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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の29 バルクナールの片隅で…

毎回、遅くなりすいません

(o_ _)o


では、お楽しみください




「おばちゃ~ん、注文いい?」


 その声に女店主が頬を引き攣らせながら振り返るとその光景に少なからずの困惑の表情を浮かべた。


 人通りの激しい歩道に面したテラス席に奇妙な二人組が座って居たからだ。


 一人は執事服に身を包んだ老齢の男性であり、その姿に対しては店主にもまだ理解は出来た。


 けれど、もう一人の年若い黒髪の女性の服装には違和感しか感じらない。


 服装は一見して庶民が着るような物でありながらも、その仕上がりは上質な仕立てであり高価な物だと推測できる。


 庶民の服装に扮してはいるが女性の所作からは明らかに高い教養を感じられ異質な違和感があった。


 この世界では教養を受けられる者は一握りといっても良いかもしれない。なにせ、一昔前まで苛烈な争いが続いていたからだ。


 長年、多くの客を相手にしてきた店主は直感的に高位な身分の者だと推測した。  


 困惑はするものの、そこは店を切り盛りする店主である。例え見たことのない服装であっても客であることには違いなく席についているからには対応するのが商売である。


 だが、その奇妙な服装の女性に近づいて店主は改めて困惑してしまう。何故なら、女性の容姿に自分の店に似つかわしくないと感じたからだ。


 正直に言って店主の店は小綺麗にしてはいるが大衆食堂のそれに近い。執事服に身を包んだ者を連れだって来る身分の者を相手にするような所ではない。眉間に皺を寄せながら改めて女性を盗み見る。


 その姿は清楚な黒髪の整った容姿の美人であり店の前の通りを行く歩行者が振り返るほどであった。


 面倒ごとは避けたくはあったが店主に気の利いた言葉を吐けるほど教養があるわけもなく心の内で小さな溜息を漏らす。


ーさて、どうするかねぇ…


 逡巡、思考を廻らせてみるも良い案など出るはずもなく店主は開き直りいつも通りの対応をすることにした。


ーまぁ、この店を選んできたならこの店の流儀で持てなすのが筋ってもんだろうしね


 決死の覚悟を決めた店主は自らの流儀を通すため二人の元へといつも通りの歩みで近づいていく。


「誰がおばちゃんよ!まだ、そんな歳じゃないわ!まぁ、いいさね…っで、注文は何にするの?」


 腰に手を当てながら、取りあえずの挨拶代わりの文句を溢してメニュー片手に考え込んでいる少女を見下ろす。


 内心は緊張しているが表情に出さない辺り流石というべきかもしれない。だが、店主は知らない。


 この店には身分の高い者どころか帝の意志を継ぐ者と大精霊が訪れたことがあるという事実に……。


 店主の心情などお構いなしにメニューをテーブルに広げた黒髪の女性は少し悩みながら挿し絵の入った品を指差す。


「う~ん、じゃあ、この雅スペシャルDX」


 少女の一言に他の客からざわめき声が上がる。


「まじで頼むのか!?アレを一人で食える人間なんているわけ無いだろ?あの嬢ちゃん本気か?」


 常連客らしき男性が声を上げると近くのテーブルにいた男は彼女を盗み見ながら冷静に呟く。


「いやいや、意外といけるかもしれん」


 そんな、ざわつく店内に店主は呆れながら彼女が指差す注文を改めて聞き返す。


「メニューにも書いてるけど、一人で食べる場合は残したら倍額、支払って貰うけど良いのかい?今ならまだ、変更も出来るよ?」


 食べ物を粗末にしたくないため失敗時のペナルティを説明すると彼女はメニューに描かれた挿絵をマジマジと見つめる。


 暫しの逡巡のあと彼女はニッコリと微笑んだ。


「う~ん、でも食べれそうだからこれでお願い。あっ、エレボスはどうするの?」


 自分の品を決めて閉じたメニューを慌てて開いて同行者に向けると彼は微かに苦笑する。


「……い、いえ私は飲み物だけで結構です」


 挿絵に描かれた料理に胸焼けを起こしそうになりながら彼は飲み物だけを店主に注文する。


 改めてメニューを閉じて笑顔を浮かべる彼女と落ち着いた雰囲気を醸し出す男性に営業スマイルを見せた店主はクルリと振り返り店中に響き渡る声で厨房に声をかけた。

 

