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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第一章 理不尽な痛みは不可解な日常の始まり
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其の1 彼女との出逢い

 彼女に出会ったのは雲一つない綺麗な月夜の晩だった。


 いつものコンビニで数冊の雑誌を立ち読みして夜食の食料を買い込み店を出る…普段と変わらない日常、マニュアルの様な毎日に飽き飽きしながら思わずため息をつく。


「ただ変化が嫌いなだけ…」


 そう自分に言い聞かせてみるものの、心の片隅では正直いって切なさが拭いきれないのも事実だった。


「たまには違う道でも通って帰ってみるか…」


 そんな考えが浮かび、彼はいつもと違う路地裏を歩き始める。


 それほどの意味などないのは分かっているが、いつもと違う何かが起きるんじゃないかと期待してしまう。


 漫画やアニメなんかだと、ここで一騒動や超常的な何かが起きて異世界やらに飛ばされて世界を救うヒーローになって、いろんな女の子とのイベント…あるわけがない。


 脳内で膨れあがっていく妄想に頭を振りながら苦笑気味の表情でトボトボと歩く姿が妙に哀愁感が漂っていた。


 やはりというか現実では何かが起きるはずもなく、気が付けば自宅近くの公園に差しかかっていた。


 定番のブランコに滑り台、小さな砂場に塗装の剥げかかったベンチ、そんなありふれた公園の入り口で彼は何かいつもと違う雰囲気を感じて、ふと立ち止まった。


 普段のこの時間なら街灯の明かりが消える寸前のようにチカチカと瞬きながら公園を照らしているはずなのに今日に限って妙に明るい気がした。


 さっきまでの脳内妄想が原因だろうかとも思ったが今夜の月明かりならこれぐらい明るいかと考え直してまた歩き始めようとした。


 けれど、どこか違和感がある……。


 そんな気がしてもう一度だけ公園を見渡した。


「…こんな時間に人がいる」


 腕時計に目を向けると深夜一時を指している。


 普段のこの時間なら、静まりかえった雰囲気が不気味なぐらい人気のない公園にもかかわらず今日に限って誰かがいたのだ。


 普段なら気にも止めないのだけれど彼の感じた違和感の原因は公園のベンチに座っていたのが高校生ぐらいの女の子だったからだ。


 〔なんだ?こんな時間に女の子が一人って?待ち合わせ…なわけないだろうし……まさか、ここでイベント発生ぃ!?〕


 脳内で新たなる妄想の嵐が吹き始める。


〔この出逢いから始まる恋愛、めくるめく大人への階段をステップアップ……なわけないわな。にしても……〕


 公園のベンチに佇む彼女は息を呑むほど綺麗だった。


 透き通るような白い肌、肩まで伸びた黒髪を後ろで束ね、上品そうな白のワンピースが月明かりに照らされた彼女を一段と際立たせていた…けれど、その瞳はとても悲しげなモノに見えた。


