其の30 前途多難な旅仕度
毎回、遅くなりすいません
(o_ _)o
今回ちょっと長めで何時もの三倍です
では、お楽しみください
バルクナールにほど近い深い森の傍で突如、奇妙に歪んだ空間が現れ宙を漂い始める。
それはまるで空間を鋭利な刃物で切り裂いたかの様な姿であり、明らかに違和感しか感じられないものであった。
その歪みは時と共に徐々に広がり、数刻を経た頃には人が通れるほどの大きさとなった。
不安定に揺らぐその歪みから誰かが姿を見せる。
浩介であった。
彼は周囲を見渡すと溜息交じりに苦笑する。
フェンリルの世界から四大精霊を呼び出し次元の裂け目を開いて彼はバルクナールへと向かったつもりなのだが…。
「あははっ……う~ん、ちょっとズレたな」
周囲の景色に視線を向けた浩介は予想外の場所に降り立っていることに気付き乾いた笑いを浮かべながら頬を掻く。
「邪魔よ、早く行ってよ!後が支えてるんだから」
背後から聞こえる罵声に浩介は素早く脇に寄り、声の主である皐月を招き入れる。
歪みから不機嫌そうに出てきた彼女は周囲を見渡し呆れた表情を浮かべて愚痴を溢す。
「…何がちょっとよ。かなりズレてるじゃない」
皐月はジト目で浩介を見つめる。
「いや、まぁ、その、なんだ」
言い訳しようと言葉を探すが出てこない。
原因は分かっているのだが果たして言い訳する意味があるのかどうかで判断をしかねていたのだ。
なぜなら、その元凶である人物が二人に続いて颯爽と姿を見せ周囲を見渡しながら楽しげな表情を浮かべたからだ。
「ふふふっ、まぁ良いではないか。散策しながら街まで行くのも旅の醍醐味の一つじゃからのう」
狐耳に九尾の尻尾を楽しげに揺らしながらフェンリルが溜息交じりの二人を余所に期待に胸を膨らませている。
「………誰のせいだよ」
恨めしげな瞳でフェンリルを盗み見ながら浩介はバルクナールへと向かうために思案する。
そんな浩介の傍らで次元の裂け目を生み出すのに呼び出した四大精霊達が彼の背後に隠れながらフェンリルを盗み見ていた。
「………ねぇ、ディーネ」
サラがディーネの服の裾を引っ張る。
「なに…サラちゃん」
何を聞かれるのか分かっているディーネはげんなりとした表情でサラに視線を向ける。
「…あれ、何だったの?」
「………はぁ」
少し前の出来事を思い出しディーネは溜息を漏らしながらサラの問いの解を見出そうとしてみる。
「……あれ…恐怖?…いえ、あれ?…困惑して…るです…なんで?ミーノ……うんっ?……あれ?あれ……です」
浩介の頭に顔を埋めながらミーノが小首を傾げている。その直ぐ傍でシルフィが無言でジト目を元凶であるフェンリルへと向けていた。
「……あははっ」
そんな四人の主である浩介の口からは彼女らそれぞれの反応に乾いた笑いしか出てこない。
「…本当に申し訳ありません」
最後に裂け目を通り抜けてきたディーバが申し訳なさそうに身体を小さくしながら現れて謝罪する。
「まっ、なんだ……苦労しますね、お互い」
「…申し訳ありません」
チラリと皐月を盗み見て苦笑する浩介にディーバも深い溜息を吐きながらガックリと肩を落とす。
この場所にいるのは浩介、皐月、フェンリル、ディーバ、そして四大精霊達である。
あの部屋にいたはずのセレスとミアはここには居ない。因みに雅は具現化を解き漆黒の太刀の状態で浩介の手の中で震えていた。
何時もならば、このメンバーにリアやニル、そしてセレスとミアの常闇の世界を共に旅した者達が居るはずであったのだが、今回このメンバーになったのには理由がある。
ほんの数刻前、浩介が四大精霊達の力を借りて次元の裂け目を開き【扉】を形成するときに事件が起きたのだ。
*
数刻前・フェンリルの執務室
「もう、嫌じゃ!書類など見たくもないぃ~!」
