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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の33 最凶女中、再び…

今回からミユルさんが頻繁に出て参ります


個人的に好きなキャラでして……


では、お楽しみください



「……ねぇ、本当にこの道で間違ってないの?歩きにくくて仕方ないんだけど?」


 不機嫌そうな皐月の声に周囲が怯える。


 歩きにくい理由は皐月の背後に存在するのだが誰もそれを指摘する勇気が無いでいた。


「は、はいっ。間違い御座いません。先程まで意思疎通が困難でした眷属達と会話が出来る様になりましたから」


 皐月の機嫌を損ねぬように低姿勢で対応するディーネを横目にサラは腕組みしながら首を傾げる。


「う~ん、ホント何でだろう?急に(眷属)が近づいてきたんだよねぇ~不思議だなぁ?聞いても分からないみたいだし……う~ん」


 ゴンッ!ジャラジャラ…


「…です…皆……近寄って…くれ…ます」


 周囲を見渡しながら嬉しそうにノーミが頷く。


 ジャラジャラ…ゴンッ。


「本当に不思議……何で生きてるのか」


 シルフィだけがジト目で地面を見つめていた。


「のぅ……ディーバ」


 フェンリルはチラチラと後ろを振り返りながらディーバに尋ねるが彼女は死んだ魚の瞳で口元だけ笑みを蓄えて頷いてみせる。


「見てはいけませんよ…そちらには何も存在していませんから………フェンリル様ならお分かりになられますよね?」


 半ば諭すように…否、強制的にディーバによって納得させられる現状にフェンリルは引き攣った表情で頷くことしか出来ない。


 ゴンッ、ジャラジャラ。


 歩みを進めるごとに聞こえる異音、気になって仕方が無いフェンリルであったがディーバの笑みに逆らえるはずもなく…。


「そ、そうじゃのぅ。雅、お主もそう思わぬか?思うじゃろ?頼むから……思うと言ってくれ」


 悲痛な心の叫びに顕現化した雅は頷くことしか出来ない。ただ、現実を直視できず胃がキリキリと痛むのを禁じ得ないでいた。


 ジャラジャラ、ゴンッ。


 彼女らが歩む道は決して平坦ではなく深い森という事情もあり所々で木の根が道を塞いでいる。


 その木の根に時折、何かが接触し音を立てているのだがディーバ主導の下でそれが存在しないものとして周知されていた。


「…うぅ、胃が痛いのじゃ」


 眉間に皺を寄せて胸元を押さえながら呻くような声を発して歩みを進める雅は後ろを振り返ることが出来ずにいた。


「おぃ…イテッ、なぁ……うわっ!?やばっ!」


 背後で聞こえる悲痛な叫びに雅はチラリと声のした方を盗み見てその光景の不憫さに涙が溢れる。


「…主殿」


 そう、音の正体は鎖に雁字搦めにされた浩介が皐月の手によって引き摺られるモノであったのだ。


 身動きの取れない状態で幾度も木の根にぶつかり、身体は痣だらけで見るも無惨な姿をしている。


「なぁ、悪かったって…ぐふぉ!?」


 悲痛な謝罪も皐月の耳には届かない。


 鬱陶しそうに手首を捻り、鎖を器用に動かすと更に悪路へと誘導し浩介の顔面に木の根を強打させる。


「ようやく、静かになったわ…ふんっ」


 その光景に誰もが苦笑いを浮かべる。


「恐いのじゃ…怖ろしいのじゃ」


 九尾と獣耳をペタリと力無く垂らしながら恐怖におののくフェンリルであった。


 そのまま無言で、ただし鎖と浩介がぶつかる音が響き渡る中で足早に歩みを進めていた。


「もうすぐ森を抜けるようですわ。ほら、あちらに陽光が差し込んでいます。もう少しですから…頑張ってください」


 誰を励ましているのかは分かっているが誰もそれに触れることはない。危うきに近寄らずである。


 ディーネが指差す方向に視線を向けると確かに木漏れ日が木々の隙間から差し込んでおり心なしか周囲の空気も和んでいく。


「早く行くのじゃ!もう木々は見飽きたからのぅ。それに……いや、何でも無いのじゃ…妾は先に行く」


 皐月をチラリと見やり陽光が差し込む森の終わりへと駆けていくフェンリルに追随するようにディーバも後ろを小走りで追い駆けていく。


「そんなに急ぐと転びますよ……」


 フェンリルの性格を熟知しているディーバは多分、転ぶだろうと想像しながらも主に対して一応の忠告をするのだが…。


「妾を誰と思っておるのじゃ!大丈夫に決まっておるじゃろうが…えっ?あっ!」


 意気揚々と胸を張り自信満々のフェンリルが足元の木の根に気付かず慌てふためく姿に「…やっぱりね」とげんなりとした表情を浮かべる。


 そして……。


 ーーーゴンッ。


 気持ちの良い音と共にフェンリルが素っ転んだ。後ろを振り返った瞬間に木の根に足を引っかけ受け身も取れずに前のめりになりながらである。


「はぁ…だから言ったでしょうに……あらっ?」


 額に手を当て盛大に溜息をつきながら素っ転んだ状態で蹲っているフェンリルに近付いていくディーバは誰かの存在に気付きふと立ち止まる。


 意思造りの皇子のような禍々しさはないものの姿を見せるまで気配に気付かなかったことにディーバは少なからず意識を張り詰める。


 けれど、その姿を視認してたディーバは張り詰めていた意識を解きながら今度は焦燥感に襲われ項垂れるのだった。


 そんなディーバの心境など鑑みることのない当のフェンリルは強打した額に手を添え涙目を浮かべている。