 彼女の視線の先はその悲しげな瞳とは裏腹に雲一つない夜空に浮かぶ光り輝く月を見つめていた。


 そんな何とも言えない儚げな横顔に立ち止まったまま、その姿に見入ってしまった。


 彼女を見つめる彼の姿は他人から見たら不審者にしか見えないだろうと思ったけれども、彼は彼女から目を離すことが出来なかった。


 それが何故なのか分からなかったけれど、彼は彼女に一瞬にして心を奪われてしまっていた。


 けれど、そんな彼の視線に気づいた彼女は哀しげな表情を一変させ……そして、彼に向かって囁くように言った。


「なに見てんのよ…この不審者野郎」


 呆気に取られた彼に彼女は颯爽と歩み寄り、睨むように見つめた一瞬の間に気配が消えた…………そして、何かで殴られたような鈍い衝撃が彼の腹部を貫いた。


 気がつくと彼は腹を押さえ地面に這いつくばっていた。


〔えっ?なんだ?何が起きた?意味が分からない…けど、とりあえず物凄く腹が痛い…〕


 起きている状況が全く理解出来ずパニックになっている彼の耳元で、これまた理解不能な言葉が飛び込んでくる。


「見世物じゃないんだけど?1回、死んでみる?」


〔えっ?なにが?どういう?〕


 腹部の痛みに這いつくばっていた彼の胸ぐらを鷲掴みにして半ば脅しに近い言葉とは裏腹に満面の笑みで見つめる彼女の存在に………考えることを諦めた。


〔終わった……〕


 何も言わずに彼は瞳をゆっくりと閉じる。


 諦めの早さだけは尋常じゃない彼は、この意味の分からない状況を素直に呑み込み……そして、その瞬間から短いながらも自分の儚い人生の走馬灯がすごい早さで脳裏を駆け巡っていくのを見た。


〔儚い人生だったな…………うんっ?〕


 自分の人生を嘆きながら最後の瞬間を待ち続ける。


 けれど、何時まで経っても何も起こらない。


 おそるおそる、目を開くと彼女は胸ぐらを掴んだ手をプルプルと震わせながら必死に笑いをこらえていた。


「あんた、諦め早くない?普通、男ならそこは抵抗するところでしょ。なのにあんたって…躊躇なく目を閉じて諦めるって…ぷっ!もうだめ!我慢できない………あははっ!」


 胸ぐらを掴んでいた手を離し、盛大にお腹を抱え笑い出す彼女、キョトンとする彼、何がどうなったか理解しようにも、あまりにも急展開な状況に理性が全く働かない。


 こんな非現実的な状況では無理もない。


 痛む腹を押さえながら地ベタに座り込み、今の状況の顛末を大笑いしている彼女の声を不快に感じながら彼は大きく深呼吸して理性の働いていない頭をリセットした。


 ほんの数分前までは腹も痛くなく、走馬灯が過ぎるなんて思いもしていなかったし、見ず知らずの他人からを胸ぐらを掴まれ脅しを受けたりなんてこと………明らかに理不尽だ。


 考えれば考えるほど沸々とこみ上げてくる怒り…いや、これはもはや殺意と言ってもいいはずだ、これはガツンと言わねば男が廃る。


「このっ!おまっ………うんっ?いない……」


 これこそ、最大の理不尽、理解不能な現象……考え込んでいた彼を尻目に彼女の姿はその場になかったのだ。


 先ほどまで腹を抱えて大笑いしていたはずの彼女がどこにもいないというこの理不尽さ、そして、何ともいえないこの惨めさ……。


「何なんだよ、いったい……はぁ」


 ため息と腹の痛みと鷲掴みされてクシャクシャになった襟元、そして何ともいえない惨めさが今の彼の姿だった。


 これが彼女、如月皐月きさらぎさつき上山浩介かみやまこうすけとの最初の出逢いであり、これから起きるあり得ない生活の始まりだった。


             *


 釈然としないまま、帰路についた浩介は静かに自宅の扉を開け周囲の様子を窺いながら二階の自室へと忍び足で上がっていく。


 自分の家なのに妙に周囲を気にするのには訳がある。


 浩介は現在進行形の立派な引きこもりであり、ここ何ヶ月かは家族と顔を合わすことなく生活している。


 元々、人付き合いが苦手なのもあったのだが高二の冬にとある事件がきっかけで学校に行かなくなった。


 彼が通っていた双陸学院は工業系をメインにした学校で彼のいた総合技術科は平たく言えば、広く浅く色んな技術を身につけましょうといった類いの科だった。


 建築、設計、情報、電気等ありとあらゆる事を習うのだが、どれも中途半端な知識は身につくが専門的には無理といった身も蓋もない授業を三年間、延々と勉強する。


 性格的には浩介に向いてはいたのだが、気弱なくせに短気な性格が災いして上級生と大喧嘩の挙げ句、浩介が病院送りにされる見事なほどのヘタレっぷりで最終的に引き籠もることになった。


