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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
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25.特訓開始

 全ての荷物を運び込んだレインとアンナは、元々親父に頼んでいた戦闘訓練を受けることにした。


 この家を造るための材料を集めに森に入った際に、遭遇した魔獣との戦いで、力不足を思い知り、村に帰ってきて直ぐに親父に取り付けた約束である。


 その一環として、アンナの双剣を作ってやったのが昨日のこと。

 その時にレインも適当に自分の作った剣を持ち出し、訓練に使うことにした。


 自分の剣を持ち、動きやすい服装になった二人が向かったのは、親父の家。

 ついさっきまでレインが居座っていた家でもある。


「振り返らずに歩く〜」的なことを言っておきながらこれでは、情緒もくそもあったものではないが、取り敢えず今は親父の家だ。

 ノックするのが礼儀というものだろう。


 コンコンコンと三回戸を叩き、返事は待たずに勝手に戸を開ける。

 鍵なんて付いていないので、泥棒も入り放題だ。


 それでもそういった事件がないのは、親父が上手くこの村を治めているからに他ならないのだが。


「という訳で、特訓お願いします」

「何が『という訳』なのか分からん」


 いつも通りのやり取りで始まる親子の会話。

 もとい漫才。


 親父にしてみれば、ようやく荷物を運び終えて、のんびりと寛いでいたところに、息子と居候少女がまた変なことを言い出した、という認識である。


 まったく、息子に対する認識が親としてなっていない。

「やれやれだぜ」と言うように溜息を吐くレインを尻目に、代わりにアンナが前に出た。


「この間、戦い方を教えてくれるって約束したよね?」

「……あ、あ〜。確かそんなこともあったような」

「覚えてなかったの……?」

「いや、そんなことないぞ?覚えてた覚えてた」


 レインと同様に呆れた表情になるアンナに、親父は慌てて弁明する。

 その態度が怪しいと言うのに、それが分からないのだろうか。


 親父はアンナの視線から逃れるように、レインに話を振る。


「で、教えるのはいいが、武器はあるのか?」

「しっかり作ってやったよ。ほら」


 アンナが胸に抱える双剣を指差すと、アンナはふんすと鼻息荒く、無い胸を張る。

 しかも、そこはアンナがドヤ顔するところではない。


 親父はそんなアンナを見て「何これ笑える」という言葉が出かかり、なんとか押し殺すと、再びレインに顔を向けた。


「お前が作ったのか?」

「作れって言ったのは親父だろ」

「ならいいが……最近お前、まったく剣を作ってなかったから腕が衰えてるんじゃないかと思っていたが、そんなこともなさそうだしな」

「当たり前だ」


 軽口を叩き合い、親父は家の奥に立て掛けてある斧槍を手に取り、首を鳴らした。


「引っ越しが終わって直ぐとは、気の利かん奴らだ、まったく。まあ、教えてやるがな」

「そりゃどうも」

「ありがとうございます」


 二人は親父の承諾の言葉に、それぞれの性格が現れたような感謝で返す。

 それを聞いた親父は、ニヤッと兇悪な笑みを浮かべ、外に出て行った。


 別に今じゃなくてもよかったのだが、どうやら今直ぐ特訓をつけてくれるようだ。

 まったく、気のいい親父だ。

 レインとアンナはお互いの顔を見合わせ、直ぐに親父の背中を追いかける。


 レインは守りたいものを守るために。

 アンナは守られるだけじゃなく、自分も戦えるようになるために。


 外に、踏み出す。



 ◆◆◆◆◆



「まず、武器を使った戦闘では、大きく3つの型があってだな……」


 特訓をするにあたって、あまり人が来ない広い場所へ行くことになり、レインとアンナ、そして教師役の親父の三人は、我らが新居の庭に来ていた。


 この村の家の造りで庭がある時点でおかしいが、そこが村で一番広い場所となると、もはや親父は頭がおかしいとしか思えない。

