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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
18/40

17.今度こそ鍛冶師のお仕事 ぱーと2!

な、なに……まだ、槌すら持たないだと……!

 防寒着を着用し、もこもこのクマスタイルになった二人は、何気に広い玄関から外の寒冷地獄へと踏み出す。


 相変わらず、身体の芯から凍えるような寒さだ。

 背筋にゾワッと寒気が走り、レインは身震いする。


「なあ、アンナ」

「なに?」

「なんか、昨日よりも一段と寒い気がしないか?しかも一番気温が高いはずの昼なのに」


 レインは四季の中でもことさら冬に当たる碧の季節が苦手だ。


 日本には優秀な暖房器具があったからまだ耐えられたものの、中世異世界のこっちでは、精々暖炉が良いところだ。

 非常に辛い。


 よりにもよって、北の村に転生するなど、最悪である。


 その苦しみを分かち合おうとレインはアンナに話しかけた。


 が、


「え?そうかなぁ。むしろ今日のほうがあったかいと思うけど」

「!?」


 こてん、と首を傾げるアンナにレインは瞠目する。


(そんなバカな。さっきは気付かなかったけど、親父が転がして置いてある丸太なんか霜が付いてるのに?)


 異世界人は身体の造りまで違うのか、と自分を棚上げして、「何そのその寒冷耐性俺も欲しい!」とレインは内心で叫ぶ。


 が、続くアンナの言葉に、レインは一定の納得を得た。


「多分、マスターが作ってくれた服のおかげじゃないかな」

「あ。あ〜そうか。いやでも、いくら保温性が高いからってそこまで……?クッ、俺もその素材で服を作るべきだったか……!」


 予想外のハイスペックにレインは驚きを隠せない。

 何処と無くほわほわしているアンナは可愛いが、今はちょっと妬ましい羨ましい!


(い、今は成長期……、俺の服も直ぐにサイズが合わなくなって作り替えなきゃいけない。その時は、その時こそは……!)


 レインは内心でそう誓う。


 もうすぐ碧も終わることなど、レインの頭にはなかった。



 ◆◆◆◆◆



 カルラの鍛冶工房は、(レインが居座る)親父の家から徒歩十分程のところにある、村で唯一の石造建築物だ。


 立方体の石を積み上げ、石膏で塗り固めた簡単な造りで、ドーム型になっている。


 そこに付いている煙突から立ち昇る白煙が、遠くからでもよく見えるため、時に子供たちの溜まり場としても活用されている。


「おら邪魔だガキんちょども」

「わー!レイン兄ちゃんだ!」

「いじわる兄貴だ!」


 今日も今日とて工房の前に雪だるまなど作って戯れる子供たちをレインは追い立てる。

 しかし子供たちはキャッキャと笑ってレインの言うことなど聞かない。


 工房に勝手に入らない程度には分別があるようだが。


「ほら、あっち行った。村長に言いつけるぞ」


 と言うことで、クマの威を借る狐作戦。

 巨体の親父の名を出して脅す。


 この工房は親父も立ち寄るため、付随して子供たちを追いやる機会もある。


「えー」

「そんちょー怖い!」

「にげろにげろ!」


 案の定、子供たちはうるさくはしゃぎ、広場のほうへ駆け出していった。


「フッ、つまらないものを脅してしまった……」


 遠い目をして妄言を吐く(ツッコミ待ちの)レインに、アンナは(無自覚にスルーして)微笑みかける。


「マスター、子供たちに好かれてるんだね」

「舐められてるの間違いじゃ……」

「?マスターって舐めたら美味しいの?」

「あ、天然いらないです。そういうの今いいです」


 ボケをスルーされ、挙句それ以上のボケ(天然)をかまされたレインはげんなりと肩を落とす。


 しかし、アンナの言う通りかもしれない。

 昔から子供たちはやけに馴れ馴れしく、レインもなんだかんだで構ってやるため、子供たちは自然レインに集まる。

 で、言うことも聞かずに遊び回る。


(あ、やっぱ舐められてるわ。一瞬自分が子供に好かれる体質なのかと思って損したわ)


