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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第一章 理不尽な痛みは不可解な日常の始まり
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其の10 血脈の力

 静まりかえった室内、天井を見つめる瞳、浩介の瞳は自然と元の両目に戻っていた。


 数分前まではグレンデルの記憶と力が浩介の内にヒシヒシと感じていたが、今は彼の存在と浩介の意識自体が混ざり合い違和感すら感じない状態だった。


 血脈の力を出そうと思えば自然に発動する。


 周囲の景色が変わって見える。


 両目で見つめる世界は不思議な光景だった。


 無機質な物でさえ作り手の想いや記憶が朧気に見える。


 何処で作られ、誰に使われたのか、そういった気配が浩介の見つめる世界を形作り意識内に記憶される。


 膨大な記憶が意識に納められながらも不思議と苦痛を感じることはなく、逆に欲求が高まっていくのを感じた。


「これが認められるってことか…この欲求がグレンデルの意識の根幹なんだろうな。」


 両目に映る世界を見つめながらグレンデルの意識を実感する浩介は他人事のように高まる欲求を自己分析した。


「あいつ、俺の世界の光景を珍しげに見ていたし世界の広さを実感してた。あいつにとって知識を得ることは喜びなんだろうな」


 「分からないでもないな」と純粋に思った。


 知識を得ることや、それによって得られる快感は度しがたいほど心地良く甘美な事だったからだ。


 そういった点ではグレンデルと浩介の感覚は近いモノがあるのかもしれない。


「さてと、それはいいとしてこれからどうするかな?」


 グレンデルの記憶によって自分が何をしなければならないかは大方の予想が付く。


 他の帝の意識を得ることだ。


 自らの意識に潜む封印されている何かの記憶、帝の人格の一つでもあったグレンデルの意識ですら消滅させる何かを知りうるには他の帝の人格と意識を共有するしかない。


 だとしたら先ず、どの世界に行くべきかと考える。


 意識内に複雑に絡み合った多重世界の地図を展開してみるがグレンデルの性格が如実に表れ過ぎており浩介は頭を悩ました。


「うーん、便利なんだけど……どうも、彼奴の意識が干渉しすぎて……うん、訳がわかんないな」


 偏りすぎているといった方が正しいかもしれない。


 単純に興味がある世界と興味のない世界に対しての情報の差が激しすぎて参考にならない。


「無難なのは石造りの皇子とリアの主の世界かな?」


 その中でまともな情報が得られそうな二つの世界を選び出し、勢いよく起き上がると血脈の力を終息させる。


「とりあえず、二人のところに行ってみるかな」


 さすがに数時間が経過すれば皐月の怒りも納まっているだろうと淡い期待を込め、エレボスから予め教えて貰っていた皐月の部屋へと向かうことにした。


 長い廊下を歩きながら周囲の建物の造りに目を向ける。


 建物全体は数寄屋造りに近く屋根を支える巨大な円柱は朱色に染められており神殿を思わせる神々しさがあった。


 中心の世界の統治者、つまり帝の世界であるならば納得もいく造りだと実感もするのだが……けれど、通路で会釈しながら通り過ぎていく女中達の服装に違和感を憶える。


 彼女達の服装は明らかにおかしい。


 いわゆるメイドの格好だからだ。


 室内は洋風に近かったしエレボスも執事と名乗った。


 けれど、建物は純和風……。


「奇妙だよな…」


 どこか統一感のない雰囲気に苦笑しながら歩き続ける。


 グレンデルの意識から得た知識には興味が無いのか、もしくは彼にとって当たり前なのか浩介の疑問を答えてくれるモノは見つからなかった。


「まぁ、そんなもんなのかな」


 普段、当たり前と思ってることが文化や風習によっては異常な光景に映ることは珍しくもない。


 要は、慣れなのだろう。


 そう思えば不思議と違和感もなくなる。


「それよりも……」


 数名のメイドらしき女中達が部屋の前でオロオロとしている姿が視界に入り思わずため息をつく。


 なぜなら、その部屋は浩介の目的地でもあったからだ。


「どうしたの?」


 答えは分かっているがあえて尋ねる。


「あっ、その、あのですね……」


 オロオロする女中達の姿に苦笑する。


 なぜなら通路にまで響き渡る聞き覚えのある怒声、耳に馴染んだ鎖の音、「うん、まだ終わってない」と判断した浩介は踵を返し自室に戻ろうとした。


 けれど、背中に感じる視線に抗えず振り返る。


 女中達の無言の視線に「一応、客人扱いですよね……」と心の中で思いながらも諦めたかのように浩介は項垂れる。


「…わかったよ。入ればいいんでしょ?」


 その言葉に女中達は安堵の表情を浮かべた。


 けれど、女中達は離れていく気配がない。


 それどころか、浩介の背後に集まりソワソワしている。


 何だかんだで野次馬根性のある彼女達は室内の惨劇に興味津々であり、その姿に苦笑しながら浩介は扉を開いた。


「…うわぁ!?」


 一人の女中が小さな声を上げ視線を逸らす。


 目の前に広がる光景は浩介に取っては予想通りではあったが女中達には刺激が強すぎたようだ。


 いつものように鎖で羽交い締めにされたリアを、皐月が踏むつけている光景に「見てはいけないものを見てしまった」と思ったのか女中達は蜘蛛の子を散らすように足早に去っていく。


