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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
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2. 記憶を巡る旅(1)

無駄にエグいので、読み飛ばして下さっても構いません。

 こっちの世界に来る前の家庭は、根っこから腐っていた。というのも、熱烈な宗教家だったのだ。


 俺が産まれる丁度前の年からとある宗教団体に入り、いろんなモノを買い漁った。どうやらそこは普通の宗教団体とは違い、全教徒…ならぬ狂徒どもがウヨウヨしている気持ちの悪いところらしい。


 其奴らが俺を悪魔認定したせいで親が発狂し、俺を殺そうとしたという。ちなみに、発狂したのは母の方だ。実の父は、狂徒どもの洗礼を受けて命を落としている。


 まぁ、その時は死ななかった。狂った母親を再婚相手が止めたのだ。当時俺は3歳かそこらだったのだが…


 ーー3歳『内村ヒナタ』ーー


「ああぁアアアぁァアアアッ!!」

「おい、どうしたんだ⁉︎」

 

 ボクの首をママが締めている。

 

「早く、早く、早く早く早く早く早く早く早く早くはやくはやくハヤクコロサナキャアァアアアッ⁉︎」

 

 怖い。目を真っ赤にしたママが唾を飛ばして叫んでいる。喚いているって言った方がいいのかな?そういえば、息が苦しいな。確か、お義父(とう)さんが、「人は息をしなきゃ死んじゃうんだよ」って言ってた

 

 でも、死ぬって、なんだろう。怖いのかな、痛いのかな?きっと、今ボクは苦しい、爪が喉に刺さって痛い。ママはなんでこんなことをするのかな。なんで?

 

「お、いッ!やめろ!!ヒナタから手を離せ…ぐぁッ!?」

「あなたこそ、手を離しなさいよ!その、そのヒトの皮を被ったバケモノを殺せないじゃないッッ!!なんで、なんで邪魔するのよぉぉぉおおおおおぉぉお!?」


 狂人(ママ)がお義父さんを倒した。爪にボクの血の塊と、肉、皮、そしてーー


「ぎゃあああぁっぁぁぁぁあ!?」

「え、あ、あなたが悪いのよ。この悪魔を守ろうとしたから当然、そう、当然の報いなのよ。そうよ。そうよ。そうに決まっているわ!」

 

 半狂乱になって長く尖った魔女のような爪を振り回し、狂人(ママ)はお義父さんの右目を抉ってしまった。その醜い爪には血がこびりつき、どす黒く、それでいて、テラテラと光っていた。

 

 ボクはきっと、それを忘れないだろう。

 




 ーー 17歳『内村ヒナタ』ーー


 あれから14年。()は、結局右目の視力が戻らず、さらには傷が癒えることもなかったお義父さんと二人で暮らしている。

 

 生まれてからずっとあの女に監禁されていたので、あの女が居なくなって「やっと外に出られる!」と喜んだのだが、お義父さんが外に出るのを禁止したせいで生まれてこのかた、一度も外に出ていない。この辺りにはまだ狂団がうろついているからとのことだ。


  あ、そうそう。俺が5歳になったときにあの女は俺とお義父さんを殺そうとした罪で逮捕された。警察が家にやってきて、家の惨状を目の当たりにしたのだ。具体的には、鉄格子付きの地下牢、14年前の事件があったリビング(当時は2年前になるが)あの女の部屋のタンスの中(ナイフ、大麻、ロープ、狂団にそそのかされて買い漁ったゴミ、などなど)。


 それらのモノを見て「この女はヤバイ」と警察が判断し、あの女はあっさり連行されたのだ。いや、あっさりとは言えないかもしれない。

 

 あの女、俺が生まれてから一度も爪を切っていないらしい。なんでも、「その聖なる爪は役に立つ。いつか悪魔を滅ぼすために!」と、アホな狂団に言われたとか。

 

 とにかく、その『聖なる爪(w)』であの女は警察に抵抗した。結果的にはあっさりと言えるほどサクッと手錠を掛けられたのだが…。10秒くらいだったかな。ククッ今思い出しても笑える。

 

 そう言えば、あの『聖なる爪(w)』事件以来、俺は声を出せなくなった。あの女は俺が思っていたより強く首を絞めていたらしい。あの長い爪が喉に刺さり、声帯を切られたのだが…お義父さんは咄嗟の判断であの女を殴り、一撃轟沈させた。

 

 そのまま血を噴き出して止まらない俺の首に包帯を巻き、医者を呼んだのだ。なぜ直接行かなかったのかと疑問に思うかも知れない。だから、一応説明しよう。お義父さんは右目がない。それに、病院は異常に遠いのだ。まあこれはあの女のせいなのだが、それは一々説明するまでもないだろう。ただ頭がおかしかっただけだ。

 

 取り敢えず、そのせいで移動ができなかったのだ。下手に俺を動かしたら死ぬかもしれないし。

 

 お義父さんのその判断お陰で俺の命は助かったのだが、声が出なくなってしまったという訳だ。声が出せない人生の方が長いから、正直言って忘れていた。


  ーー忘れていたのだが、つい先日其れを意識し始める原因となる事件が起きたのだ。

 

 原因不明の病である。実は、此れが結構重病なのだ。そのせいで俺は布団から出られない日を送っている。布団から出ない日はいくらでもあった。だが、布団から出られない日はなかったので、少し危機感を感じている。

 

 そしてもう一つ。


「ーーッ!?」


 たまに起きる発作的な痛みだ。


 しかも今のは、いつもよりもヤバイやつだ。


「くッーーぁ」

 

 まただ。頭がぼんやりしてきたな。この痛みは脳にきているのだろうか?