未整理の書類の束を宙に投げながら、この世界の皇女であるフェンリルは悲痛な叫び声を上げた。
「はぁ…全く、飼い犬は主人に似ると言いますが何故に貴女達は同じ発言をするのですか………」
額に手を当て深い溜息と共に目の前に広がる惨状に呆れ返るディーバは既視感を感じずにはいられなかった。
先程まで上司でもあるリアに本来の職務を遂行させるために悪戦苦闘していた。
逃げ出そうとするリアを団長室の椅子に縛り上げて溜まった書類を突きつけた彼女はそれを報告するためにフェンリルの執務室を訪れたのだが…。
この時間は確かにいるはずなのに扉を叩いても声をかけても返事がなく無意識に眉間に皺が寄る。
〔…まさか、逃げた?〕
嫌な予感が脳裏を過ぎり、失礼だとは思いつつも許可を得らずに扉を開いたディーバが見た光景が先程の惨事だったのだ。
「おっわぁ~!?いつからそこにいたのじゃ!?」
呆れた表情を浮かべているディーバの存在に漸く気付いたフェンリルは驚きのあまり身体をビクッと震わせる。
「貴女が大きな声で『もう、嫌じゃ~!書類など見たくもないぃ~!』と叫びながら書類を投げ散らかした時からです……」
ジト目でフェンリルと散乱した書類を見つめるディーバにフェンリルは視線を逸らしながら引き攣った笑みを浮かべた。
「………あはっ」
「あはっ……じゃありませんよ!」
態とらしい笑みにディーバの雷が落ちる。
「ひゃあ~!?悪かったのじゃあ~、許すのじゃ………なんじゃ?その目は……えっとぉ………」
オドオドと瞳を泳がせるフェンリルにディーバの怒りを抑えた低い声が頭上から聞こえる。
「拾いなさい……」
「…はいっ」
そそくさと床に散らばる書類を拾い集めるフェンリルを仁王立ちのディーバが見つめる。
「…これじゃ、どっちが主か分からないのじゃ。妾はこの世界の皇女であるというのに…ぶつぶつ」
小声で不平を漏らすフェンリルの声をディーバが聞き逃すはずもなく眉間に皺を寄せる。
「あぁっ?」
「はい……何でもありません」
その姿は主に服従する飼い犬のようであった。
放り投げた書類を机の上に並べ終えたフェンリルはチラチラとディーバを盗み見ながら椅子に座ろうとした瞬間…。
「…誰が座って良いと言いました?お座り!」
ディーバの雷が落ちる。
「ひゃんっ!?はいっ!」
その声に飛び上がるように立ち上がったフェンリルは即座に綺麗な正座で床に座る。
彼女自慢の九尾もしゅんと項垂れるように萎れて股の間に隠れ、獣耳もペタンと頭に張り付く。
「…の、のぅ、ディーバ?」
怯えた表情で上目遣いでディーバを見上げるが、その鬼の形相に…はて、鬼族であったかなと考える余裕を見せるフェンリルであったが決して表情には出さない。
そんな余裕の表情を見せれば更に追い詰められる未来しか思い浮かばないからだ。
殊勝な表情を醸し出しながらフェンリルはディーバを見つめるが彼女の表情からは怒り以外の感情が読み取れない。
「はぁ、よいですか?貴女はこの世界の皇女であらせられるんですよ?もう少し自覚を持って頂けなければ困ります」
尤もな意見にぐうの音も出てこない。
「…はいっ」
項垂れながら頷く。
「では、先程フェンリル様が行われた行動はどう思われますか?私ではなく他の臣下であったなら?」
その問いに少し考えてみた。
〔…彼奴なら便乗するのぅ、此奴の妹……だと妾に従うしのぅ……うんっ?なんじゃ、妾の臣下はみんな妾と一緒じゃないのかゃ?そうなると…〕
チラリと怒り心頭のディーバを見やる。
〔此奴以外ならよかったんじゃぁ…ディーバは本当に妾の臣下か?極端に真面目すぎるんじゃがのぅ〕
何故か斜め上の結論に至ったフェンリルは仁王立ちするディーバをマジマジと見つめてしまった。