 名目的には入院後のリハビリという名の治療という事で、実際は休学扱いになっているので正確には引きこもりという言葉は当てはまらないのかもしれない。


 だが既に怪我は完治済みで、こうして人目を忍びながら夜中に歩き回ることもある時点で引きこもりの言葉の方が妥当なのかもしれない。


 あの事件以降、何事も諦めが肝心の精神で生きてきた。


 無謀な挑戦は無様な結果を生む。


 だから最初から期待せずに諦める。


 それが、自分が傷つかない最良の生き方と思っていたのだが……今夜の事件に関しては諦めを通り越していた。


 なにせ、あまりにも理不尽すぎる。


 自室に入り内側から鍵をかけると買ってきたコンビニ袋をテーブルに放り投げ、勢いよくベッドに倒れ込んだ。


「いってぇなぁ…」


 天井を見上げながら鈍痛の残る腹部を撫でる。


 痛みが和らぐ気配はまるでない…というより、むしろ痛みが増してきているようにも感じた。


〔いったい、何だったんだ?〕


 天井を見上げながら数分前に起きた出来事を思い返す。


 不審者扱いされ、殴られ、胸ぐらを掴まれ、挙げ句の果てには脅されて文句の一つも言う前に当の本人の姿が見えず……何ともいえない惨めさだけが取り残される。


「夢…じゃないわな、これだけ痛ければ」


 殴られたであろう腹部を撫でながら何ともいえない深いため息をつくと静かに瞳を閉じた。


 〔嫌なことは寝て忘れるにかぎる〕


 万が一にも夢なら目が覚めたときに分かる、そんな安易な期待を胸に眠りそうになった浩介の耳元で時計代わりに置いていた携帯の着信音が鳴った。


「メール?誰だ?こんな時間に……」


 メール画面を開き受信履歴の宛先に目を向けると履歴の欄に『鬼姉』の表示に身震いし恐る恐る内容を見る。


 ーー夜中、出かける元気あるなら学校行け!糞ガキ!


 内容を読み、隣の部屋の壁に目を向けた瞬間


 ドンッ!!


