其の31 それぞれの思惑
今回は前回より長めとなっております。
本当は何話かに分けようと思っていたのですが調子に乗って書き進めたために長文となってしまいました。
登場人物
メイソン・リー
意思造りの皇子の偽名
第一章に最初に登場しております
では、お楽しみください
(o_ _)o
張り詰めた空気が室内を覆い尽くす中で窮地に陥っているフェンリルは助けを求めて周囲を見渡す。
だが…。
皆、彼女から視線を逸らす。
巻き込まれたくないから当然だった。
「薄情者ぉ~!」
その姿に愕然としながら虚しく響き渡るフェンリルの悲痛な叫びも浩介達にとって百害でしかない。
「何だか知らないけど、どうせ自業自得でしょ?」
「……どきっ!?」
皐月の冷たい言葉にフェンリルはビクリと身体を震わし、オドオドとした様子で周囲を見渡す。
浩介に震えながら抱きついている四大精霊達ですらジト目で彼女を見つめていた。
もはや味方は存在しないとも言える状況で、僅かな望みを託しフェンリルは雅へと救いを求めるような視線を向ける。
だが、浩介の服の裾を握りしめながら彼の背後に隠れていた雅は半分だけ顔を出し無表情に首を横に振り呟いた。
「…巻キ込ムナ」
彼女の片言な口調での拒否にフェンリルは呆然とした表情でガックリと肩を落とし項垂れる。
カツカツカツ。
ゆっくりと近づいてくる足音、物言わぬ圧迫感、そしてフェンリルの目の前で彼女が立ち止まる。
俯き項垂れるフェンリルの視界の隅に彼女の足元が映り込み、言い知れぬ気配を漂わせて彼女の精神を抉っていく。
ビクリと身体を震わせたフェンリルは顔を上げることなど出来る筈もなく、その瞳からは恐怖のあまり流れ出た涙が留まることなく床を濡らしていく。
〔……終わった、終わったのじゃ〕
悲壮感に打ち拉がれながら自分を見下ろすディーバの最後の審判をフェンリルは待ち続ける。
「……フェンリル様」
冷たい口調の声が耳を打つ。
静まり返った室内に響く彼女の声がフェンリルの運命を決めるのだ。
ガタガタと震える身体を自分では制御できず、額からは尋常でない汗が流れ始める。
さらに瞳からあふれ出す涙は止めどなく流れ、その姿はもはや皇女としての威厳など在ったものではない。
「…顔をお上げください」
遂に訪れた審判の時、フェンリルの脳裏には過去の記憶が走馬燈のように廻るましく流れていく。
「…フェンリル様?」
顔を上げようともしない彼女にディーバは苛立たしげに彼女に問いかける。
「ひっぐ…妾は…ひっぐ…妾は…悪くない」
涙声で呟くフェンリル。
「はぁ?」
小さな呟きではあったがディーバの耳にはしっかりと聞こえており、思わず呆れた声が出てしまう。
「…何を言ってるんですか?」
その険のある声にビクリと身体が震える。
ヒリヒリと肌を焼く感覚を覚えながらフェンリルは意を決して顔を上げた……が、直ぐに視線を逸らした。
なぜなら、目を合わせれば殺れると野生の勘が囁いたからだ。
あながち否定できない辺り、今のディーバの感情が如何なものか想像に難くない。
「そうですか……私と目を合わせることも出来ないのですね…へぇ~。なら……折檻ですね」
最後の言葉がフェンリルの脳裏に鳴り響く。
不穏な発言にフェンリルの残り少ない精神をガッツリと抉られて心が折れそうなほど追い詰められた今の彼女に正常な判断など出来るはずもない。
だが、今を切り抜けるために思考をフル回転させ無い知恵を絞り策を廻らせる。
その結果…愚策に手を出してしまう。
「わ、わ、妾はこの世界の皇女じゃぁーー!」
キュッと瞼を閉じて自らの両手を握りしめながら感情のまま叫び声を上げたのだ。
その瞬間、叫び声に呼応するかのようにフェンリルの身体が激しく閃光を放ち始める。
「……なっ!?このバカ皇女ぉ~!」
突然の閃光に動揺を隠せないディーバ。
なぜなら、彼女はフェンリルが無意識の内に何をやらかそうとしているのか想像できたからだ。
「なぁ…あれ、ヤバくないか?」
フェンリルの行為に嫌な予感を感じた浩介は皐月に意見を求めようと振り返りギョッとする。
その視界の先には険しい表情を浮かべた彼女がフェンリルを見つめながら赤と黒の鎖を掌から顕現を始めていたからだ。
「ちっ、これだから……あんたもぼぉっとしてないで今すぐトリニティを顕現して!手遅れになるわ!」
