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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の32 触れられぬ仲間の絆

連チャン更新、久し振りです


感想を頂けて嬉しくて。


ただ、今回は前回より長くありません


※意思造りの皇子を『彼』とだけで書いております。ご了承ください


では、お楽しみください


 ニヤリと笑みを浮かべる彼にフェンリルの瞳が細まり、彼女の気配が殺意へと瞬時に変わる。


「それがお主の真意であるならば生かしておくわけにはいかん…あの時代を忘れたとは言わせぬ」


 奥歯を噛み締め歯軋りするフェンリルに浩介は気持ちの悪さを覚え無意識に自らの胸ぐらを掴む。


「…なんだこれ、なん…気持ち悪い」


 頭が割れるように痛い。


 意識の奥深くで何かが蠢くのを感じる。


ーまだ早い…まだ


 トリニティが呟く。


 その声は哀しげなモノであった。


「どうなされたのですか?」


 浩介を囲むように四大精霊達が近づいてくる。


 けれど、今の浩介には彼女等の声は聞こえておらず耐えきれない気分の悪さに景色が歪む。


「…ぐっ」


 絶っていられなくなり思わず膝をつく。


 その姿をチラリと視線の先に捕らえた彼の瞳が微かに揺らめき口元を醜悪に歪める。


「その殺意は彼にはキツいと思うけど?」


 フェンリルの殺気すら飄々と受け流しながら彼は楽しげな表情で苦しむ浩介を指差す。


「フェンリル!殺気を押さえて!じゃないとコイツの意識が持たない…飲み込まれるわよ」


 皐月の声にギリッと奥歯を噛み締め殺意を抑えるフェンリルを嘲笑うかのように彼は口角をさらに吊り上げる。


「…フェンリル様」


 ディーバはフェンリルをチラリと盗み見て彼女の心情を察し、哀しげな表情を浮かべる。


「さっきの言葉は冗談だよ。君は私の言葉を信じてくれなかったからねぇ…まぁ、君の私に対する感情が理解できただけでも私にとって意味のあることだけどねぇ」


 その言葉と彼の笑みにフェンリルは彼の掌に踊らされているようで歯痒い気持ちを抑えることが出来ない。


「……それに捜し物も見つかったからね」


 ボソリと彼が呟く。


「捜し物……何を」


 彼の呟きに皐月が怪訝そうな表情を浮かべた。彼がこの場所にいること自体が異常でありながら、それ以上にその目的に嫌な予感を禁じ得ない。


「じゃあ、そろそろ行くよ。この場所にいるとコースケが苦しみ続けるだろうからねぇ」


 未だに苦しむ浩介を横目に見てクスリと楽しげな笑みを浮かべ踵を返そうとする。


「待ちなさい!」


 皐月が叫んだ。


 その声に歩みを止め彼が振り返る。


「なんだい?」


「アンタの捜し物って……」


 その問いを発した瞬間、周囲の空気が一気に下がり、彼の瞳が冷たく皐月を見下ろす。


 その瞳は哀れなモノを見るような蔑んだものであり、それに見つめられた皐月は言葉を失う。


「所詮は入れ物(・・・)に過ぎなかったんだよ。非常に残念だけどお陰で漸く出逢えることが出来そうだよ仮初めの姫さん」


 その言葉だけを残し彼は森と同化するように姿を消えようとして思い出したかのように浩介達に向き直った。


「あぁ、そうそう忘れるところだった……昨夜、面白い二人組にあったよぉ。彼らもバルクナールに向かったようだから会えると思うよ……じゃ、ね」


 一陣の風と共に彼の声だけが聞こえ姿が見えなくなった。


 静けさだけが残り彼の気配が完全に消え去ると場の張り詰めていた空気が一気に弛緩する。


 まるで何時間も対峙していたかのような疲労感に襲われた浩介達は力無くその場に座り込んだ。


「はぁ、はぁ…何だったんだ」


 荒い息を吐きながら痛みの薄らいだ頭を振りつつ彼が存在した場所を浩介が見つめる。


 自分の身に起きた現象と彼の言葉、何かを知っているだろうと思われるフェンリルの苛立った姿……浩介の意識に生じた僅かな疑心が痼りとなって疼いている。


「大丈夫ぅ~?」


 浩介の周囲を飛び回る四大精霊達が心配そうに顔を覗き込み、サラが声をかけてきた。


 けれど今の浩介には返事をする気力さえ無く、ただ頷いて答えるだけで精一杯であった。 


 痛みにより溢れ出た大量の脂汗が頬を伝い地面を濡らす。その不快感に浩介は思わず顔を顰める。


「何がどうなってんだよ……」


 意味が分からず苛立ってくる。


「…お主ら」


 何時もとは違う皇女としての気配を身に纏いながらフェンリルは浩介達の元へと歩み寄ってきた。


 その表情は幾つもの感情が交じり合い複雑な心情を醸し出しており浩介と皐月はフェンリルを困惑顔で見つめる。


ーフェンリル……まだ早いのじゃ


 【八咫烏の太刀】の状態であった雅が何か言おうとしたフェンリルに声をかけ顕現化し姿を現す。


「お主は知っておったのか?」


 顕現化した雅に視線を向ける。


「何となくじゃがな…彼奴の言葉で確信したのじゃ…ただ、まだ真実を知るときじゃない…まだな」


 意味ありげな言葉に浩介は眉間に皺を寄せ、グレンデルの瞳を顕現化し無言で二人を見つめる。


「無駄なのじゃ。その神器の力は妾と同質な存在、その瞳で妾の内面を見ることは叶わぬ」


 浩介が何をしようとしてたのか分かったフェンリルは哀しげな表情で悟らせる。


「…くそっ、お前ら知ってるだろ?何なんだよ、一体この不快感は何なんだ?それにあいつの言葉の意味、俺やこいつに関係していることだろ?なぜ、教えてくれない?なぁ、雅…」