 残された浩介は引きつった表情で二人を見つめる。


「…やあ」


 その声にリアが勢いよく振り向き浩助を見つめる。


「こぉーすけぇ、助けてぇ!こ、こ、ころされるぅ」


 涙目で助けを求めるリアの姿は余りに不憫だった。


 何をしたら此処までされるのか、今後のために後でリアに詳しく聞いておこうと固く心に誓う浩介だった。


「…なによ?」


 短い言葉に殺意が込められている。


 背筋に嫌な寒気を感じ身震いすると、引き攣った笑顔を浮かべながら浩介は意を決して本題を口にした。


「二人に相談がある」


 その言葉に二人はキョトンとした表情を浮かべた。


「どうしたの?相談って?」


 皐月の殺意が納まるのを感じ取った浩介は室内に入り、手頃な椅子に腰掛け二人を見つめる。


「とりあえず、別の世界に行きたい」


 単刀直入に切り出す姿に二人は不安そうに見つめる。


「あんた、もしかしてグレンデル?」


 疑惑と警戒に満ちた表情を浮かべた皐月は、リアの身体を縛っていた鎖を解き放ち浩介へと向ける。


 リアの表情も先程とは違い厳しい瞳を浩介へと向けたがすぐに柔和な表情へと代わり微笑を浮かべた。


「ふぅーん、乗り越えたんだぁ。やるねぇ、こぅすけぇ」


 その言葉に皐月は驚きと困惑を織り交ぜた表情になる。


「…えっ?どういう?」


 困惑する皐月に浩介は苦笑いしながら頷いてみせる。


「まぁ、認められたって言うより押しつけられたっていう方が正しいのかもしれないけど……」


 実際には乗り越えたどころか護られたと説明して方が正しいのかもしれない。


 だが、無意識のうちに自分の意識に封印された記憶が存在することを隠さなければならないと思った。


 チクリと罪悪感が胸を指す。


 なぜなら、目の前の皐月の姿を見たからだ。


 力無く床に座り込み俯きながら肩を震わせている。


 もしかしたら、泣いているのかもしれない。


「えっとぉ…」


 なんと声をかければいいのか分からず戸惑いながら皐月に近付いた瞬間、浩介は何かに気付いた。


 泣いて震えているにしてはどこか殺気立っている。


 嫌な予感が脳裏を過ぎる。


 そして……気が付いた。


 泣いているのではなく怒りで肩を震わせていることに…。


「ふざけんなぁー!!この腐れ変態がぁ!」


 そして、思ってもみなかった怒声に思わず「えっ?」と困惑の表情を浮かべた浩介は助けを求めようとリアに視線を向ける。


 だが、先程までいた場所に彼女の姿がない。


「なっ!?」


 唖然とした表情で周囲を見渡すと既に危険を察知したリアは部屋の隅にそそくさと逃げ出していた。


「…こうすけ、ご愁傷さま」


 なぜか手を合わせ、こちらを哀しげな瞳で見つめるリアに浩介はゆっくりと皐月へと視線を向け直した。


「ひぃ!」


 そこにはプルプルと鎖を持つ手を震わせ怒りに満ちた表情を浮かべる皐月の姿に浩介は戦々恐々とする。


「誰のせいで『契約』までしたと思ってんのよ!」


「えっ?『契約』って?なんの?」


 意味が分からず戸惑う浩介に苛立ちを隠しもしない皐月の意識に反応して鎖が地を這う蛇のように迫ってくる。


 脳裏に幾度もなく経験したあの束縛感が蘇る。


「またかぁ……」


 浩介の身体を縛り付けた鎖が宙を舞いながら落下する。


 ドンッ!


 鈍い衝撃と共に床に叩きつけられた浩介をリアが哀れみに満ちた表情で見つめていた。


「成仏してね、こぅすけぇ」


 瞳を閉じて浩介に手を合わすリアを横目に、床に這いつくばって痛みを堪えながらため息交じりに突っ込む。


「勝手に人を殺すな…」


 アハハッと笑うリアに浩介は苦笑するしかなかった。

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