31.異界の鉱石 ぱーと2
改めて告げられた今回の集会の目的に、レインも含めて次長老の面々は揃って顔を引き締める。
何度でも言うが、いつもこんな感じならいいのに、と次長老の輪の中で、レインは内心渋い顔をした。
外には出していないが。
「一応、鉱石が送られてきた理由がこの村にあると考えた根拠をお聞かせ願いたい。まあ、おそらく全員の考えが一致していると私は見ているが……」
次長老の内の一人が手を挙げ、考えの擦り合わせを提案する。
次長老の中ではレインの次に若いのだが、それでも40後半。
レインが以下に特例の存在なのかがよく分かる。
「こんな出所不明の鉱石が、全世界の鉱石を知っているなどと言われている俺の村に送られてきた時点で、何か狙いがあると見るのは当然だな」
「俺もだいたい同じだな。加えて言えば、俺が現状世界最高の鍛冶師だからってのも理由としてはなくもないが、それなら、より良いものを作れるように、出所は明記するだろうしな」
「ふむ。わしらも相違ない。……で、現物はあるのか?」
親父の意見をレインが補足し、クライマーが全員の意見をまとめる。
カルラに鉱石を送った時点で、その鉱石が何か見抜ける親父に何を送ったか知られるというのに、その鉱石についてなんの記載もないのはおかしい。
何か理由があると考えるのが当然だ。
何はともあれ、現物がないことには判断しようもない。
クライマーに言われて、親父は「ちょっと失礼」と言い残し、集会所の奥の部屋に入っていった。
(……安置してるって、ほんとに置いてあるだけかよ)
その部屋は、もともと親父が仮宿として使っていた部屋で、何らかの防備が施された特殊な部屋だったりはしない。
親父が使っていたであろう、巨大なベッドにゴロっと鉱石が転がっているのを想像して、レインはげんなりとした。
「持ってきたぞ。これが例の鉱石だ……なんだ、レイン。変な顔して」
「デフォルトで人外ヅラしてる親父に言われたかねえよ」
親父は、クマのような顔ではなく、クマなのだ。
いや、一応人間なのだが、見た目は服を着たクマが二足歩行しているとようにしか見えない。
そんな親父に「変な顔」と言われ、レインは嫌そうに顔をしかめた。
「……で、何か分かったか?」
次長老の輪の中心に置かれた鉱石を見て、クライマーはレインに問いかける。
レインの能力について、一部の情報は集会で開示されているので、ここにいる面々は、レインが魔力を視る力を持っていることを知っている。
本当は、魔力に干渉して情報を得る力なのだが……応用を利かせれば、もっと便利な能力になるだろう。
(とは言え、前みたいになる可能性もあるし、下手に実験したりしない方がいいか)
小心者のレインは、自分の異能を開発することを脳内で検討しつつ、とりあえず今は無し、と結論を出した。
自分の魔力に干渉して、魔法適性を弄ったりできるかもしれないが、失敗したときが怖い。
「おい、聞いているのか?」
「ん?ああ聞いてる聞いてる」
「いや、間があったし、それは嘘だろ……」
親父が何か言っているが、スルーだ。
こっちは真面目に会議をしているのだから、水を差さないで欲しい。
レインは、自分を棚上げして、「やれやれだぜ」とばかりに肩をすくめて見せた。
「で、何か分かったかって言われても、そんなすぐには分からないぞ?」
「なら早く取り組め。遊んでいる暇はない」
「はいはい、分かりました……っと」
いつになく真剣なクライマーにせっつかれ、レインは適当な返事を返しつつ、しかし自分の役割は果たす。
異界の鉱石に焦点を合わせ、魔力に干渉。
鉱石に内包された魔力の情報が、世界を経由してレインの脳に送り込まれる。
(ーーッ……やっぱり、これは………)
「終わったか?」
「ああ。結論から言うと、これは神界のものじゃない。表の第一世界ーー聖界の鉱石だ」
レインが出した答えに騒めく集会所。
「聖界と言うと、浄化の神、テルスニムルの領域か?」
「ああ。自分が「不純」とみなしたものは、全て「浄化」する、頭がパッパラパーの狂神」
「パッパラパー……」
「狂神……」
「大体あってるだろ」
レインの神に対する散々な評価に、次長老たちは微妙な顔をする。
事実、テルスニムルが気に入らないものはすぐに消してしまう、という話は有名なのでレインの言っていることは正しいのだが……
それでも神は神。
世界を闇に落とそうとした魔王に天罰を下したとされている存在は崇めるべきだ、という文化が染みついているのだろう。
実際は、世界に暗黒時代をもたらしたのはその神だとは知らずに。
案外、勇者でも英雄でもなく、魔王こそが神を打倒した存在だったりして、とレインは一人苦笑した。
「で、パッパラパーは良いとして、レイン、ちょっと来い」
「あ?なんだよ?」
親父に手招きされ、レインは席を立って親父の横へ移動する。
「ほら、屈めんで耳を貸せ」
「後で返せよ」
「なんでもぎ取るんだよ……普通にやれよ」
ちょっとした冗談に決まっているのに、親父は疲れた表情をする。