「…なんですか?」
その視線に訝しげな表情を浮かべる。
「いや、妾の臣下の割に真面目な奴じゃなぁ~と思うてな……お主、本当に妾の臣下か?」
フェンリルの言葉に頬をピクピクと引くつかせ、更には瞳が細くなっていく。そして、最後の言葉にディーバの堪忍袋も限界であった。
その表情の変化にフェンリルの野生の勘が地雷を踏んだことを耳元で囁き始め彼女の額からイヤな汗が滝のように流れ始める。
〔…ヤバいのじゃ〕
言い過ぎたことに気付いたフェンリルはディーバから視線を外さず引き攣った愛想笑いを浮かべる。
その表情を顔に貼り付けたまま正座の状態で気付かれないように尻尾を使い器用に後ずさっていく。
「誰のせいだと思ってるんですかぁーー!」
「ひゃぁっ-!ごめんなのじゃ!」
ディーバの雄叫びに九尾の尾が勢いよくフェンリルの身体を持ち上げ、ディーバの頭上を弧を描き通り過ぎていく。
目指すは彼女の背後の扉である。
「なっ!?」
あまりのことに唖然とするディーバの頭上を嘲け笑うように通り過ぎて彼女の背後に着地したフェンリルはその勢いを殺すことなく扉へと駆けていく。
だが、あと少しで扉のノブに手が届くと思った瞬間、フェンリルの意表を突くように扉が開かれた。
「フェンリルさまぁ~、いる~?ちょっと、聞きたいんだけど姉様、見なかっ……えっ?」
ノックもせずにのほほんとした表情で扉を開いたリーアムと鉢合わせをしてしまったのだ。
突然に開かれた扉と立ち尽くす彼女の姿にフェンリルも動揺を隠せない…と言うよりも止まれない。
「なっ、えっ!?嘘じゃろぉ~?何故にお主はこのタイミングで!?わぁ~、無理じゃ、避けるのじゃ!命懸けで避けるのじゃ!」
勢いを付け過ぎため咄嗟の回避が出来ないフェンリルは無謀にもリーアムに避けるよう叫ぶ。
「うぇ~ん、無理っす~」
けれど、諦めの早いリーアムはしゃがみ込むながら涙目で近づいてくるフェンリルを見やることしか出来ない。
グチャッ。
「ふぎぇー!?」
イヤな音と共にリーアムは床に顔面を強打し、その後頭部にはフェンリルの足跡がくっきりと残されていた。
「すまんのじゃあ~!」
振り返ることなく謝罪の言葉を吐いて、人化したままの姿で獣の如く四つ足で駆け抜けていく。
「まてぇ、こらぁ~!腐れ皇女!」
グチャッ。
フェンリルに続き、ディーバが実の妹の後頭部を踏み付けながら逃げ去っていくフェンリルの後ろ姿を睨みつける。
「……イタい」
フェンリルのせいで要らぬとばっちりを食らった不憫なリーアムは涙目で呟くのだった。
「あぁ~、もう……」
走り去っていくフェンリルの姿を苦々しく見つめながらグリグリと実の姉妹の後頭部を踏み付けるディーバだが、それでも腹の虫は一向に治まらない。
フェンリルの言葉を思い出すだけでギリギリと歯軋りしてしまう。後を追って制裁しなければ我慢が出来ないのだ。
けれども、決済しなければならない書類の束が山のように机の上に残されている。
どちらを優先すべきか、本来ならば決済であるはずなのだがディーバの心境は幾ばくも無い。
暫しの奮闘にディーバはあることに気付いた。
チラリと足下の存在へと向ける。
「リーアム……」
冷たく低い声でディーバが声をかけてくる。
その声にリーアムはピクリと身体を震わせた。
嫌な予感しかしない。
「…なに?…ってか、足を退けて。マジで痛い」
ジタバタと暴れながら抵抗を試みるもピクリとも動かないディーバの強靱な脚力が彼女をしっかりと押さえつけているのだ。
その圧迫感にリーアムは諦めの境地に達した。
抵抗は無意味で現実は非情であるのだ。
それを悟ったリーアムは無意味な抵抗をを諦め、涙目で見上げながら理不尽な発言を甘受する。
それは……。
「あとはよろしくね」
