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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第四章 多重世界は魂の連なり
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其の27 拒まれる存在

あらすじ

~浩介達が茶番を演じている頃、五護衆のミユルはバルクナールの屋敷に舞い戻ってきていた。一方、エレボスと美弦は鎖に導かれるまま多重世界の深い森に降り立つのだった……~


登場人物紹介

ミユル(アトロポス)第三章過去の記憶編


エレボス・美弦ミユル

 第四章 其の7旅立ちと新たな世界


では、お楽しみください(o_ _)o


 街の喧騒が騒がしくもそれらが発する人々の活気が溢れる場所バルクナール、この多重世界で唯一とも言える各世界の住人が共存している場所である。


 夕暮れ時であるため夕餉の支度のためか建物から人々の息吹のような煙が立ち上っていた。


 その都市の中心から少し離れた場所に聳え立つ屋敷の一角で、一人のメイドが窓越しに街の景色を見つめながら佇んでいた。


 中心の世界の五護衆であるミユルである。


 皐月達と別れて一度は屋敷へと戻りはしたが各世界に送り込んだ影の情報に焦臭さを感じて単身、バルクナールへと舞い戻ってきたのだ。


「……皆さんこちらに向かっているようですね」


 広々とした屋敷の窓からバルクナールの街並みを見下ろしながらミユルはボソリと呟く。


 その表情は楽しげでありながらも、どこか釈然としない理不尽さを感じられる。


 それらの感情は矛盾したものであり、なぜ彼女がその様な感情を抱いているのかは他者にはその心境を推し量ることが出来ない。


 ただ、人々の賑わいに満ちた街並みの活気に潜む不穏な気配を敏感に感じ取ったミユルからは無表情の影に隠された本来の人格が微かに垣間見える。


 それが矛盾した感情の原因であった。


 今の彼女はミユルと呼ばれる存在でありながらも、その人格を形成するのはアトロポスと呼ばれる高位の存在である。


 過去の約定のため彼女はミユルの身体を借り受けてから現在に至るまで今も治癒を施し続けていた。


 それほどまでに損耗が著しかったからである。


 本来、魂が失われた肉体は自然へと帰り未来への糧となるものである。


 だが、彼女の肉体はアトロポスが関与したこともあって少々特殊な事情を抱えていた。


 なぜなら、彼女の魂は別次元に存在するからだ。


 アトロポスが管理する多次元世界で仮の肉体を得て、新たな人格と人生を()と送っているはずであったのだが、彼がこの多重世界に連れてこられてからアトロポスの計画に綻びが生じ始めだした。


 時の輪廻が狂い始めたのだ。


 ただ、それも彼だけならばアトロポスの手により解決する手段はあったのだが……彼を連れてきた存在の関与によりミユル本人もこの多重世界に足を踏み入れてしまった。 


 しかも、鎖に導かれるようにバルクナール郊外の森に辿り着いたことも、その気配を感じることにより気付いていた。


「とうとう、この世界まで来てしまったのね……この身体、物凄く相性が良いんだけど……本人に返さなきゃ駄目かしらね」


 アトロポスは両手を見つめ慣れ親しんだ感触を味わいながら不穏な言葉を口にする。


 無意識の内に悪戯めいた笑みを浮かべていた。


 楽しみであったからだ。


 自らが造り上げた箱庭(多重世界)がどのような結末を迎えるのか、悠久の時を生きる彼女にとって瞬きするほどの僅かな時間に過ぎないこの時間の流れの行く末を楽しもうとしていたのだ。


 実際にミユルの魂が次元の裂け目に進入した際、自らの欲求を満たすために僅かに小細工を施した。


 勿論、彼女が手出しした証拠も隠蔽し、この世界に現れた時点で二人の意識に介入もしておいた。


 容易く見抜けるものではないがアトロポスは二人なら気付くことが出来るだろうと予想している。


 もし気付けなければ永遠に森を彷徨い、時の輪廻からはみ出すだけでしかない。


 そうなってくれれば彼女にとっては都合が良いのだが、それは儚い願いだとも分かっていた。


 二人は必ずくると確信があるからだ。


 その要因はこの身体の本来の持ち主であるミユルが自分を完全に信じていないことに由来する。


 彼女の魂を自分が管理する多次元世界に導いた際に敢えて疑心を植え付ける発言をしたからだ。


 その時の彼女の反応を思い出しながらアトロポスは苦笑しながら楽しげに呟いた。


「まぁ、あとは本人に次第ね。この身体に関しても会ってから確かめれば良いわよね…間に合えば……だけどね」


 その視線を深い森林へと向けながら、不穏な笑みを更に歪めこれから巻き起こるであろう世界の行く末を思い描くのだった。


             *

 

