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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
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30.異界の鉱石

 「で、緊急集会って言ったな。何があった?」

 朝の挨拶もそこそこに、何処か緊張した面持ちの親父に、レインはそう問いかけた。


 緊急集会ーー以前開かれたのは、三年前。

 アンナが来た時が最後だ。


 あの時は、神か魔王か、はたまた勇者か。そう言ったおとぎ話によって、他の世界から刺客として送り込まれたのがアンナなのでは、と不必要にクライマーが騒ぎ立てたことが原因だった。


 当の異世界からの刺客さんは、現在レインに簀巻きにされて床に転がっているのだが。


 それはともかく、緊急集会とは村全体の危険に関わる事案が発生した場合に執り行われるもので、つまり親父が緊張しているのも、そういうことなのだ。


「そいつは歩きながら話そう。とにかく、集会所に急ぐぞ」

「あ、ああ」


 親父の態度に、どうやら思った以上の大事らしい、とレインは表情を引き締め、歩き出した親父の隣に並ぶ。


「……レイン、お前に武器の注文が来た」

「あ?それがなんだって言うんだ?」


 レインは鍛冶師だ。

 それも、世界が認めた「最高」の鍛冶師。


 一年前にその称号を得てから、レインの元には毎日のように、高品質の素材とともに、武器のオーダーが来ている。


 三年前ならいざ知らず、今では当たり前過ぎることを唐突に、真剣な表情で言われ、てっきり、起こった問題について話すのかと思っていたレインは当惑した。


「ああ、いや。武器の注文は別に問題じゃないんだ。逆に、カルラの鍛冶師なのに注文が来ない方がおかしいからな」

「三年前までは、カルラの鍛冶師なのに注文が来ない、おかしい息子で悪かったな……!」


 自分の怠慢が原因だったというのに、レインは逆ギレする。

 レインがまともに鍛冶をするようになったのは、アンナが来てからなのだ。


 何たって、アンナが来る前までは、品評会にすら出ていないくらいなのである。


 痛いところを突かれ、レインは早足に歩きながら顔をしかめた。


 まあ、空気を弛緩させようと親父が冗談を言ったのは分かっているが。


「……で、何が問題だったんだ?」

「そうだな。端的に言えば、素材がおかしいんだ」

「素材?」

「ああ。王都から鉱石が包みで来て、俺が中を改めたんだが……そいつが、俺も知らないものだったんだ」

「……はぁ!?」


 レインの予想など、はるかに上回る案件に、レインは思わず大声を上げてしまった。


 たかが、一個人が知らないと言うだけで大袈裟な、と思うかもしれないが、忘れてはいけないのは、この親父は、元「最高」の鍛冶師なのだ。

 親父が現役時代に扱った鉱石は、この世界における全ての鉱石である、などという逸話もある、そんな伝説的鍛冶師。


 それがアルフレッド=S=カルラ。


 世界中の鉱石を扱ったという親父が知らない鉱石、ということは、それは世界に存在しないも同義なのだ。

 その鉱石が道端の名もない石ならともかく、王都から来たのだから、尚更親父が知らないというのはおかしい。


 そして、それがこの世界のものではない、というのが意味するのはつまり……


「世界融合……!」

「ああ。その可能性が高いと俺は睨んでいる」

「アンナと同じ……そう言えば、『世界』は融合してるのか?アンナの方は、結局ヒモート以降何もなかったが……」


 アンナは、東の端に現れた孤島、ヒモートの出身だという。

 そして、ヒモートは冥界の孤島であることがレインの所持している伝承によって確認されている他、今は無人島であることも分かっている。


 どうやら、アンナをこの世界に「融合」させる際に、偶然ついて来ただけのようだが……果たして今回はどうだろうか。


 世界が融合すれば、当然大地も歪んでしまう。

 アンナの時はそれが起こらなかったが、今回も大丈夫とは限らないのだ。


 そして、世界融合して来たと見られる鉱石がこの村に来た以上、『世界』にカルラの村が潰される可能性もある。


「いや、今のところ確認されていない。今は、例の鉱石だけが手がかりにして元凶だ」

「そうか。現物はあるのか?」

「怪しすぎるから、手元にはないぞ。集会所で安置だ」

「そりゃそうか」


 取り敢えず、現物を視て、どこの世界のものか確認を取ろうと思ったのだが……どうやら、親父は持っていないらしい。


「ん?そう言えば、お前の力って、目を見なきゃ使えないんじゃなかったか?石に目はないぞ?」

「あー、別に、目を見なきゃいけないわけじゃないから、鉱石の魔力も視えるぞ」


 レインの魔力を視る力は、別に生物限定ではない。

 目を視るのは、魔力が集中する器官だから、魔力に干渉しやすいだけで、魔力さえあれば、どんなものでも魔力を視ることはできる。


 そして、物体に宿る魔力の魔力質も同様だ。

 レインは、表か裏かで大きく「噴き出す魔力」と「引き寄せる魔力」に分けられるが、基本的に世界ごとに魔力質は異なるので、それで世界を見分けようとしたのだ。


 ちなみに、アンナの引き寄せる魔力は、裏の第一世界である、冥界に属するので、裏の多くの世界の者が有している。


 その能力で視た魔力質が、この世に存在しないものならば黒。

 既知のものでも、黒に限りなく近いグレーだ。


 既知の魔力質に該当するのは、「噴き出す魔力」「引き寄せる魔力」「付着する魔力」の三つだ。

 付着する魔力は、生界の者が多く有する魔力質である。


 これでは、半分以下にしか世界が絞れず、既知のものでも、異世界の魔力質である可能性が高いのだ。

 例えこの世界のものでも、親父が知らないというだけで十分に警戒に値するのだが。


(……とは言え、この能力は便利だけど、使うのは少し怖いんだよなぁ。アンナの時みたいに能力が暴走したら、下手すればこの村は消えるかもしれないし)


 三年前、アンナの魔法適性を視ようとして、引き寄せる魔力に干渉したことがある。

 その時に、レインの力が暴走したせいで、アンナを起点に魔力が引き寄せられるという現象が起きたのだ。


 その時は、特に被害もなかったのだが……


 もし、それと同じことが起きた場合、非常に危険だ。

 鉱石が持っている魔力質がレインの予想通り(・・・・・・・・)なら、村ごとは大袈裟かもしれないが、少なくとも集会所にいる人間は、全て「消える」。

 文字通り、一片残らず、この世界から存在が無くなるのだ。


 あの魔力質なら、「あの世界の神」ならば、それができる。


「……急ごう」

「ああ、そうだな」


 嫌な想像に追い立てられるように、レインと親父は足を早めた。



 ◆◆◆◆◆



 集会所の戸を勢いよく開け、レインと親父は室内に飛び込む。


「来たか」

「ああ。遅れたか?」

「いや、我らも今来たところだ」


 いつもなら、時間を守って集会に来ても、何かといちゃもんをつけてくる、次長老たちだが、流石に今回はそんなことは起こらなかった。


 なんだかんだで、村の秩序を守る存在なだけある。

 誰もが緊張した面持ちで、円になって座っていた。


 レインと親父は、「いつもこんななら良いのに……」と、集会所の面々に比べて緊張感のないことを考えながら、しかし口に出すことはせず、急いで席に着いた。


「……では、緊急集会を始める。議題は、新たな世界が神界に融合した可能性について。そして、その目的がこの村にある可能性が高い件についてだ」


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