 しかも、人の家なので、他人が入れば一応不法侵入になるので、あまり、どころか誰も来ない場所、という条件も満たしている。


 完璧だが、何かがおかしいと思わなくもない。


 そんな庭で早速、戦闘訓練が始まったのだが……


「なんで、いきなり座学(立ったまま)なんだよ……」


 レインは親父の講義を聞きながら、思わずといった様子で小さくぼやく。

 アンナは素直なので、レインの横で姿勢を正して親父の話を聴いているが、顔には「これって必要なのかなぁ?」と書いてあった。


 真面目に聴いているように見えるアンナでさえ、あまり親父の話を重要だとは思っていないようだ。


 そんな二人の態度を見咎め、親父はビスッ!とレインの頭に手刀を打ち込む。


「いってぇ!なんで俺だけ?」

「真面目に聴け。今から言う3つの型が分からないと、教えようにも教えられん」

「いや、だからなんで俺だけ……」


 親父の言葉に、アンナは顔を引き締める。

 この話が、後の訓練において大事だということを理解したのだろう。


 素直だ。


「で、話が逸れそうになったが、その3つの型の1つ目は『ワルフ』」

「既に嫌な名前だ」

「なんで、あの犬の名前……?」

「犬じゃなくて、狼なんだが……。まあ、それはいい。ワルフの型は、言ってみれば攻撃こそ最大の防御って感じの型だ」


 曰く、狼の魔獣ワルフのような俊敏さで敵を圧倒する、攻撃的な型とのこと。

 そこからの大きい派生としては、変則的な技を用いて戦うか、前に前に出て自分のペースで相手を追い詰めるか、の二つに分かれるらしい。


「ちなみに、俺は後者。ワルフ《剛》の型だ」

「じゃあ、へんそくてき?なほうは、どんな名前になるの?」

「ワルフ《技》の型だな。とは言え、別にどっちかに分ける必要はないんだ。その時に応じて使い分けるといい」

「うん。そうする」


 親父の講義に対して、分からないところがあれば、手を挙げて質問するアンナ。

 挙手という姿勢が立派である。


 レインは、正直知識だけならあるので、あまり興味はない。

 欠伸を噛み殺して、形ばかりの講義を受けている。

 知っていて興味はないが、一応「ワルフ」にはツッコミを入れておいたが。


 親父もこの講義はアンナに対して、と考えているので、そんな態度も許している。

 知っていることを話されても退屈なだけなのは、親父にだって分かるのだ。


「で、次はティリの型。これは、魔獣相手に有効な型でな、一撃離脱を繰り返して、徐々に相手を追い詰めていくんだ」


 所謂ヒットアンドアウェイだ。

 この世界における鹿のティリは、魔獣ではなく動物だ。


 持ち前の脚力と巨大な角で、襲い来る魔獣などの天敵を突き、直ぐに離れて相手が隙を見せたらもう一度、というのが主な戦闘手段。

 それになぞらえて、一撃離脱のこの型は、ティリと名付けられたらしい。


「ただ、これにはもう一つあってだな。今言ったのとは別に、ティリは頑丈な角で子供のティリを守ろうとすることがあるんだ」


 ティリが戦うのは、あくまで自衛のためだ。

 ティリの型は攻撃を食らわないことを重視している、ワルフの型とは真逆の、防御の型なのだ。


 そこで、ティリの型から派生したのは、相手の攻撃に合わせて武器を動かし、相手が隙を見せるのをじっくりと待つ、《防》の型だ。


 ちなみに、一撃離脱の型は、角で戦うティリをイメージしているので《角》の型と呼ばれる。


「まあ、あまり《防》の型はおすすめできんな」

「どうして?」


 何処からか取り出したノートに、親父の言ったことをメモするアンナが、親父の否定的な言葉に首を傾げる。


 そんなアンナを見て、丁度暇を持て余していたレインは親父の言葉をインターセプト。

 勝手に親父の言いたいことを言ってやることにした。


「防の型はな、相手のフェイントーー右から攻撃すると見せかけて左から、とかそういうのに弱いんだ。だって、相手の動きに合わせて武器を当てるから、フェイントに引っかかったら無防備になるし、それをなんとか止めたとしても、その時点で防の型は成立しないから、ズルズルとやられてくんだよ」