 前言撤回。

 子供たちはレインのことを都合のいい存在だとしか見ていない。


 しかも、年の頃はアンナと同じくらいだと言うのに、あのハイテンション。

 アンナはこんなにも大人しいのに、この差はなんなのだろうか。


 解せない。


 疑問のままにアンナを見ると、アンナは子供たちが去っていたほうをじっと見ていた。


「……あいつらと遊びたかったか?」


 実はレインが子供たちを追い立てているとき、そこから少し離れたところで、数人の女子がアンナに近寄り、何事か話していたようなのだ。

 大方見知らぬ金髪美少女が気になって話しかけて見たのだろう。


 短時間でアンナとその子供たちは仲良く話しているようだったので、もしやとレインは思ったのだ。


「別にいいぞ?行ってきても」

「ううん、そうじゃないよ。……でも、また今度に一瞬に遊ぼうって言ってくれたから……」

「……そうか。よかったな」

「うん。初めての、お友だち」


 嬉しそうに顔を綻ばせるアンナ。

 レインも自然口元が緩みーー


(ん?あれ、じゃあ、俺ってアンナにとって何になるの?飼い主?教育係か?)


 ーーかけたが、ふと引っかかりを覚えて思案顔になった。


 アンナと友だちかと聞かれれば、そうじゃないと答えるが、では一体何なのか。


 だったら、本当に飼い主か教育係か、そんなところしか思い浮かばない。


 前者は毎日三食ご飯付き。

 後者はそれプラス社会勉強の特別サービス。

 但し前世ヒキニートにつき。


 どっちもどっちだが、ここはレイン(主人公)の顔を立てて、教育係を選択することにしよう。


 飼い主だと、何か妖しげな雰囲気がする。

 これはいけない。

 ロリコンの誹りを受けても言い逃れできないぞ!?


(って、何考えてんだ俺は。アンナが俺のことをどう思っていようと知ったこっちゃない)


 レインは首を振り、アンナに「入るぞ」と声をかける。

 本来の目的を忘れてはいけない。


 レインが木の扉を押し開けると、入り口付近に溜まっていた埃が少し舞った。

 長い間掃除などしていないせいで、煤や埃が溜まっているようだ。


 しかし、人の出入りがなかった訳ではないらしい。

 親父が気を利かせたらしく、暖炉には火が灯っている。


 レインとアンナが一悶着あった時にでもここにきて火を入れてくれたのだろう。


 心の中で感謝しながら、レインはコートを壁のハンガーにかけ、近くの窓から順に全開にしていく。


 全く埃っぽくて適わない。


「汚ねぇな、何で親父もここに来たときに何とも思わなかったのか」

「掃除しないとね」

「そうだな」


 レインは掃除道具入れに立て掛けてある竹箒を二本手に取り、短いほうをアンナに渡す。

 アンナは既に白い布で顔の下半分を覆い、準備万端だ。


 何処から出したんだ、とレインは苦笑しつつ、自分も常備しているバンダナ(うっかり火が髪につくのを防ぐため)を口元に当てることで代用。


 そして、毛ばたきも箒を持ったのと反対の手に取る。


「いいか、アンナ」

「わかった」

「まだ何も言ってねえ」


 無駄に高い家事スキルを持っている弊害か、早く掃除に取り掛かりたそうな様子で、アンナは無表情のまま目をきらきらさせている。

 なんか、目の中に星が飛んでいる。

 気がする。


 器用なことだ。


 こういう時は何をしでかすか分かったものじゃないので、これはしっかりと釘を刺しておいたほうがいいだろう。


「絶対に、俺の許可が出るまで、ここにあるものには勝手に触るんじゃないぞ。具体的には、加工台とか、炉とか、置いてある完成品とかのことだ。いいな、絶対に触るなよ」


 レインは一つ一つ指差しながら丁寧に、そして強い口調で注意する。

 それを受けたアンナは神妙な顔つきで頷き、


「分かった。……触ればいいんだね」

「振りじゃねえよ」


 本当に危ないからなッ!怪我するかもしれないんだからなッッ!とレインは言い残し、意識はアンナの方に向けながら、棚の上の埃を毛ばたきで床に落とす。


 アンナはそれを見て、活き活きと部屋の隅の埃を掻き出し、


「わ、わっ!虫が!」

(……大丈夫か、これ)


 出てきた虫に驚いて跳び退り、盛大に埃を巻き上げたのを見て、レインは溜息を吐いた。


すいません。結局レインの奴、鍛冶なんて始めませんでした。

なんか掃除とか始めやがりました。


何処の兵長でしょうか。

ちょっと巨人でも狩ってきやがれ。


……おほん、失礼しました。

次こそ、レインは鍛冶を始めます。

断言します。


なので、愛想を尽かさず、温かい目でこの作品の行方を見守ってくれると嬉しいです。


あと、PV3000行きました、ありがとう!

でもブックマークの方は……いえ、何でもありません。


次回も、よろしくお願いします。



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