「雅スペシャルDXが入ったよ!あんた達、気合いを入れて作りなぁ!」


「「「はいっ!」」」


 厨房から店員の声の揃った返事が返ってくる。ここはバルクナールの一画にある飲食店、かつて雅が気に入ったことで生まれた『雅スペシャル』がある店である。


 そんな事とは露知らず老齢の男性と黒髪の女性、エレボスと美弦は店主が厨房に去ってからバルクナールの街並みを興味深げに見つめる。


「私の記憶にない街ね」


 街並みを見つめながら美弦はボソリと呟く。


「そうでしょうな……この街はこの世界の平和の象徴と言える場所ですからね。あちらの並んだ建物を見ていただけますか?」


 そう言われてエレボスが指差す先に視線を向けた美弦であったが、その建物を見ても何があるのか分からない。


 建物自体は同じ作りのデザインで違う点があるとすれば門扉に掲げられた紋章だけである。


 ただ、その紋章に視線を移した美弦は少し驚いた表情を浮かべ先程エレボスが語った言葉を思い出す……平和の象徴の街。


 各世界を象徴する紋章旗が掲げられていたのだ。過去の争乱時には決して見ることのなかった光景がそこにあるのだ


「…本当に平和なのね」


 感慨深げに美弦は風に靡く紋章を見つめる。


「平和……そうですな」


 美弦の言葉を反復しながらエレボスは昨夜のことを思い出し、微かに眉間に皺を寄せながら一つの紋章に目を向けた。


 その紋章は意思造りの世界の紋章であるエレボスはあの者の思惑に見当が付かず心の中で呟く。


ー彼がどう出るのか…それ次第で。


 不吉な予想が脳裏を過ぎる。


 森で意思造りの皇子であるサイアス・シーサーと別れエレボスは美弦が目覚める間、あの森で過ごした時に彼は、変わりゆく時代の流れに憂いを覚え先の未来の行く末を案じた。


 そして、目覚めた美弦と共に森を抜けバルクナールで平和の象徴とも言える各世界の旗めく紋章を見つめている。


 それが何を暗示しているのか彼自身、分からずにいるものの言い知れぬ不安を感じ美弦を盗み見る。


ー彼女だけでも……。


 主である業罪の皇女の命と帝の勅命、騎士としての矜持を全うすることを人知れず誓う。


 そして、暫しの沈黙と街並みの喧騒を感じながらエレボスと美弦はそれぞれの感情で薄氷の平和を見つめるのだった。


           *


 そんな二人を余所に厨房では……。


 ある種の戦場と化していた。


「なぁ?」


 大きな鍋を振るいながら一人の料理人が同僚に声をかける。


 声をかけられた同僚も手を動かしながら目の前の光景に引き攣った笑みを浮かべていた。


「あぁ…これ本当に食える奴いるのか?」


 料理人の二人は他のスタッフ達が総出で積み上げていくパンケーキの山を横目に「…これは食い物なのか?」と苦笑する。


 この店の看板メニューである雅スペシャル、それの上位互換とでもいえば良いのかDXの名を冠した無謀メニューであるそれは決して一人で食するものでない。


 この店自慢のパンケーキの特大サイズ、人の顔がスッポリと納まってなおあまりある大きさである。


 それが十枚、ミルフィーユの如く重ねられて更にはたっぷりのメープルシロップをかけられ黄金色に輝いている。


 それで終わりかと思えば、その上にホイップクリームと果実が彩りを添えている。


 見ているだけで胸焼けを起こしそうになる。


「……っで、この甘党至上主義を食すのは誰なんだ?勿論、何人かで食べるんだよな?」


 料理人の一人が静かに首を振りテラス席に座るお客を指差す。その客を見て振るっていた大鍋の動きが止まる。


「…まさか、あのご老人か!?」


 斜め上の解答に厨房スタッフが声を揃えて叫ぶ。


「「そんなわけあるかぁーーー!」」


 と叫ばれて改めてテラス席を見て


「…あの嬢ちゃん、一人で食う気か?」


 呆れて表情を浮かべながら「その方があり得ないんじゃないか……」と思う料理人であった。


 そんな彼らを苦笑気味に見つめながら店主は自分の店を気に入ってくれていた少女の姿を思い出す。


「あの娘は元気にしてるのかねぇ……」


 少女の名を冠したメニューが出来たことなど当の本人は知るよしもない。


 そして、その少女がバルクナールへと舞い戻ってこようとしている事を店主はまだ知らなかった。


  




読んでいただき有り難うございます

(o_ _)o


ブクマ、評価してくださり有り難うございます


筆の遅い作者ですが


見捨てずに頂けると嬉しいです


では、失礼いたします


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