27.アンナ曰く、お買い物デート
「という訳で、大通りに来たはいいが……お前、何回迷子になるんだよ!」
今の家には冷蔵庫がないので、毎日買い物に来なければならない。
冷蔵庫があった前の家でも、あまり冷蔵庫に依存しないように基本的にはその日の内に買った分を使うという方針をとっていた。
そんな、レインの日課でもある大通りの買い物に、自称家事担当のアンナが付いてくると言い出したのが、つい30分前のこと。
その間、レインが数えた限りでアンナは5回ほど迷子になりかけては、露店商に声をかけられているところをレインが見つけるーーといったことが起こっていた。
「お家に帰る分には迷わないけど、大通りそのもので迷うなんて……」
「盲点だった、とか言うつもりなら、あえて言うけどお前は大体そんな感じだ。予想通り、と俺は言ってやる」
「ぅ……やっぱり、マスターがいないとダメ、かも……」
「それも知ってる。お前みたいなドジっ娘をほっといたら大変なことになるからな」
状況を借りて、ちょっと意味深に上目遣いにアピールしていくアンナ。
しかし、レインはそんなアンナの態度に気付いたが、無視して当たり障りのない言葉を返す。
だいぶあざとい……いや、もしかしたら天然かもしれないが、アピールをスルーされてアンナは若干しょぼんとなった。
(ハァ、しゃあねえな)
思った以上の落ち込み具合で、レインは何となく罪悪感を覚える。
なんだかんだでアンナには甘いのもあって、好意を無下にするのは咎められた。
仕方ない、と溜息を吐いて、アンナの頭にぽんと手を置き、
「……だから、俺から離れるなよ?」
さっきの言葉の続きのように、アンナが求めていたであろう言葉を口にする。
少し恥ずかしいが、それを顔に出すのはもっと恥ずかしい。
故に、レインは出来る限りカッコつけることで羞恥心を押し殺した。
レインの言葉に、アンナは一瞬驚いた顔をして、すぐに若干頬を赤く染め、小さく頷く。
(チョロい……こんなんでいいのか……)
いや、むしろ当然とも言える。
アンナは、自分の気持ちをレインに知られていることに気付いていない。
だから、アンナは、急にレインが自分に甘くなったように感じているのだろう。
つまり、急にレインと距離が縮まったも同義。
少なくとも、アンナの中では。
やらかしたかもしれない、とレインは内心で冷や汗をかく。
(……まだダメだ、とか言っといて思いっきりフラグ建てちまった。どうしよ……正直、もうちょっとアンナが大きくなればアリかもしれないけど……うん。今はやっぱりダメだな。このフラグは、数年後に回収するということで)
ヘタレなレインは、取り敢えずこの問題は後回しにすることを決意した。
一昨日夜と同じく、今はアンナの好意に答えられないが、数年後は……と。
しかし、レインは気付いていない。
自分の中に、アンナの好意に答えないという選択肢が存在しないことに。
レインが陥落するのも、そう遠い日ではないのかもしれない。
◆◆◆◆◆
ーーとある金髪の美少女サイド
おとーさんとの特訓が終わり。
私とマスターは、お昼ご飯と、夕飯の買い出しに出かけることになりました。
とは言っても、初めはマスターが一人で行くつもりだったので「家事担当として私が行く」と言ったら、「迷子になるからダメ」と言われ、仕方なくマスターが私についてくる形ですけど。
……そんなに信用ないのかな。
まあ、良いこともあります。
マスターにはまだ恥ずかしくて言えないけど、大好きなマスターと一緒に、買い物に出かけられるなんて、幸せです。
まだ会って数日だというのに、マスターの近くにいるだけで楽しい。
話してると、マスターのいろんなことが分かって、嬉しいです。
背も高いし、りょうしゅ様って言われている偉い人だから大人っぽいけど、でも本当は私と3歳しか変わらなかったり。
鍛冶をしているときとか、表情が引き締まってかっこいいけど、普段はちょっと子供っぽいところもあったり。
そういうところを発見できるんです。
あ、話が逸れました。
お出かけの話でしたね。
そう、そのお出かけなんですが。
うん。
やっぱりマスターがいて良かった……!