浩介を見向きもせずに言葉を放つ皐月に彼は今の状況を理解できずに呆けてしまう。
「はいっ?」
そのため浩介は思わず聞き返してしまった。
ただ、それがいけなかった。
ジャラジャラジャラーーゴンッ
鎖の先端が彼を襲う。
「いってぇーーー!なに、すんだ……よ」
後頭部に感じる鈍痛に浩介が怒鳴り声を上げるが皐月の切迫した表情を見て言葉尻が窄んでいく。
「バカはアンタよ!早く顕現しなさい!」
さらに皐月の怒声が鳴り響き萎縮してしまう。
ー顕現して……早く
トリニティが浩介の意識に話しかけてきた。
どこか切羽詰まっているように感じた浩介は意味が分からず頭をボリボリと掻きながらぼやく。
「ったく、お前もか……何なんだよ」
ブツブツと文句を垂れながらも瞳を閉じて意識の奥深くに潜むトリニティを脳裏に創造する。
「うんじゃあ、まぁ…顕現せよ、トリニティ」
片手を前に突き出し意識を集中させる。
身体から何かがゴッソリと持っていかれるのを感じながらも集中力を切らさぬように歯を食いしばるが一気に襲う脱力感に意識が朦朧としてくる。
「…ぐっ、こんなにキツかったか?」
想像以上に身体がキツく感じ、額からはイヤな汗が流れながらも掌から放たれた淡い光が拡散しトリニティを形作っていく。
その光が徐々に収束し、顕現を果たしたトリニティは皐月と同じような鎖を携えて無表情な瞳でフェンリルを見つめる。
「うん……暴走してる」
ボソリと呟いたトリニティの言葉に浩介は瞬きしながら改めてフェンリルへと視線を向けた。
「イヤじゃ、イヤじゃ、イヤじゃぁーー!」
顔を両手で押さえながら泣き叫ぶフェンリル。
その身体から発せられる閃光が彼女の感情に呼応するかのように激しさを増していく。
「アレは不味いですわ…」
その光景に青ざめるディーネ。
「うん、暴走の影響で【扉】がかなり不安定になってるね。う~ん、このままだと…」
浩介の影から覗き込むように顔を出しサラは不安定になり始めた【扉】を指差しながら考え込む。
「…あ…危ない…です」
不安げな表情を浮かべるノーミ。
「……うん、お終い」
不吉な感想を述べるシルフィ。
彼女等も今の状況の悪さを肌でヒシヒシと感じ取っており、それ以上にフェンリルの影響で不安定になった【扉】を心配げに見つめていた。
「…あぁ~、つまり、あれか?」
漸く状況を飲み込み始めた浩介は自分の中の憶測を確認するために四大精霊達に視線を向ける。
「…ヤバいってこと?」
間抜けな言葉に四大精霊達は揃って頷く。
「ええ…非常にですわ」
彼女等を代表してディーネが答える。
その緊迫した様子にフェンリルへと視線を向け直すと自らもグレンデルの瞳を顕現し周囲を見渡す。
「…まじか」
その瞳に映る室内の容姿に言葉を失う。
グレンデルの瞳が映し出す光景はフェンリルを中心として暴風の如く荒れ狂う血脈の力のために全てが不安定なものへと化していたのだ。
チラリと【扉】へと視線を向ける。
先程まで安定していたソレは徐々に形を失い始め、次元の内側から押し出されるように溢れ出す力がフェンリルの暴走に飲み込まれ始めていた。
「…トリニティはあのバカの注意を引いてちょうだい。その間に私の鎖で能力を抑え込むから」
視線をフェンリルから逸らさずに皐月はトリニティに声をかけ掌から顕現した鎖を握りしめる。
「…分かった。でも、長くは無理…」
トリニティは両手を開閉しながら顔を顰める。
「ふぅ…悪いな、【扉】開くのに結構、力を使ったから顕現するだけで一杯一杯だったんだ」
グレンデルの瞳を僅かに曇らせながら浩介は申し訳なさそうにトリニティの頭を撫でる。
「…うん、大丈夫…注意を引くぐらいなら出来る」
頭を撫でられ瞳を細めながら擽ったそうにしていたトリニティは両手を握りしめ気合いを籠める。
「じゃあ、良いわね?」
「「あぁ!(うん!)」」
サツキの言葉に頷き合った二人は視線をフェンリルに向けると更に近づくため足裏に力を込める。
そして勢いを付けて飛び出そうとした正にその瞬間、大気を揺るがす雄叫びが室内に鳴り響いた。
「この腐れ我がまま皇女がぁ~!」
ディーバが鬼の形相でフェンリルに吠えたのだ。
同時にディーバの片足が天高くまで掲げられ、ピタリと停止する。見事なほどに開脚されたその片足が予備動作も無く勢いよくフェンリル目掛けて振り下ろされる。
ゴーーーーン!