「うぅ、イタいのじゃ……うんっ?なんじゃ?」


 真っ赤に腫れ上がった額を撫でながら蹲るフェンリルは急に自分を覆い被さるように影が差したことに首を傾げた。


 誰かがいるのは分かるがフェンリルの視界に入った足元は彼女には身に覚えがない容姿であったため警戒心を抱きながらゆっくりと顔を上げた。


 視界に入ったその姿はフェンリルの屋敷内でもよく見かける女性用の給支服に身を包んでおり、深い森の中ではかなりの異彩を放っているので違和感しか抱かない。


 異様な状況に小首を傾げながら顔を上げて給支服に身を包んだ女性の顔を見た瞬間フェンリルは思わず絶句した。


「……げっ!?お主は……」


 あまりのことに言葉が出てこない。


 ただ、フェンリルが絶句しながら見つめるその存在は、肩まで伸びた黒髪が風に揺れるのをそっと手で押さえながら無表情な瞳でフェンリルを見下ろしていた。


 その瞳はまるでゴミでも見るかのようにフェンリルを一瞥すると不意に綺麗なお辞儀をして彼女に敬意を見せる。


「皆様、随分と遅くなり大変に申し訳ありません。屋敷よりお嬢様方をお迎えに上がりました」


 ただし、目の前のフェンリルを無視して女性は浩介達に対して言葉を紡ぎ出した。


 そう、この世界は中心の世界である…。


 そして、フェンリルという一つの世界を統べる皇女を眉一つ動かさず見下すことの出来る存在は世界広しと言えども一人しか存在しない。


 最凶女中……ミユルである。


 独特な存在感を醸し出しながらお辞儀するミユルの姿にディーバは羞恥心に襲われ俯いてしまう。


 出来る事ならば目の前で間抜け面を曝けだしているバカ皇女に蹴りの一つでも入れてやりたい。


 そんな心境ではあったが、状況がそれを許すはずもなくディーバは出来るだけ平常心を保った微笑を浮かべミユルと対峙するべく口を開いた。


「ミユルさん、お久しぶりで御座います…あぁ~っと、我が主が不様な醜態を晒してしまい誠に申し訳ありません」


 蹲ったままのフェンリルの姿に引き攣った表情で謝罪するディーバにミユルはお辞儀をしたまま顔だけを上げてチラリとフェンリルを見やると直ぐに視線をディーバへと向け直す。


「ディーバ様、お久しぶりに御座いますね…主様?まさかとは思いますが、この方が?いえ、いえ、そんなはずはございませんよね…。このような醜態を晒す愚かな少女が、あのフェンリル様で在られるはずが御座いません。これは大変失礼な発言をいたしましたね。謝罪を申し上げます…ところで失礼ながらフェンリル様はどちらに?御一緒ではないのでしょうか?」


 無表情で淡々と毒を吐くミユルにディーバも苦笑いするしかなく当の本人であるフェンリルは顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「…わざとでしょ」


 彼女の性格をよく知る皐月は溜息交じりに呟くとミユルは今、初めて気付いたかのような驚いた表情で彼女を見つめて再度、綺麗なお辞儀を行い忠義を見せる。


「皐月お嬢様、気付くのが遅れ大変に申し訳御座いません。なにせ、お迎えに上がって直ぐに醜態を晒す希少な生き物を目の当たりに致しまして思わず意識がそちらへと持って行かれたので御座います」


 申し訳なさそうに謝罪し、チラリとフェンリルを盗み見たミユルは皐月へと視線を向け直し単調な口調で尋ねてきた。


「ところで浩介様はどちらに?」


 キョロキョロと態とらしく周囲を見渡し、浩介を探すふりをする姿に彼女をよく知る雅はその場を後退りながらドン引きの表情を浮かべる。


「あ、相変わらずなのじゃ…いや、気のせいか…かなりパワ~アップしている気がするのじゃ」


 雅の言葉に四大精霊達が雅の背後に避難するのを誰が咎めることが出来るだろうか?


 ……答えは否である。


「ねぇ、あの人ってば…鬼畜?」


 何気に爆弾発言をするサラに慌てて彼女の口を塞ぎながらディーネはサラに小声で叱責する。


「バカなことを言うんじゃありません…そんなわけがあるわけ…いえ、あるわけ…ない、でしょう」


 心なしか否定しきれないでいるディーネにノーミとシルフィも無言で頷き同意を示した。


「これは珍しい…四大精霊ですか。顕現化が解かれていないところを見ると浩介様は近くにいらっしゃるですよね?皐月お嬢様どちらにいらっしゃるんですか?是非にご挨拶を致したいのですが……」


 何かに気付いたミユルが不思議そうに皐月の掌に顕現された鎖へと視線を向け小首を傾げる。


「…なによ?」


 少し後ろめたい気持ちになりながら皐月は不機嫌そうにミユルから視線を逸らすと屍と化した浩介が視界の隅に這入り込む。


「そうですか…」


 ミユルは無表情のまま皐月の掌から伸びた鎖の先を目で追っていき羽交い締めにされた浩介と視線がぶつかる。


 顔を痣だらけにしながらミユルを見上げる浩介の瞳……何かを訴えようと口を開きそうになった瞬間、ミユルは視線を皐月へと戻した。


「…どなたもいらっしゃらないようですね」


 四大精霊達が顔を見合わせる。


「「「えええっ!?」」」


 思わず叫んでしまった。


 あの無口や口べたのシルフィとノーミもである。



読んでいただきありがとうございます


おもしろいと思っていただければブクマ、評価などして頂けると嬉しいです


では、失礼いたします


(o_ _)o

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