だよ」


 商魂たくましい女将にエレボスの表情も自然と笑みが溢れてしまう。


「では、お気持ちを有難く頂いておきます」


 懐から自分が注文した飲み物の代金を客から見えないように差し出し女将に渡す。


「うん?ちょっと多くないかい?」


 飲み物代にしては少し多い金額に女将は眉を顰めエレボスを見やるが、彼は先程の女将のマネをするように軽くウィンクして小声で話す。


「楽しませていただいたお礼です」


 その言葉に女将の口元が微かに緩む。


「まぁ、そういうことにしとおくよ。まいどぉ~、今後ともあたしの店を贔屓にしておくれよ」


「ええ、もちろん!」


 和やかに美弦が答える。


「では、そろそろ行きましょうか?」


 立ち上がったエレボスに美弦も後に続く。


 店を出て何気に周囲を見渡すと先程までのざわめきはなく、何時もの雑多な人混みへと戻っていた。


 その光景にエレボスはホッと胸を撫で下ろす。こんな人混みでの中でミユルと美弦とが出会ってしまったらどうなるか分からない。


 不安要素は無いに越したことはない。


「これからどこに向かうのかしら?」


 周囲の活気溢れる街並みを興味深げに見渡しながら前を歩くエレボスに声をかける。


「屋敷へと向かいましょう。それから今後について話し合うのが無難かと思われますので……うん?」


 今後の予定を美弦に説明していたエレボスは人混みの中でこちらを見つめる視線を感じ取り、気付いたことを悟られぬように慎重に周囲を見渡した。


「どうしたの?」


 微かに緊張した気配を漂わせたエレボスに美弦は彼の視線の動きに合わせ人混みへと視線を向ける。


 けれど、彼が誰を見ているのかなど美弦には分かるはずもなく不思議そうに首を傾げるしかない。


「…いえ、多分に気のせいでしょう。ですが、早めに屋敷へと戻りましょう。暫くすると夕餉の時間と重なりますので更に人混みが多くなってしまいますから」


 確かに日も陰りを見せ始め、家々から夕餉の支度らしい煙が立ち上り始めているのが見て取れる。


「そうね、迷子になったら目も当てられないものね。じゃあ、案内をお願いできる?」


「はい、喜んで」


 美弦の言葉に周囲を警戒していたエレボスの瞳が微かに微笑を讃え恭しく彼女に応える。


 そして、忙しなく行き交う雑多な人混みの中を屋敷に向かいゆっくりと歩き出すのだった。


           *


 二人が人混みに消えていく姿を見つめながら男は小さく息を吐き無意識の緊張を解きほぐす。


「流石だな…この人混みで気付くか」


 雑多な人混みを避けて近くの店先の壁に背中を預けながら行き交う人々をぼんやりと見つめる。


「…さて、もう後には引けないな」


 男は前髪を掻き上げながら呟く。


 その髪は血のように赤い。


 それは彼、バルト・カイエンの裏切りの人生を如実に物語っているようでもあった。


 バルクナールに着いて数日の間、彼は今のように人混みをぼんやりと見つめ時を待ち続けていた。


 あの世界を旅立つ際に決めたはずの覚悟が、この街に着いてから微妙に揺れ始めていたのだ。


 彼の慎重な性格のせいなのかもしれない。


 幾多の裏切りを繰り返し、生き延びてきた彼の半生を自らの遺志で真っ向から否定し一人の主に仕えようとしているのだ。


 その価値はあると思ってはいる。


 けれど……と迷う自分もいるのだ。


「全く……」


 深い溜息をつきながら心の中で葛藤する自身の優柔不断さにほとほと嫌気を覚えてしまう。


 先程の二人、女性の方は見覚えがなかったが執事服を着た初老の男、良く知っている存在だった。


 過去の争いで圧倒的な力を振るう五護衆と真っ向から戦い、生き延びた者…エレボス・レア。


 彼の二人の主の一人、業罪の皇女に仕える者で半ば同僚とも言える存在である。


 あるのだが……。


 バルトは彼に近付くことが出来なかった。


 身体が硬直し動けなかったという方が正しい。


 彼の瞳に見つめられた瞬間、自身の内面を見透かされたような感覚に襲われてしまったのだ。


「…覚悟を決めなきゃならんと言うのに」


 自身の情けなさに言葉が出てこない。


〔…力を貸そうか?〕


 突如、耳元で囁き声が聞こえた。


 バッ!


 反射的に飛び退き身構える。


「…っ!?」


 だが、そこには誰もいない。


〔君の望みに手を貸そうか?〕


 同じ囁き声が耳元で木霊する。


「…だれだ!」


 周囲を見渡し声を荒げるが誰もいない。


〔…どこを見ている?俺はお前だ〕


 その言葉にバルトはハッとする。


 耳元で聞こえていたのは自分の声なのだと気付きバルトは壁に寄り掛かりながら力無く座り込む。


「…な、どういう?」


 困惑するバルトに更に声が囁く。


〔もう、裏切りは止めたいのだろ?あの世界を旅立つときに覚悟を決めたのだろう?だったら、俺がお前の力になってやる〕


 甘美な言葉で誘惑してくる自分自身の声にバルトの瞳は焦点を失い髪を無造作に掻き乱す。


「…なんで?」


 蹲りながら震えるバルトを行き交う人々が不審げな瞳で見下ろしながら通り過ぎていく。


〔…さあ、俺の声を聞け。俺がお前の力になる。耳を傾けろ、俺の声に従え…さあ、さあ、さあ〕


 意識に木霊する自分自身の狂気に満ちた声にバルトは意識を保てず叫び出しそうになる。


 そんな時だった。


「…大丈夫かい?」


 バルトの身体を人影が包み込んだ。


「……?」


 焦点の失われた瞳で顔を上げる。


 見知らぬ男が彼を心配そうに見つめていた。


「スゴい汗だ…具合が悪いのかい?」


 心配そうに見つめてくる瞳に言葉が出てこず、バルトはただ見上げることしか出来ない。


「とりあえず、私の屋敷にでも来なよ。ほら、立てるかい?手を貸すよ?」


 そう言って目の前に男は手を差し出す。


「あ、あぁ、すまない…」


 差し出された手を掴みバルトは震える身体で立ち上がった。普段なら人の好意を疑うはずのバルトが……である。


 そして身体に力の入らないバルトに肩を貸して歩き始める男は細い瞳(・・・)に微かな笑みを漂わせながら呟くように囁く。


「……力になるよ」


「あぁ…すまない」


 その言葉を聞いた男はバルトに気付かれないように口元を歪ませ醜悪な笑みを溢す。


「私の名はメイソン・リー」


「俺はバルト・カイエンだ……」


 互いに名乗り合った瞬間、バルトの視界が狭まり深い闇へと引き込まれように意識を失うのだった。


「…君に力を貸すよ、バルト。ただし、私の目的のための捨て駒にだがね」


 意識を失い聞こえていないバルトに笑みを浮かべながら彼は呟くのであった。

読んでいただきありがとうございます

(o_ _)o


話の流れ的に漸く中盤を迎えたかなと

いった所です


なかなか話が進まず更新も連日とは

いきませんが見捨てずに頂けると幸いです


ブクマ、評価をしていただいた皆様には

感謝に堪えません(o_ _)o(o_ _)o(o_ _)o


今後ともよろしくお願いします。


では、失礼いたします

<(_ _)>



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