 エレボスと美弦が鎖に導かれるように降り立った場所は夕暮れ時の深い森の中であった。


 本来ならば中心の世界の屋敷に辿り着くはずが、鎖に導かれるまま二人はこの森に降り立つことになったのだ。


「ここはどこの森なのかしら?」


 薄暗い森を見渡しながら美弦が呟く。


 森の深部らしく容易に今いる場所を特定することが出来ずにいる。


「…そうですな」


 エレボスは周囲の木々を見つめながら特徴的な種類がないか確認して回る。


 けれど、それらの木々はありふれた種類でしかなく場所を特定するには至らなかった。


「ふむ、周囲を精査してみましょう」


 瞳を閉じ、意識を集中させる。


 今まで気に留めなければ気付けぬほどの微かな風切り音や虫たちの鳴き声が意識へと入ってくる。


 だが、彼らの求めるものは感じられない。


 それは人の気配であり戦場ではそれを感知できるかどうかで己の命運が決まる。


 エレボスは更に五感を研ぎ澄まし意識を傾ける。


 しかし、彼の五感を刺激するには至らない。


「……人の気配は感じられませんな」


 小さな溜息交じりに呟く。


「そう……」


 残念そうにしながら美弦は周囲を見渡す。


 薄暗くなり始めた景色に不安が駆り立てられる。


「とりあえずは日が完全に沈んでしまう前にこの森を抜けることを優先した方が良いですね」


 小さく頷きながら美弦は周囲を警戒しながら前を進むエレボスの後をゆっくりとついて行く。


 薄暗い景色が不安に駆られる。


 どれだけの年月が過ぎ、世界はどう変わったのか、美弦の心に在るものは今の世界の姿であり、あの人が求めた世界が実現しているのかである。


「ねぇ、エレボス?」


「何でございましょう?」


 エレボスに声をかけると歩みを留めること無く振り返りながら柔和な表情を美弦へと向ける。


 けれどもエレボスの意識は常に周囲に気を配り、一分の隙も見当たらないのは流石としか言いようがない。そんな彼に美弦は、ふと思い当たる考えが脳裏を過ぎり聞いてみることにした。


「私の記憶が確かなら【神隠し】が頻繁に起こる森がなかったかしら?私達は鎖に導かれて時空の裂け目を出たのよね?だったら私達はその森に居るとは考えられないかしら?」


 美弦の問いに「…ふむ」とエレボスは考える素振りを見せ、改めて周囲の森を見つめる。


 言われてみれば…と彼は考え呟くように答えた。


「…可能性はありますね」


 歩みを止めて入念に気配を探ってみる。


 もし、美弦の言葉が正しければ人の気配を感じ取れないのはおかしいと思ったからだ。


 だが、先程よりも更に入念に探ってみると今度は不自然なほど気配を感じられなくなった。


 自然に生きる存在の気配さえもだ。


〔これは明らかにおかしい……何故、気付かなかった?いや、意識していなかっただけ…なのか?〕


 美弦に不安を抱かせないため表情を露わにすることはなかったが彼は自らの考えに驚きを隠すことが出来ずにいた。


 戦場で気配を絶つ術を持つ者に心当たりはあるが、果たしてこの深い森全てに関与できる輩が存在するのだろうか…その思考に行き当たった彼は自然と美弦へと視線を向けていた。


「…何者かの関与…考えられますね」


 冷静に考えれば簡単なカラクリであった。


 何も周囲の存在の気配を絶つ必要はなく、単純に二人(エレボスと美弦)の意識に介入すれば良いだけなのだ。


 ただ、その考えには幾つかの疑問が残る。


 何時の段階で?


 誰によって?


 何のために?