悪魔の微笑と冷たい瞳を浮かべ、お願いするディーバに逆らう術を持たないリーアムは………。
「…はい」
了承するしか選択肢がなかった。
「さてと…あのバカ皇女、言うに事欠いてあんな発言…私の苦労も知らないで目にもの見せてやる」
ディーバの瞳に暗い闇が燃え上がり、主であるフェンリルを追いかけるべく駆けだしていく。
その後ろ姿を項垂れながら見つめるリーアムはチラリと山積みされた書類の束を見やり深い溜息をつくのだった。
その頃、フェンリルは我武者羅に廊下を駆けていた。その姿は狩人に狙われる獣のようであり、ディーバの言葉ではないがとても臣下に見せられるものではなかった。
「上手く逃げれたのじゃ…じゃが、このままではいずれ追いつかれ……はふぅ、地獄じゃ地獄の折檻じゃ。想像するだけでも怖ろしぃ……何か良い手はないか………ふむ、まだ間に合うかもしれん」
見事に逃走に成功したフェンリルがディーバを捲くために思考を廻らせ廊下を走り回っていた頃、浩介達は……。
*
フェンリルの屋敷で旅の準備を進めていた。
皐月達との話し合いで馬車を乗り継ぐより【扉】を開いて赴く方がリスクが少ないと考えた浩介は四大精霊達を呼び出した。
本来ならセレスを通じて確実に【扉】は開くのだが昨晩のトラウマで使い物にならずガクガクと震えている。
「…まぁ、しゃーないわな」
頬をポリポリと掻きながら浩介は自分の周囲に群がる四大精霊達へと視線を向ける。
「ちょっと大変だろうけど協力してくれるか?」
「はい、当然ですわ」
「うん、いいよ」
「……問題ない……です」
「………うん」
四大精霊達の頷きを確認した浩介は瞳を閉じて意識を集中する。少し前に訪れた街並みを脳裏に想像してイメージを固めていく。
その間に四大精霊達の身体も淡く光を放ちだし浩介へと彼女等の力が注ぎ込まれていく。
「…うん、大丈夫。イメージは出来た」
ゆっくりと瞳を開くと左右で色の違う瞳が正面を見つめる。浩介は手を伸ばし意識を集中させる。
「汝等と我の契約により【扉】を開放せん」
グニャリと浩介の見つめる先の空間が歪み淡い光を放ちながら徐々に広がっていく。
「まぁ大丈夫だと思うけど完全に安定するまでは待った方が良いな。旅の準備でもしてようか」
不安定に揺らいでいた空間が【扉】として安定していくのを確認しながら浩介は額の汗を軽く拭う。
そして周囲に視線を向けるとそれぞれが同意するように頷き自分達の身支度を整え始めた。
数刻後、皆の身支度も終わりそれぞれが束の間の小休止に入った頃、周囲から少し離れていたミアが何かに気付いた。
「…うん?なんだろ?」
「どうした?」
それに気付いた浩介が獣耳を忙しげに動かすミアに視線を移すと少し困惑した表情を浮かべた。
「い、いえ遠くで奇妙な足音が……」
「奇妙?どんな?」
「う~ん、そうですね。」
意識を耳に集中しながら瞳を閉じる。
「足音は二つ、一つは明らかに女性ですね。何かを追いかけているようです……その追いかけている足音が奇妙というか、何というか、う~ん」
小首を傾げながら考え込む様子を見せるミアに浩介も一抹の不安を覚えてしまう。
「ちなみにそれは近づいてるの?」
皐月は胸元で腕を組んで足を小刻みに揺らしながら、険のある声で不機嫌そうにミアに尋ねる。
「えっと、はい。近づいてきてますね。あっ、ほら声も……えっ、あぁ…そういうこと」
何かを察したミアが溜息をついて項垂れる。
「どうした?」
項垂れるミアに声をかけると彼女は力無く廊下と部屋を分ける扉を指差した。
皆がその指先を向けた扉に視線を向けた瞬間…。
バンッ。
扉が勢いよく開き、人化したままの涙目のフェンリルが四つ足で飛び込んできたのだ。
「妾も行くのじゃ~!」
飛び込んできたフェンリルは勢いのまま何を勘違いしたのか皐月の胸元へと飛び込んでいく。