気持ちの良い衝撃音とともにディーバが振り下ろした踵がフェンリルの脳天を綺麗に直撃する。
「「「…………えっ?」」」
その光景に緊迫した室内が一瞬にして静まり返り、誰もが今の現状を理解できずに立ち尽くす。
「ねぇ……」
茫然と言葉を失う皐月。
「ああ…」
浩介もガックリと項垂れる。
四大精霊達もディーバの鬼の所行にガタガタと震えだし、雅に至っては顕現化を解いて【八咫烏の太刀】の姿で浩介の傍で小さくなっている。
そんな中で…。
「見事な踵落としでしたね…」
「…まったくですわ」
傍観者を決め込んでいたミアとセレスが他人事のようにその惨状を見つめるのだった。
「…ふっぐ、イタいのじゃ…何で妾ばっかり…」
冷静さを取り戻したのか、身体から発せられていた閃光も収束したフェンリルはペタリと床に座り込みグスグスと子供のように泣きじゃくり始める。
「…はぁ」
その姿を見下ろしながら額に手を当て深いため息をついたディーバの表情は先程までの鬼の形相ではなく駄々を捏ねる子供をどうするか悩む母親のようであった。
「フェンリル様…」
ディーバの声にビクリと身体を震わせる。
肩で息をしながらしゃくり上げるフェンリルにディーバは彼女の目線に合わせるように座り正面から見つめる。
「フェンリル様、私の目を見てください」
フェンリルはギュッと瞼を閉じて首を横に振る。
その仕草に少しやり過ぎたかと後ろめたい気持ちになりながらディーバはそっとフェンリルの頭に手をやり優しく撫でた。
手を頭に乗せられた瞬間、ビクッと身体を震わせ小さくなったフェンリルであるが、その感触に怒りを覚えることはなかった。
むしろ慈愛に満ちているように感じ、何故だか心が落ち着いていくようで自然と涙が止まる。
「…も、もう、怒っておらんのか?」
俯いたままオドオドとした口調で尋ねる。
「…えぇ、勿論ですよ」
その口調に優しさが滲み出ていた。
「本当に、本当か?」
けれども、フェンリルは顔を上げることなくディーバに念押しするようにさらに聞き返す。
「ふふっ、本当ですよ」
微かに笑みの混じった口調にフェンリルは漸く顔を上げる決意が出来たようでゴクリと唾を飲み込むと恐る恐る顔を上げた。
だが…。
「許すわけないでしょう…」
顔を上げたフェンリルに静かに冷たく言い放つ。
「………騙されたのじゃ」
その瞳に映し出されたディーバの表情は…。
鬼であった。
口元は確かに優しげな微笑を讃えている。
だが、それより上…その瞳は一切の光を感じられない深い闇に満ちた瞳であったのだ。
フェンリルの頭に乗せていた手が徐々に下がり頬の位置でピタリと止まる。気が付けば、左右の頬を押さえられていた。
「…このバカ皇女が」
呟くと同時に両手が力任せに頬を抓る。
「ひぎゃ~ぁ、イタいのじゃ!」
加減のない仕置きにジタバタと暴れ出すフェンリルだがディーバの両手はガッツリと彼女を縛り、逃げ出すことを許さない。
「「「…はぁ~ぁ」」」
その光景に周囲の者達から深い溜息が漏れ、張り詰めていた場の空気が一気に弛緩していく。
「そりゃそうだろ…」
先程までの状況を鑑みれば当たり前のことだと思いながら浩介は呆れた瞳で呟く。
「むしろ、あんな事やらかして許して貰えるなんて甘い考えを持てるとか、バカじゃないかしら…」
皐月は冷たい瞳で痛烈な批判を浴びせる。
「昔から成長してない…情けない」
フェンリルの過去のトラウマ製造器であるトリニティもジト目で彼女を見つめ首を振るのだった。
*
