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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
19/40

18.今度こそ鍛冶師のお仕事 ぱーと3!

レイン「アンナ。ーー全て、やり直せ」

苗村「ふざけんな」

 アンナの虫嫌いという意外な一面が発見されたりしたが、これと言って特に何の問題もなく掃除は終了した。


 レインの忠告を、リアクション芸の前振りだと勘違いしたままのアンナが、加工台に特攻したり。

 その途中で、箒に躓いて転んだ挙句、埃を盛大に巻き上げたり。

 それに気づいたレインが、慌てて駆け寄って、立ち込める埃に隠れて見えなかったアンナの足に躓いて転んだり。

 同じく盛大に埃を巻き上げたり。


 そんなことは起こっていない。

 ないったらない。


 そんなこんなで、やっとの思いで掃除を終え、ホッと一息吐いたのは今さっきのこと。

 二人ともボロボロである。


「ふっ……外の雪は真っ白。新品のお洋服も真っ白。……同じ白なのに、なんで私はこんなにも汚れているの……?」


 塵取りに溜まったゴミを、外の焼却炉に棄てに行って戻ってきたアンナが、遠い目をしていきなり変なことを言い出した。


 外に出たときに、一面に広がる雪景色と自分の埃まみれの姿を見比べてしまったのだろう。


 心中察して余りあるが、正直レインに構ってやる余裕はない。

 が、構ってやらないとアンナは謎テンションのまま、ずっとこんなことを言い続けるだろう。


「気にすんなって。どうせ洗えば落ちるんだし……」

「そ、そうかもしれないけど、気持ちの問題だよっ。新品のお洋服が汚れちゃったら悲しいでしょ?」


 論理的かつ適当な意見に、アンナはいつになくはきはきとした口調で言い返してきた。


 分からないでもない。

 分からないでもないが、そんなに盛大に汚しておいて、「洗えば落ちる」という点に突っ込んで欲しかった。


「……あれ?これって本当に汚れ落ちるのかなぁ」

「今更かよ。まあ、落ちるのは本当だけど」


 異世界産の謎素材なので、どんなに汚れても綺麗になるのがこの服の実態だ。

 つくづく信じられない高性能。


 レインは内心呆れてしまう。


「でも、どんなに汚れてても、最初に会ったときのお前よりはマシだろうな」

「え?」

「だって、あの時のアンナが着てたのって、下着とボロ切れだけだったし」

「な、なんでそんなこと知ってるの!?」

「は?いやだって、俺そこにいたし」

「そうじゃなくてっ。なんであのボロボロの服の下が下着だけって……」


 顔を赤くしてあわあわとしているアンナに、レインはさも当然というように、


「だって、見えてたし」

「ーー……!?」


 アンナは、レインの言葉に一瞬硬直。

 そして、次の瞬間顔をボンッと上気させ、頭を抱えて蹲ってしまった。


「うぅ……見られた……!マスターに、見られた……」

「おい、俺が何かしたみたいな言い草だな」

「だって、見たんでしょ?」

「まあ……」

「ほら!」


 見たというか、見えたというか。

 取り敢えず、見えてはいけないところは見えていないから安心して欲しい。


 レインとしては、翌日の朝、アンナを風呂に入れようとしたときの方がよっぽど衝撃的で刺激的だったのだが……それは言わない方がいいだろう。

 レインのためにも、アンナのためにも。


「そんなにいじけるなって。気にしてないから」

「それはそれで、なんか悲しい」


 レインのフォローに、アンナは微妙な顔をする。

 何か間違っただろうか。


「もう……マスターは鈍感」

「ひでえな、おい」

「だってお姉ちゃんが言ってたもの」

「何を?」

「お付き合いしてない人に下着を見られたら、その人には責任を取ってもらわなければいけないって」

「……ほう」


 それは、あれか。

「もうサイテー!」「悪かったって」「こんなんじゃお嫁にいけない……」「じゃあ、俺が……」的なフラグが立ったのか。


 なるほど。

 実際にあるのか知らないが、創作物ではありそうなシチュエーションだ。


(ま、そんなフラグ、へし折るんだけど)