人間をやめるとそんなことも分からないのか、と一瞬レインは思ったが、とある金髪の簀巻きが頭をよぎり、なんとなく親父の気持ちも分かる気がした。
レインのは当然冗談だが、アンナだったら大真面目な顔、いやきっと真っ青な顔をして、「な、なんで私の耳なの?耳を取るなら、他の人でもいいでしょ……?」とか、震えた声で言いかねない。
というか、以前レインとの模擬戦に負けた後、親父がこっそりアドバイスをしようとした時に、実際にやっていた。
訓練で毎日アンナに会っている以上、本気と冗談の区別がつかなくなることもあるのかも知れない。
本気と冗談の区別がつくレインは親父に言われた通りに屈んで、耳を親父の顔に近づけた。
「……なんで、鉱石を視た時に、予想通りって顔したんだ?」
「あ、バレた……?」
「当たり前だろ。俺はお前の親なんだぞ」
「そうか。俺は親父の息子だが、顔を見ても何考えてるのかわからん。だって髭だし」
「うるせえ。で、どうしてなんだ?」
「あー、いや大した理由は無いんだけど、親父から、異世界から鉱石が来たかも知れない、って言われて真っ先に思い浮かべたのは冥界だったんだ」
「だが、聖界なんだろ?」
「最後まで聞けよ……で、単純に、冥界は聖界の丁度反対の世界だろ?表の第一世界と裏の第一世界で。だから、何よりも自分と相容れない「不純」な冥界から送られて来たものを、神界から「浄化」しようとすると考えた」
「なるほど……って、まさか、テルスニムルの狙いは……」
「ああ。十中八九、アンナだろうな」
三年前のあの日から、冥界の動向ーーつまり、アンナ以外の冥界の民や、冥界の地の存在が神界で見られるかどうかーーには、常に目を配って来た。
結局、ヒモートとアンナ以外に冥界のものは融合していないのだが、そこから、アンナという異質の存在が神界に融合したことに何か理由があるという説が有力になった。
故に、レインには常に監視することを厳命(クライマーがしつこいので、親父が仕方なく)されていたのだ。
しかし、危険分子であるアンナ自身は何も問題を起こさず、どういうことだ、と首を捻っていたのだが……
(冥界からアンナが送られ、アンナを消すために聖界がこの村に干渉してくる……なら、この事件の黒幕は……いや、それはない、か?)
「あー、一人悩んでるところ悪いんだが、取り敢えず席に戻れ」
「ん?あ、ああ」
親父の隣に突っ立ったままだということを忘れて黙考していると、その親父に肩を叩かれ、元の場所に戻るように言われた。
レインは素直に従い、次長老の輪の中、クライマーの隣に戻る。
すると、レインが座ると同時に、クライマーがレインに視線を向けた。
「……まあ、お主らが何を納得したのかは知らんが、どちらにしても、鉱石だけで害を為すことはできないだろう?そこのところはどう思う」
「あ」
「そう言えば……」
レインは、魔力に干渉するのを失敗すると、魔力質に応じて何らかの現象が起きることを知っているし、親父はなんだかんだでレインのことを信頼しているし、何より、陳腐な表現にはなるが、親子の絆がある。
自然、レインが「鉱石の魔力が危険」と考えていたので、親父もそれを基準に会議を進めてしまった。
しかし、まずもって魔力は魔法という形にして初めて現象となるのであり、魔力が現象になることはないと考えられている。
あるいは、魔力こそが現象とでも言えばいいのか。
何はともあれ、鉱石は不審だが、それが村に害を為すとは思えないというのが、クライマーたち、レインを除く次長老の意見だ。
「レイン、レインちょっと……」
再び、家族会議勃発。
「どういうことだ」
「どうもこうも……」
これは、言ってもいいのだろうか。
三年前の、アンナの魔力を暴走させてしまった事件で、レインは魔力に何の力もない、というのは流石にありえないと思っている。
しかし、その考えに至った理由を明かすと、アンナに疑いが掛かるかもしれないのだ。
何故なら、魔力を暴走させたのはレインだが、傍目には、異世界の刺客が攻撃行為をしたように見えるからである。
自分が原因だ、と言おうにも、他人の魔力を操れるとは証明できない。
やはり、言うのは得策ではないだろう。
その結論が、レインに当たり障りのない回答を選択させる。
「単純に、行き過ぎた潔癖症のパッパラパー狂神テルスニムルが、アンナを「浄化」しようとして何処かで干渉してくるだろうなーって考えてたから、「もしや!」ってなっただけだ」
「またなんか追加されてるが、そう言うことなら……」
取り敢えずレインを解放したが、親父は疑惑の目を向け続けている。
その視線から逃れるように、レインは席に戻った。
「レインは、鉱石は関係なく、冥界出身のアンナを始末しようとしてテルスニムルが干渉してくるのを予想していたらしい。そこに丁度異世界から鉱石が送られて来た可能性がある、ということで、考えが飛躍してしまったのだろう」
「ふん。結局あの娘が直接手を下したわけではないにしても、とんだ厄介ごとを持ち込んだことには変わりないな」
「……」
クライマーのあんまりと言えばあんまりな物言いに、レインは眉間にしわを寄せる。
アンナが厄介ごとを持ち込んだ?