 狙い澄ましたかのように殺気に満ちた壁を叩く音が部屋中に響き渡り浩介は思わず布団を頭から被った。


 浩介の姉、上山美弦かみやまみつるは四歳年上の大学生で浩介にとって正直いって鬼より怖い存在だった。


 才色兼備を地でいく美弦は外では綺麗で優しいお姉さん、家では傍若無人な暴君で浩介の人付き合いが苦手な性格の原因とも言える人物だった。


「姉ちゃんが怒ってる…いつものように」


 布団に包まりガタガタ震える身体を擦りながら引き籠もってからの三ヶ月間を思い返してみた。


 最初の一ヶ月目、不気味なぐらい何も起きなかった。


 二ヶ月目、目に見えない殺気に満ちたオーラが隣の部屋からヒシヒシと感じるようになった。


 そして、三ヶ月目から脅迫メールと悪意に満ちた一日一回の壁叩きが始まった…。


 引き籠もりには全く優しくない環境ではある。


 けれど、その反動なのか妙な意地が働き今に至る。


〔寝よう、嫌なことは全て夢のせいにしてしまおう〕


 そして、この三ヶ月間で寝るという現実逃避と自分に都合のよい脳内妄想が飛躍的に進化していくことになった。


 身も蓋もないが美弦のせいで、意外と図太い神経の持ち主に成長したのもおかしな話ではあった。


 律儀なことに美弦が行う壁叩きと脅迫メールは一日に一度だけなのでそれが終わったと言うことは今日一日は何事もない安易な結論を出し、深い眠りへと誘われていった。 



 数時間が経過しただろうか、気持ちよく爆睡していた浩介の瞼に眩しい日の光が当たる。


〔昨夜、カーテン閉めるの忘れたかな…〕


 ぼんやりとした意識の中で日の光を避けるように寝返りを打つと妙に柔らかい感触が手のひらに当たった。


〔抱き枕なんて買ったかぁ?…まぁ、いいか〕


 買った覚えのない柔らかな抱き枕?をがっちりと抱きしめ、さらに惰性に身を任せまどろみの世界へと旅立とうとした瞬間、その抱き枕が微かに動いた。


〔うんっ?〕


 夢と現実の狭間の中でふと妙な疑問が頭を過ぎった。


〔…俺は何を抱いているんだ?〕


 振動機能付きなんてそんな上等なアダルト抱き枕なんてモノは明らかに買った記憶がない…気のせいか若干、暖かみを感じるのは自分の体温だと思っていたが浩介は嫌な予感と共に恐る恐る目を開いた。


「……っ!?」


 思わず叫びそうになるのを必死に堪え、ゆっくりと抱き枕と思っていたモノから手を離す。


「何故だ………何故、俺のベッドに女の子がいるんだ」


 目と鼻の先に女の子がいる。


 しかも、とびっきり可愛らしい寝顔の女の子だ…ただ、その顔は見たことのあるような気がしないでもない。


 けれど、今の浩介には自分の部屋のベッドで眠る女の子という有り得ない状況とまだ覚めやらぬ寝ぼけた意識の中では気づくはずもなかった。


 そんな非現実的な状況を前に浩介が取った行動は静かに寝息を立てて気持ちよさそうに眠る彼女の身体をとりあえず抱きしめてみることだった。


「……スゥ」


 柔らかな肌のぬくもりと時折もれ出る微かな寝息を肌で感じて今、彼女が存在していることが紛れもない事実であることを確認する。


「うん、現実だ。いや、非現実的だけれどリアルだ…俺の脳内妄想が生んだ産物では断じてない」


 自分の逞しい妄想力が生み出した産物ではないと確信し安心する浩介、その安堵の原因は彼自身が可能性がゼロと言い切れる自信がなかったためだ。


 今の状況は明らかに現実であるはずだが、けれどもその現実であるはずのこの状況は現実味が全く感じられない。


〔とりあえず、誤解される前に離れよう…じゃないと社会的に抹殺される、主に姉ちゃんに…〕


 非現実的な状況でありながらも姉に殺されるかもしれないという現実的な発想が頭を過ぎり、気持ちよさそうに眠る彼女からそっと離れると浩介は床にあぐらをかいてゆっくりと深呼吸する。