 先ず最初の何時の段階だが、おそらくは次元の裂け目で不自然に鎖に誘導された時だと推測することが出来た。


 次の誰によっては彼女を見ることで容易に想像できるものであり、魂を転移させることの出来る者の処遇であるとエレボスは判断した。


 ただ、最後の何のためにが問題であった。


「…一つ質問をしても?」


 美弦を見つめながら問いかける。


「なにかしら?」


「あなたは誰の手によってあちらの世界に?」


「…話せない……いえ、違うわね。話すことを禁じられていると言った方が正しいかもしれない」


 口に出せないもどかしさに眉を顰めながら俯く美弦の姿にエレボスは自分が想像するより遙かな存在が関与していることを直感的に感じ取った。


「そうですか……分かりました。私の想像ですが今の状況は何者かの関与が考えられます。多分ですが貴女のよく知る人物であると思われます」


「…そうなのね」


 十中八九、間違いないとすら思える人物に心当たりがある美弦の脳裏にはアトロポスの姿があった。


 正に嫌な予感が的中したと言ったところだろか。


「…はぁ」


 深い溜息を付きながらガックリと肩を落とす彼女にエレボスは少し考えるような所作を見せた。


「…貴女は力を使うことが出来ますか?」


 不意に問われたその質問に、美弦は口元に手を添えながらジーッと地面の一点を見つめて思考する


「どうかしら…今まで私自身が別の誰かなんて考えたこともなかったから……でも、そうよね」


 この世界の理を知るミユルの記憶を手繰り寄せながら試行を繰り返し彼女は一つの結論に至った。


「可能かもしれない……ただ」


「…何か不安な点でも?」


 小さくコクリと頷き、美弦は不安の元凶である自分の両手を見つめる。


「知識も経験もある…けれど、この身体がそれに耐えられるのかが分からないの」


 本来の身体であれば自らの限界を熟知しており、それに対応した力の使い方が出来る。


 けれど、今の美弦の身体がその力に耐えられるという保証はない。むしろ、耐えられないと考えていた方が良いかもしれないのだ。


「…何とかなるでしょう。ただ、それには一つだけ条件がございます……」


「…条件?」


 エレボスの言葉に美弦は顔を上げると、そこには腰に差した剣の柄を握る鋭い目つきの彼の姿があった。


「…どういう?」


 突然の状況に思考が追いつかない美弦の瞳が見開かれ、彼の放つ気迫に押され身動きすら取ることが出来ない。


「無礼を許されよ…ハッ!」


 一言わびを入れたエレボスは柄を握る右手に力を込めると彼女の懐へと瞬時に踏み入った。


 ドンッ!


 美弦の身体に衝撃が走る。


「…ぐっ、なに……を?」


 堪らず膝をついた美弦は苦痛に満ちた声で腹部を押さえながら困惑の表情で彼を見上げる。


「…申し訳ありません。ですが…これで」


 謝罪するエレボスの確信に満ちた瞳に美弦は苦痛に歪む顔に微笑を浮かべながら呟いた。


「…信じるわ…」


 そして彼女の意識は深い闇へと落ちていくのであった。


 意識を失い力なく地面に倒れ込む美弦を直前で支えながらエレボスは周囲の気配が変わっていくのを感じていた。


「…やはり」


 周囲に意識を向け、変わりゆく気配に自分の考えが正しかったことに内心で安堵の溜息を漏らす。


 木々の隙間からぼんやりと街明かりが見え、エレボスの意識に人々の気配をハッキリと感じる。


 この場所は美弦の想像通りの場所であったと認識した彼は周囲を見渡してから最後に気を失っている彼女に視線を向ける。


 彼女との会話で自分達の置かれていた状況の原因が彼女を媒介にしたものであると予測できた。


 その状況を打破する手段として彼女の意識を刈り取ることにしたのだ。


 その判断は概ね正しいと言えた。


 けれど、釈然としない心残りがエレボスの意識に痼りとなって残っていた。


 彼女を転生させた何者かが自分達を試したのだろうか?そんな疑問が脳裏を掠めてしまうのだ。


「……何のために?」


 意識を失った彼女を抱え上げ、バルクナールへと歩みを進めるエレボスはその疑問に周囲の警戒を一瞬、緩めた。


 状況が打破され、人々の息吹を感じる街明かりを見たせいで気が緩んでいたのかもしれない。 


 だが……その、ほんの一瞬の緩みを見逃さず彼らに近づいてくる者がいた。完全に気配を絶ち静かに彼らの背後へと歩み寄っていのだ。


「久し振りだねぇ……」


「…なっ!?」


 至近距離での声にエレボスの身体が固まる。なぜなら、その気配に全く気付くことが出来なかったからだ。


 何よりも両手は彼女を抱え上げているため反応するのに少なからず出遅れてしまった


 だが、それは一瞬のことでありエレボスは素早く距離を取ると近場の大木に彼女の身体を預け守るように彼女を背にする。


 そして彼は腰に差した剣の柄に触れながら厳しい瞳で草場から現れた声の主を見つめ問い質す。


「何者ですか?」


 薄暗い闇に微かな月明かりが差し込み声の主の姿が露わになるとエレボスの表情が驚愕にに満ちたものへと変わる。 


「…あなたが何故ここに居るのですか?」


 静かに問い質す彼の声は微かに震えていた。


 なぜなら彼の瞳に映る声の主は身に覚えのある者であり、何よりもこの場所に最も不釣り合いな存在であったからだ。


読んでいただきありがとうございます

<(_ _)>

この回にて昨年の目標としていました100話に達することが出来ました。


読んでくださる読者のおかげです。


これからも頑張っていきますので宜しくお願いいたします(o_ _)o


では、失礼します

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