 ビリッ!


「……かッはぁーー!?」

 

 あぁ、身体に力が入らねぇ。頭の痛みも増してきた。ろくに話すこともできない俺の語彙では、今の痛みはうまく表現できない。まぁ、此れだけ頭が痛くて、しかもぼんやりしてるときたら俺みたいなボキャ貧じゃなくても無理だろうな。

 

「ーッ…ぁ……ーー」

 

 ハッ。お義父さんを呼んだつもりだったが、やっぱりまともに喋れない。お義父さんは一階にいるが、二階にいる俺の声が聞こえることに期待するのは酷だろうか?くそったれ。あの女が残していった喉の傷のせいで、俺はーー

 

 ーー 俺はおそらく近い内に死ぬ。

 

 分かっていたことだ。ずいぶん前から体調がおかしかった。それに、お義父さんはエイズにかかっていることが医者に発見されている。あの女がお義父さんの右目を抉った時にエイズを含んだ血が俺の喉の傷に直接入ったので恐らく俺もエイズにかかっているだろう。


 エイズというのは、簡単にいうと免疫力を著しく低下させるびょうきだ。昔はエイズの感染者に触れただけで感染るとか言われていたらしいが、事実は違う。

 

 実際は、感染者との性的接触や、俺の様に感染者の血液に直接触れるなどといった限定的な条件の上でしかエイズは発症しないのだ。

 

 そして今、俺はエイズにより、いつまでたっても終わらない痛みに侵されている。お義父さんはエイズのことを、もしくはあの女から俺を守りきれなかったことを気に病んでか、俺と会うのを避けている。別に、そんなことをお義父さんが気にする必要はないのに。全てあの女が。あの、人の皮を被ったバケモノが。お義父さんの右目と俺の喉、そして俺たち二人の心に消えない傷を刻んだアイツがわるい。

  報いを受けるべきだ。

 

  ……そういえば、あの女はお義父さんの血を大量に浴びていたな。俺よりも多く。ならば、アイツもエイズにかかっている可能性が高い。

 

「ーー…ック…クッッ…」

 

 おっと。物理的な問題を越えて笑い声が漏れてきた。仕方ないだろう?あの女も俺と同じ様に苦しんで死ぬかもしれないのだから。

 

 お義父さんにはもっと感謝しなければいけないな。今の俺にとっては何にも勝るこの快感をくれたのだから。最高のプレゼントだ。

 

 ……とはいえ、お義父さんが意図的にやった訳ではないだろうし、しかも俺だってあの女と同じ運命に会うのだ。というか、今会っている。それに、お義父さんは人が苦しむのを見て喜ぶ性格でもないし、それどころか悲しむだろう。

 

 なら、今ここで決断しよう。


 俺の生きた記憶を何から何まで覚えたまま、そして、お義父さんのエイズによって死なない為に。お義父さんに罪の意識を持たせない為に。お義父さんが、自分のせいで俺が死んだなんて思わないように。

 

 そうする為に俺は、


「ーーッ」




 ーーーー自ら舌を噛み切った。

 

 ……お義父さん、ありがとな。俺がもし生まれ変わることができるなら、お義父さんみたいな父親の息子に生まれたい。今度こそ、実の息子として。

 

 そんなことを考えながら 、俺、『内村ヒナタ』の人生に幕を下ろした。

 

 皮肉にも実の親(クソ野郎)に付けられた『ヒナタ』の名に相応しい美しい日向の下で。

 

 

『お義父さん』と打っているつもりで『お義さん』と打っていたことに投稿直前で気付いた苗村つめはです。 まず、投稿遅れました。すみません。

今回も読んで頂き、ありがとうございます。

前書きで書いてあった通り、エグい話でしたが如何でしたでしょうか。

本当は、この話は1話で終わらせる予定でした。しかし、主人公の3歳から17歳までの人生をすっ飛ばしてもそれなりに字数があったので、分けることにしました。

主人公のお義父さんのエイズですが、情報の波に乗って漁って来た内容を簡単にまとめただけなので、色々おかしいところはあると思いますが、ご了承下さい。…『ネットサーフィン』ではなく、『情報の波に乗る』ですよ!

…くだらないことを書いてないで投稿を間に合わせろ等の苦情、承ります。

次回からは異世界編なので、当方も筆が乗ります。きっと今回の1.5~2倍くらいの長さになります。次回の投稿は出来るだけ早くします。

3話にて皆様にお会い出来たら嬉しいです。

さようなら!

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