人が、多い。
多いんです。
今までで一番多くの人に囲まれたのは、マスターと初めて会ったあのとき。
なんだかんだで、あのときからマスターのことが好きだったんだなぁ……って、ダメです。
また話が逸れました。
あのときは、マスターを含めて7人の次長老さんと、長老のおとーさんの全部で8人に囲まれた訳ですが、大通りに入って10秒もしないうちに記録を更新しました。
あとでマスターに聞いたんですが、「しぶや」とかいうところと同じくくらいの人混みらしいです。
そんなこと言われても。
私、行ったことないから分からないよ……
しぶやはともかく、その10秒もしないうちに、私は1回目の迷子を体験しました。
こ、怖かったぁ……
実は、マスターに引き取られてから、ほとんどマスターと離れてないんです。
そんな私が、マスターがいないのに人混みに入って生還できるわけもなく。
人混みに流されるように、私は布の屋根が付いた建物?に辿り着き、そこにぶつかってようやく止まることができました。
その時にはマスターの姿は遠く。
思わず泣いてしまいました。
大声をあげて泣いた訳ではないですが、どうやら露店という名前のお店の人が私が泣いているのに気づき、その辺り一帯でザワザワし始めたので、マスターは私に気付いて連れ戻しに来てくれました。
……もうちょっと早く気付いてよ、マスター。
「あ、忘れてた」とか言わないで!
また泣くよ?
……おほん。
そのときは、取り敢えずどうにかなったのですが、何度も何度も同じことがあり、2回目に以降は周りの人が「領主様ーここですよー」と言ってくれました。
おや、私は迷子が基本とでも言うつもりかな?
否定はできないね。
そんな、迷子が基本の私が、遂に5回目の迷子を達成したときのこと。
マスターのお叱りを受けました。
しょうがないねん。
私はこんな人混みに入ったことないねん。
……つい、冥界の一部で使われる方言が。
ケァンセァイ地方だったかな?
あんまり知らないけど、ティアクゥオ焼きと言う、触手のぶつ切りをふわふわの玉の中に入れた食べ物で有名な所だったのは覚えてる。
マスターのお説教の内容は、こんなに迷子になっておいて、よく一人で行くなんて言えたなってこと、だと思う。
いや、多分だけど。
取り敢えず、私は言い訳した。
「今のお家は大きいから大通りからでも見えるし、家には帰れると思っていた」「大通りそのもので迷うとは思わなかった」と。
三つ目に、「ふっ盲点だったな……」って言おうと思ったんだけど、マスターに先読みされた。
自分が言葉が少ないのは自覚あるけど、それでも私の言いたいことを言う前に察知するなんて……
これが愛の力か。
え?私が単純なだけ?
まさか。
そ、それはともかく、マスターが私が迷子になるのは予想通りだなんて言ってくるので、思わず迷子になった時に再確認していた想いを口にしてしまった。
「私はマスターがいないとダメ」って。
恥ずかしい、恥ずかしい!
でも、マスターは私が冗談でも言っていると思ったのか、呆れた表情で、「知ってる。だってドジっ娘だからほっといたら大変だから」って返してきた。
そこでかっこいいこと言われても、私の胸はパンクしそうになるけど、でもその返しはないんじゃないかな……
と、思っていたら。
「俺から離れるなよ?」
って言って、頭を撫でてきました。
胸がパンクしました。
自分の顔が真っ赤になっているのが分かります。
かっこよすぎです。
でも、言ったマスターの方もちょっと恥ずかしそう。
私の方はもう限界なので、頷くだけで精一杯。
そのあとは、マスターと手を繋いで歩いたので、迷子にはなりませんでした。
ついでに言うと、マスターと手を繋げて、恥ずかしかったけど、恋人みたいで幸せでした。
以上、アンナでした。