だが……。
「くたばれ…」
近づいてくる存在に冷たい視線を浮かべた皐月は掌から鎖を顕現して床に広げていく。
ジャラジャラと無機質な音を立て広がった鎖はまるで意思を持っているかの如くフェンリルへと向けて軽やかに跳ね上がった。
バキッ。
「ふぎゃあ~!?」
何かが潰れる音ともに皐月の生み出した鎖がフェンリルの顎を綺麗に直撃し悲鳴を上げながら彼女の身体が宙を舞う。
「…あぁ、ご愁傷様」
放物線を描きながら宙を舞うフェンリルに浩介達は不憫そうに合掌するのだった。
ただ、ミア一人だけは扉の先を見つめていた。
「…確か、もう一人いたはず……セレス様」
ミアは近くに居るセレスに声をかける。
「えっ、あっ、はい。なんでしょう?」
フェンリルの悲惨な様子を傍観していたセレスがミアに視線を移すと彼女はジト目で扉を見つめている。その姿にセレスは嫌な予感しか思い浮かばない。
「…離れていた方が無難です」
ミアの言葉にセレスも察したのか小さく頷く。
「あぁ、そうですね…」
ミアとセレスは他の者達から距離を開ける。
ドタドタドタッ。
その直後、誰かの足音が廊下に鳴り響いた。
「待て、こらぁ!この腐れ皇女がぁ~!」
怒声と共に……。
その人物は勿論、ディーバである。
「き、き、来たのじゃ~!」
宙を舞うフェンリルの瞳に鬼の形相のディーバの姿が映り込み、彼女は恐怖に表情を引き攣らせる。
だが、空中で姿勢を変えることも叶わず無情にも彼女の身体は仁王立ちするディーバの眼前へと落ちていく。
ドンッ。
室内が衝撃に揺れる。
「ぎひゃあ~!」
逃れる術のないフェンリルは勢いよく床に叩きつけられ、情けない声と共に顔面を強打したのだ。
されど、一世界の皇女であるフェンリルにはそれほど痛みを感じるほどでない…だが彼女は顔を上げることが出来ずにいた。
なぜなら彼女の頭上で尋常でない威圧感を感じたからだ。それが誰なのかも容易く想像できる。
顔を上げたくはない…が、その威圧感を無視することも叶わず絶望感に打ち拉がれながらフェンリルは恐る恐る顔を上げた。
「ひっ!?」
視界に入ったディーバの姿に思わず奇声を発したフェンリルの引き攣った表情が絶望感を如実に表している。
「フェンリル様、貴女は一体どちらに行かれようとしてらっしゃるんですかぁ?」
ニッコリと微笑みながら主であるフェンリルを見下ろす彼女の瞳からは一切の笑みがない。
それどころか瞳から垣間見える底の見えない深い闇がフェンリルの恐怖をさらに増長させていく。
「これって修羅場?」
浩介の影に隠れて震えながらも興味津々な視線を向けるサラにディーネはそっと彼女の肩に手を当て遠い目を向ける。
「ええ、サラちゃん。決して近づいてはいけませんわよ……これは私達、上位の精霊といえど命に関わりますからね」
その言葉に浩介も苦笑いを浮かべる。
「……うん…軽く死ねる……です」
「触る神に祟り無し……」
無口なノーミとシルフィも浩介の首筋に抱きつきながら頷き合っている。
その身体は恐怖に震えていた。
だが、そんな中で皐月はというと……。
何故か親近感を感じていた。
「良い気迫ね……」
どこか満足げな表情を浮かべる皐月の姿と鬼気迫る表情を浮かべるディーバを交互に見ながら雅は浩介の服の裾を握りしめ、震える声で呟く。
「……皐月が二人いるようじゃ」
「はははっ……」
思わず乾いた笑いが出てしまう浩介だった。
読んでいただきありがとう御座います
<(_ _)>
なかなか更新できずに申し訳ありません。
ブクマ、評価してくださっている皆様方にはご迷惑をおかけしております。
最後まで書き続けていきたいと思っていますので今後とも宜しくお願いいたします。
では、失礼いたします。