「…っで、結局アンタは何でここに来たのよ?」
ソファに座り込んだ皐月が頬杖を付きながら呆れた視線をフェンリルに向ける。
「ぐすっ………旅について行きたい」
地べたに座り込みながら赤く腫れ上がった頬を痛そうに撫でていたフェンリルがポツリと呟く。
「…はぁ、フェンリル様。貴女は自分の立場を理解されておられるのですか?」
呆れた口調のディーバが溜息交じりに質問する。
「妾はこの世界から出たことがないのじゃ。いつも、いつも、他の者の話を聞くだけ……もう、イヤなのじゃ」
ボソボソと呟くフェンリルに皆が耳を傾ける中でトリニティだけがジト目で胡散臭げな表情を浮かべていた。
「うん?どうした?」
フェンリルの話に感情移入しかけていた浩介がトリニティの瞳に気付く。
「……フェンリル」
トリニティがジト目でフェンリルの名を呼ぶ。
「……………どきっ」
その声にフェンリルが視線を逸らす。
「みんなを…騙すのは悪いこと」
トリニティの瞳が微かに光を帯びる。
その会話に何かが引っ掛かた浩介は二人を交互に見やり、思案気な表情を浮かべた。
「うんっ?……まさか?」
奇妙な違和感に浩介がハッとする。
直ぐさまグレンデルの瞳を顕現し周囲を見渡し始めると愁傷を漂わせていたフェンリルの額からダラダラと大量の汗が流れ始める。
「……おぃ」
静かな口調で浩介はフェンリルを呼ぶ。
その声にビクッと身体を震わせ、油の切れたゼンマイ人形のような動きで浩介の方へと顔を向けた。
引き攣った笑みを浮かべるその顔からは脂汗が止めどなくダラダラと流れ出ている。
「なんなのよ?分かるように説明しなさい」
その光景に意味が分からず訝しげな表情を浮かべる皐月が苛立たしげに浩介に問いただす。
「…血脈の力を使ってた」
浩介の代わりにトリニティがボソリと呟く。
「あはっ、あははは……」
誤魔化すかのようにフェンリルの乾いた笑いが静まり返った室内に響き渡り、周囲の落胆の溜息が更に残念な雰囲気を醸し出す。
ただ、一人だけ……そうディーバだけが頬を引き攣らせながらフェンリルを睨みつけるのだった。
そして、時は流れ現在ーー。
「…はぁ」
浩介は先程まで室内で起きていた惨事を思い出し前を歩くフェンリルの後ろ姿に小さく溜息を漏らしながら項垂れていた。
【扉】の出現地が本来の位置からズレていたのもフェンリルが暴走したのが原因であった。
ただ、不完全ながらもバルクナールへと続いている【扉】は形成されており、浩介は安全確認のため先に降り立つ結果となったのだ。
けれど、原因を作った当の本人は…。
「楽しぃのじゃ!これが旅なのじゃな」
獣耳を忙しげに動かしながら周囲の景色を見つめ九尾を楽しげにブンブンと左右に揺らしている。
浩介も苦笑いを浮かべるしかない。
「ねぇ、あのバカ皇女ってば何がそんなに楽しいのよ?今の私達ってば………」
呆れた口調でぼやきながら皐月は周囲を見渡す。
「……迷ってますね」
ディーバが項垂れながら呟いた。
「…やっぱり、そうよね。あんたち精霊なんだから近くの微精霊に街までの道のりを聞けないの?」
浩介の周囲を飛び回っていた四大精霊達に視線を向けると彼女らは怯えるように浩介の影に隠れる。
「う~ん、なんだろ?他の子達の気配は感じるんだけど意思疎通が出来ないんだよね……何かに管理されてるみたいな」
周囲を見渡しながらサラが小首を傾げる。
「そうですわね。私の属性の子達も何だか不思議な感じがしますわ……何故なんでしょう?」
