20.買い出し ぱーと2!
今回は、字数が普段の半分くらいです。
「落ち着け。こういう時はアレだ。『異世界式和製英語の法則』の出番だ」
『異世界式和製英語の法則』。
それは、この世界にどういう訳か存在する日本語モドキの単語を理解するためにレインが編み出したものだ。
日本語モドキの単語を無理矢理、英語にするだけなのだが、なかなか有用だ。
今回も、異世界式和製英語の法則を活かす時。
「海鳥……海、鳥………海は‘‘sea,,で、鳥は‘‘bird,,……いや、鳥じゃなくて鶏肉か?なら、‘‘chicken,,で……あ。シーチキンか」
やっとで判明。海鳥とは、シーチキンのことらしい。
いや、まずシーチキンとはカツオやマグロの肉をサラダ油に漬けて缶詰にしたものであって、材料に鶏肉など入っていないのだが。
「まさか、異世界の海鳥は鶏肉を缶詰にするのか……?」
そんな馬鹿なと思いつつも、否定しきれないのが悲しい。
缶詰に書いてある絵なんて鳥だし。
ちなみに、海鳥が何か分からなかった時点で、適当な店で「海鳥一つください」と言ったら缶詰が出て来たのもヒントになっている。
そんな風にレインが海鳥の缶詰を片手に一人唸っていると、気付けば大通りを歩く人々から訝しげな視線を大量に頂戴していた。
レインは我に返ると、苦笑を浮かべて、軽く会釈。
しかし内心では「解せぬ。何故に俺がこんな視線を向けられなければならないのか」と憤りを感じている。
ツッコミ待ちなら、無機物でもツッコミを入れないと失礼に当たるのではなかろうかとレインは思っているのだから。
……え?そんなことない?
ただの怪しい人?
そんなことはない、と自分に言い聞かせつつ、客観的に今の自分を見たらどうかと考える。
缶詰に相手にぶつぶつと話しかけている、年若い領主様の図を脳裏に浮かべーー
(怪しい……クッソ怪しい!)
シンキングタイム終了。
自己評価は怪しい人ですありがとうございます!
羞恥に顔を染め、レインはそそくさとその場を退散。
今の奇行を見ていた人とすれ違うように離れていく。
ちなみに、露店商からは「食物相手に話しかける領主様」は、ある意味名物として、見られている。
いつものこと。
そして、いつも通りに愉快だ、と。
レインはそんな訝しげな視線と生暖かい視線から逃れるように大通りを練り歩き、更に数分進んだところでレインは歩調を緩めた。
「……酷い目にあった。これからは自重しよう」
袖で額の汗を拭い、置いて来た後方の景色を眺める。
人混みに遮られ、先程いたところなど、視界に入ってこない。
これで一安心。
「あ、やばい。まだ人参と海鳥しか買ってない。確か、あとはじゃがいもと玉ねぎだったか。アンナはこれで何を作る気なのかね……」
レインは改めてメモを見る。
じゃがいも、人参、玉ねぎ、海鳥で作れる料理など、何かあっただろうか。
前世で(ネットサーフィンして)得た知識を探り、
「あ、もしかして肉じゃがか?多分、肉の代わりにシーチキンを入れるんだろうな」
レイン的にはここにグリーンピースと糸蒟蒻が入っていてもいいのだが、それは置いておく。
「そうか……肉じゃがか……。こっちでは聞いたことないな」
冥界出身のアンナ曰く、「故郷の味?ってお姉ちゃんが言ってたから、楽しみにしててね」とのこと。
この異世界には肉じゃがはないらしいが、どうやら冥界には存在するようだ。
「アンナには悪いけど、日本にもあったんだな、これが。……というか、本当に日本と冥界って何の関係もないのか……?」
以前、アンナと同時期にこの世界に現れた無人島ヒモートを、日本そのものなのでは、と疑ったことがあったが、あながち間違いでもないのかもしれない。
もしくは、日本人がレインのように冥界に転生し、その転生者が日本文化をもたらした可能性もある。
そっちの方が有力だろうか。
(いや、それはないか。前に『ーー』には誰も来れないって聞いたしな)
確か、転生する直前に、『ーー』で『ーーーーー』にそう言われた。
「『ーー』って、なんだっけ?……ま、いいか。早く材料を買って帰ろう」
目的を忘れて思考に耽るのは悪い癖だ、とレインは首を振り、メモをもとに露店を渡り歩く。
全て買い終わった時には、『ーー』のことなど頭に残っていなかった。
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「そろそろお目醒めかねぇ、鍛冶師の仮面を被った魔王の野郎はァ」
第16話に、アンナのイメージイラストを載せました。
ど素人の苗村が描いたので下手ですが、よかったら見てみてください。




