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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
35/40

33.王都ラグーン

今回は字数が少なめです。

 ある晴れた日の昼。


 というか、翌日。


「もう間も無く出航いたしまーす。ご乗船の方は、急ぎお乗りください!」


 レインとアンナは、カルラから少し離れた港街、ウールに来ていた。

 名前のわりに、北の地ということで非常に寒く、吹き付ける潮風がさらに寒気を煽っている。


 もちろん、寒がりのレインがこんな天敵とも言える場所に、観光としてやってくるわけもない。

 これは、あくまで仕事だ。


 隣にいるのは美少女だが、仕事なのである。


 ついでに言うと、コートのお陰で身体は暖かいが、顔は無防備なので、特に潮風が辛い。


 レインは刺すような寒さに顔をしかめながら、可愛らしい耳当てと、キャラメル色のケープ、白のもふもふ手袋に身を固めたアンナの手を引く。


「ほら、行くぞ」

「うん」


 アンナの荷物は、小さなリュックと、ケープの下に一応隠し持っている双剣、そして装飾が施された儀礼剣だ。


 儀礼剣は、王都に行く理由づけのために、アンナに作らせた「作品」である。

 本来レインが品評会に作品を出して王に謁見するつもりだったのだが、あとで「今更、多少いい作品を出しても、謁見までは持っていけないんじゃ……」と気づいた。


 そこで、一応は弟子ということになっているアンナを表彰させてしまえばいい、とレインは考えた。


 レインは仮にも最高の鍛冶師な上、今まで弟子をとっていないと世間一般には情報が出回っている。

 ならば、初めて最高の鍛冶師がとった弟子に興味が向くのは当然だ。


 一つ難があるとすれば、さほどアンナの鍛冶の腕前が高くないということか。

 レイン指導の下なので、なんとか品評会には持っていけるだろうが、大した評価は得られない可能性もある。


 まあ、レインの弟子というだけで、評価は上方修正されるだろうから、問題はないと思うが……


 そんなことを考えながら、巨大な王都行きの定期船に、レインはアンナを連れて乗り込む。

 王都行きなだけあって、豪華客船と言っても過言ではない、この定期船は、船内に客室が用意されている。


 一等客は、豪華客室。

 二等客は、ロビー。

 三等客は、座席。


 レインとアンナは、せっかくなら、ということで多額を費やし、貴族御用達の豪華客室をお借りすることにした。


 財布が大分軽くなったが、アンナのためなら、と割り切れてしまう自分が怖い。


「しかし、まるでタ◯タニックみたいだな……」


 レインは前世の有名映画にこの定期船を重ね、懐かしそうに目元を緩ませる。

 しかし、あの豪華客船の末路を思い出し、ブルっと身を震わせた。


 この地域は寒いので、氷塊が普通に浮いている。


 今更、この船に乗るのが怖くなってきたが、レインの心情など知る由もなく、アンナは美しく飾られた船内に、目を輝かせている。

 通常レインは、アンナが楽しいならいいが、正直タイ◯ニックと同じ道を辿るのでは……という想像が、素直にそうは思わせてくれなかった。


 今も、楽しげに「は〜」とか「へ〜」とか言っているが、レインの表情は優れない。


(……ほんとに、沈まないだろうな……?)


 疑心暗鬼が抜けないレインの耳に、ポーっという汽笛の音が届いた。


王都に向けて、いつもとは違うくだらない不安と、簀巻きの少女を乗せて、今出航した。





ブクマ20件到達!

ありがとうございます。

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