四大精霊達はそれぞれの属性の長であり下位の精霊達を使役することが出来るはずであるにも関わらず関与できないことに違和感を覚えていた。
「ここって一応は中心の世界なんだよな?」
ふと、浩介はあることを思い出し皐月に声をかけると不機嫌そうな表情が視界に入り声をかけたことを後悔する羽目になった。
「…それが何よ」
案の定とも言える険のある返しに浩介は少したじろぎながら、その原因を模索する。
「おい、なんで機嫌が悪いんだよ?ってか、お前の方こそ街までの道のり分からない……なんだ?」
正直な話、機嫌の悪い皐月には関わりたくはないが自分から話を振ったため話を続けようとした。
だが、浩介は奇妙な違和感を感じ振り返った。
「やあ、久しぶりだねえ」
そこには飄々とした表情でメイソン・リーが浩介達に向けて手を振っていたのだ。
「…なっ!?」
誰もが声を失う。
なぜなら誰一人として彼の存在に気付けた者がいなかったからだが、ディーバは即座にフェンリルを庇うように彼の前に立ち、腰の騎士剣に手を添え身構える。
「フェンリル様、お下がりください」
ディーバの言葉に楽しげであった表情が険しくなり、何時もとは違う皇女としての威厳を醸し出す。
「久しいのぅ……」
氷のように冷たい視線で彼を見つめる。
その姿に細い瞳がうっすらと開くと一瞬、驚いた表情を見せたが直ぐに何時もの飄々としたものへと変わり口元に微笑を浮かべた。
「……本当に久し振りだねぇ。君が自分の世界から姿を見せるなんて一体、何百年ぶりだろうか」
懐かしげな口調で話しかけてくる彼に浩介は背筋に言い知れぬ寒気を感じた。
「ウルサいわ、お主ほど妾は暇ではないのでな……それより、もう一度だけ問うぞ、お主は何故ここに居るのじゃ?」
フェンリルから漂う気配が変わる。
ヒリヒリとした感覚が周囲を包み込み、それは正に一触即発の体を醸し出しており彼の言葉次第では戦闘も辞さない雰囲気であった。
自然と浩介の瞳がグレンデルの瞳へと変わり【八咫烏の太刀】を握りしめる。
雅の緊張した気配を感じながら浩介は周囲の四大精霊達と小さく頷き合う。
浩介の背後にいる皐月の方からもジャラジャラと鎖が顕現される音が聞こえ張り詰めた空気が場を包み込んでいく。
暫しの沈黙が過ぎた。
無言で浩介達を見つめていた彼が口元を微かに歪めると小さな溜息をつく。
「…はい、はい、争う気は無いよぉ」
先に沈黙を破ったのは彼であった。
観念したかの如く両手を掲げ、苦笑しながら浩介達を見渡す。
その姿に思わず気が緩みそうになるが彼を見つめていたフェンリルだけが険しい表情を崩すことなく問いかける。
「お主からまだ答えを聞いてはおらぬぞ」
その言葉に彼はヤレヤレと肩を竦めると頬を掻きながら何を言おうかと思案する。
「観光……かねぇ」
疑問系で答える彼にフェンリルの頬がピクリと動く。その姿からは油断は微塵も感じられない。
「う~ん、だめかぁ。信用ないねぇ」
態とらしくガックリと項垂れる。
「あたりまえじゃ。信用できるはずがなかろう?お主にはさんざん痛い目に遭わされたからのぅ」
険のある声で受け答える。
「……じゃあ」
周囲を見渡し彼はニヤリと口角を上げる。
「この多重世界で謀反を起こそうとしている…と言えば君は満足してくれるのかい?」
そう言い放ち彼は細い瞳を見開くのだった。
読んでいただきありがとうございます
(o_ _)o
変則的な投稿になって皆様にはご迷惑をおかけしています。
筆の遅い作者ですが見捨てずにいて頂けると嬉しいです
では、失礼いたします
(o_ _)o