確かにそうかも知れないが、それはアンナのせいにはならないだろう。
しかもなんだ。
アンナがこの村を破滅させるために来たことを前提に、クライマーは話を進めていたのか。
ふざけるな。
アンナのことを知らないからそんなことを言えるのだ。
不当にアンナを貶められた怒りのままに、レインは静かにクライマーを睨みつける。
「な、なんだその目は。わしになんの文句がある!」
小心者のクライマーが、何か喚いているが、怒るレインには聞こえない。
レインはクライマーの胸倉を掴もうと手を伸ばしーー
「そこまでにしろ。レイン」
いつの間にか近くに来ていた親父に手を掴んで止められた。
「お前の気持ちも分かるが、今は私怨を優先するべきなのか?違うだろ」
「……」
「アンナの疑いを晴らすために、お前が行動するべきじゃないのか」
「……ああ。そうだな。俺は次長老だ。村を守るための存在だ」
「その守るべきものに、あの子を加えてやれ」
「ああ」
親父に諭されて冷えた頭で、自分の次長老としての役割を静かに口にする。
レインは一個人として行動することは許されない。
全ては村のために。
もしここでレインがクライマーを殴っていたら、親父とて、レインの任を解かねばならない。
そうなれば、アンナの監視の役割は、別の者に委託される。
それだけは、次長老としても、レインという個人としても避けたいところだ。
「で、親父。行動しろとは言っても、何をすればいいんだ?何もないけど、雰囲気的に言ってみた……とか無しだからな」
「当たり前だろう。……レイン。お前には、あの娘とともに王都に行き、この鉱石について調査することを命じる。親としてじゃなく、長老として、だ」
「ーー了解。一応聞くけど、王都に行くのにアンナは必要か?」
「いや、お前は監視係だろう。離れさせるわけにもいかん。あの子の性格的にもな」
最後に付け加えられた言葉の意味がわかったのは、恐らくレインだけだろう。
確かに、アンナに「俺は王都に行ってくるから、留守番頼むわ」などと言えば、いたく心配されるだろう。
もしくは、機嫌を損ねるかも知れない。
どちらにしても、そこにはレインと離れたくないという気持ちがあるから。
三年前から変わらないアンナの想いは、レインも親父も知っていた。
故にあの台詞。
レインは思わず苦笑し、頷いた。
「そうだな。じゃあ、この鉱石は俺が預かる」
「任せた。この時期は品評会が重なるから、王に謁見することもできるはずだ」
「……」
七年前の大失敗を思い出し、レインは苦い顔をする。
流石にもう二度と同じ過ちは犯さないだろうが、それでもトラウマはトラウマだ。
しかも、レインは不敬を働かなくても、アンナは別だ。
あの簀巻きが何もやらかさないとは思えない。
まだ村どころか、集会所をでない内から、嫌な未来を想像してレインは重い溜息を吐いた。
前回のサブタイ間違えて、盛大にネタバレしました。
今だから言えますが、「聖界の鉱石」が前回のサブタイです。
30話では「聖界」という単語が、未知の鉱石と繋がって出て来ていないにも関わらず。
そのミスに気づき、30.「異界の鉱石」に訂正しました。