「へ〜、流石マスター。いろんなこと知ってるね」

「まあな」

「あれ、俺の存在意義は……?」


 急に選手交代とばかりに講義に割り込んできて、要点をまとめて言ったレインにアンナが感嘆の声をあげる。

 褒められたレインは少し照れ臭そうだ。


 そして、自分が教えても質問以外の反応はしてくれなかったのに、レインに教えられたときに限って少し楽しそうなアンナに、親父はがっくりと肩を落とした。


「ま、まあいい。最後は、『フランの型』。フランっていうのはーー」

「空色の小さな花で、綺麗だが、花には毒がある。それにあやかって、花のように舞い、しかし全ての動きが攻撃につながるっていうことで、フランの型って名付けられたんだと」

「空色の花……マスターが作ってくれた服と同じ色だね」


 レインが披露する知識群に、自分の服との共通点を見つけ、アンナは少し驚いた顔をする。


「まあ、フランは毒があるってのを除けば、小さくて控えめだけど、結構綺麗な花だしな。確かにそれをイメージしたってのはある」


 ちなみに、フランの花言葉は、「可憐な乙女」。


 実は、色よりも花言葉の方がアンナの服の色の決め手になっただなんてレインには言えない。


「なあ、我が息子よ。暇なのは分かったけど、ちょっと黙れよー」


 青筋と笑みを浮かべ、レインの頭を肩をガシッと親父が掴む。

 顔は兇悪ながら笑っているとも言えなくはないが、目は全然笑っていない。


「なんだ、いきなり……痛っ、痛い痛い!この馬鹿力!肩が潰れる、ちょ、潰れるって!」


 レインの肩を掴んだまま、ミシリ、と手に力を入れていく。

 異常な握力に肩が悲鳴を上げ始め、レインはバシバシと親父の手を叩いて抗議した。


 それでも、親父は力を込めるのをやめない。


「痛ってえ!?」

「ま、マスター!?大丈夫?……マスターのおとーさん、やめてあげて」


 レインの悲鳴に慌てたアンナが親父を宥め、ようやく親父はレインを解放した。


「懲りたら黙って話を聞け」

「……はい」


 凄む親父に、流石に調子に乗りすぎたか、とレインは反省。

 大人しく、アンナの横で姿勢を正し、痛む肩を撫でた。


 親父は、そんなレインは放置して講義を再開する。


「もう大事なところはこのバカ息子が全部言っちまったが、そうだな。嬢ちゃんの双剣。これはこのフランの型によく合うんだ」

「これが?」

「ああ。舞うように戦うって言ってただろう?やっぱり、剣が一本だと無駄な動きが多くなるだけなんだが、双剣なら、それが怒涛の連続攻撃になる。というか、フランの型自体、双剣術の型なんだけどな」

「じゃあ、私はこの型を練習すればいいの?」

「まあ、一応全部練習はするが、嬢ちゃんが双剣を使うならこれがおすすめだな」

「分かった……あ、そう言えば、マスターはどの型にするの?……取り敢えず、だけど」


 大まかな自分の方針が決まったアンナは、ふと思い出したように、隣のレインに話を振る。


「確か、マスターは剣一本だったよね?だったら、このフランの型はないでしょ?」

「そうだな……ティリは地味だし、魔獣戦以外だとあまり使いどころがないから、消去法でワルフかな」

「じゃあ、技と剛のどっち?」

「いや、それこそ分からん。どっちも合わせて習えばいいだろ」

「それもそうだね」


 戦い方を学ぶきっかけになったのは魔獣戦だが、敵が魔獣だけとは限らない。

 むしろレインは人間を相手に戦うことの方が大事なのではないかと考えているくらいだ。


 そんな風に先を見据えている二人に、親父は満足そうに頷き、特訓開始を宣言する。


「じゃ、二人とも大体決まったみたいだし、始めるか」











一応、活動報告の方で連絡を行なっていますので、もしご存知なければ、是非見てみてください。

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