 レインはアンナに見られないように悪い笑みを浮かべ、


「悪かったって……。責任は取るよ。ーー今日の牛乳は、お前に譲る」


 まさかの、牛乳。


 異世界的高級飲料の牛乳は、次長老以上の地位の者に1日一本、瓶で配給される。

 いわゆる特権というやつだ。


 くだらないと思うかもしれない。

 しかしこれを高級酒に置き換えたらどうか。


 毎日、瓶で一本。


 なかなかの待遇である。

 しかも牛乳なら未成年でも飲める。


 別にレインは元々そんなに牛乳が好きな訳ではなかったが、異世界に来てみて、無いなら無いで寂しいことを知った。

 以来レインは牛乳の虜である。


 そして、アンナは身長を伸ばすため、胸を大きくするために牛乳を飲みたいらしい。


 しかし、牛乳は一軒に1瓶。


 レインとしてもアンナとしても、これは欲しい。


 ということで、


「ん。それでいいよ」


 牛乳の前に、恋愛フラグは敗北した。


 自分からフラグを折っておいてあれだが、なんとなく勿体無い気もする。


 とはいえ、まずもってアンナが、こういう場合での「責任を取る」の意味を理解していないからフラグを回収しようにもできないのだが。



「っと、いけない。本題を忘れるところだった」

「はっ、そう言えば、マスターに武器を作ってもらいに来たんだった」


 二人してここに来た目的を完全に忘却していた。


 危ないところだった。

 本当に、ここに掃除しに来ただけということになってしまう一歩手前だった。


「ということで、どうせなんでもいいって言うんだろうけど、何か武器の希望はあるか?」


 武器といっても、剣だけとは限らないない。


 レインが剣を作るのが得意というだけで、カルラ工房では槍や斧も取り扱っている。


 親父も、護身用にと集会所の奥の自室に、斧槍ーー横文字だとハルバードと呼ばれる、斧に槍の穂先がくっついた武器を立て掛けている。

 もはや護身用の域を超えたガチ武装を、幼い頃に初めて見た時には、唖然として言葉を失った。


 それはともかく、アンナが使いたい武器とか、使い慣れた武器をレインは見繕ってやろうと言うのだ。


 しかし、アンナは少し考え込み、直ぐに小さく首を振った。


「私でも使えるような、小さいものなら何でもいいよ」

「だと思ったよ。ま、ちょっとでも要望があったからまだマシか……えーっと、小さいもの……ナイフとか?」


 それだけで結構選択肢が削られる。

 少なくとも、ハンマーだとか槍だとか大剣だとか、巨大な武器は選択肢から消える。


 しかし、ナイフなどの小型の武器は、魔獣相手には危険だ。

 単純にリーチが短いので、その分相手に近寄らなくてはならない。


 対魔獣を完全に捨てるならそれでもいいが、元々レインとアンナが戦いを学ぼうと決意した原因は、魔獣にある。


 やはり、魔獣戦を捨てる訳にはいかない。


「最低でも、刃渡り三十センチの短剣……いや、此処はロマン仕様で双剣とか……」


 脳裏に描くのは、某モンスターをハントする有名ゲーム。

 手数で攻める双剣の魅力は忘れられない。


 それに、アンナは小柄で、大きい武器を使えないと自分で選択肢から消している。

 賢い判断だ。

 それに、対魔獣でも、体格差を活かした戦闘が期待できる。

 対人間でも、ナイフは軍人の平常装備だったことを鑑みるに、悪くはない。


「よし、アンナの武器は双剣にしよう」

「そうけん?」

「ああ。二本の剣を持って戦うんだ。これならアンナでもいけると思う」

「ん」


 アンナの武器は決まった。

 では、次は自分の武器を決めなければない。


「ん〜、まあ、普通に直剣でいいか……」


 自分は特にロマンを追求するわけでもなく、備品の鉄製の直剣を選ぶ。

 刀身は七十センチ。

 刃は左右均一で、横幅の丁度四分の一ずつ。

 強度はレインが保証する。

 5等級はある。


「じゃあ、アンナの剣を作りますか」


 素材は、それなりに質の良い鉄を使う。


 鉄を金具で挟み、炉で熱する。

 そのままの鉄を叩いたところで、ただ傷が付くだけだ。

 素材の変形抵抗を減少させなければならない。


 赤熱化してきたら、加工台である程度槌で叩き、薄く伸ばす。

 ガツンと鈍い金属音がなり、赤熱化した鉄からは火花が散った。


「わっ、熱くないの……?」


 それを見たアンナが心配そうにレインに声をかけるが、レインは振り向かない。

 火を扱うため、気を抜くと大怪我をし兼ねないのだ。


「まあ、慣れてる、しな……!熱いけど、我慢できる」


 槌を振り下ろす合間を縫って、アンナの心配を和らげようとレインは声を張る。

 それでも、アンナは形のいい眉を寄せて、レインのことをじっと見ていた。


(なんか、落ち着かないな……。まあ、気にしてる余裕はないけど)


 それなりに薄くなったところで、縦に鉄を割り、一方を、熱を失い難いように保温性の高い火山灰の中に突っ込む。


 もう片方は、向きを変えて槌で叩き、次第に変形させていく。


「お、おお……なんか、それっぽくなってきたね」

「そりゃ、そうだ……!」


 アンナのあまり参考にならないゆるいコメントに、しかしレインは途切れ途切れになりながらも律儀に答える。



 今回の剣は、刀身と柄は同じ素材で一つなぎに作る。

 柄になる予定の部分はあえて膨らませたままにし、角を叩いて全体的に丸みを帯びさせた。


 そうして、あとは研磨を残すのみとなる。


 まだ熱を帯びている剣の原型を、急激に冷えないように、別の火山灰に埋める。

 そうしないとヒビが入る可能性があるのだ。


 もう一本も同様に打つ。


 これで一旦作業は終了。


 冷めるのを待ち、粗い部分を全体的にヤスリ掛けし、刃を研ぐだけだ。


「ふぃ〜っ。久しぶりだったけど、なんとかなったな……」

「お疲れ様。凄かったね」

「だろ?」


 溜まっていた息を吐き出し、一呼吸吐くレインをアンナは労う。

 それにレインは得意げに口に端を上げて答える。


 アンナはレインのそんな態度に小さく笑う。


「ありがとう、マスター。服も、剣も、みんな私のために作ってくれて……」


 今日何度目か分からないアンナの「ありがとう」は、しかし一つ一つが、全身全霊の感謝だということを、レインは分かっている。


 それ故にレインは少し顔を赤くし、


「いいんだよ。別に」


 そんな風に照れ隠しして、ぶっきらぼうに返すのだった。





一応注釈。

鍛冶の工程なんかは、ネットサーフィンして適当に書いたものなので、間違っている可能性が非常に高いです。

鵜呑みにはしないで下さい。


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