 視線を逸らす二人に詰め寄るように捲し立てる浩介であったが二人は無言のまま何も語らない。


 雅ですら無言を貫いている。


「くそっ!」


 地面を強く殴りながら悪態をつく浩介に皐月は彼にそっと近づき後ろから優しく抱きしめる。


「…ごめんね、巻き込んじゃって」


 何時もと違う口調に浩介はハッとする。


 後ろを振り返ろうとするが彼女がそれを許さない。けれど、彼女の温もりが浩介の荒んだ心を溶かしてくれていることだけは分かった。


「…悪い、色んな事が起きすぎて気が動転していた。なぁ、二人とも()は教えられないんだろ?」


 雅とフェンリルが小さく頷く。


「なら、その時になったら教えてくれよ。仲間から隠し事されるのはやっぱ気分が良くないから…しかも、俺自身の事みたいだしさ」


「あ、主殿……妾は」


 服の裾を握りしめ俯く雅に浩介は彼女の頭にそっと手を乗せ優しく撫でてやる。


「主殿…うっ、うっ、うわぁ~ん。ごめんなのじゃ~、妾は主従失格なのじゃぁ~」


 盛大に鳴き始めた雅に四大精霊達がオロオロとしながら浩介と雅の間を右往左往する。


「み、雅様、泣かないでください…どうしましょう、大精霊様を泣かしたとあってはセレス様に……」


 テンパるディーネをよそにフラフラと雅に近づいたサラが浩介と同じように雅の頭を小さな手でポンポンと撫でる。


「雅様ぁ~泣いちゃ駄目だよぉ~よしよし」


「…主…様…謝って……です」


 ノーナが腰に手を当て浩介を睨む。


「…泣かせた…悪い男」


 ジト目でシルフィが浩介を貶める。


「ははっ、そうだな。俺は悪い男だな。こんなに俺のことを思ってくれてるのになぁ。なぁ、雅…」


 ノーナやシルフィに苦笑顔で答えながら浩介は優しい瞳で雅を見つめポンポンと頭を叩く。


「ひっく、ひっく…主殿?」


 赤く腫らした瞳が浩介を見つめる。


「…ありがとうな。雅は最高のパートナーだ。だから、これからも俺と一緒にいてくれるか?」


 その言葉に雅の瞳が大きく見開かれる。


「うんなのじゃ!」


 雅は嬉しそうにとびっきりの笑顔で頷く。


「ふふふっ、良かったわね雅」


 浩介を後ろから抱きしめていた皐月も楽しげな口調で雅に声をかける。


「フェンリル様……」


 ディーバがフェンリルに声をかける。


「仲間とは良いのぅ……」


 微かな笑みを浮かべながら微笑んでいた。


「フェンリル様にも貴女を慕う仲間達は大勢いらっしゃいますよ。貴女も一人ではありません」


「そうじゃな…ありがとう、ディーバ」


 ディーバに微笑むと彼女も笑顔をくれる。


「いえ、いえ」


 彼女らの微笑が伝染するかのように皆が優しい気持ちに包まれるのだった。


 ただ……。


「なぁ?何時まで抱きしめてるんだ?」


 流石に何時までも抱きつかれたままというのも落ち着かない浩介は意を決して皐月に声をかける。


 なにせ、落ち着かないのだ。


 主に背中に当たる柔らかい感触が……。


 浩介の言葉に我に返った皐月の体温が一気に上がった事が背中の温もりで感じ取る事が出来て苦笑を浮かべる。


 この後の結末が容易に想像できるからだ。


「ば、ば、ばっかじゃない!?」


 テンパった様子で慌てて離れた皐月はプイッとそっぽを向きぶっきらぼうに呟く。


「げ、元気になったんだったら良いわよ」


 その姿があまりの可愛らしく浩介の表情も自然と緩み…いや、緩みすぎて要らぬ一言を発してしまう。


「お前って結構デカイんだな……あっ!?」


「………………っ!?」


 気が緩んでいたことだとはいえ流石の浩介も直ぐに失言に気付き助けを求めて周囲を見渡す。


 だが………。


 ズザザザザザザッ………。


 砂煙を上げながら浩介から距離を取る。


 先程まで泣いていた雅ですら青ざめた表情を浮かべ、その背後から四大精霊達が顔を覗かせている。


「お主はバカじゃのぅ……」


 呆れた表情で見つめるフェンリル。


「ええ、まさに…まぁ、フェンリル様も同類のようにも思えますのでよぉ~く見ておいてくださいね」


 ニッコリと微笑み返すディーバにフェンリルの頬が引き攣り青ざめていく。


 そして……ジャラジャラ。


 聞き慣れた鎖の音が背後から聞こえ、浩介は戸惑いながら後ろを振り返ると……恥ずかしさに頬を赤く染めた鬼が居た。


「こんの~ぉ!変態がぁ~!!」


 皐月の叫びに同調するように鎖が宙を舞い浩介を目掛けて勢い良く落下する。


 ゴーーーーンッ。


 彼の脳天に鎖が直撃し声を上げること目で傷に浩介は意識を手放すのだった。

読んでいただきありがとうございます

(o_ _)o


一年ぶりに感想をいただきました


本当に嬉しかったです


ありがとうございます


これからも宜しくお願いいたします


では、失礼いたします

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