 現実的でない、この一言に尽きるが合点がいかない。


 とりあえず、陽光に照らされた自分の部屋を見渡す。


〔本棚、備え付けのクローゼット、パソコンに占領された机、ベッドの下から微かに見えるエロ本…あれは隠さねば〕


 周囲を見渡す限り紛れもなく三ヶ月間、ひたすら引き籠もっている自分の部屋に間違いなかった。


「ここは俺の部屋に間違いない。だとしたら何故、その部屋にこの子がいるのか…………なんで?意味が分からん」


 理解不能のスパイラルに落ちた浩介は今の現状が全く理解できずに両手で頭を抱え込んだ。


 この現状を打破するのに一番手っ取り早い方法があるにはあるのだがと考えながら我が物顔で自分のベッドで眠り込む彼女を見つめた。


「気持ちよさそうに眠りやがって…」


 起きる気配のない彼女を見つめ頬杖を付きながら諦め顔で何度目かのため息をつく。


 とりあえず彼女が目覚めるのを待つ間、真っ先に行ったのはベッドの下から見え隠れするエロ本を奥の方へと追いやることだった。


「あれはさすがに不味いよな……」


 テーブルに頬杖をつきながらベッドの暗がりへと姿を隠したブツの中身を思い返す。


 悪友がこっそり置いて帰った黒歴史な産物、超ハードなSMモノ……まず、間違いなく人格を疑わる。


 とりあえず、人格否定されるモノは闇の中に葬ったことで安堵のため息をつくと昨夜、テーブルに置きっぱなしにしていたコンビニ袋から缶コーヒーを取り出し渇いた喉を潤す。


 一息つくことで寝ぼけていた意識がハッキリとするのが分かった。


「さて、どうするか…」


 意識がハッキリとしてくるに従って今の現状があまりに異常すぎることを否が応でも思い知らされ途方に暮れる。


 誰かに相談しようにも『目が覚めたら超絶美少女が添い寝してくれていました』なんて話を一体、誰が信じるというのだろうか。


 なにより、引きこもりに相談相手などいるはずもない。


 壁時計を見ると午前十時過ぎぐらいで親は仕事でいない…いるのは…隣の壁を見つめ、かなり深めのため息をつく。


「姉ちゃんに相談………ないな」


 一瞬で部屋が血塗れになり床に倒れている自分の姿が想像できてしまい浩介は頭を大きく左右に振る。


〔さてと、どうしたものか〕


 頭の中で整理する。


 妥当なのは彼女を起こし、事情を聞き、出来ればとっとと出て行ってもらうのがかなり常識的な判断なのだが……。


〔……勿体ない〕


 つい、心の本音が漏れてしまう。


 思春期まっただ中の男の子なら、この千載一遇のチャンスを見過ごすには勿体なさ過ぎると思うのは仕方がない。


 眉間に皺を寄せ、真剣に考え込みながら彼女の方をなにげに見ると冷たい視線が文字通り浩介に突き刺さった。


「…マジ、きもいからこっち見んな」


「…はいっ、すいません!?」


 つい、反射的に頭を下げ土下座する。


〔うんっ?っ?っ?〕


 今の状況に幾つもの疑問符が脳内を駆け巡ぐり、反射的に思わず下げていた顔を上げ声の主を見つめる。


 先程まで寝ていたはずの彼女がベッドから汚いモノでも見るかのような瞳で浩介を見下ろしている。


「起きてたんかぁい!……ってか何時から?」


 思わず突っ込みを入れ、その冷たい視線に怯えながら恐る恐る尋ねる。


「あんたがエロ本を隠す辺りからずっと……」


 ベッドと壁の隙間から暗がりに隠したはずのブツを取り出し、ペラペラと中身をチラ見して、汚らしいモノでも見るような軽蔑した瞳で浩介の残り少ない精神をえぐり取るような一言を吐いた。


「変態……」


 その瞬間、浩介は力なく床に崩れ落ちた。


〔理不尽だ……〕


 なんというか体中の羞恥心が全開で、背中にのし掛かる様なズッシリとした精神的な重みに打ちのめされる。


〔隠した意味がない、っていうか気付かれないようにコソコソとしていた一連の動作がかなり恥ずかしい……〕


 彼女に気づかれないようにそっとエロ本を隠していた一部始終を軽蔑された目で見られていたことに人生で最も屈辱的な敗北感を味わいながら絞り出すようにつぶやく。


「…で、君は誰だ?何で俺の部屋にいる?…ってか、この屈辱的な敗北感…もうだめ、泣きそう」


 未だ敗北感から立ち直れない精神状態で絞り出すように呟く浩介に彼女はベッドから見下ろし形で言い放った。


「あんたの主人だからよ」


「はぁぁ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる。


 意味が分からない。何を言っているのか理解さえ出来ない今の状況に唯々、呆然とした表情でベッドの上で冷たい視線で見下ろす彼女を見つめた。


 そして、その顔付きに見覚えのある事に気が付いた。


「あっ!その顔、あの時の!?」


 思わず声を上げ仰け反りながら彼女を指差した。


 ベッドの上でふんぞり返る人物があの公園で奇妙な出逢いをした彼女だと分かり、今まで忘れていた腹の痛みがわずかに呼び起こされるのを感じた。


 と、同時に浩介は身体の自由を奪われる何かが一瞬のうちに身体に取り付けられた感触を味わった。

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